待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

550 / 553
教えの時間。父の助言

 

 

 

 

 えんでゔぁが来たことで、訓練内容や決戦までの日程(すけじゅぅる)が早速変わった。

 

 儂が主体じゃと戦闘訓練のみに偏ってしまうから、その他の部分はえんでゔぁが主体となって教えることになったわけじゃな。悪党(ゔぃらん)連合が水面下でどのような準備を進めているのか分からん以上、英雄(ひいろお)側はあれこれと気を揉まねばならん。儂としては戦闘訓練だけに絞りたいところなんじゃが「それだけではその他の立ち回りが悪くなるだろう。戦闘以外も学ばねば、命取りになり得る」と言われたら黙るしかなかった。

 

 まぁ、一理有る。戦闘だけが出来るからと言って、命の危機を避けれるわけでもないしの。思うところが無いと言ったら嘘じゃが、ひとまず任せておく。殺したい程に気に食わん奴じゃけども、英雄(ひいろお)として積み上げて来たものは確かじゃからの。専門的な事は専門職の輩に任せた方が手っ取り早い。じゃから今回は、分業することにした。

 

 戦闘以外の訓練については、あの燃え面と筋肉阿呆に任せる。結果として毎日続けていた戦闘訓練は、三日に一回という話になった。残る二日は戦闘以外の訓練及び個性伸ばしに充てられる。断るつもりじゃったが、儂自身にやるべき事が多過ぎると指摘されての。儂としては全て並行して続けて行くつもりじゃったが、頑なに止められたわ。最初から無理があったのは事実じゃけども、それでも押し通すしかない状況なのもまた事実なんじゃけどなぁ……。

 

 英雄(ひいろお)側の判断に心から納得したわけじゃないが、分業の利点は大きい。

 

 戦闘訓練が三日に一度となった今、呪具作成に注力出来る。もちろん夜になれば皆を連れての任務をこなすが、それでも朝から夜まで呪具作成のみに集中出来るのは大きい。儂自身の鍛錬の時間も取れる。あぁそれと、たまには英雄(ひいろお)としての訓練に出ても良い。一応、今は候補生の一人じゃからの。

 つまり。一日はこれまで通り、一日は呪具作成と任務、一日は鍛錬か呪具作成と任務ってわけじゃ。もちろん、合間合間で休憩を取ることも忘れない。でないと、被身子や両親が何を言い出すか分からんしのぅ。

 

 そんなこんなで。今日は午前中を呪具作成に使い、午後は儂自身の鍛錬に時間を使うことにした。まぁ鍛錬と言っても、独りで出来ることは限られとる。呪術科の寮の前、つまり森の中に有る簡易的な訓練場で、そこらに落ちていた石ころを手の上で回し続けるだけじゃ。今回は両手で左右別にぐるぐる回しとるんじゃが、これが鍛錬になってるのかは疑わしいのぅ。少なからず個性伸ばしになってると思いたいが、どうなんじゃか。

 

「……伸ばしたところで使い道がなぁ」

 

 相変わらず、個性をどう武器にすれば良いのか思い浮かばん。後先じゃったり、周囲への影響を考えなければ空気を回して竜巻を起こせる。炎や水と言った赤血操術ではどうしようもない攻撃を回し防ぐことも出来るの。しかしこう、戦闘においてはもう少し他の使い道が欲しい。

 

 ……そもそもじゃな? 手で触れた物しか回せんのが不便じゃ。儂の手が届く範囲でしか、回転を起こせない。例えば遠隔で物を回せたら、今と違った使い方が出来るんじゃないか? 具体的な使い道が新たに思い浮かぶわけじゃないが、それでも何かこう……。こう、何か有るじゃろ。多分。

 

 と、言うわけで。どうせ出来ないじゃろうが、試すだけ試してみることにする。手の内の石をそこらに転がして、右手を伸ばす。下手に空気を回して竜巻を起こしたら大変じゃから、たった今放り捨てた石に意識を向ける。

 

「回れ」

 

 ……。……、……。

 

 ……うむ、回らん。代わりに空気が回り始めたから、個性を止める。遠隔での個性使用は出来ん。直接手で触れるしかないようじゃ。いっそ、呪力放出に回転でも加えてみるか? いやしかし、呪力を回したところで何かが大きく変わるとは思えん。個性については、赤血操術では対応出来ない攻撃への防御策と割り切ろう。

 後は、そうじゃなぁ……。他に思い浮かぶのは、穿血の補助ぐらいか。穿血そのものに螺旋回転を加えれば、どういう理屈か貫通力が増す。問題は、制御をしくじると両手が吹き飛んでしまうことか。

 

 まぁ何にせよ、個性伸ばしは続けておくとしよう。悪党(ゔぃらん)連合はやたらと儂を警戒し、赤血操術に対策を立ててるからの。対策の対策を立てねばならん。隆之が遺した呪具も有るが、いつでも気兼ねなく使える代物でもないしのぅ。下手に振り回すと、これはこれで大惨事になるし。

 

「……んんむ……」

 

 どうにも、個性の事は分からん。儂の個性は単純なものじゃから、使い道の幅が少ない気がしてならん。そもそも呪力を通さずに扱う力に、未だ慣れとらん気がする。もう少し日頃から個性を使うようにするべきじゃったか。慣れ親しんだ呪術ばかりを使って来た皺寄せが、今になって来ているのぅ。

 

 ……まぁ、今更慌てて個性に取り組んでも仕方ない。ひとつひとつ、地道にやって行くとしよう。取り敢えず、個性伸ばしとして石ころを回し続けるとするか。

 

 

「しかしまぁ、良く回るのぅ」

 

 

 手の内で、ぐるぐると石が回る。黙って見詰めてると目が回りそうじゃが、下手に制御を怠るわけにはいかん。個性の出力を誤れば、石ごと空気を回す羽目になる。そうなると、竜巻が起きて大惨事じゃ。森を吹き飛ばすなんて真似は避けたいし、鍛錬中に個性事故なぞ起こしたら後始末が面倒じゃからな。制御に気を付けつつ、ひたすら石を回し続けねば。

 

 なんて、思っていると。

 

「おー、ぐるぐる回してるなぁ。見てるだけで酔いそ……」

 

 髭を伸ばした父が外に出て来た。半纏を着とるくせに寒さに震えとるの。それと、目の下の隈が酷い。ちゃんと寝ろ、たわけ。伴侶が身重なのに、働き詰めになるのはどうかと思う。もう少しこう、夫としてしっかりせんか。

 

 って、こら。栄養飲料(えなどり)とやらを開けるな。一日に何本飲むつもりじゃ、まったく。

 

「どう? 個性の練習は順調? あんまり使い過ぎると、反動凄いよ?」

「知っとる。何度吐いたか分からん」

「ははは……。お父さんも、昔はしょっちゅう吐いたなぁ。反動がキツくてキツくて、結局諦めちゃったけど」

「ひいろおでも目指してたのか?」

「ま、男の子なら一度はヒーローに憧れるよね。こんな時代だしさ」

 

 いや、それについては分からん。儂はこの時代を好きとは言えんからの。それはそれとして、父が英雄(ひいろお)を目指していた……?

 ……何と言うか、肝が冷える話じゃな。こんなぽんこつが英雄(ひいろお)になっていたら、それはもう大惨事な事になりそうじゃし。

 

「で、どう? 『回転』は使っていけそう?」

「使い道が無いとは言わんよ。が、どう扱うべきかは分からんままじゃ」

「じゃあお父さんが、取っておきの使い方を教えてあげよう。実は凄いんだよこの個性」

「……ほう?」

「ドライバーが無くてもネジやボルトを締めれるんだ!」

「……」

 

 何を言い出すのかと思いきや。何の参考にもならん事を、自信満々な面で胸を張って言いおったわ。そんな助言は要らんが? そもそも、言われんでも知っとるわ。耳を傾けたのは間違いじゃったの。

 

「後はそうだな、ペットボトルの蓋とか開けれるよ。あ、洗濯機が壊れても洗濯が出来たりもするなぁ」

 

 いやまぁ、そうじゃろうけども。日常での個性の使い方を教えられても、まっこと何の参考にならんが?

 

「サポートアイテムを使えば掃除機要らずにもなれるよ。しかも吸引力は変わらなくて、お得だね」

「……もう少し有用な事を教えてくれんか? 戦闘に掃除機なんぞ要らんじゃろ」

「え? 纏めて敵を吸えたら便利そうじゃない?」

 

 ……。……いやまぁ、うむ。それは便利じゃと思うが。しかしなぁ、補助装備(さぽぉとあいてむ)を使うのは流石に面倒じゃ。はいてく? とかそう言うのは、色々と面倒そうじゃし。機械は便利じゃが、未だによく分からん。何でもかんでも便利になれば良いってわけじゃないと儂は思う。指先ひとつで何でも出来てしまうのは、それはそれでこう……良くないのでは? いや別に、機械音痴とかそういう理由で機械を毛嫌いしとるわけじゃないからな??

 

「……さぽぉとあいてむは使わん。いちいち装備を背負うのは面倒じゃ」

 

 父の提案は悪くない気がしたが、わざわざ補助装備(さぽぉとあいてむ)を持つのはな。脇差を帯びるぐらいなら良いが、それ以上となると邪魔になる。そうなると個性だけで悪党共を吸引することになるが、流石にそんな真似は……。……、出来なくもないじゃろうけど。周囲の被害を考えなければ、個性順転で竜巻を起こすだけで吸引出来そうじゃ。もっとも、そんな真似をすれば周囲が大惨事じゃ。それは避けたい。出来ることなら小さな規模が好ましいからの。

 

「ふっふっふっ」

 

 いや、おい。何じゃ急に誇らしげに胸を張りおって。何をそんなに自信満々なんじゃ。どういう腹積もりなのかは知らんが、どうやら何か言いたいことがある……らしい。何なんじゃもう。

 

「僕達の個性なんだけどね。実は回転軸を変えれます」

「……? じゃから?」

 

 回転軸を変えれる? いや、それが何じゃ。回転の向きが変わるぐらいで、誇らしげにされてもじゃな?

 まったく、何を考えているのやら。ぽんこつの考えることは、さっぱり分からん。話したそうにしているから、聞くだけ聞いてやらんでもない。一応、父は儂と同じ個性じゃからの。先達者として、何かこう……有るんじゃろ。知らんけど。

 

「そして、気体や流体に限り複数の回転軸を付与出来るんだ!」

「……う、うむ?」

「つまり、こういう事……!」

 

 いや、おい。栄養飲料(えなどり)を手のひらに注ぐな。何をして―――。

 

 ―――ほう? 液体が多方向に回り始めて、球体になったの。いやしかし、液体を回すことで球体にしたから何じゃ? それが戦闘において、いったい何の役に立つんじゃ。

 

「こんな感じで空気を回すとね、周囲を吸引出来たりするんだ! 何か役立ちそうじゃない?」

「……ふむ」

 

 空気に回転軸を複数付与して、空気ごと周囲の物体を吸引する……か。いちいち竜巻を起こすよりは、周辺被害が少なくて済みそうじゃ。そう考えると、覚えておいて損にはならんじゃろう。多分。

 ところで父よ、やたらと顔色が悪くなっているが?

 

「これの欠点はね、物凄く目が回っ―――おぇえええっっ!!」

 

 お、おう。膝から崩れ落ちた上に、盛大に吐きおったわ。仕方ないから背中を擦ってやるとしよう。儂等の個性は、どうも嘔吐が付いて回るのぅ。いちいち吐きたくないから克服したいが、いつになったら個性の反動に身体が慣れるのやら。

 

 ところで。回した栄養飲料(えなどり)が宙に浮いとるの。どうやら空気も巻き込んで回転しとるようじゃ。そよ風程度じゃが、宙に浮いたままの栄養飲料(えなどり)に向かって空気が流れとる。

 

 ……もしやこの吸引、飛ばした血を回転の核とすれば距離に関わらずに起こせるのでは? 飛ばす血液に予め回転を付与しておけば、出来そうな気がしないでも無い。どれ、試してみよう。

 

「ふむ……」

 

 蹲って吐き続ける父の背中を左手で擦りつつ、右の手のひらから血を出す。血液自体に複数の回転軸を付与……って、それはどうやるんじゃ? 分からん。取り敢えず、一方向だけに回すか。ぐるぐると勢い良く回り始めたところで、遠くの的に向かって飛ばしてみる。回転しとる分、制御が少し面倒じゃが……まぁ何とかなったの。

 

 それで? どうなるんじゃ?

 

「ぬおっ」

 

 飛ばした血が的にぶつかる直前。小さな竜巻が起きたわ。それが的そのものを引き寄せて、吸い込んだ。竜巻の中で、的が音を立てて砕けておるの。

 

 なるほど。これは良いかもしれん。血を介せば、距離を問わずに回転が起こせる。術式と個性を同時に使うのは少し手間じゃけど、繰り返していく内に慣れるじゃろう。これならば、直接手で炎やら水に触れることなく防御が出来る。同時に攻撃にもなると見た。こうなってくると、回転軸の複数付与とやらが気になるの。

 

 もし儂の血に複数の回転軸を付与して、それを飛ばしたら? 答えはやってみなければ分からん。分からんが、取り敢えず一度は試してみるとしよう。

 

「で、父よ。回転軸を複数付与するのはどうすれば良いんじゃ?」

「おえっ、おえ゛え゛ぇええ゛っっ!!」

 

 んんむ。これはしばらく駄目そうじゃな。仕方ないから、もう少し背中を擦ってやるとしよう。回転軸については、後で聞いておく。

 ……まったく。父ならばもう少ししっかりして欲しいものじゃ。何じゃって儂の父は、こうもぽんこつなのか。まっこと、仕方のない奴じゃのぅ。

 

 

 

 

 

 

 




今回は4話更新です。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。