待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
結局保須に向かうことが出来なかった儂は、相澤先生に連れられて雄英に帰って来てしまった。街中を巡回しながら戻ったものだから、もう昼飯の時間じゃ。飯田は放っておけぬが、それはそれとして街中の呪霊を少しばかり祓えたことは何も悪いことじゃない。すれ違い様に何体祓ったかは、忘れた。途中から数えるのは止めたわ。相変わらず、そこら中に呪霊が蔓延っておる。
やはりこの時代、おかしくないか? 何で呪詛師が居て、呪術師が居ないんじゃ。何らかの理由で呪術師が根絶したと言われても、今なら信じられそうなぐらいじゃ。
次に
「……はぁ」
溜め息が出る。つい手に持った箸で、そおせえじを転がしてしまう。警護される立場と言うのは、不自由なものじゃ。自由に出歩くことが許されぬ。このまま飯田の事は教師に任せておくべきか? 相澤なら下手な真似はしないじゃろうが、それはそれとして儂も動きたい。
「円花ちゃん、今日は溜め息ばっかりです。美味しくなかった?」
あれこれと考えて居ると、対面の席に座っている被身子が顔をしかめた。儂は今、寮で昼食中じゃ。いかん、食事中に溜め息なんて吐くべきではない。被身子に余計な心配をさせてしまう。
「いや、いつも通り美味じゃよ。被身子の飯は美味い」
「……どうかしたの?」
「まぁ、気になる事があるだけじゃ。お主は何も気にしなくて良い」
「飯田くんですか?」
ううむ、また見透かされたか……。今日の儂はどうにも隠し事が出来んらしい。と言うか、元々こやつには隠し事を出来そうにない。まぁそもそも、飯田をどうするべきかと被身子の前で話したのは儂と轟じゃしな。
ひとまず、もう冷め始めてしまっているそおせえじを口の中に放り込む。あまり悩み事をしていると、昼休みが無くなってしまう。のんびりしてる時間はあまり無い。昼が済んだら、おおるまいとに見て貰うことになっているしのぅ。
「まぁ、お主が気にする事じゃない。取り敢えず教師が対応するらしいぞ」
「……」
いや、そんな眉に皺を寄せて儂を見詰めるな。何を疑ってるんじゃ貴様。言いたいことがあるなら、言えば良いじゃろ。らしくないぞ?
「一人で保須に行ったりしませんよね?」
「……い、行かぬ、……ぞ……?」
「それ、私の目を見て言って欲しいんですけど」
疑われている。思いっきり、疑われている。これは正直に告白してしまった方が良い気がするのぅ。しかし、言ったところで何が変わるわけでもない。結局のところ儂は、飯田を追い掛けるかこのまま被身子の側に居るべきか悩んでしまっている。どっちも大事なことじゃ。主義に反することはしたくないし、かと言ってその為に被身子から離れるの、それはそれで主義に反する。
この問題は体が二つあれば、解決なんじゃけどなぁ。
「……正直言うと、保須に行きたい」
「ですよねぇ。円花ちゃん、気になった人は放っておかないタイプですし」
「じゃけど、被身子を放っておくような真似は出来ぬ」
「どうして?」
何でそこで首を傾げて、不思議そうにしておるんじゃ貴様。何だおい、放っておかれたいのか? 儂に放っておかれても良いのか?
「じゃって、危ないじゃろ。儂が居なければ、悪党に狙われるかもしれん」
「ああ、そんな事ですか。それなら簡単ですよぉ」
「どこがじゃ」
「私も保須に行っちゃえば良くないですか?」
……また、とんでもない事を簡単に口走りおる。お主なぁ、自分の立場を理解しておるのか? そもそも儂に付いてくると言うなら、授業はどうするんじゃ授業は。貴様、大人しくしていないと特待生剥奪と釘を刺されておるじゃろうが。
おい。何を嬉しそうに儂の足先を爪先でつつくんじゃ。おいったら。
「大事にしてくれるの、凄く嬉しいのです」
「……当たり前じゃろ。許嫁じゃぞ、儂等」
「んふふっ。そっち行って良いですか?」
……まぁ、駄目と言う理由は無い。手招きをすると、被身子は席を立って儂の後ろに移動した。で、抱き付いてきた。然り気無く首筋に口付けをするな。舌先を当てるな。
「ん……っ」
甘噛みされた。変な声が出た。恥ずかしい。笑うな阿呆。急に噛み付いた被身子が悪いんじゃぞ。
まったく、儂は食事中になんじゃが? 頼むから、こすちゅうむは汚してくれるなよ? お主、見境が無くなると直ぐに服を駄目にしてしまうからな。
◆
「私が! 廻道少女を迎えに来た!!」
喧しい。まっこと、喧しい。何で玄関を開いた瞬間に、黄色いすうつを着た筋肉大男の濃ゆい面を見なくてはならんのか。いや、職場体験中だから当たり前と言えば当たり前かもしれん。大方、こやつも儂が迷子になると思って迎えに来たんじゃろうな。阿呆め、流石に校舎にぐらい一人で行けるわ。寮から見えとるんじゃし、何をどうやったら迷子になるのか是非とも聞いてみたい。目に見える建物に辿り着けない程、儂は方向音痴ではないんじゃっ。
「じゃあオールマイト、円花ちゃんをよろしくお願いします。迷子にならないように見張っといてくださいね」
「任されたっ! では廻道少女、午後はゴミ拾いをしよう!」
何故大きなぽり袋と火ばさみを、笑顔で突き付けられなければならないのか。午後の職場体験が清掃とは、これ如何に。分からん、この男が何を考えているのか儂には分からん。何なら分かってはいけないような気さえしてくる。
「じゃあ、また後でね。でも、その前に……」
「その前に?」
んむっ。おい、人前で
……仕方ない奴じゃのぅ。今回は許してやろう。
「ははは……。昼間から熱いね御両人……」
茶化すな貴様。別に儂とて、したくてしたんじゃない。被身子が急に迫ってきただけじゃ。何でこやつは、したいと思ったら一直線なのか。お陰で顔が熱い。人前での口付けは、とても恥ずかしいから止めてくれ。
「職場体験、頑張って」
っ、こらっ。耳元で囁くのは止めんか! ついさっきまでされていた事を思い出してしまうじゃろっ。
もう分かったから、十分じゃからさっさと校舎に向かわんかっ。こんな真似して、授業に遅れても儂は知らんぞ! そんな笑顔を見せて小走りに立ち去ったって駄目じゃ。貴様、許さんからな……っ。
「……まったく、被身子め……っ!」
寮を出た被身子の後ろ姿が見えなくなるまで眺めていた儂は、思いっきり悪態を吐くことにした。去り際にせくはらなどしおって……っ! そういうのはせめて二人きりの時にせんか、たわけ!
ああもう、何であんな女に儂は恋してるんじゃ。解せぬ、まっこと解せぬっ。
「では廻道少女。改めて……午後はゴミ拾いだ!」
「何でじゃ」
おおるまいとはおおるまいとで、訳の分からん事を力強く口走っておる。で、
それで。ふと思い浮かんだんじゃが、呪眼の作成を緑谷に手伝わせれば色々と捗るんじゃないか? 儂の作業は勿論、緑谷の呪力操作の鍛練も。体内での呪力操作と体外への呪力操作は別物じゃけども、多少なりとも呪力への理解は深まるじゃろうて。悪くない、職場体験が終わったら緑谷にやらせてみるとするか。
で、おおるまいとよ。何でごみ拾いなんじゃ?
「ヒーローってのは、本来奉仕活動。パトロールがてら街に出て、近隣地域を綺麗にしようじゃないか」
「被身子はどうする? 何かあってからでは遅いんじゃが?」
「渡我少女なら大丈夫。今朝、これを渡しておいたから」
何が大丈夫なのかは少しも分からんが、おおるまいとがすうつの
「これね、顔のところ押すと私のスマホが鳴るんだ。こんな感じで」
『救難信号が来た!!』
「ほら」
「……」
つまり、それを押せば直ぐにおおるまいとを呼ぶことが出来る。そんな感じの道具かの。だから被身子から離れても大丈夫じゃと、こやつは言いたいわけじゃな? 儂の被身子に変な物を持たせるな、たわけ。
悪党が直接襲ってくるならその道具で事足りるかもしれんが、それなりの呪霊が来たら被身子はどうしようも無いんじゃが? その辺り、理解しておるのかこやつは。
「これだけじゃなく、渡我少女には警護が付く。呪眼と呪具を持った教師が交代でね。
勿論、君の事は私が守る。だから廻道少女、何も心配せず職場体験に集中して良いんだ」
……至れり尽くせり、ではある。雄英は、しっかり儂や被身子を守ろうとしてくれてる。儂等だけではなく、両親だって。それ自体は感謝したいし、多少なりとも信用しておる。が、心配が消えるわけでも無い。どれだけ厳重な警護だったとしても、どうしても心配してしまう。
儂、こんなに心配性だったかのぅ。我ながら、不思議に思ってしまうぐらいじゃ。
「儂等の事は分かった。それで? 飯田はどうするんじゃ?」
「……」
おい。聞いてるんじゃから、答えんか。何で口を閉じて黙るんじゃ貴様。そんなに答えたくないのか? じゃったら儂にも考えがあるぞ? やはり今すぐ保須に向かって、飯田を殴ろう。力ずくで止めてやろう。恨まれるじゃろうが、飯田が死ぬよりは全然良い。
なあ、おおるまいと。儂と被身子に人手を割いて、飯田はどうするつもりじゃ? まさか放っておくなんて真似はしないよなぁ? 教師が対処すると、相澤は言っておったが??
「……飯田少年には、相澤くんが対処にあたってる。きっと、悪いようにはならない」
「復讐心は簡単には消えぬぞ? 相澤一人でどうにかなるのか?」
「そこは君達の先生を信じよう。きっと大丈夫さっ!」
……
やはり、嫌な予感が拭えぬ。これは被身子の案を実践した方が良いかもしれん。それにどちらかしか選べぬのなら、いっそ両方選んでしまえば良い。
ほら、雄英ではよく言うじゃろ? ぷるすうるとら、って。
寝落ちして危うく今日の更新が出来なくなるところでした。滑り込みセーフということで。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ