待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

56 / 430
雄英体育祭。対切島鋭児郎

 

 

 

 

 

「円花ちゃん、そろそろ出番なのです」

「うむ。勝ってくるわ」

 

 がちばとるとおなめんと一回戦は、特に問題なく進んでおる。緑谷が心操に何とか勝ち、轟が頼呂に圧勝し、上鳴は阿呆面を晒して芦戸に負けた。飯田は発目の玩具(おもちゃ)にされておったが、まぁ結果的に勝利を掴んだ。掴んだと言えるのかあれ? 勝ちは勝ちじゃが……ううむ。

 ……まぁ、何はともあれ、次は儂じゃ。儂の出番じゃ。相手は切島。あやつは硬くなれるので、是非とも真正面から殴り合いたい。とは言え、ある程度の加減はしておくべきじゃろう。子供相手に本気を出す理由が無い。障害物競走や騎馬戦を思い返すと、むしろ全力で挑んではならぬ。間違えて殺してしまうかもしれん。

 

 それはそれとして。やっと被身子の膝上から解放されるのぅ。何で今日の貴様は、儂を膝上に座らせたがるんじゃ。時折母の目を盗んで首筋に接吻(きす)しおって。誰にも見られていないと思うが、それでも恥ずかしかったぞ。

 

「円花、ちゃんと手加減しなさいよ」

「最初からそのつもりじゃよ。じゃ、行ってくる」

 

 被身子の膝上から下りた後、儂は観客席から舞台に向かって跳ぶ。で、着地。着地の際に石造り(こんくりいと)の地面が少しばかり砕けたのは見なかったことにしよう。脆い地面を用意した方が悪い。こんな格好で戦わねばならんのは変な感じじゃが、まぁ動きに支障が出るわけではない。すぱっつとやらを穿かされた理由は、よく分からんが。

 

『おいおい派手な登場だなデストロイガール! ヒーロー着地は膝と拳を痛めるから止めておけよ!! そんじゃあ、始めていくぜ!!』

 

 喧しいのぅ。もう少し静かに出来んのか、あの教師。あと、ひいろお着地ってなんじゃ。膝と拳を叩き付けて着地しただけじゃろうが。まぁ良い。この喧しさも、始まってしまえば気にならなくなるじゃろ。

 ところで切島、なんじゃその顔は。何で目を輝かせているんじゃ。地面を砕くことくらい、何も珍しいことじゃないじゃろうに。

 

『そろそろいい加減にしとけよ!? ここまで暴れるに暴れたデストロイガール!

 廻道円花!! VS 巨大ロボに潰されても無傷! 硬さだけなら今体育祭一かぁ!? 切島鋭児郎!!』

 

 おい、どういう紹介の仕方じゃそれは。その呼び名は止せと言うとるじゃろうが。まったく、ぷれぜんと・まいくめ……。

 

 そんなに言うなら本気で大暴れしてやろうか? 儂はどうなっても知らんぞ? 今生では満足するまで暴れたことは無いんじゃぞ、儂。

 

 くそっ。やはり黒沐死相手に領域展開を使ったのは間違いじゃった。思い出したら、思う存分暴れたくなってきた。抑えろ、抑えろ。子供相手に本気を出す必要は無い。それは流石に大人げない。

 

 

『START!!』

 

 

 ひとまず、儂の一回戦が始まった。と同時に切島が真っ直ぐ駆けてくる。少し迷いが見て取れるが、全力を出すと奴は言っていたからな。拳が届く範囲まで間を詰めたら、手抜きはせず殴ってくるじゃろうて。

 

 ほら、大振りの右じゃ。舎弟か貴様は。避けるのは容易い。が、こやつの硬さがどの程度か気にはなる。となれば……額で受けるか。砕けてくれるなよ、切島!!

 

 突き出された拳に額をぶつけると、それはもう鈍い音が響いた。儂の額と、切島の拳から。

 

 ……! かっっったいのぅ!? 岩か!? 転んで大岩に頭をぶつけた時と同じぐらいに痛いぞ!?

 硬い、硬いぞこやつ! ちゃんと硬い! 偉い!! 嬉しいっっ!!

 

「かっってぇえっ!? 何で!? 廻道も硬くなれんのかっ!?」

「ただの呪力強化、じゃっ!」

「んがっ!!」

 

 お、おおっ! 硬い! 頬まで硬い! 少ない呪力しか込めとらんが、それでも儂の拳を受けて砕けるどころかひび割れすらせんっ。いかん、少し楽しくなってきたぞっ。こやつ、いったいどこまで堪えれるんじゃ!? もしや最大呪力出力で殴っても平気なのか!? 気になるっ。儂、凄く気になる!!

 

 

「ぬぅおおっらぁっ!!」

 

 

 儂が避けることも、防ぐことも考慮していない大振りの拳が弧を描いて迫る。動きが直線的過ぎて、意図が隠されていなくて、逆に楽しくなってきた。

 こやつはどんなに雑な仕掛け方をしても、相手の反撃を考慮する必要が無い。硬くなれるから、殴り掛かってる最中に何をされようが関係無いんじゃ。であれば儂のすることは、ひとつ。その殴り合い、真正面から受けて立つぞっ!!

 

 振り抜かれた拳が、左頬に当たる。硬い。そして少し痛い。即座に儂も、切島の顎を下から殴り抜く。硬いものにぶつかった手応えはあるが、あまり通用していないように見える。こやつは硬いからなっ。

 

「おぐっ」

 

 次の瞬間には、お返しと言わんばかりに真っ直ぐ突き出された拳が儂の鼻に直撃した。少し血の臭いがする。鼻血でも出たか? 構わん。ほれほれ仕返しじゃっ。

 

「うばっ!」

 

 鼻を殴られた仕返しに、儂も鼻を殴り返してやる。しかし硬い。まだ硬い。この分ならもう少し呪力を込めても良い気がする。切島の硬さがどこまで儂の拳に耐えれるか、段々と気になってきた。一発殴る度に確認して、徐々に呪力を増やしてみよう。途中で砕けてしまうようなら、その時点で場外に投げ飛ばせば良いしな!

 

 

 よし来い、どんどん来い!

 

 

 魅せてみろ! 切島鋭児郎!!

 

 

 

 

 

 こうして。切島との殴り合いは十分に渡って続いた。途中柔らかくなってしまう場面があったし、よりもよってそんな時に呪力を増やして殴ったりしてしまった。それでもこの男は最後まで倒れることはなく、儂と殴り合って見せたのだ。素晴らしい。根性が有る。この分なら最初からもっと呪力を込めれば良かったかのぅ。

 いや、そしたら死んでおるか。子供の実力に合わせて手加減するのは不満でしかないが、本気を出せば殺してしまうからな。流石にそれは良くないから、我慢するしかないんじゃ。

 

 そして勝負の結果は、儂の勝ちで終わった。

 切島の個性はそれなりに硬くなるものなんじゃけど、個性を使う為に気張る必要がある。そんな状態でひたすらに殴り殴られを儂と繰り返していたんじゃよ。じゃから、どうしてもどこかで綻んでしまう。綻んだ時は殴らんようにしていたんじゃが、儂が一撃ごとに扱う呪力を増やしていったら頬を砕いてしまっての。まぁ砕けたのは硬くなった肉だけだとは思うんじゃけど、次の一撃に耐えられなくなってしもうた。

 頬以外をぶん殴っても、頬の痛みのせいか硬化が半端じゃった。これ以上は無理だと判断し、脇腹をぶん殴ったんじゃよ。そしたら倒れこそはしなかったが、動けなくなってしまっての。で、みっどないと主審が止めに入った。

 

「少しばかり楽しかったぞ切島。

 次は、砕けるなよ?」

「押ぉおっっ忍!!!」

 

 何じゃその返事。何でそんな目を輝かせて嬉しそうにしておるんじゃ。まさか……殴られて興奮するような変態ではあるまいな……? いや、違うか。楽しかったんじゃなこいつ。負けた悔しさも有るようじゃが、どうも楽しさの方が勝っているらしい。仕方ない奴じゃな。気が向いたらまた相手をしてやろう。

 

 儂も、少しは楽しめた。少しだけな。

 

 

 ……で、被身子よ。何で機嫌を悪くしとるんじゃ? まさか貴様……切島にまで嫉妬してるんじゃなかろうな? おい母、何で被身子の味方をする。

 

 儂悪くないじゃろっ、悪くないじゃろ!!?

 







※円花が悪い。理由はバトってる時の円花は呪霊顔負けの笑顔なので。そしてトガちゃんはその笑顔を見たことがありません。だってバトってるとき限定だもの。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。