待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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きるすこあ。そのいち

 

 

 

 

 

「今回のヒーロー基礎学は、キルスコア計測訓練を行う」

 

 体育館がんま。通称、訓練(とれえにんぐ)の台所場所(らんど)……略してTDL(てぃでぃえる)にて、今日の英雄基礎学の実技授業が行われる。のは、良いんじゃけど。きるすこあ? とは何じゃ? 横文字を混ぜて話すのは止めてくれんかのぅ。英語混じりの会話は、どうにも理解が遅れる。後になれば理解が追い付くんじゃけど、会話に遅れてしまう。それが授業中だと尚更困る。もうこの時代で十五年も生きておるのに、何でか英語だけは慣れんのじゃよなぁ。

 

「キルスコア計測訓練?」

「何だそれ?」

「キルスコアってことは、何か殺せってこと!? まさか、人を……っ!?」

 

 きるすこあ。きるすこあ……。きる、と、すこあ……か? 殺す、と、得点? 殺す得点? それを計測するのか?

 うむ、分からん。相澤先生が何を言っているのかまったく分からん。それは、周りに居るくらすめえと達も同じようじゃ。今回行われる訓練が何の為の訓練なのか、誰も分かっとらん。取り敢えず分かることが有るとすれば、この体育館の中に様々な姿をした人体模型(まねきん)が置いてあることか。

 

「そんな物騒な訓練じゃないよ。簡単に言えば個性の計測だ。現状お前達が、どの程度の力を持ってるのか今一度計測する」

「相澤先生! それはつまり、入学初日の際に行った個性把握テストと同じと言う事でしょうかっ!?」

「相澤せんせーっ。それって、またやる意味あるの?」

 

 ……なるほど? 確かに、芦戸の言う通りではある。この場に居る全員が、各々の個性を把握しておる。自分のも、くらすめえとのもじゃ。それを今更計測したとして、いったい何の訓練に……。

 きるすこあに、個性の計測。個性把握てすと。つまり今回の訓練とは、儂等の個性が人や物に向けた場合どのような事になるかを知る為のものか? 或いは、人体模型を倒す数を競うだけのものかもしれん。いや、違うか。それじゃったら「きるすこあ」なんて言い方はしないじゃろ。

 

 相澤よ、儂等の何を計測するつもりじゃ?

 

「お前達は自身の個性、そしてクラスメートの個性をとっくに把握している。が、それでもまだ知らん事がある。

 廻道。俺がUSJ襲撃事件の際、お前に言ったことは?」

「……ひいろおは殺さないし、殺させない」

「そうだ。ヒーローは殺さない。殺させない。今回の訓練は、個性でヴィランを殺さない為にどうするべきか。それを学ぶ為のものだ」

 

 ……なるほど。確かにの。英雄(ひいろお)は悪党を殺すことが仕事じゃない。殺すのではなく、捕まえることが仕事じゃ。であれば今回の訓練の目的は、手加減を覚えさせたいと言うことじゃな?

 そんなもの、くらすめえと達はともかくとして、儂はとっくに出来るが? 自慢では無いが、前世で山程の人間を殺してきた。どの程度の力加減で人が死ぬかは、知っておる。じゃから体育祭では、殺さんように手を抜き続けていた。

 

「体育祭での活躍を見るに、廻道はとっくに出来てることだ。が、廻道以外はまるで出来ていない。身に覚えがある者は、何人も居るだろう?」

「あー……確かに。決勝戦とかヤバかったもんねっ。廻道ちゃん、死んじゃうかと思った!」

「いやでも、俺は廻道なら大丈夫って信じてたけどな? 殴り合った仲だし、あの程度で死ぬ漢じゃねーって」

「あれで無事とは、やはり修羅……」

「いや、アタシ等の中じゃ切島と常闇はめっちゃ焦ってたじゃん。まぁ一番焦ってたのは轟だと思うけど」

「て言うか切島、漢扱いは酷くない? 廻道、女子だけど」

「す、すまねえ廻道! 間違えたっ!!」

 

 ……。まぁ、別に切島の言うことは間違ってはおらんが。儂、中身は男じゃし。魂が男と言った方が良いか?

 あと常闇、人を修羅扱いするでない。後で殴るぞ貴様。昔から事ある毎に修羅だの鬼だの羅刹だの …。許さんからな? 儂は根に持つ方じゃぞ??

 それはそれとして貴様、儂が氷漬けになったら焦ったのか? 相変わらず、儂の事になると直ぐに焦る男じゃのぅ。酷い時なんて、近付くだけでも焦りおって。いや、近くに被身子が居る時は仕方ないと思わんでもないが。あやつ、常闇を刺すんじゃないかってぐらいに殺気立つ時があるからの……。

 

「おい。黙って聞け」

 

 くらすめえと達が騒然とし始めると、相澤が髪を逆立てた。ついでに首の捕縛布に指を掛けた。全員黙った。儂も大人しく話を聞くことにする。常闇を睨んでいる場合ではない。

 

「相手に応じて、力加減を変える。これは相手との実力差が有ってこそ出来る芸当でもあるが、ヒーローには必須技能だ。

 なので今回、計測ロボを的にし、どの程度の攻撃をすれば人が死ぬかを各々ハッキリ自覚して貰う。自分の個性が危険物であることを、しっかり学べ。その先にヴィラン捕縛がある」

 

 ううむ……。相澤先生の言う事は正しい。正しいが、この訓練は退屈になってしまいそうじゃな。現状、儂とくらすめえと達の間には大きな差がある。他の者に合わせた訓練になるのは仕方ない。強い者より弱い者に合わせるのは、当たり前のことじゃ。

 

 ……仕方ないの。この際、どの程度の攻撃を加えれば人を殺してしまうのか。それを見詰め直すことにしよう。良い機会と思うことにする。

 

「まずは計測ロボのデモンストレーション。廻道、人を殺すつもりで計測ロボを攻撃してみろ。全力でやれ」

「相分かった」

 

 相澤先生がすまほを取り出し操作すると、人体模型のひとつが動き始めた。それは数歩分前に出て来たので、儂も同じだけ前に出る。距離は遠くもなければ近くもない。中距離、と言ったところかの。であれば……穿血で良いか。苅祓でも楽に殺せるから、別にどっちでも良いんじゃけどな。

 ただ、個性が危険である事を今一度周囲に知らしめる為には儂がよく使って見せてる穿血の方が良い気がする。まぁ儂の場合、個性ではなく術式じゃけど。

 

 両手を合わせ、前に出す。人を殺すつもりで穿血を撃つんじゃから、百斂はしっかりと使う。そして。

 

「穿血」

 

 一切の加減無しで、放つ。穿血はいつものように飛び、計測ろぼの頭を貫いた。勢い余って、後ろに並んでいる計測ろぼの頭まで貫いてしまう。五体程、余計に貫いてしまった。いかん、これはやり過ぎたか? くらすめえと達の視線が痛い気がする。

 

 ええいっ、そんなに見るな貴様等っ! 貴様等だって個性を使えば、このくらいは出来るじゃろうにっ。相澤! 何じゃその呆れた顔はっ!

 

「……今ので六人死んだな。殺してしまった場合、このようにキルスコアが加算される。死因も出るぞ。全員、今回の授業は六人以上殺さないように。殺した者は補講にしよう。

 廻道。お前はクラスメート達に手加減のコツを教えてやれ。特に轟・爆豪・緑谷の三人にだ」

「……」

「何だ?」

「いや、何でもないが?」

 

 つい相澤を睨んでしまった。くらすめえとに教えるのは構わん。しかし、何故その三人なんじゃ。くらすめえと達の中でも、特に個性が強力な者達じゃよな?

 

 おい、まさかとは思うが貴様……儂に面倒を押し付けてるんじゃなかろうな? そんな筈は無いよなぁ!?

 

 

 

 

 

 







三人称による補完は要りますか?

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  • 良いから一人称で突っ走れ

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