待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
訓練場を出ようとすると、おおるまいとに止められた。ので、ながんと共に急ぎ足で寮に戻った。すると直ぐ、不安な顔の被身子が駆け寄って来たから真正面から抱き止める。が、無理じゃったわ。勢いが付き過ぎていて、とても受け止め切れん。結果、玄関で思いっ切り押し倒されたわ。背中も頭も打つ羽目になってしまったが、これはもう仕方ない。そんな事より。
「……大丈夫じゃ。大丈夫じゃから」
「大、丈夫じゃないですよぉ……っ! なんで、なんで円花ちゃんばっかり……っ!!」
今は。今は、被身子を宥めなければ。もう総監部から話を聞いてしまったんじゃろう。それがどれだけ不安で、怖かったことか。或いは、頭に来たことか。儂が逆の立場じゃったら、とても平静では居られない。恐ろしくて堪らない上に、総監部への怒りでどうにかしてたかもしれん。
思いっ切り抱き締め返して、頭を撫でて。少しでも落ち着いてくれたらと、なるべく優しい声を出す。これ以上不安にさせたくない。泣かせるなんて論外じゃ。じゃから―――。
「……不安にさせて、すまん」
「円花ちゃんのせいじゃないですっ。でも、でもぉ……っ! もしかしたら、輪廻ちゃんまで……っ!!」
「……すまん。母と父はここで匿う。そしたら安全じゃから。今、ながんに動いて貰ってるから」
背中を擦ったり、頭を撫でたり。とにかく目一杯、大丈夫じゃって伝える。何も心配は要らないと。母も父も、儂も大丈夫なんじゃと安心させたい。安心して欲しい。こんな顔をして欲しいわけじゃない。被身子には笑っていて欲しい。その為だったら儂は何でもするのに、何じゃってして見せるのに。
……なのに。今また、泣かせてしまっている。心苦しい。嫌気が差す。
「輪廻ちゃんや円花ちゃんに何か有ったら、耐えられないですっ。おじさんだって……!」
「ん……。分かってる。儂じゃって耐えられん。
じゃから、此処で儂が守る。大丈夫じゃ、何も失わせないから」
「何でっ、何で円花ちゃんばっかり……! こんなの、不公平ですよぉ……っ!!」
「……そうじゃな。でもな被身子。今は儂だけなんじゃ。この時代、儂だけが呪術師なんじゃ」
いずれ、時が経てば。十年か、二十年か。それだけの時間が有れば、呪術師は増えるかもしれん。そうなれば、こんな事態は二度と来ないんじゃろう。けれど今、呪術師は儂だけじゃ。
……ただ。この先を被身子が嫌がるなら。どうしても駄目じゃと言うなら、少しは考え直さねばならん。
「すまん。お主を心配させてばかりで。嫌じゃと言うなら、……儂は前線から退いても良い」
「そんなのっ、言えないです! 円花ちゃんにとって、絶対引けないことじゃないですかっ。なのにそんな事、言わないでくださいっ!」
「……そうじゃな。すまん。こんな状況では、尚更儂は引けん。じゃけど」
じゃけど。じゃからって、被身子を泣かせて良いわけじゃない。こんな風に、苦しめて良いわけじゃない。
「……お主に、そんな顔をして欲しいとは思わん。不甲斐ないの、儂は」
「……ぐすっ。まったくです、まっこと……円花ちゃんは……っ!」
「すまん。許してくれ」
「許さないですっ。こんなの、一生許せないの……! こうなったら、こんな不安も心配も吹き飛ばしてくれないと……っ!」
……そうじゃな。そうしたい。そう出来る存在で在りたい。被身子が笑って居られるように、被身子が泣かなくて済むように。そんな風に在りたいと思う。でなければ、何が許嫁か。何が恋人か。何が伴侶か。
とうの昔に決めたことじゃが、改めて……誓い直そう。儂は被身子と共に生きる。そして悔いのない死に方をする。これを違えることは、絶対に許さん。その為に出来ることは、何じゃってする。
それこそ。……そう、それこそ。世界を変えてでも。
「約束する。必ず生きて戻るから。お主を一人になんて、絶対させぬから。じゃから、その……少し無茶をさせてくれるか?」
「……むーー……っ。今更駄目とは言いませんけど……。でも、総監部には徹底抗議するのです!!」
「う、うむ……。それは止めんが……」
駄目じゃったわ。誓い直すだけでは、足らんらしい。急に勢い良く起き上がった被身子は、目に涙を浮かべた膨れっ面じゃ。すっかり機嫌を損ねておる。こうも怒ったのは、……治崎の時以来か……? あの時は、……うむ。大変じゃった。儂が悪かったんじゃけども、色々とこう……大変じゃった。
まぁ、つまり。これから総監部は、被身子を説得せねばならん。そんな真似が出来るとは思えんが、儂は知らん。手助けしてやるつもりなぞ、これっぽっちもない。
じゃって、今の儂は被身子優先じゃもん。すまんが勝手に何とかしてくれ。儂はこの後、被身子の機嫌を取るのに忙しくなるからの。
◆
「で。被身子ちゃんが総監部に突撃して、こんな調子が続くなら円花を働かせない、って宣言したわけね。
まぁ、残念でもなく当然じゃない?」
「それなりの事情が有るとは言え、簡単には容認出来ないなぁ。これだから公務員は……」
「そうなんです! だから此処に、円花ちゃんを守る会を結成します!!」
……、……冬につつく鍋は美味いのぅ。まっこと、美味い。今日の夕食は寄せ鍋で、特に豆腐が堪らん。生姜たっぷりの肉団子や、くたびれた野菜も良い。が、やはり野菜や肉の出汁に浸った豆腐に汁とぽん酢をかけてじゃな? 口内を火傷しそうになりながら食べる豆腐は、格別に美味い。今日の締めは何かの? うどんでも雑炊でも、どちらでも良いぞ。
はふはふっ。……んむ。美味い、美味い。炬燵で食べる鍋は素晴らしい。食後に、
「円花? 現実逃避してないで、貴女も何か言いなさい」
「いや、何も言えんて……」
母に睨まれた。が、今の家族会議には参加出来ん。儂には発言権なぞ無いと思うんじゃ。そもそも儂は、総監部の考えに反対しとらん。相手がどれだけの呪詛師や呪霊を用意してるか分からんこそ、儂が作戦の中心に組み込まれるのは当たり前じゃ。むしろ、遠ざけられては困る。
まぁつまり、儂が発言しても今は何にもならん。三人から猛反対されて、丸め込まれるだけじゃ。となれば、沈黙しかない。
「まぁこうなることは分かってましたし、円花ちゃんが拒否しないのも分かってますけど。でもだからって、私達が何も思ってないわけじゃないのです!」
「そうだそうだ! ずっと心配なんだぞ僕達は!!」
「……いつもいつも、すまん。心配掛ける」
被身子の言い分も父の言い分も、よく分かる。逆の立場じゃったなら、儂も同じような事を口走っていたじゃろう。
それはそれとして父よ。被身子に同調するのは構わんが、水が入った
「まぁ、ちゃんと分かってるなら良しとします。それで円花、被身子ちゃんに何をしてあげるか決まった?」
「んぐっ!? ごほっ、げほ……っ!?」
噎せたわ。肉団子の欠片が変なところに入って、盛大に咳き込む羽目になってしまった。慌てて水を飲んで母を睨むと、何やら悪どい笑みを浮かべておる。今の発言を聞いてしまった被身子はと言うと、目を丸くしておるの。徐々に口の端が吊り上がっているのは、気のせいじゃない。
まったく、急に何を言い出すんじゃっ。当人が居る前で、出来れば隠しておきたいことを暴露するな。気恥かしくて堪らん。
「んふふ。輪廻ちゃん輪廻ちゃん、最近円花ちゃんはぁ……私のことで頭いっぱいなのです♡」
ぬ、ぬぐ……っ。それは、そうじゃけども。そうなんじゃけども、じゃからって赤裸々に暴露されると素直に肯定出来ん。と言うか、もう被身子に知られてしまった。母が言うまでもなく察していたようじゃが、こうも簡単に腹の内を見透かされるのは納得いかん。何なんじゃもぅ、被身子のたわけっ。阿呆っ!
「相変わらず娘達が仲良しで、お父さんは嬉しいよ。……うわっつ!? あつつっ!?」
豆腐を頬張った父が悲鳴を上げたが、放っておこう。こんなぽんこつ、儂は知らん。あと、勝手に娘の隠し事を暴露するような母も知らんっ。儂の腹を見透かす被身子じゃって、知らん。知らんったら知らん!
「とまぁ、円花をからかうのはここまでにして。今後我が家がどうして行くのか、しっかり決めましょうか」
「はぁい。取り敢えず円花ちゃんは呪術師禁止です。任務は振りません!」
「はふっ、ほふ……っ。それには賛成だけどさ。一時的とは言え、円花が抜けて大丈夫なの?」
「……大丈夫ではない。呪術師は儂しか居ないんじゃから」
呪術師禁止を言い渡されたとは言え、やはり素直には従えん。くらすめぇと達を鍛える上で、日々の任務を欠かすことは出来ないんじゃ。何とかして任務に赴きたいところじゃけども、生憎と良い感じの言い訳は何も思い浮かばんが。被身子や両親の気持ちも分かってしまうから、一旦は大人しくしていようと思うのもまた事実。
とは言え、じゃ。場合によっては無視するんじゃけどな。例えば、くらすめぇと達が呪霊や呪詛師の被害に遭った……なんてことが有れば、儂は動く。動かん理由が何処にも無い。
「……すまんが、皆に何か起こるようなら儂は動くぞ。緊急時ぐらいは、良いじゃろ?」
「別に、全部禁止とは言わないわよ。ただ、日頃からしっかり休みなさい。随分と忙しいみたいだけど、その歳で過労なんて笑い話にもならないから」
「と言うわけで被身子ちゃん、円花のスケジュール管理は任せるよ。お父さんとしては、ちょっと忙しいアルバイトぐらいに収めて欲しいかな?」
「はぁい。そこのところはしっかり調整して、浮いた時間はたっぷり休憩させるのです! んふふ、いっぱいイチャイチャしないと……!」
……さては、そっちが主目的じゃな? 確かに最近は一切
あぁでも、日曜の晩は夜更かしが出来ん。翌日の事を考えると、しっかり寝なければならんし。
「……あなたねぇ、それは休日も働き通してるようなものじゃない。休日は呪具を作るのも禁止よ。もっと被身子ちゃんとイチャイチャしなさい」
「いや、母よ。呪具作成は欠かせん。皆の安全の為じゃ」
それと、魂を読むな魂を。人の思考を読み取って、呆れ顔をするんじゃない。やはり狡じゃ狡。霊能は狡いんじゃ……!
「ならせめて、午前中だけにしなさい。働く時はしっかり働いて、休む時もしっかり休むの。円花が倒れたら、もっと大変でしょう?」
「……うむ。それは、気を付ける」
「呪術師を頑張るのは良いけどね、体も大事にしないと駄目だよ円花。健康が第一!」
「わ、分かっとるって。と言うか、それを言うなら被身子じゃって休むべきじゃろ」
儂は儂で忙しいが、被身子じゃって忙しい。学校からの課題に、補助監督としての仕事。更には家事じゃ。時間の無さや疲労の度合いで言えば、儂と同じぐらいは有るじゃろう。下手をすれば、儂より疲れているのでは?
「んー、まぁ私も忙しいですけど。でも補助監督の方は火伊那ちゃんと二人掛かりで、家事は息抜きになりますし。もちろん課題は大変ですけどぉ、実は適度にサボってます。
でも、円花ちゃんと一緒に居る為なら頑張れるので! 課題は順調に進んでるのです!」
「うーん、これは良妻。ほんっと、円花には勿体無いお嫁さんだなぁ」
「そうねぇ。円花にあげるには惜しいわねぇ」
「は? そもそも儂のじゃが? 儂の被身子じが??」
何が良妻じゃ、たわけ。被身子は良妻ではなく、悪妻とか恐妻とかの類いじゃって。良く出来た許嫁なのは否定しないがな。あと、被身子は儂のじゃ。ずっと昔から儂の被身子なんじゃが? 誰にもやらんぞ。絶対にやらんぞ。ふふん。
「でも、被身子ちゃんもしっかり休まないと駄目よ。二人が踏ん張り時なのは分かってるけど、それでも無茶は厳禁。……分かった?」
「はぁい。適度に休んで沢山イチャつきますっ」
「……相分かった。気を付けよう」
母の言うように、今が踏ん張り時なんじゃろう。
もうそろそろ、二月になってしまうんじゃ。色々な意味で、やはり手を止めることは出来ん。
「というわけで。我が家としては、総監部に円花の労働環境改善を求める形で良いかな? 円花はしっかり休まないなら、呪術師禁止ね。被身子ちゃんを見習って、サボることを覚えなさい」
「賛成なのです!」
「はい、賛成」
「当然僕も賛成ね。円花は?」
「……うむ。気を付けるとする」
まぁ、結局。何だかんだで、呪術師禁止は免れたようじゃ。休む時間をどう捻出するか悩ましいところじゃけども、もう少し休憩を多く取ろう。それに、儂としては被身子を休ませたい。本人は大丈夫そうにして居るが、それでも心配じゃ。こうなったら、儂が休む時は被身子にも休ませるか。
いや、よく考えたら休む時は常に被身子と一緒みたいなものじゃ。と、なると……。うむ……。
……んんむ、そうじゃなぁ。被身子を少しでも多く休ませよう。休憩時間を、十分だけでも多く取ろう。そうしたら、お互いにしっかりと休めるからの。まぁ休憩時間を伸ばし過ぎると、何も手に付かなくなってしまうから休憩延長は程々に、じゃけどな。布団に連れ込まれでもしたら大変じゃ。
さて。鍋を食べ進めるか。あれこれと話したり考えていたりしたら、箸が止まってしまった。せっかくの一家団欒なんじゃ。これはこれで楽しみたいし、舌鼓を打つとするかの。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ