待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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雄英体育祭。見回りと聞き耳

 

 

 

 

 

 がちばとるとおなめんと。その抽選が終わった後、儂は舎弟を連れて会場中を歩いていた。これは呪霊が忍び込んでいないか確認する為じゃ。おおるまいと一人に任せておいても問題は無いと思うが、念の為。何かあってからでは遅いからの。玉転がしとか綱引きとか玉入れとかやりたかったが……そちらは我慢することにする。見せ場は残っとるし。

 何故舎弟を連れているかと言うと、迷子防止の為じゃな。珍しく素直に言うことを聞いたと思ったが、さっきから物凄い睨んでくる。何じゃ何じゃ、文句が有るなら声に出さんか貴様。男子じゃろうが。切島の言葉を借りるわけじゃないが、漢らしくないのぅ。

 

「……ひとまず大丈夫そうじゃな。戻るぞ舎弟」

「おぅ」

「何じゃさっきから。睨んでる割りには大人しくしおって」

「……ちっ。やっぱ見えねえな」

「貴様には見えぬよ。呪霊も呪力もな」

 

 なるほど。やたら儂を睨んでいたのは、呪力が見たかったからか。しかし残念ながら、それを今の舎弟が見ることは出来ん。呪眼(のろいまなこ)はここに無いんじゃ。あれがあれば非術師でも呪霊や呪力を見ることが出来るが、今はまだ数が二つしかないからのぅ。それも教師達が使用中じゃ。こやつが使えるようになるのは、量産が済んだ後の話じゃろう。

 まぁおおるまいとや緑谷のように個性を介して呪力を得ることができれば話が別じゃが、流石にこやつの個性で呪力を得ることは無いじゃろ。わん・ふぉお・おおるが特別なだけじゃ。

 

 ひとまず、見回りは終わった。後は観客席に戻って、儂の出番になるまでのんびりして……。

 

 

「なぁ。お前……、オールマイトの隠し子かなんかか?」

 

 

 ……、変な場面に出くわしてしまった。咄嗟に隠れてしもうたわ。轟と緑谷が人気の無い所で向かい合っておる。体育祭が始まる直前にも、控え室で睨み合って居たが……仲が悪いのか? まぁ、好きに喧嘩でもしたら良い。年頃の男子じゃからな。万が一殺し合いにでもなれば、その時は儂が止めてやろう。で、何を話してるんじゃ貴様等。

 

 なに? 個性婚? おおるまいとを超えるために、轟を作った? 我が子で欲求を満たす?

 

 

「―――お前の左側が醜いと、母は俺に煮え湯を浴びせた」

 

 あ゛? 轟、今……何と言うた? 万年二位の父親が? 我が子を道具として扱って? 挙げ句、母親が火傷を負わせた?

 

 そうかそうか。なるほどのぅ。貴様の火傷の痕はそう言う事情があったんじゃな。呪ってやろうか、轟夫人。それと轟婦人。いや、呪うだけでは生温い。殺すか。殺そう。まさか渡我夫妻以上に酷い親がおるとはのぅ。居てもおかしくはないと思っておったが、こんな身近な子供の親が、あれ以上の毒親とはな。

 ああ、吐き気がする。反吐が出そうじゃ。轟の話を聞いていたら、嫌なことを思い出した。折角の楽しい時間が台無しじゃよ、まったく。

 

 殺したいのぅ。今すぐ殺してしまいたい。いや、落ち着け。この時代で人殺しをするつもりは無いんじゃ。暴力はいかん。殺人もいかん。いかんぞ。しかし、しかしじゃなあ……っ!!

 

 

 

 

 

 

 

 ……舎弟の存在も馬鹿にはならぬ。いやこやつは馬鹿じゃと思うが、今回に限っては褒めてやるべきじゃろう。轟の話に聞き耳を立てて怒り心頭になった儂をその場から強引に引き剥がし、観客席まで引っ張りおったわ。それから被身子に向かって突き出しおった。去り際に「ちゃんと面倒見とけや!!」と叫んだのは、どうかと思うがな。まぁ今回は見逃してやろう。悪いのは儂じゃったし。

 

「円花ちゃん、どうしたの……?」

「どうもしとらん」

 

 機嫌が悪いだけじゃ。ただただ機嫌が悪いだけじゃ。ふざけおって、轟夫妻め。我が子に何をしておるんじゃ。許されることではないぞ。やはり今からでも殺しに……。……いかん。こんな事を考えていると母に何と言われるか分からん。お説教だけじゃ済まなくなるかもしれん。気持ちを切り替えよう。落ち着け、落ち着け。他所の家の事情にこれ以上踏み込もうとするな。歯止めが利かなくなる。際限無く関わるようになってしまう。独りだったあの頃とは違うんじゃ。今の儂には家族が居る、被身子が居る。じゃから。

 

 じゃから、切り替えろ。

 

「……ふーーーっ。いやすまん、機嫌を損ねてただけじゃ」

「……爆豪くんと何かありました?」

「無い。何でもないから気にするな」

「……本当にそうなら、良いですけど……」

(まこと)じゃよ。もう何でもなくなった」

 

 嘘じゃ。けど、隠すことにする。こんな気持ちは被身子には話せん。母にも見せられん。じゃから、抑える。何も考えないようにして、湧き続ける殺意から目を逸らして、椅子に座ろうと動く。

 その時、被身子に引っ張られた。急なものじゃったから、儂の体は椅子の上ではなく被身子の体に倒れることになった。

 

 おい、何するんじゃ貴様。人前で抱き締めるな。人の頭を押さえ付けて胸に当てるな。息苦しいじゃろうが。

 

「……そんな顔で、何でもないなんて言わないで」

「……」

「後でちゃんと被身子ちゃんに話しなさいよ。見なかったことにしてあげるから」

 

 ……厄介じゃのぅ。霊能は。隠し事も出来ん。じゃが母よ、我が子の心の内を読むのは親としてどうなんじゃ。時には良いかもしれんが、少し自重と言うものをじゃな……。

 

「文句が有るなら声に出しなさい。物騒な事を考えてる娘の言うことなんて、お母さんは聞いてあげませんけど」

 

 睨んでいたら、叱られた。しかも拒否された。霊能は便利じゃなぁ。狡い力じゃ。卑怯じゃ。そんな力を少し羨ましく思ってしまっている辺り、母と儂は似た者同士なのかもしれん。

 

 ……無いな。どこも似ておらんわ。いや、親子なのだから外見は近しい部分が……部分が……。

 

 ……。…………。

 

 ふと……思ったんじゃがな、母。

 何故そうも乳が膨らんでいるんじゃ? 他意は、無いぞ? ふと思っただけじゃ。他意は、無い。

 その点で言えば被身子も中々膨らんでいると思う。小さい頃から食べてるものは殆ど同じじゃよなぁ? どこで差が付いた? 牛乳か? 牛乳を飲まないからいかんのか?

 

 いや、別に。乳など膨らまずとも良い。肩が凝るそうじゃし、運動すると痛むらしいからな。儂には必要無い。被身子も、今の儂の体型を気に入ってくれてるわけじゃし。

 ただほら、知識として知りたいから聞きたいだけじゃ。少しで良いから教えんか? 何をしたらそんなに育つのか、知識として知っておきたい。

 

「そんなの、愛しい人に沢山揉んで貰ったからよ?」

「嘘吐きめ」

 

 嘘吐きめ! そんな条件じゃったら、間違いなくここ数年で満たしておるわ!

 

「じゃあ牛乳ね。身長低いのも牛乳飲まないからでしょ。あと、ちょっと怒りっぽいのもね。

 そう言えば被身子ちゃん、最近円花は牛乳飲んでるの?」

「……相変わらず、あんまり飲まないのです。だから他の部分でカルシウムは摂らせてますけど、たまにはちゃんと飲んで欲しいなって思わなくも……」

「牛乳嫌いじゃ。あんなものは飲まん」

 

 何が嫌いって、飲まないと飲まされるのが嫌いじゃ。その度に口許や首筋が牛乳まみれになる。そして被身子に舐められて、流れのままに色々とされる。

 儂に色々するのはこの際もう良いから、牛乳を飲ませようとするな。あんな口の中に纏まりついて、変に甘ったるい飲み物など飲まなくても良いじゃろうが。飲まねば死ぬわけでもあるまいし。

 

「また今度、飲ませてあげますね」

「嫌じゃっっ!!」

 

 悪どい笑みを浮かべて恐ろしい言葉を口にするな! 耳元で囁くなっ!

 

 それと、いつまで抱き締めてるつもりじゃっ!

 

 

 そろそろ離さんか、たわけ!!

 

 

 

 

 









※円花の胸囲もご自由にご想像ください。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ

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