待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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教えの時間。個性と呪霊

 

 

 

 

 

 

「円花ちゃん円花ちゃん。そう言えば、ちょっと気になる事が有るんですけど」

「何じゃ急に?」

 

 土曜日の昼。朝食兼昼食を食べ終え、腹ごなしも兼ねて呪具を作っていると、今日は和服に前掛け(えぷろん)姿の被身子が手を拭きながらやって来た。流れるように抱き付いてくるものじゃから、ひとまずは抱き締め返しておく。今日は休日じゃ。くらすめぇと達を鍛えることも、任務に連れ出すこともない。じゃからまぁ、昨晩はそれはもう求め合って……。いやいや、真っ昼間から何を思い出しとるんじゃ儂は。ぽね……何たらとかいう夜伽(ぷれい)は暫く勘弁じゃ。あれは良くない。まっこと、良くない。またあんな事をされたら、身も心もどうにかしてしまう。じゃから忘れる。忘れることにした。

 首を振って煩悩を振り払い、被身子の話に耳を傾ける。それはそれとして、抱擁(はぐ)は満喫しておく。冬は寒いもんじゃから、どうにも人肌恋しくての。ついつい身を寄せ合いたくなってしまう。こればっかりは仕方ない。と、思うことにする。

 

 ……おい被身子。何じゃその悪どい笑みは。まったく、お主と来たら……。

 

「アメリカの下水道で呪霊を祓ったじゃないですか。ほら、トカゲの」

「そうじゃな。あれがどうした?」

 

 少し前の話になるんじゃけども、米国で何やかんや有った儂等は下水道に蔓延る蜥蜴呪霊を祓った。儂からすれば、いつも通り退屈な祓除に過ぎない。思い返したところで、何か気になるような点は無いのぅ。強いて言うなら、やはり手応えの無さが気になるところではある。この時代の呪霊は、その殆どが弱過ぎてつまらん。立派なのは数だけじゃ。

 

 ……とにかく。蜥蜴呪霊なんぞに、今更気になる点は無い。ただ、どうやら被身子には気になる点が有るようじゃ。いったい何を気にしとるのやら。こやつのことじゃから、何かどうせろくでもない事を―――。

 

「あの時、常闇くんが呪力を放ってた気がするんですよねぇ」

「……は?」

 

 また、訳の分からん事を口走る。思わず聞き返してしまった。誰が何を放った、って??

 

「だからぁ、常闇くんが呪力を放ってたような気がするのです。正確にはダークシャドウが、ですけど」

「は?」

 

 また聞き返してしまった。じゃって被身子が、訳の分からん事を口走るんじゃもん。

 常闇が、呪力を放った? いやいや、それは有り得ん。そんな事が起きてたなら、まず真っ先に儂が気付く。少なくとも儂の目にはそのような素振りは映らんかったぞ。単にお主の見間違いじゃろ、見間違い。

 

「気のせいじゃろ。常闇に術師の素養はない」

「潜在術師って線も考えましたけど、多分違うと思います。でも、個性に呪力が宿ったりすることも有るのかなーって」

「……」

 

 んんむ。まぁ……、うむ……。個性に呪力が宿る可能性は、無いとは言えん。緑谷の個性がそれじゃからな。とは言え、あの個性が特殊なだけであって、他の個性にまで呪力が宿るとは思えん。わん・ふぉお・おおるが特別なだけじゃ。そもそも成り立ちからして、他の個性とは違うものじゃし。

 

「……それは有り得んじゃろ。個性と呪力は別の力じゃ」

 

 被身子が口走った想像は、事実はどうあれ否定しておく。緑谷の個性については秘匿しておかねばならん。そう言う約束じゃし、公にして良いものでも無い。

 

「ですよねぇ……。そんな都合良くは行かないのです……」

「呪術師が人手不足なのは、現代(いま)過去(むかし)も変わらん。仕方ない事じゃ」

「むー……。そうやって仕方ないで諦めてたら、ずっとブラック労働ですよぉ。もっと何とかしましょう、何とか!」

「何ともならんと思うがなぁ」

 

 どうやら。被身子は儂の負担を減らしたいから、こんな事を聞いて来たようじゃ。その気持ちは嬉しく思うが、人手不足については仕方ない。呪術師の数は直ぐには増えぬし、潜在術師を見付けて教育するにしても時間が掛かる。

 ごまんと居る英雄(ひいろお)の中に、呪霊を認知したり干渉出来たりする個性持ちが居れば少しは話が変わりそうなものじゃけども。

 

 まぁ、そんな輩が居るならとっくに総監部が見付けとる筈じゃ。未だその手の連絡や相談が無いと言うことは、母のような個性を持つ奴は居ないんじゃろうな。居たとしても、呪術師として役に立つかは分からん。

 

「いっそ輪廻ちゃんに視て貰ったらハッキリすると思うのです。雄英に来て貰います?」

「たわけ。母は身重なんじゃから、無茶を言うな無茶を」

 

 母が妊娠してから、もう五箇月程じゃ。身籠っているのが双子と言うこともあるのか、腹が膨れとる。そんな母に、わざわざ視て貰うなんて真似は出来ん。どうしても気になると言うなら、せめて出産が済んだ後で頼め。……いや、赤子の世話は大変じゃからの。もう何年かしたら聞けば良い。どうせ被身子の見間違いなんじゃろうから、いつ聞いたって何も変わらんじゃろ。

 

「んー……。んん、じゃあ電話だけ。それなら良いですよね?」

「まぁ、それぐらいなら。……少しだけじゃぞ?」

「はぁい。じゃあちょっとだけ、電話しちゃいますね」

 

 まぁ電話だけなら大した負担にはならないじゃろうけども、何が母体に障るかは分からんからの。一応長電話はするなと、被身子に釘を刺しておく。すると、儂に抱き着いたまま懐から携帯電話(すまほ)を取り出しおったわ。変に用意が良いと思わんでもないが、まぁそれだけ気になってた……と言うことかの。

 

 ……とにかく。被身子が、母に電話を始めた。呼び出し音が一度鳴ったと思ったら、直ぐに繋がったようじゃ。通話音が大きいのは、すぴぃかぁ……じゃからじゃろう。

 

「あ、もしもし。輪廻ちゃん、今大丈夫ですか?」

『えぇ、良いわよ。円花も居る?』

「トガにぴったりくっ付いてますよぉ。相変わらずの寒がりなのです♡」

『はいはい、ごちそうさま。それで何かしら?』

「えっと、輪廻ちゃんは個性から呪力が出ると思います? そういうの、視たりしたことは……」

『有るわよ。個性って鍛えると、薄っすら呪力が滲み出るから』

「は? それは(まこと)か?」

 

 鍛えた個性から、呪力が滲み出る? いやいや、待て待て。それは無いじゃろ。もしそうなら儂が気付く。……いや、母は六眼じゃ。呪力を視ると言う点では、遥かに儂を勝るじゃろう。それに霊能も有るからの。視ると言う一点では、現代で最も優れていると言って良い。

 とは言え。とは言え、じゃ。薄っすら呪力が滲み出るとして、それが祓除に役立つとは思えん。そもそも殆どの英雄(ひいろお)は呪霊が視えとらんし、やはり呪術師としての活動は無理じゃろう。

 

『思うに、個性と呪力は大分密接かなって。だって個性は身体機能で、呪力は感情エネルギーでしょ? だから個性から呪力が滲み出るのは、いわゆる非術師でも有り得ない話じゃないんじゃない?』

 

 ……。まぁ、確かに? そう言われてみれば、そんな気がしなくもない。じゃけども、それは呪術師の呪力には遠く及ばんじゃろう。余程感情が昂っていれば、もしかすると雑魚呪霊ぐらいには少しばかり傷を与えられる……か?

 個性から呪力が薄っすらと滲み出る。それ自体には驚かされたが、それだけじゃ。薄っすら程度の呪力では、雑魚呪霊も祓えんて。と言うか、寧ろ―――。

 

「……それは、個性が呪霊を産んでいるのでは?」

 

 これもまた有り得ん話な気がするが、ふと思い至ってしまった。呪霊は非術師から滲み出た感情、つまり呪力から産まれる。で、この時代は誰もが個性を扱う。英雄(ひいろお)悪党(ゔぃらん)はもちろん、一般市民じゃって個性を使うものじゃ。個性を使うことで仕事をこなす者も、少なくない。

 

 これはもしも。もしもの話なんじゃけど。

 

 もし、英雄(ひいろお)や悪党《ゔぃらん》も含めた全ての人間が、個性を使うことで呪力を漏らしているのなら? その呪力が呪霊となっていたら?

 

 それは、この時代の呪霊の多さに繋がるのではないか? 日々、日本……どころか世界中の誰かしらが個性を使うことで呪力を滲み出しているのなら。やたらと呪霊が産まれても不思議ではない。むしろ、厄介そのものじゃ。個性が使われる度に、それが積み重なって呪霊が産まれるんじゃからの。

 

「えっ、……と。輪廻ちゃん。

 ……もしかして円花ちゃんの言ったことが、有り得ます?」

『さぁ? 私も、何でも知ってるわけじゃないから。でもそうねぇ、全く有り得ない話でもないんじゃない?』

「えぇーー……。それ、すっごくマズいのです。まっこと、良くないですよぉ」

 

 んんむ。儂の予想が正しいのであれば、確かに良くない。被身子の言うように、まっこと良くない。じゃって個性が使われる限り、呪霊が増え続けるってことじゃもん。人類が個性を使わずに過ごすのは、まず間違いなく無理じゃろう。個性とは、現代の人類にとって最も身近な力なんじゃから。

 

 ……はぁ……。とんでもない話になってしまったわ。こうなってくると、儂の予想が外れていることを祈るしかない。頼むから的中なんぞしてくれるな。今後も際限なく呪霊が増え続けるなんて世界は、流石に面倒くさいからのぅ。

 

『だから、円花をお願いね被身子ちゃん。いざとなったら、縛り付けてでも……ね?』

「は? いや、おい。母??」

「はぁい。縛り付けてでも休ませますので!」

「何を言っとるんじゃ貴様っ。母も何を言ってるんじゃっ!?」

 

 二人してとんでもない事を口走りおって。油断も隙も見せられん。変なところで変な結託をするな、たわけ。何でもかんでも儂が受け入れると思ったら、大間違いなんじゃからなっ!?

 こ、このままではいかん。まっこと、良くない。取り敢えず、話を逸らそう。そうしよう。ええっと……。んんむ……。あ、そうじゃ。こうなったら、電話を切ってしまおうっ。そうと決めたら被身子の手から携帯電話(すまほ)を奪い取ってじゃな……!

 

「あっ、ちょ……っ! もぅ、まだお喋りしたかったのに……!」

 

 よ、よし。何とかなった。もう電話は切ったので、携帯電話(すまほ)は画面を下にして作業台に置いておく。被身子が思いっ切り不満そうにしとるが、これ以上変な話を続けられても困る。母と結託されては敵わん。

 

「そ、それはそうと。お主、よく気付けたの? 儂は視えなかったぞ?」

 

 母の言う事が事実じゃったとして。個性から滲み出る呪力を、被身子は視たということになる。恐らくじゃが、それは儂ですら気付けん程の弱い呪力じゃ。なのに、こやつは視た気がすると言っていた。存外、呪力を視る眼が優れていたりする……のか?

 

「それは円花ちゃんが大雑把過ぎるだけなのです。追跡とか調査とか、細かい事は人任せだったじゃないですか」

 

 まぁ、うむ……。大雑把なのは否定出来ん。実際、前世では追跡やら調査やら人頼みじゃったからの。それは今生でも、大して変わっとらん。細かい事はどうにも苦手なんじゃ。呪具作成じゃって、今は大分慣れて来たが儂に向いとるとは言えん。

 

 ……ところで、被身子。そんな不満そうな顔で迫らないでくれ。いやその、勝手に電話を切ったのは悪かった……と思わんでもない。思わんでもないから、圧を掛けるのは止さぬか。それはそれでこう、行きた心地がじゃな……?

 

「す、すまんて。気恥ずかしかったんじゃ」

「……もぅ。じゃあお詫びとして、一緒にお布団行きましょう。ねっ?」

「……へんたい。被身子のえっち」

「円花ちゃんもえっちですよぉ♡」

 

 うるさい。急に機嫌を直すな、たわけ。幾ら土曜じゃからって、お互いにやる事が有るんじゃ。……じゃから、少しだけじゃぞ? 少しだけなんじゃからな??

 

 

 

 

 

 






新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

三人称による補完は要りますか?

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