待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
―――けひ。ひ、ひひっ。
あぁ、ああ……っ。楽しくなって来た。いい加減、笑みが止められん。じゃって、常闇が全力を出した。だぁくしゃどうの力を最大限に引き出して、儂にぶつけようとしている。それが嬉しくて堪らん。楽しくて堪らん―――!
轟も飯田も、悪くなかった。葉隠も耳郎も、駄目とは言わん。じゃがそれ以上に、だぁくしゃどうのあの姿には心惹かれてしまう……! 全力で儂を仕留めようとしている常闇に、どうしても意識が向いてしまうんじゃっ。
楽しむには生憎の天気じゃったとしても、関係無い。雨のせいで術式を満足に使えなくとも、この胸の高鳴りは抑えられん。儂の命に届き得る猛者がそこに居る。ならば、全身全霊で迎えてやらねば無作法じゃろうが!
呪具を振るい、直ぐそこに居る耳郎を周囲の瓦礫ごと遠くへと押し流す。溺れたかもしれんが、今は知らん。今のだぁくしゃどうを前にして、他の誰かを気遣ってやる暇は無い。
手の内で脇差を回し、逆手に握り直す。深く膝を曲げ、思いっ切り跳ぶ! 儂が動くと同時、だぁくしゃどうも動き始めた。さぁ来い常闇―――!! 儂を、儂を楽しませろっ!!
「
「けひっ。ひひっ!」
向かって来る。だぁくしゃどうの巨体が、そこら中の瓦礫を潰しながら儂に迫る。いや、儂があの巨体に迫っているんじゃっ。赫鱗躍動を載まで引き上げ、刃に呪力を流す。未だしつこく降り続けている大雨を、一箇所に束ねて固定。その時、とても受け止めることなぞ出来やしない拳が迫る。凄まじ過ぎる体格差から、一度でも殴られてやることは出来んっ。
「ぬ、ぉおおおっ!!」
迫る巨拳に、同じく巨大の水流をぶつける。即座に身を捻り、寸でのところで拳を躱す。が、風圧だけで身体が吹き飛んだ。そのまま瓦礫だらけの地面に叩き付けられ、息が止まる。真っ向からの力比べは、とても無理じゃな……! じゃったら!!
個性順転を用いて、竜巻を起こす。ここ最近、それなりに鍛錬を続けていた甲斐が有った。空気を回し始めて直ぐ、今のだぁくしゃどう程の竜巻が生じる。目眩と吐き気を堪えつつ跳び退き、次に備えて水を掻き集めておく。儂が放った竜巻は―――。
「ォオオオオッッ!!!」
振り降ろされた拳ひとつで、容易く霧散した。
ひひっ、けひっ。
あぁ、堪らん……! 堪らん、堪らん!! 儂に追い付く為に、よくもここまで鍛え上げてくれたなっ! 猛者はいつじゃって大歓迎じゃ……っ! もっとじゃ、もっとっ。もっと楽しませろっ!!
「やってくれるな! 常闇ぃ!!」
再度迫る巨拳を、前方への跳躍で辛うじて避ける。振り降ろされた拳の上を駆け、だぁくしゃどうの頭へと向かう。一直線に頭に向かって跳び、至近距離で水流を浴びせる。その直後に、再びの個性順転。膨れ上がった巨体を吹き飛ばすつもりで、更に巨大な竜巻を起こす……!!
「吹き、飛べっっ!!」
これが通用しないのであれば、もう雨の中では常闇を制することは出来ん。それはそれで嬉しく思えるんじゃろうけども、未だ負けてやるつもりは無い……っ! まだお主を、儂の前に立たせて堪るかっ!!
儂の後ろを! 付いて来いっ!!
今はまだ、負けてやるわけにはいかん。誰一人、死なせたくないんじゃっ。全員に生きて居て欲しいから、他の誰にも儂の前を歩かせん……! じゃからっ、ここで吹き飛べ!!
「ゥ、ォオオオオッッ!!」
「……ちっ……!」
くそ。くそ、くそっ。竜巻を受け止めるな、たわけっ。よくもそんな力を身に付けてくれたな!? お陰で楽しいが、腹の底からは喜べん……っ! 良いじゃろう、こうなったら個性反転を―――!!
「う゛っ、おぇええ゛っ」
盛大に吐いたわ。目眩も吐き気も、とても我慢出来るものじゃない。宙に浮いた身体は気が付けば竜巻に巻き込まれ、何処かに吹き飛ばされそうじゃ。い、いかん。このままでは色々と駄目じゃ。しかし儂は既に竜巻の中で、もはやどうこうすることは―――!?
「穿天氷壁―――!!」
「ぬおあっ!?」
個性の反動と竜巻に巻き込まれたことで酷く回った視界に、氷壁が映った。その直後に、竜巻が著しく弱まった。何とか周囲を見渡すと、上下左右が氷に覆われておる。おいおい、轟め……っ! 竜巻ごと儂を閉じ込めおったのか……!? まったく、これじゃから個性は滅茶苦茶じゃ……!!
なんて、言う暇もない。弱々しくなった竜巻の中で、氷壁に脇差を突き立てて体を固定する。これで吹き飛ばされることも無い。じゃけども、問題が有るとすれば。
「うっ、おえ……っ!」
目眩と吐き気がまだ残っとることじゃ。術式を中断し、
「廻、道―――っ!!」
竜巻……と言うよりは暴風に乗って、猛烈な速度で儂に向かって来る常闇とだぁくしゃどうじゃ。気が付けば、すっかり姿形が縮んでしまっている。さっきまでの巨体はどうしたんじゃ阿呆。いつも通りの姿形で、儂に勝てると思うなよっ!
「う、ぉおおっ!!」
―――ちっ。阿呆、たわけ。そんな面で、儂に向かって来るな。こんなに楽しい時間なのに、何で必死な顔をしとるんじゃ貴様は。まったく情けないっ。こんなに楽しい時間を、楽しまなければ損じゃろうが。そんな面をしとったって、儂は手加減なぞしてやらんからな……っ!
「ダークシャドウ
だぁくしゃどうを纏った拳が迫る。氷壁を蹴り、術式を再開し、儂も拳を突き出す。狙いは拳じゃ。殴り砕くつもりで、ぶん殴るっ!
互いの拳が激突して、その衝撃が腕を通して身体に伝わる。突っ込んで来る常闇を迎え撃つには勢いが足らず、またも吹き飛ばされた。くそっ、どうして儂はこうも軽いんじゃ……っ!
「くそっ!」
何とか身を翻し、再び氷壁に脇差を突き立てぶら下がる。常闇は、それなりに吹き飛んだようじゃ。渦巻く暴風に振り回されとるようじゃが、何とか宙を飛んでいる。明らかに隙だらじゃ。こうなると、仕留めるのは容易い。今度は吹き飛ばされぬよう、さっきよりも強く跳ぼう。今度は、全力で殴る。死んでくれるなよ―――!!
「せぇっ、のおっ!!」
全力で、跳ぶ。術式も呪力も全力で使って、常闇に向かって一直線に。吹き荒れる風に流される間もなく、間合いを潰す。拳を振り上げた瞬間、常闇が目を見開いた。咄嗟にだぁくしゃどうを纏おうとしたようじゃが、それでは遅いっ。
「どっ、こいせぇ!!」
「ぐ、ぉっ!?」
全力で胸を殴り、その勢いのまま常闇ごと氷壁に突っ込む。結果、氷は砕け儂等は壁の向こう側へ。暴風に流されることなく、地面に向かって落ちて行く。いかんな、少し高過ぎる。上手く着地出来れば良いが、下手をすると無事には着地出来ん。儂は
「が、は……っ。廻―――!」
って、おぉ。まだ意識が有るのか。この一撃で仕留めたと思ったんじゃが、辛うじて気絶しとらんとはの。多少は打たれ強くもなったか……? そこは後で褒めてやらんでもない。じゃが、お主はここまでじゃな。
呪具で落下先に水球を作り、そこに向かって常闇を蹴飛ばす。その反動で儂は氷壁に向かって跳ぶ。またも氷壁に脇差を突き刺し、今度は徐々に氷を溶かして壁伝いに下へ落ちて行く。この分なら何とか無事に着地出来るじゃろう。それが済んだら、残る四人を仕留める。轟だけは手間取るじゃろうが、まだまだ負けてやるつもりは無い。誰一人として、儂に勝たせてやるものか。
「っと、と……」
何とか瓦礫の上に着地すると、派手な水音が聞こえた。常闇が水球の中に落ちたようじゃから、直ぐに水を流してそこらに転がしておく。物足りんが、中々楽しめる時間じゃった。後は残る四人を、―――って。おいおい。
「ハートビート、サラウンド!!」
着地して間もなく、耳郎が儂の視界に跳び出ると同時に音が飛んで来た。だけではない。斬られた足から血を流しながらも、飯田が常闇を抱えて遠ざかって行く。それは悪くない判断じゃ。ここで儂に突っ込んだところで、返り討ちに遭うだけじゃからのぅ。
しかしまぁ、この音圧は鬱陶しい。喧しいし、身体が内側から揺さぶられとる。血液の流れが若干乱れるのが気に食わん。直ぐに耳郎を殴り飛ばして、音を止めるとしよう。
「喧し、いんじゃっ!」
「げっ!?」
音に揺さぶられながら、耳郎に向かって跳ぶ。が、耳郎は直ぐにその場から跳び退いた。音が止むと同時に、儂の前を炎が奔る。ちっ、轟か!
「わりぃ廻道。これ以上、好き勝手にはさせねぇぞ」
「そういうこと! いい加減、勝たせて貰おうかな……!」
……ふむ。飯田は当分戻って来ないじゃろうし、そもそも足の怪我から前線に復帰する可能性は低い。葉隠は相変わらず何処に居るのか分からん。となると、まずは目の前の二人からじゃな。纏めて相手してやるとしよう。
左斜め前には耳郎が、右斜め前には轟が居る。先に狙うとするなら。
「貴様からじゃな」
「っっ!!」
脇差を振るい、雨粒を勢い良く耳郎へ飛ばす。音と炎がそれを防ぐと同時、儂は二人の間に向かって真っ直ぐ駆ける。轟に向かって大波を起こし、耳郎に向かって跳ぶ。直ぐに音圧で身体が揺れ、鼓膜まで破れたが関係無い。
「うっそ、でしょ……!?」
音圧の中を突っ切り、耳郎の懐へ。足を踏み抜き、拳を振り被る。轟の相手をしとる最中に、赫鱗躍動の邪魔をされては面倒じゃ。追い掛け回すのも手間じゃから、貴様はここで倒れてろっ。
「どっ、こいせぇ!!」
「ぅぐっ!?」
思いっ切り腹を殴る。確かな手応えが有った。儂は気絶させるつもりで殴った。が、耳郎は倒れるどころか吹き飛びすらしない。咄嗟に歯を食い縛り、儂の肩や襟を掴んで耐えおった。これには、少し驚かされた。まさか気絶すらせんとはの……! ならば今度は……!
「ちっ」
背負い投げてやろうかと思ったが、耳郎の前から跳び退くしかなかった。背後から冷気が迫ったからの。そのまま耳郎だけでも巻き込まれてくれれば楽だったんじゃが、残念ながらそうはならなかった。氷が途中で止まったからの。
昨日も思った事じゃが、くらすめぇと達は一人残らずそれなりの成長を遂げている。まだまだ遠いが、儂に迫り始めているのは確かじゃ。どいつもこいつも、儂の手を焼かせつつあるからの。この調子で鍛え続ければ、いずれは誰かが儂を倒せるのかも。全員三年後が楽しみじゃが、今は素直に喜べん。
……それはそれとしてじゃ。耳郎と轟、この二人をどう仕留めてくれようか。耳郎だけならば手間取ることはないが、轟が居るからの。相性の悪さから、どうしても時間が掛かってしまう。出来れば全員制圧したいんじゃけども、やはり一筋縄ではいかんか。まっこと、面倒な奴めっ。
ひとまず、脇差を構え直して
まぁ。じゃからって、このまま様子見をするのも違う。負けてやるつもりは無いからの。容赦無く、けれども大怪我は負わせない程度に二人を倒す。やはり、手始めとなるのは―――。
「貴様から、じゃ!」
「またっ!? マジで、勘弁……!!」
もう一度、耳郎に向かって駆ける。轟を仕留めるには時間が掛かるからの。手早く倒せる方を狙うのは当然じゃろう。
背後を警戒しつつ、耳郎との距離を潰す。拳を振り被ると、またも音圧が身体を揺さぶる。鼓膜が破れた。術式が乱されそうになる。それでも力強く踏み込んで、懐に入り込めた。後は殴れば終いじゃが、咄嗟に背後を振り返りつつ大波を起こすしかない。直ぐそこまで炎が迫っていたからじゃ。
くそっ、轟めぇっ。さっきから邪魔ばかりしおって! 後でぶん殴るからな貴様ぁ!
とにかく。この音圧を止めなければなっ。音は聞こえなくなるし、術式が乱されそうになるから鬱陶しい。もう一度大波を起こして轟に防御させつつ、直ぐに耳郎に向かって踏み込む!
その時、耳たぶが胸と首に刺さった。そして。
「ぐお……っ!?」
身体の内を、音で直に揺さぶられた。ごほっ、血を吐いたわ。息が出来ん。肺が片方破れたか……!? じゃが、関係無いのぅ!
一瞬動きを止められた。が、その程度じゃ。再びぶん殴ってくれるっ!
「どっ、こいせぇ!!」
狙いは腹。思いっ切りぶん殴ると、確かな感触が返ってくる。容赦無く拳を振り抜いて、耳郎を吹き飛ばす。結果、瓦礫の上を二転三転と転がって行ったわ。しばらくは起き上がって来ないじゃろう。
「ふぅう……。さぁて、轟ぃ……!」
どうやって轟を倒すか。それを考えるだけで、また楽しくなって来た。相性は最悪じゃが、あの手この手を試してみるとしよう。
さあ……! 儂を楽しま、せ―――。
―――は?
「は?」
は? おい。おい、轟。何で儂が振り返ると、既に倒れてるんじゃ貴様。これから楽しくなるところなのに、何で気絶しとるんじゃ貴様ぁっ!?
……。……って、あぁ。そうじゃったな。そう言えばそうじゃった。ながんが居ることを、すっかり忘れていた。そこで轟が気絶しとるのは、狙撃されたからじゃろう。確かに轟とやり合っては、時間が無くなる。そもそも相性が悪過ぎるからの。そう考えれば、ながんが狙撃してくれたことを助かると思うべきなんじゃろうな。
……。
…………。
………………。
……いや。いや、いやっ! 助かっとらんっ。もう少し楽しめそうじゃったのに、それを邪魔してくれおって……!!
何でどいつもこいつも、儂の楽しみを邪魔するんじゃ!! 体育祭の時と言い今回と言い、解せぬっっ!!
残ってる葉隠ぇ!! 出て来いっ、儂を楽しませろ!!!
三人称による補完は要りますか?
-
欲しい
-
要らん
-
良いから一人称で突っ走れ