待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

66 / 430
合理的指導。

 

 

 

 

 

 職場体験が始まった。まず儂等生徒が担任に命じられたのは、こすちゅうむの扱いについて。これは本来、学生の未資格者の身分では外での着用が許されぬ。更に人によっては個性の為の補助機能なんかが付いておったりして、これが間違ってでも悪党の手に渡ると大問題となる。じゃからこすちゅうむの紛失はするなよ、本来は雄英の外での着用厳禁で有ることを忘れるな、と念入りに釘を刺された。

 儂のこすちゅうむの場合は特に補助機能なんて物は付いていないんじゃが、この巫女装束は防弾防刃性の特別品じゃったりする。身に付けている以上紛失することは無いと思うが、気を付けておくことにしよう。被身子はともかく、くらすめえとにまでぽんこつ扱いされたくないんじゃ。常闇、なんで儂をそんな目で見る。貴様にまでぽんこつ扱いされる筋合いは無いが? おいこら舎弟、貴様まで冷めた目で儂を見るな。

 

 まぁ。そんなこんなで、現在。生徒の中で儂だけがこすちゅうむを着用した状態で、駅に居る。儂の職場体験先の英雄(ひいろお)は相澤先生とおおるまいと。なので今朝は、生徒達の見送りに同伴しておる。ちょうど良いから、少し離れた所に飯田を呼び出した。話しておくべきことが、ひとつある。

 

「飯田よ。馬鹿な真似は止せよ」

「……馬鹿な真似、とは?」

「兄の復讐」

「そんな真似、するわけ無い。俺は雄英の生徒として職場体験に行くんだ。復讐なんて馬鹿な真似はしないさ。……失礼だな君は!」

「そうか。だったら良いんじゃ」

 

 駄目だな、これは。轟に相談された日から今日まで飯田を見守ってたんじゃが、やはり悪化している。当然じゃろう。恨みと言うものは、簡単には消えて無くならん。時間が薄れさせてくれることはあるが、完全に消すとなると難しい。やはり殴っておくべきじゃったか? ところで最後の一言は余計じゃ、たわけ。

 

「死ななければ何でも良い。友を蔑ろにするなよ」

 

 何を言ったところで今のこやつには無駄じゃろうが、それでも伝えてはおく。ついでに胸を軽く叩いてやろう。これくらいしか、儂には出来ぬ。

 ……どうにも、歯痒いのぅ。儂は言葉で復讐を止める方法なぞ知らん。そう言う時は力ずくじゃったし、力ずくで止められた。いっそ相澤先生に全て話してしまうか? くらすめえとの言葉は聞かずとも教師の言葉なら聞くじゃろうて。いや、聞かんな。それに相澤に話せば飯田は除籍になる。今この状況で除籍なんてされたら、余計に復讐してしまう。

 

 ううむ。中々どうして面倒くさい。これが切島じゃったら殴れば止まりそうなものだが……。

 

 子供を死なせることは儂の主義に反する。仕方ない、この見送りが終わったら迷子になったふりをして保須とやらに出向くか? 後でとんでもなく叱られるとは思うが、子供の命が優先じゃ。そうと決めたら早速行動しよう。何、ろくに使わん財布を無理矢理被身子に持たされておる。新幹線ぐらい乗れる金は有るじゃろう。

 

「おい待て、どこに行く」

 

 おぐっ。き、貴様っ。歩き始めた人間の首を捕縛布で縛るなっ。息が出来なくなるじゃろっ!

 

「い、いや。厠じゃ厠」

「お手洗いなら逆方向だ。そもそも一人で出歩くな」

「……そうじゃったかのぅ。助かった、では相澤先生。儂は急いで厠に……」

「以上、解散。くれぐれもプロに迷惑を掛けるなよ」

 

 あ、駄目じゃなこれは。厠程度の理由でこの男を撒くことは出来ぬ。誰じゃ、こやつに儂を一人で出歩かせるなと言い付けた輩は。お陰で単独行動が出来ないじゃろっ。

 

 ……言い付けたのは被身子だったかのぅ?

 

 ……。…………! しまった! あの時、止めておくべきじゃったかっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて。オールマイトや俺の下で職場体験をするなら、お前に時間を無駄にする余裕は無い。合理的に行こう」

「……うむ」

 

 なぁ、相澤よ。何で儂の首に捕縛布を巻いたままなんじゃ? おい、何で犬のように引かれなければならない。そういう遊戯(ぷれい)は被身子以外にされても、何も嬉しくないんじゃが? いったい何時まで儂を引き摺るつもりじゃ貴様は。この状況を見たら警察も英雄(ひいろお)も教育委員会も黙ってはいないぞ?

 あとなぁ、被身子に目撃されたら何を言われるか分からん。何をされるかも分からんっ。じゃから今すぐ儂を自由にせんかっ! すれ違う通行人の視線が痛いんじゃ!!

 

 今! 歩いてるのは! 駅前!! なんじゃが!?

 

頼皆(よりみな)。ヒーローに求められる基本三項は?」

 

 駄目だこやつ。このまま儂の首から捕縛布を外さんつもりじゃ。しかもそのまま連れ回して、授業までするつもりじゃ。これはいったい何の仕打ちなんじゃ? 儂が貴様に何をしたと言うんじゃっ!

 

「……撃退・避難・救助じゃ」

 

 不満はある。この状況に大きな不満がある。しかし、相澤の話は聞いておこう。問われたなら答えておこう。でないと、後でもっと面倒な事になりそうじゃ。こやつの前では一旦大人しくして、油断を誘おう。貴様、隙を見せたら儂は脱兎の如く逃げ出すからな。そのまま保須にまっしぐらじゃ。なぁに、新幹線までの道程は覚えてある。問題無い問題無い。無いったら無いっ。

 

「そうだな。大体の事務所は撃退か救助に基本方針を定める。そうすることで犯罪、もしくは災害に対応するわけだ」

「避難は?」

「撃退にも救助にも、まず避難が含まれる。避難だけのヒーロー事務所は、ほぼ無いと言って良い」

 

 なら基本的三項とよりも基本的二項で良いのでは? と、思わんでもない。が、避難誘導もせずに悪党(う゛ぃらん)を撃退したら被害は広まるし、避難誘導もせずに救助しようものなら余計な犠牲者が出るのも確かじゃ。呪術師だって呪霊を祓う時は帳を降ろし、人目に付かないようにする時がある。これも避難の一種と言っても良いじゃろう。

 

 まぁ結局のところ、どのような方針を立てていようが避難はやらなければならない。これを英雄(ひいろお)が自発的にやっているのか、それとも世間の目や声を気にして仕方なくやっているか。どちらなのかは、知らんがな。前者だと思いたいが、後者の可能性も無いとは言えん。

 

「事務所を立ち上げるにしろどこかの相棒(サイドキック)になるにしろ、自分の適性が撃退か救助のどちらに有るのかはしっかり把握しておけ。まぁお前の場合、撃退一択になるだろうが」

 

 それはそうじゃな。儂の個性……と言うか術式は直接人を助けるものじゃない。赤血操術は決して万能ではないからのぅ。やれることは限られている。人を殺る分には、何も困らんがな。

 

「ちなみに相澤よ」

「職場体験中はヒーロー名で呼べ」

「……いれいざあ。事務所って言うのは一人で立てれるのか?」

「立てれる。が、その場合一人で全ての仕事をこなす事になる。経験を積んだヒーローでなければ、あまり現実的じゃない」

 

 そうか。どこの事務所に入りたいとか、誰のさいどきっくになりたいとか、そういう希望は儂には無い。であればいっそ、自分で事務所を立ち上げてしまった方が良いのでは? と考えておったんじゃけど、それも中々難しそうじゃの。そもそも儂は、いずれ呪術師として日本各地を動き回るつもりじゃ。事務所を構えること自体、建設的な考えではないか。

 ……ん? ならいっそ、事務所を持たないで自由業になれば良いのでは? そういう英雄(ひいろお)も中には居るんじゃないか? 今度、緑谷にでも聞いてみるか。あやつ程、英雄(ひいろお)に詳しい奴を儂は知らん。

 

「ところで相ざ、……いれいざあ。ここは何処じゃ?」

 

 ふと周りを見渡すと、ここが何処なのか分からぬことに気付いた。いや困った、道も風景も覚えずに歩いてしまった。これでは逃げ出して保須に向かうどころではない。

 ここは……どこかの大通りか? 車が多い。何なら人通りも多い。まだそこまで駅から離れていない、……と思う。

 

「道を覚える努力をしろ。だから方向音痴なんだ」

「悪かったな方向音痴で。駅はどの方角じゃ?」

「向こうだ」

「そうか」

 

 相澤に指差して貰ったので、駅に向かう方角は分かった。逃げ出した時には、こやつの指差した方に向かって行けば良い。この方角はしっかり記憶しておこう。後で一人で動いた時に、迷子になるからの。

 

「ついでに、もうひとつ聞くが」

「何だ?」

「事務所を立ち上げず、さいどきっくとやらにもならず、ひいろおは出来るのか?」

「……不可能じゃない。そういうヒーローも居るには居る」

 

 ほう……。なら、事務所は立てん。さいどきっくにもならん。雄英を卒業したら、我が身ひとつで日本を歩き回るとするか。あの時代とは違って、乗り物に乗れば何処に行くにしても時間は掛からんしの。何年も迷子になるなんて事態も、今生では起きんじゃろうて。

 さて。少し有意義な話を聞けたところで、これからどうすべきか考えよう。何とかして、相澤の目から逃れたい。しかしこやつ、さっきから隙を見せん。このままでは、恐らく儂は雄英に真っ直ぐ戻ることになってしまう。そうなると、迷子になって保須に着いたなんて言い訳が出来なくなる。

 

「……頼皆。俺が一人でお前を保須に行かせると思うか?」

「何の話じゃ?」

「飯田だろ。見てれば分かる」

 

 ……見透かされておったわ。何でじゃ。儂、表情を作ったり隠し事をするのは得意なんじゃが? 何せ呪術師じゃからな。これが出来ぬ奴は、術師として半人前未満じゃ。

 まぁ良い。見透かされてしまったなら、仕方ない。

 

「分かっとるなら行かせんか貴様。あやつ、場合によっては死ぬぞ?」

「……その件については教師(こっち)で対処しておく。お前は気にせず職場体験に集中しろ」

「それは主義に反する。止めるな、儂は行くぞ」

「渡我はどうする?」

「……」

 

 その問題は、持ち出さないで欲しかったのぅ。わざと見ないようにしていたんじゃぞ。子供を見捨てるのは主義に反する。じゃから飯田をこれ以上放っておくことは出来ない。が、飯田を止めに行けば被身子と離れることになってしまう。

 儂が悪党(う゛ぃらん)連合に狙われている限り、被身子は安全とは程遠い。雄英で寮生活をしているからと言って、絶対に安全とは言えぬのじゃ。悪党(う゛ぃらん)連合の背後に居る誰かが、呪霊を従えている以上はな。

 

「お前一人でやれる事は、限界があるよ。今回みたいにな。だから、もう少し大人を頼ったらどうだ?」

 

 ううむ。困った。飯田は放っては置けぬ。じゃけど、被身子から離れることも出来ぬ。儂の体はひとつしかなく、どちらかを選べばどちらかを切り捨てることになってしまう。

 

 ……いっそ被身子を連れて行く、か? いやしかし、儂の勝手で授業を休ませたくない。あやつの勉強の邪魔をしたいとは思わん。

 

「もう一度言うぞ。飯田の事は、教師(こっち)が見る。お前は職場体験に集中して、渡我の側からなるべく離れるな」

 

 捕縛布が(ほど)かれた。儂の前でしゃがみ込んだ相澤が、下から儂を見上げてくる。子供扱いは止せ。儂はそんな歳ではない。儂からすれば、貴様の方が子供なんじゃぞ。

 

「そもそもお前は、未だ要警護対象。ヴィランが出るかもしれない場所に、行かせると思うか?」

「……」

「間違った学友を止めようとすることは立派だよ。だけど今回は、教師に任せておけ。ほら、雄英に戻るぞ」

 

 

 ああ、面倒な事になってきた。やはりあの場で、飯田を殴っておくべきじゃった。

 

 さて、これからどうしたものかのぅ。素直に相澤の言う事を聞くつもりはない。聞くつもりはないが……被身子を一人にするわけにも……。

 

 

 面倒じゃ。まっっこと面倒じゃ。これ、儂はどうしたら良いんじゃっ!?

 

 

 

 

 

 








飯田を放っておけない+トガちゃんを一人に出来ないで完全に板挟みの円花。更に上から相澤先生と警護と職場体験に押さえ付けられて、もう雁字搦めになっています。これはぽんこつには難しい問題ですね。
えっちな方書きたいので、明日からこっちの更新は減ると思います。すみません。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。