待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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雄英体育祭。対常闇踏陰

 

 

 

 

 

 儂の後に一回戦を行ったのは、三組。常闇と八百万、梅雨と尾白、舎弟と麗日だ。常闇は八百万に何もさせずに勝っていた。創造で盾を作られようがお構い無し。強いな、だあくしゃどう。今はともかく、将来が楽しみじゃ。

 梅雨は開始と同時に舌で尾白を舌で簀巻きにして、場外に放り投げた。相手が女子(おなご)だからと言って気後れした尾白が悪い。気持ちは分からんでもないが、勝負の場じゃろうが。その点では、舎弟はしっかりしておった。最後まで油断せずに麗日を警戒しておったし、麗日の策は恐らく最大限の爆破で撃ち破っておったわ。あやつ、知らぬ間に多少個性を鍛えていたようじゃ。

 ……個性は鍛えられるものなのか? 分からん。しかし爆破の威力が、いつぞやに儂が受けた時よりも強かったような気がする。

 

 その後、舞台の補修が行われた後で二回戦が始まった。緑谷と轟、勝ったのは轟じゃ。この勝負は珍しく被身子が興味津々になっておった。主に緑谷に、じゃ。

 

 許さんぞ緑谷。被身子は儂の許嫁じゃが? なに人の女を誘惑しておる。許さんからな。被身子は儂のものじゃっ。

 

 ……まぁ、それはそれとして。最後の攻防で緑谷は個性と同時に呪力を引き出した。結果、轟の炎と接触し凄まじい大爆発が起きたわ。何と両者場外、しかし緑谷は両腕と左足の怪我が酷くての。再勝負は無理と主審に判断され、二回戦敗退。驚いた事に今生の儂よりも多い呪力を持っておった。狡いな、わん・ふぉお・おおる。反転術式(はんてん)を使えるようになれば……相当戦えるようになるじゃろう。

 で、その後。また舞台の補修を挟んだ後で続々と二回戦が消化されていった。芦戸は飯田に負けた。飯田の足は早いからの。速度差を埋めることが出来ずに一方的に倒されてしまった。

 

 ……次は、儂の番じゃ。相手は常闇。勝ち上がってくると思っていたが、こうして相対することが出来ると思うと……少し頬が緩む。だあくしゃどうは術式ではないが、それでも競い合うことが少し楽しみではあったからの。

 

『さぁさぁ行くぜ、二回戦第三試合!!』

 

 儂はまた観客席から舞台へと跳び、今度は地面を砕かずに着地した。ひいろお着地とやらもしておらん。静かに着地してやったわ。でないと、また喧しい声が響いてきそうじゃったからな。

 

『一回戦は熱い殴り合いを見せたデストロイガール! 次は何すんだ!?

 廻道円花!! VS その個性、マジで強くね!? また圧勝を見せてくれよ鳥頭!! 常闇踏陰!!』

 

 それ、教師が言って良いのか? 確かに常闇は鳥頭じゃけど、教師が生徒に向かって言って良い言葉では無いと思うんじゃけど。当人は差して気にしていないようじゃから直接文句は言わんでおくが……。ただ、ぷれぜんと・まいくよ。少し自身の行動を見つめ直すべきじゃと思うぞ? 大丈夫か貴様。後で教育委員会から文句を言われるんじゃないのか?

 

「手加減しないぞ。廻道」

「そうか。儂はするぞ? 殺したくないしな」

「……」

 

 また呆れおって。貴様最近、儂が何か言う度に呆れてないか? 中学の頃はそこまで呆れていなかったと思うんじゃが……。

 ……あまり良くはないが、ひとまず置いておこう。これから常闇との勝負なんじゃ。殺さないように加減しつつ、かつ楽しんでおきたい。一回戦は少し楽しかったから、また楽しめると儂は嬉しい。

 

『START!!』

 

 二回戦が始まる。と、同時に儂は両手を叩き合わせた。本気で穿血を放つつもりは無い。百斂による圧縮を普段よりもずっと弱いものにして、威力も速度もしっかり抑える。指の隙間から血が流れ落ちてしまうのは、効率が悪いのぅ。しかしこの手加減はしないわけには行かない。殺してしまう。

 今回は、術式に重きを置いて戦うつもりじゃ。相手は個性。呪い合いにはならぬが、戦いではあるからの。

 

「行けっ、ダークシャドウ!」

「アイヨ!!」

 

 だあくしゃどうが、真っ直ぐ儂に向かって迫ってくる。速度は、速いとは言えぬ。避けることは、やはり容易い。防ぐことだって簡単じゃ。しかし今のだあくしゃどうが、どの程度強いのかは見ておきたい。日の光の下だと、攻撃力は中の下とか言っていたな。かなり手加減した穿血ならば防げるのか? 或いは弾けるのか? 試すとしよう。

 

「穿血」

 

 大して速度も威力も無い穿血を、放つ。儂の血液は、未だ真っ直ぐ迫るだあくしゃどうに向かって飛んでいく。

 

「弾け!!」

「任セロ踏陰ェ!」

 

 迫る血を、だあくしゃどうは右腕だけで弾いて見せた。しかも間を詰める速度が緩まない。この程度の穿血ぐらいは楽に弾けるようじゃの。攻撃力自体は、それなりと言ったところか。

 であれば……次は別の攻撃で試してみよう。加減した穿血を弾いたんじゃ。加減したものなら、恐らく全て防ぐなり弾くなり出来るじゃろうて。出来なければ、困る。儂がつまらんからの。

 

苅祓(かりばらい)

 

 首や手首から外に向かって出した血液を回転させ、円形の血の刃にして飛ばす。同時に百斂を続けて、再び穿血の準備を進めていく。三つの血刃はそれぞれ別の方向から、一定の速度でだあくしゃどうに向かう。

 常闇の個性は飛来する三つの苅祓の内、二つを腕で弾く。そして最後の一つを避けた。ところに、儂は穿血を放った。が。

 

「危ネッ!?」

 

 これをだあくしゃどうは避けて見せた。苅祓を避けた先に放ったんじゃが、それでも避けるか。回避能力もそれなりに有るようじゃな。悪くない。悪くないぞ常闇。……子供にしては、じゃけどな。

 それになぁ、だあくしゃどう。避けない方が良かったぞ? 貴様が避けたら、貴様の後ろに居る常闇はどうなる? 儂、まだ穿血は中断していないが?

 

「く……っ!」

 

 お、避けたな常闇。その場から右に転がって、避けて見せたわ。しかしその避け方は良くない。穿血は、一度避けられたら終わりの攻撃では無いんじゃよ。放った血を、別の攻撃方法に転用出来る。穿血、苅祓と来たら次は……。

 

「赤縛」

 

 放出中の血を使い、儂は立ち上がろうとした常闇を血の縄で縛り上げた。残念ながら、これは避けれ無かったようじゃの。情けないとは言わんが、もう少し頑張って欲しかったと言うのが本音じゃな。

 

「……っ、行け! ダークシャドウ!」

「オ、応ッ!」

 

 その判断も、悪くない。常闇を縛ったらだあくしゃどうは戻っていくと思ったんじゃが、主を助けようとせずに儂に向かって来たな。距離は少しばかりある。じゃから、ひとまず使った血液を反転術式で回復。それから再び百斂を行う。

 常闇は、赤縛から脱出しようと足掻いておる。手加減してあるから、そのうち脱け出せるじゃろうて。それまでに何秒使うかは分からんがな。十秒も無いと思いたい。出来れば二秒以内に立ち上がって欲しいものじゃが……。

 

「喰ラエ!」

 

 拘束から逃れることよりも先に、儂を狙うことを優先する。判断としては悪くない。個性無しで赤縛から脱出出来るのであればな。式神使いと戦うのは随分と久しぶりじゃが、だあくしゃどうと共に向かってこないのは減点じゃぞ常闇。いや、式神使いが式神より前に出ることは滅多に無いとは分かってはいるが。

 それでも。だあくしゃどうに任せて指示を出すだけか? 正直言って、期待外れじゃぞ。

 

 大きく加減した百斂を持続したまま、だあくしゃどうの攻撃を紙一重で避ける。一度は待ってやることにしようかのぅ。赤縛を振り払うのに、あと何秒かかる? まだ動けぬままか? 非力か貴様。そこまで時間が必要なら、だあくしゃどうを戻しておいた方が良かったじゃろ。

 

「……そんなものか?」

 

 どうやらそんなもの、らしいの。今ようやく赤縛から脱け出したようじゃが、貴様はこれから何をするんじゃ? だあくしゃどうに任せて見ているだけか? だとすれば、もう見るべきところは無い。軽く叩き伏せて終わりにしよう。

 ……失望させてくれるなよ、常闇。昔からお主には期待してるところが有ったんじゃが、これは高望みじゃったか?

 

「っ、ぁああ゛っ!!」

 

 ほう。向かってくるか。だあくしゃどうだけに向かわせるのではなく、自分自身も前に出るか。最初からそうしていれば、また違った展開じゃったぞ常闇。そうじゃ、貴様の強みは距離を取って戦うことだけじゃない。式神と共に前に出て、手数を増やす。自身の肉体と、式神の力を合わせて圧倒しろ。ただまぁ……お主はもっと体を鍛えろ。個性無しで戦える術を学べ。折角意のままに動いてくれるだあくしゃどうがおるんじゃからな。

 常闇の肉体が強くなれば、やれる事は幾つも増えてくる。

 

 どうあれ。この勝負は儂の勝ち。闇雲に儂に向かうな。直線的に動くと、穿血の的じゃぞ?

 

「穿血」

「っっ!?」

 

 至近距離で。だあくしゃどうが儂に触れるよりも速く、常闇の眉間に向かって穿血を放つ。威力も速度も、先程より更に抑えてある。とは言え、当たれば終わり程度の威力は保ったままじゃからな。眉間を思いっきり殴られるぐらいの衝撃はある筈じゃ。

 

「ぐ……っ!」

 

 直撃したか。仰け反りおったわ。自分から殴られに来たようなものじゃからの。

 

「はっ」

 

 少し、褒めてやろう。貴様は倒れなかった。空を仰ぎながらも、まだ体は前に進もうとしておる。だあくしゃどうは儂の両肩を掴んで、場外へ向かって押し始めた。意識は途切れていないようじゃな。

 

「まだ、だ……っ!」

 

 根性は、ある。しかし根性だけではなぁ。やはり、そんなものか。残念じゃ。鍛え直して、出直してこい。幾らでも受けて立つぞ。

 

「赫鱗躍動」

 

 だあくしゃどうの顔面を蹴り上げ、振り払う。それから前に沈み込むように常闇との間を詰めて、拳を軽く握る。思いっきり殴るつもりは無い。軽くじゃ、軽く。相手は切島ではない。硬くはなれんのじゃから、一回戦よりも遥かに手加減しなければな。

 低い姿勢から、上体を起こしつつ腹を殴る。

 

「がは……っ」

 

 腹を殴ったら、膝から崩れ落ちたわ。もう動けんじゃろう。柔い、脆い、鈍い。まだまだ鍛練が足りんな貴様。背後で一つ気配が消えた。と言うより、だあくしゃどうが常闇の中へと戻っていく。個性を保てなくなったか。なら、真に終わりじゃなぁ。

 

「終わりか?」

「……ぐ……ぅっ」

「そうか。残念じゃ」

「っっ! が、ぁあっ!」

 

 おっ。まだやるか。まだ立ち上がるか。だあくしゃどうはもう引っ込んでしまったのに、足掻いて見せるのか。良いぞ、もっと向かってこい。このままじゃつまらん。頼むから、もっと楽しませてくれ。

 

「ダーク、シャドウ……っ!」

 

 出てこんぞ。今引っ込んで……いや待て。なんじゃそれは。何故だあくしゃどうが、お主の体を覆うように滲み出る。纏っているのか? 式神を? 貴様、そんな隠し玉があるならさっさと出さんか。良いぞ、ここからじゃな? ここからが、貴様にとっての本番か? 少し、わくわくして来たぞ……!

 

 と、思ったも束の間。だあくしゃどうは消えて、常闇は倒れてしまった。

 

 

 ……何でじゃ! 楽しそうなものを見せて気絶するな! 儂のわくわくを返せ!! おい常闇!! 寝てる場合ではない!!

 

 

 起きんか貴様!! おい、おいってば!!!

 







常闇くんが深淵闇躯の兆しを見せたところで、円花の二回戦は終了。ガチバトルトーナメントはあと二つあります。現状残ってるのが轟・飯田・円花・蛙吹・爆豪なので次回は、つまりそういうことです。

後二回で雄英体育祭が終わる予定です。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ

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