待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
お預けは嫌いじゃ。折角楽しめそうな事が起こりそうだったのに、常闇の奴……気絶しおって。これでもかなり手加減したんじゃけどな。解せぬ。
依然として、がちばとるとおなめんとは順調に進んでおる。いや、順調と言い切るには舞台の補修回数が多い。緑谷も轟も舎弟も、舞台を壊しまくっとるからの。せめんとす先生が大変そうじゃ。
儂と常闇の勝負の後、梅雨と舎弟が競い合った。結果は……舎弟の勝ち。当然と言えば当然かもしれぬ。あやつ、中々に目が良く運動神経も優れている。相手の出方を見てから、相手より速く動けるんじゃよ。つまり後の先を無意識にやっておる。いや、素で出来るのかもしれん。そうなってくると、流石に梅雨では勝ち目がない。それでも根性を見せて立ち向かい続けておったが、駄目じゃった。
その後、何度目か分からぬ舞台補修の後に準決勝が始まった。轟と飯田が先に舞台に上がり、飯田が負けた。速さで轟を翻弄していたが、策に嵌まっての。凍らされてしまったわ。そして直ぐに、儂の番。相手は舎弟か。どの程度強くなったか、見てやるとしよう。
『準決勝第二試合! つーか爆豪、また女子とやんのか!?』
……確かに。ぷれぜんと・まいくの言い分につい同意してしまった。ここまで舎弟は麗日・梅雨と戦ってきた。どちらも
観客の一部が舎弟に向かって文句を言っておる。まぁ、毎回女子をいたぶって倒しているように見えなくもないからの。実際は違うんじゃが、あやつが悪党面なのが悪い。もう少し愛想良く笑えんかのぅ。
さて。舞台には立った。対面には舎弟。悪党みたいな笑みを浮かべておる。何を楽しそうにしとるんじゃこいつは。まぁ良い。儂とて、少しは楽しめそうじゃからな。楽しくなることを願う。二回戦みたいなのは、もう勘弁じゃからな。
『このまま優勝まで一直線か!? もう優勝しちまえよ、デストロイ・チアガール! 廻道円花!! VS 今体育祭一の女子殺し!! その悪党面は止しといた方が良いぜ!? 爆豪勝己!!』
「あ゛あ゛っ!? うっせーんだわクソが!!!」
『おお怖っ! 準決勝第二試合、START!!』
何とも締まりの無い始まり方じゃな。教師にまで噛み付くなよ小僧。そんなだから変な紹介をされるんじゃぞ、貴様。まぁ儂も似たようなもんじゃけどな。やはり呪うか、ぷれぜんと・まいく。儂、あやつ嫌いじゃ。決勝が始まる前に八百万に耳栓でも創って貰おうかのぅ……。
何はともあれ、準決勝が始まった。最初にやるべき事は決めてある。本気で穿血を撃つ。狙いは右肩。舎弟の目がどこまで優れたものなのか、しっかりと測っておきたい。儂の初撃を避けたなら、それなりじゃな。本気になっても良い。
さぁ、どうなる?
「百斂」
爆破で自らの肉体を浮かせ、宙を弾け飛ぶ舎弟。左右に、上下に、けれども前に進んでおる。
……狙っておるな。避けることを、狙っておる。ならばその策に、乗ってやろう。
「穿血」
右肩を狙った穿血は―――。
「
辛うじて、避けられた。こやつ、儂の手と目を見ておった。僅かな動きを見逃すこと無く反応して、宙に浮いた体を移動させ、皮膚一枚で穿血を避けおった。音を超えた速度の一撃を、僅かな傷だけで済ませおった。
「ひひっ」
何だ……。少しはやるではないか、小僧。
少しだけ楽しくなってきた。もっとじゃ。もっと寄越せ。このままもっと楽しませてくれたら、儂は文句無しじゃ。
「死ぃいねやぁああああっっ!!!」
大振りの右。またそれか。貴様はいつもそれじゃ。だが構わん、受けてやろう。
貴様程度の攻撃じゃ、儂は―――。
ぶわっ!? げほっ、ごほ……っ!!
初手から全開か貴様! とんでもない爆発を起こしおって……!! 儂じゃなかったら死んでおったが!? 梅雨や麗日に当ててみろ、あやつ等死ぬぞ!?
二度と儂以外には向けるなよ、たわけ!!
「くたばれぇえええっっ!!!」
「誰がっ!!」
右の大振りに続くのは、左の大振り。爆破の機は知っておる。散々受けたことがあるからの。その瞬間を見逃さなければ、回避も反撃も容易い。じゃが、敢えて受ける。貴様の爆破がどの程度強くなっているのか、それが知りたい。
以前は怪我とも言えぬ、
じゃが、今回はどうだ? 今回は―――。
「かはっ」
―――笑ってしまう。声を出して、笑ってしまう。防御の為に構えた右腕が、僅かに焼けた。しかしあの時と比べたら、確かに傷は大きくなっておる。強くなったんじゃな、貴様は。まだまだ弱いが、いずれは儂と殺し合えるようになるかもしれん。
策も、回避も、攻撃も。ひとまずは合格点をくれてやる。
今度はこちらから行くぞ。殺しはせん。死ぬような攻撃は放たん。じゃから、終わってくれるなよ? もっともっと、貴様の可能性を見せてみろ! 小僧っ!
「
首と手首、そして指先から放出した血で作った刃を、僅かな時間差で次々と放つ。数は五。それぞれが異なる軌道を描きながら、舎弟に向かっていく。目が良いあやつがどのように対処するのか、見ておきたい。穿血を受けてその程度の傷で済んだ奴が、こんな程度の攻撃を見切れぬ筈は無いよなぁ?
「消し飛べぇえっっ!!」
儂が飛ばした五つの苅祓を、舎弟は空中に居るまま、最大の爆破を起こして消し飛ばした。五つ全てじゃ。惜しい、こやつは真に惜しい逸材じゃ。これだけの攻撃が出来るのに、呪力を扱えぬ。もし呪力を使うことが出来たら、せめて呪術師を名乗れるぐらいの呪力を持ってさえ居たら。
その個性に呪力を乗せて、儂をもっと傷付けることが出来るのに。もっともっと、楽しい時間を過ごさせてくれるのになぁ。
……残念じゃ。まっこと、残念じゃ。これ以上、楽しくなることは無いじゃろう。
「百斂」
「させると思ってんのかよっっ!!」
間が近い。儂は一歩も動いていないからな。近付いて来ているのは舎弟の方じゃ。目が良いが故に、儂の動きに釣られてしまう。こやつが最初の穿血を避けれたのは、穿血そのものが目で見えたからじゃない。見えたとしても一瞬。一瞬あったら貫かれる。じゃからこやつは、撃たれる機を自ら選んだ。儂に撃たせる事で、避けて見せた。
つまり。避けれないんじゃよ。事前の準備無しでは、穿血を避けられない。じゃからこそ穿血を撃たせまいと、こやつは動く。
あのなぁ、小僧。それは赤血操術を持つ術者が、よくやられる事なんじゃよ。穿血は不可避の攻撃と言っても良い。その速さゆえに防ぐこともままならぬ。だから穿血を知る者は、穿血を撃たせまいと動くことが多い。そういう輩は、情報が広まらぬあの時代でも大勢居た。相伝術式の欠点じゃの。術式の情報が広まりやすい。
じゃから、儂はもう対策済みなんじゃよ。穿血を撃たせまいとする者相手に、どう戦うかの。
「赤縛」
小僧が儂の両手に向けて爆破を試みようとしたその瞬間、儂は両手を離し、圧縮された血液を縄として放つ。それは小僧の右手、それも手のひらに巻き付いて硬化した。と、同時に儂はその場から跳び退く。こやつの背後を取るように。
手のひらを縛られようが、爆破自体は起こる。ただのぅ、小僧。貴様その爆破、汗が爆発してるんじゃったよなぁ?
「ぐ……っ!!」
寸でのところで爆破を止めたか。判断は良い。ただ、意識を止めることに向けすぎじゃ。儂から意識を離してどうする?
単純に呪力強化した体で、一瞬動きを止めた小僧を左拳で殴る。狙ったのは、隙だらけの背中。加減はそれなりにしておる。背骨を砕いたら死ぬかもしれんからな。
「がっ!?」
背中を殴られて、小僧は少しばかり吹き飛んだ。地面に落下し、二転三転と転がる。場外には、まだ遠い。
「……っ! クソがっ!!」
まだまだ、やれそうじゃな。そうでなくては困る。少しだけ、楽しいんじゃよ。
悪態を吐きながら立ち上がる小僧に向かって、駆ける。また空中に行かれては面倒じゃ。別に飛んで貰っても儂は構わんが、同じ場面を繰り返すことになるのは楽しくないじゃろう?
距離を詰めると、左手を突き出された。狙いは知っとる。最大限の爆破を起こすんじゃろ?
なら、その左手を蹴ろう。手のひらが、真上に向くように。ついでに流れのままに、こやつの体を踏むか。ほれっ。
お。転がって避けおった。
今度こそ小僧は立ち上がり、右手に向けて爆破を起こす。そうして赤縛を吹き飛ばした。
「……てめえ、何で本気でやらねえ?」
「殺してしまうからじゃよ。それ以上の理由は無い」
「ふざけてんのか……っ!」
ふざけてないが? 本気を出せば、殺してしまう。じゃから手を抜く。人殺しは犯罪なんじゃ。相手を殺さぬように気を遣うのは、当たり前の事じゃろうが。
第一、儂が本気を出したら貴様など相手にならぬ。おおるまいと相手ならまだしも、小僧程度ではまだまだ本気は出せんのぅ。
「いつまでも……っ、俺を見下してんじゃねえぇえっっ!! 半端なんて要らねえんだ!!
やるなら全力でかかってこいやぁああああっっ!!!」
特大の爆破が迫る。今度は開いた左手を前に突き出し、防ぐ。手のひらが少し焼けた。と思ったら、特大の爆破が連続して続く。体は無事でも吹き飛ばされそうな予感がしたから、全身を呪力強化して踏ん張っておく。
「死ぃいいねぇえええっっ!!!」
自棄になってるな。爆破を続けるのは構わんが、そろそろ止めておいた方が良いんじゃないか? 舞台が跡形も無く吹き飛びそうじゃ。このままだと、観客にまで被害が及びそうじゃのぅ。
仕方ない。止めに行くか。
連続する爆破の中で、前に進むのは少し面倒じゃ。しかし儂が避けると観客席まで届いてしまうかもしれん。じゃから、全て受ける。またこすぷれ衣装が痛んでしまうが、こればっかりは仕方ない。服にまで呪力を回すつもりはないからの。
眩しい。煙い。喧しい。そんな爆破の荒波を歩き続けると、やがて爆破が来なくなった。どうやらもう、打ち止めのようじゃな。
これだけの大爆発を連続して行ったんじゃからな。もういい加減、限界が来たらしい。
「は……っ、は……っ! クソ、がぁ……っ!! ざまぁ見やが」
「終わりか?」
「……、は?」
何を驚いているんじゃ貴様は。また手のひらから血が出る程に爆破し続けおって。まるで、いつぞやの再現になってしまったの。あの時は歯を食い縛りながら殴りかかって来たような気がしたが、今回は違うらしい。
「もう止めておけ小僧。その手のひらじゃ、もう
おい。喋ってる最中に爆破するのは止めんか。危ないじゃろ。何がそんなに気に入らないんじゃ貴様は。そんなに、本気の儂と殺し合いたいのか?
付き合ってやりたいところじゃが、殺すわけにはいかんしの。どうしたものか。これ以上続けるのは、絶対に駄目じゃ。ひとまず、殴るか。殴って気絶させよう。
済まんな、舎弟。今回は少し楽しめた。また出直してこい。受けて立つ。
軽く振りかぶった拳で、顎を殴り抜く。結果こやつは膝から崩れ落ち、動けなくなった。それでも両の手に執念とも言えるものを宿し、儂の足を掴んで来たことは……褒めてやるべきか。
「爆豪くん、戦闘不能! 廻道さん、決勝進出!!」
……終わったか。残念じゃよ。こやつに呪力さえあれば、もっともっと楽しめそうじゃったのに。次は決勝、相手は轟。あまり手を抜くことは出来そうにないな。あやつの個性を考えたら、決して楽じゃない。
何せ。
半冷半燃は、赤血操術の天敵と言えるからな。
戦闘シーンはどうにも難しいですね。円花が強すぎて一方的になってしまう。乙骨並みの呪力量がもたらすものは最大の攻撃力と最大の防御力なんですよね。そこにお兄ちゃん並みの赤血操術があると考えると……うーん化け物。いっそボスレイドバトル『廻道円花を倒せ』って競技にして十五人に挑ませた方がまだ良かったのかも?
かっちゃんが穿血避けれたのは、呪術廻戦原作にて主人公の虎杖がやった「発射のタイミングはこっちで決めさせてもらう」理論+かっちゃん自身の反射の良さ。つまり頑張れば初速音速ぐらいは何とかなるってこと。……化け物か? これには円花もニッコリ。
後二話で雄英体育祭が終わると信じていますが、どうなることやら。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ