待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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教えの時間。英雄再来

 

 

 

 

 

「……あんた、自分の時間が取れてないだろ」

 

 日課となりつつある走り込みを終えた後。呪術科の寮に戻って呪具を作ろうとしたら、居間(りびんぐ)に居たながんが顰めっ面になった。そう言うお主も、時間が有るようには見えぬのぅ。そんな書類の山を相手に何をやっているのやら。

 取り敢えず椅子に腰掛けて、作業台を動かしておく。準備が進むまでの間に、少し話しておくとしよう。

 

「そうでもないが? 被身子との時間は取れとるし」

 

 何かと忙しい状況ではあるが、被身子との時間はしっかり取っている。肉体的にも精神的にも疲れる日々が続いているものの、二人で身を寄せ合えばしっかりと休める。

 まぁ、裸の付き合いは週末までお預けなんじゃけども。ちうちうで火照った身体を収めて寝るのは、少し大変じゃ。ついつい盛り上がりそうになってしまう。じゃけども、そこはお互いに我慢しとる。……つもりじゃ。うむ……。

 

 と、とにかく。自分の時間が一切確保出来ない、なんて事は無い。くらすめぇと達を鍛えつつ、呪具作成と任務に勤しむ。確かに時間は無いけれど、他の事が一切何も出来ぬわけじゃない。

 

「私の言い方が悪かった。自分が鍛錬する時間までは確保出来てないだろ?」

「まぁ、本腰入れた鍛錬は無理じゃのぅ」

 

 その点については、ながんの言う通りじゃの。儂自身の鍛錬については、地道な個性伸ばししか出来とらん。隙を見て回せそうなものは回しているが、出来てその程度じゃ。くらすめぇと達がやっているような本格的な個性伸ばしは、残念ながら出来とらん。どこかで纏った時間を取りたいとは思うが、これが中々難しい。被身子が呪具作成に参加出来るようになれば良いんじゃが、まずは課題が優先じゃからな。儂に付きっきりで授業に出ない分、山程の課題をこなさねばならん。

 

 ……そういう訳じゃから、儂が纏った時間を取れるのはもう少し先の話になるじゃろう。それまでは、軽い個性伸ばし程度が関の山じゃ。

 

「特訓メニューを見直すべきだ。そもそも、毎回戦闘訓練に参加しなくて良い。私やオールマイトに任せてくれ」

「やじゃ」

「おい」

「やじゃ。断る」

 

 確かに、戦闘訓練に参加しなければ纏った時間が作れる。その時間を個性伸ばしに費やせば、良い鍛錬になるんじゃろう。じゃけども、儂自身が呪詛師役として訓練に出なければ訓練の意味が無い。くらすめぇと達が生き残る為には、呪詛師の脅威を儂自身が教えてやらねばならん。そしてそれは、儂以外には出来ぬ。

 

「次の作戦、あんたは間違いなくヒーロー側の要だ。なら、その為の準備も必要になる」

「そうじゃろうな。とは言え、子供達が先じゃ」

「……万が一でも、あんたに倒れられたらヒーローは負ける。それは自覚してくれ」

「しとるが? 儂が死んだら、ひいろおは終いじゃ。それは分かっとる」

 

 異能解放軍、とやらを配下に付けた悪党(ゔぃらん)連合は今までの比ではない。十万以上の頭数を揃えているそうじゃし、当然その中には脳無のような呪詛師も大勢居る。もしくは、大勢造られる……と言ったところか。なにせ向こうは、呪力を得る術を持ってるからの。那歩島の時のように、個性持ちが呪力を振り回す可能性が大いに高い。いやむしろ、確実じゃろうな。

 ……まぁ、十万の悪党全員が呪力を得るとは限らんが。そんな事になれば、間違いなく英雄(ひいろお)は負ける。が、最悪は想定しておくべきかもしれん。どいつもこいつも呪詛師に成り果てていたら、もはやどうしようもない。儂だけが生き残っても、こちら側が負けてしまっては意味が無いからのぅ。

 

「なら、あんた自身の鍛錬にも時間を割くべきだ。時間確保は私や渡我が何とかするから、鍛錬に集中してくれ」

「じゃからって、任務を減らされても困るんじゃが。皆に経験を積ませたい」

「オールマイトが居るだろ。彼なら、六人ぐらい纏めて見れる」

 

 んんむ。まぁ、確かにな。あやつなら、一人で六人に呪霊退治を教えられるじゃろう。しかしそれは、あやつが単独で祓える呪霊相手に限る。それも子供達を守りながら、じゃ。結局のところ、祓除する呪霊の等級は相対せねば分からん。いざ祓いに行ったら、予想よりも猛者じゃった……なんて可能性は大いにあり得るんじゃからな。猛者で無くとも、相手が厄介な術式持ちじゃったら簡単には済まん。ここ最近は、なるべく危険性の無い任務を任せているつもりじゃけども、それも確実ではない。

 

「最大限、バックアップする。私だって子供達に死んで欲しくないんだ。もちろん、あんたにも」

「なら、あやつ等には手厳しく教えてやれ。潰してくれても儂は構わん」

 

 いっそ、その方が楽なぐらいじゃ。とは言え、あやつ等は潰れんじゃろうなぁ。簡単に潰れてしまうような非弱さじゃったなら、とっくに儂を諦めとる。しかし、そうはなってないのが現状じゃ。どいつもこいつも頑固者じゃからの。まっこと、頑固者じゃ。お陰で手を焼いとる。

 

「……厳しく行くさ。ところで、ひとつ提案なんだが」

「ん? 何じゃ?」

「対(ヴィラン)の経験をより子供達に積ませる為に、様々なヒーローを講師として呼ぶのはどうだ? いつまでもあんた相手じゃ、得れるものが限られるだろ?」

 

 ……。……あぁ、うむ。それは悪くないの。対呪詛師や対呪霊の経験を積むことは大事じゃが、相手は十万の悪党じゃ。英雄(ひいろお)を呼んで、色々な個性を相手に訓練するのは良い経験になる。これは直ぐにでもやった方が良いじゃろう。と、なると……。

 

「相分かった。その辺りの交渉はお主に任せる」

 

 殆どの部分は、ながんに任せておくとしよう。何なら儂自身も様々な英雄(ひいろお)と手合わせしたいところじゃけども、そんな機会は無いんじゃろうなぁ。ちっ、つまらん。

 

 さて、と。ながんと話すのは止めにして、そろそろ呪具作成に取り掛かるとしよう。昼飯の時間まで、しっかりと集中せねばな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日も美味な昼食を済ませた後、被身子と少しばかり触れ合ってから巫女装束(こすちゅうむ)に着替えた儂は、訓練場にやって来た。ながんの案内で。

 今日の訓練場は、工場地帯を模した訓練場じゃ。あれこれと入り乱れてて、儂が迷子になった場所じゃ。びぃ組との対抗訓練でも使ったの。あの時は、救助者役になったり緑谷が個性を暴走させて色々と大変だったものじゃ。もうあんな事にはならないと思うが、また何か起きそうな気がしないでもない。面倒な事にならなければ何でも良いが、出来れば平穏に終わって欲しいものじゃ。

 

 なんて、思っていたら。

 

「随分と無茶苦茶な訓練をしているそうだな」

 

 殴りたい燃え面が現れたわ。は? 何でじゃ??

 

「と、言うわけで! 今回はエンデヴァーに来て貰ったよ! ベイクドエッグにして貰いな、有精卵共!!」

 

 いや、おい。じゃから、何でじゃ? 何で、えんでゔぁが此処に居るんじゃ。お陰で随分と暑苦しい絵面になっておる。じゃって、おおるまいとも燃え面も筋骨隆々じゃからな。英雄の頂点が二人も並んで居るのは、壮観と言えば壮観かもしれん。少なくとも緑谷にはそう見えるらしい。誰よりも目を輝かせているからの。他の連中も、いつもより浮足立っとる。峰田はこれからの訓練を想像してか、既に青褪めて悲鳴を上げとるが。

 

「うおぉ、マジか。もっかいエンデヴァーに教えて貰えるのか……!」

「諸君! 今回はトップヒーローとの訓練だ! 失礼のないよう、全力でご教授願おう!」

「……また来たのか親父。トップヒーローは暇なのか?」

 

 少し騒がしくなって来た。が、えんでゔぁが一瞥すると即座に全員口を閉じる。しっかり唇を結んでいるのは、前回の訓練で言われた事を覚えているからじゃろうな。

 しかし、何故こやつが? ながんが呼んだにしては早過ぎる。少しは気になるところじゃが、まぁ良いじゃろう。燃え面の手を借りれるのであれば、それはそれで良い訓練になるじゃろうからな。

 

「……なるほど。全員多少は成長しているようだな。貴様のお陰というわけだ、頼皆」

「まだまだじゃ、たわけ。まるで足りん」

「褒める時は褒めろ。士気に関わる」

「まだ褒めれんのぅ。殺すのには手間取らんし」

「生け捕りには手間取る、と?」

「各々、少しは足掻くようになったの。じゃけど、まだまだその程度じゃな」

 

 そう。くらすめぇと達は全員、少しは成長している。気絶させることが手間になりつつ有るのは事実じゃ。誰もが少しばかり足掻くようになったからの。とは言え、それは儂が手加減をしていればの話じゃ。大怪我をさせると教師達が喧しいから、仕方なく手を抜いている。儂としてはもっと、容赦無く鍛えたいところなんじゃが……。

 

 と言うかじゃな? 何で貴様が此処に居るんじゃ。まずそっちを説明してくれ。

 

「今回、俺が来たのはオールマイトからの要請だ。頼皆に貴様等A組潰されるから、手伝って欲しいとな。

 ……どうやら、そのようだ。まだ精進が足りんようだな貴様等」

 

 なるほど。おおるまいとが呼んだ、と。確かにこの燃え面が手伝ってくれるなら、良い訓練になるじゃろう。訓練に変化を付けられるしの。

 

 それはそれとして。さっきは皆を褒めていたえんでゔぁじゃが、今度は貶した。一歩踏み出し両腕を組んで、わざとらしい威圧感を出し始めた。お陰で全員、表情が固くなったの。いったいどういう腹積もりなんじゃか。取り敢えず、聞くだけ聞いてやるとするか。少し離れて、鉄柵にでも寄り掛かって様子を見よう。

 

 ……ふぅ、やれやれ……。やはり、冬は冷えるのぅ。さっそく人肌恋しくなって来た。

 

「先に言っておく。今現在プロヒーローは、来たる決戦に向け、静かに備えている。そして呪術界を認知している者は、呪術の才が有る者、もしくは呪術を探知出来る者を探している。

 ……これが何を意味するか分かるか?」

「何ってそりゃ……敵連合の呪詛師や呪霊に対抗する為に……?」

「そうだチャージズマ。しかし、結果は全滅。総監部が当てにした者は、そもそも五年以内に全員死亡か、意識不明。或いは個性を失っていることが発覚した。更にはその血縁者までもが、同じ被害を受けている」

「は?」

「え?」

「それって……、どういう……?」

 

 ……は? いや、おい。急にとんでもない話をするな、たわけ。

 

「元々……いわゆる霊能系の個性を持つヒーローは、高齢者が多かった上に数が少ない。現役を退いているご老体が殆どだった故に、発覚が遅れた。

 これはオール・フォー・ワンの仕業と、俺達も総監部も結論付けた。呪術を独占したい、やつの仕業だと」

 

 ……はぁ……。なるほどな。じゃから、今でも呪術師は人手不足なわけじゃ。あの背広男が、霊能系の個性を持つ者を根絶やしにしたのなら、呪霊が見える輩が少な過ぎるのも頷ける。母が被害に遭わなかったことだけが、儂にとって幸運だったのかもしれんな。何故母を狙わなかったのかは分からん。いや、ひとつ想像が付く。母は六眼じゃからな。六眼を奪う画策でもしていて、実行に移すまで放置していたのかもしれん。或いは……実行に移す前に神野で死んだかじゃ。

 

 何にせよ、とんでもない話じゃ。つまり今現在、これから生まれてくる素養を持った赤子か、潜在術師以外に呪術を認知出来る者は居ないと。

 

 そして。今の話を聞いたくらすめぇと達が、全員顔を青くした。どいつもこいつも、儂や緑谷、そしておおるまいとに目を向ける。特に儂が見られているのは気のせいじゃない。青山だけは俯いているがの。少し様子が変じゃ。麗日と峰田は、緑谷を見ている。何なら峰田は涙目になって緑谷に縋り付いてるぐらいじゃ。

 

「……気付いたようだな。つまりこのまま行くと、我々ヒーローはたった三人を頼りに呪詛師や呪霊を対処することになる。

 そして、呪術師の最高戦力は頼皆だ。敵連合との決戦は、まず間違いなく頼皆が核に据えられる」

 

 まぁ、そうなるじゃろうな。あの背広男の暗躍のせいで人手が足りん以上、儂を使うしかない。緑谷やおおるまいとも居るが、呪術師としては日が浅い。そもそも、緑谷は呪術師ではない。

 話は分かった。……取り敢えず、この場に被身子が居なくて良かった。居たら何を言い出すか分からん。この場で燃え面が説明している以上、直ぐに総監部が被身子に情報を流すんじゃろうけど。と言うか既に、流してるじゃろうな。また心配を掛けてしまうのが、申し訳無い。癇癪を起こさねば良いが、今回ばかりは……駄目かもしれん。

 

 それから。

 

「ながん。母と父の保護。寮に匿ってくれ」

「分かった。直ぐ動く」

 

 念の為。母と父の保護をしておかねば。もうあの背広男は死んでいるが、念の為じゃ。何か有ってからでは遅い。それと、被身子じゃ。もし今、被身子が総監部から情報を得ていたら何を言い出すか分からん。と言うか、既にこちらに向かって走っとる可能性すら有る。とにかく一度、宥めておかねば。説得出来るかは微妙じゃけども、何とか分かって貰うしかない。

 

「今の話を聞いた以上、全員より一層気を引き締め、訓練に挑め。今日から俺が直々に、全員見てやる! 付いて来い!!」

「「「はい!! よろしくお願いします!!!」」」

 

 殆どの者が、より一層気を引き締め直して訓練に臨んで行く。今更尻を叩かれる事態になってしまったが、効果は有ったようじゃ。皆を追い詰めるような真似はしたくなかったが、こうなっては仕方ない。更にやる気を出したのなら、見守ることにしよう。

 

 ……儂は、被身子に会いに行こう。すまんが今日はもう、訓練どころじゃなさそうじゃ。

 

 

 

 

 

 

 







三人称による補完は要りますか?

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