待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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個性と呪力。

 

 

 

 

 午後二時半。儂は雄英校舎にある教員用の仮眠室、そのそふぁの上で猛烈な精神疲弊で動けなくなっていた。ずっとおおるまいとに抱えられて街中を奔走する羽目になったからの……。これがあと六日も続くと考えたら、もう憂鬱でしかない。何なら職場体験はあと二時間半もある。辛い。

 午後の職場体験は、街中の清掃じゃった。途中からごみ拾いではなく、悪党(う゛ぃらん)退治が殆どになってしまったがな。何回おおるまいとの脇に抱えられて空を飛ぶ羽目になったか分からん。こやつ、少しでも街に何かあればろくに休みもせず動くんじゃ。途中から勘弁して欲しかったが、諦めるしかなかった。誰よりも間近で国一番の英雄(ひいろお)の活動を見ることが出来たのは、良い経験になった。と、思いたい。そう思うことにする。でないとやってやれん。何なら二度と空を飛びたくはないが……明日も同じ目に遇うんじゃろうなぁ……。

 

 ……癒し、癒しが欲しい。まさか職場体験程度で、こんなに心が疲れるとはのぅ。被身子はまだ授業中じゃろうな。時間的に、六限目が始まったばかりじゃ。少しでも良いから会いたい気がするが……授業中じゃからな。放課後までは我慢しておこう。

 

「廻道少女、今日の職場体験はこれにて終わりにしよう。……お茶飲む?」

 

 無視出来ぬ疲労感から、そふぁの上で天井を仰ぎ見ていると、湯飲みを差し出された。中身はお茶。とにかく一息つきたい儂は、半ば引ったくるような形で湯飲みを受け取った。

 

 ずずず。お茶、美味い……。温かいお茶が胃に染みる……。やっと心を休ませることが出来そうじゃ。儂、明日は朝からこんな目に遭わなければならないのか? (まこと)に?

 

「貴様……休憩と言うものを知らんのか?」

「昔から動かずには居られない質でね。つい駆け出してしまうんだ」

「どうりで筋肉阿呆なわけじゃ。休むと言うことを知れ、たわけが。いつか倒れるぞ?」

「HAHAHA! 平和な象徴は疲れたりしないんだ! そんな弱味は見せられないからね!」

 

 あれだけ街中を動き回って、何でそんな元気に笑っていられんじゃ貴様。脳まで筋肉なのか? まさか骨や血まで筋肉で出来ているわけじゃ無かろうな? いっそ肉体の全てが筋肉と言ってくれた方が納得出来るかもしれん。その可能性は……こやつに限っては否定しきれない。

 で、何でまだ時間が有るのにこやつは今日の職場体験を終わりにするなどと宣うんじゃ。まだ時間は有るじゃろ? 夕方五時まで、あと二時間ほどはあると言うのに。

 

「もう終わりで良いのか? まだ時間は有るが?」

「君の夜間警護の事を考えると、今日はこのくらいが限度ってところなのさ。もう少し活動出来なくもないけど」

 

 儂と話しながら椅子に腰掛けたおおるまいとも、お茶を啜る。その図体で小さな湯飲みを使う姿は……どこか違和感があるのぅ。

 

「そうか。結局ごみ拾いどころでは無かったのぅ……」

「それについては、明日またやろう。結局途中で放り投げる形になってしまったからね」

「それは貴様が悪い。何でどこにでも駆け付けたがるんじゃ。大概にしろ大概に」

「ああ、うん。嬉しくってつい。前より動けるようになったから」

「まるで、以前は動けなかったみたいな物言いじゃの」

 

 この筋肉阿呆が動けないなんて事態は起きないと思うんじゃが、まぁこやつにはこやつの事情があるんじゃろう。おおるまいとは、教師としてはまだまだ新米じゃと聞いたことがある。教師になるには教員免許が必要じゃから……その為に英雄(ひいろお)として動く時間を減らさなければならなかったんじゃろうな。知らんけど。

 

「君には、幾つか話しておきたいことがある。真面目な話だ」

「何を改まっておる。緑谷の事か?」

「それもあるけど、まずは私の体の話。これはワン・フォー・オールと同じで、誰にも話さないで欲しい」

 

 ……。どうやら真面目な話のようじゃの。もう少し楽な姿勢のままで居たいが、おおるまいとが真剣な顔付きをしておる。真に大事な話をするつもりらしい。ならば、座を正すとするか。その前に茶は啜るがな。

 

「ずず……。何の話じゃ?」

「私は五年前、あるヴィランと戦い重傷を負ってね。その後、度重なる手術や後遺症ですっかり憔悴してしまった」

「とてもそうは見えぬが?」

 

 今のおとるまいとが憔悴しているようには見えん。はち切れそうなぐらい膨らんだ筋肉は相変わらずのものじゃし、こうして改めて一目見た感じでは健康にしか見えん。しかし、何かの冗談を言っているようには見えぬ。真に憔悴しておるのか? ついさっきまで、あれだけ儂の目の前で悪党を打ちのめして居たのに?

 

「今から、証拠を見せるよ」

 

 ほう。憔悴してる証拠とな。そんなもの見せられても仕方ないと思うんじゃが、好きにさせてやろう。真面目な話と、こやつが言っておるんじゃからな。お茶を啜るのは止めないが。お茶、美味い。じゅうすも良いが、やはり儂はお茶の方が好きじゃのぅ。

 なんて思いながら、お茶を啜ったその時。

 

 おおるまいとが、煙を立てて、萎んだ。

 

「んぐっ!? げほっ、ごほっ!!」

 

 は? どうなっとるんじゃその体っ。急に奇っ怪なものを見せてくるから、むせたじゃろっ!

 もしや、貴様の個性は体を膨らますことが出来るのか!? 真に!? ではいずれ、緑谷も貴様のような筋肉阿呆になると!!?

 

 えぇ……。個性怖ぁ……。何でも有りみたいな力だとは思っておったが、ここまでとはの……。いや、わん・ふぉお・おおるが特別なだけ、か……? どうあれ、ろくでもないのぅ。

 

「だ、大丈夫かい? いや驚くのも、無理は無いが……」

 

 萎んでおる。おおるまいとが筋肉阿呆から、骸骨のようになってしもうた。儂は夢でも見とるのか? いや、頬をつねっても痛いの。現実か。これ、現実か。そ、そうか……。えぇ……?

 

「こっちが本当の姿。さっきまでのはマッスルフォームと言って……まぁ気張ってる姿だね。プールで腹筋に力を入れ続けてる人が居るだろう? あんな感じ」

「……で、つまり?」

「 私はすっかり衰えてしまってね。呪力を扱えるようになる前は、ヒーローとしては三時間程度しか動けなかった」

 

 ……またとんでもない話をしてくるのぅ、こやつは。個性と言い体と言い、色々と規格外過ぎるな貴様は。いや、規格外じゃからこそ平和の象徴なのか。

 

「つまりお主は、呪力を扱えるようになったから以前より動けるようになったと?」

「そう、その通り。呪力による身体強化のお陰で、今は四時間ぐらいは動ける。マッスルフォームは、四時間半ぐらいは維持出来るかなって感じ」

「……なるほどのぅ。平和の象徴にも弱点は有ったんじゃな」

 

 この弱点は、人に知られてはならぬな。こやつの個性と同様に、誰にも話さないでおくとしよう。平和の象徴が実は弱っているなんて誰も信じぬとは思うが、万が一にでも悪党の耳に入ったら大変な事になるかもしれぬ。

 それにしても、秘密が多い男じゃな。いや、儂もそうではあるんじゃけど。

 

「それと、もうひとつ。これは君も知ってると思うけど、どうやら呪力で個性を強化出来るみたいなんだ」

「……は?」

 

 は? 儂、そんな事は知らんが? 四歳の頃に一度個性が発現して以来、儂は個性を使ってこなかったからの。あの時は大変じゃったなぁ。しばらく目が回って、とにかく気持ち悪かった。触れたものを回転させるだけの力など、特に使い道は無いしの。そもそも呪霊に有効とは思えん。

 いや、待て。呪力で個性を強化出来ると、こやつは言ったな? つまりそれは、個性に呪力を流せると言うことじゃ。であれば、個性でも呪霊を祓えるようになるのぅ……。まぁ術式がある以上、特に使いどころは無いと思うが。

 

 ……それでも一応、試してみるか? 戦闘時の選択肢が増えるのは悪いことじゃない。小手先の技術も、ようは使いようじゃからな。

 

「えっ、知らなかったの? 廻道少女は個性を呪力で強化してるんじゃ?」

「しとらんが?」

「えっ? でも穿血……と言ったかな? あの必殺技を使う時に呪力を使ってたように見えるんだが……」

「あれは呪力で血液を圧縮してるだけじゃ。術し……個性そのものを呪力で強化しとるわけじゃない」

 

 そもそも儂の個性は個性ではないしの。他者から見たら個性にしか見えぬじゃろうが、個性と術式はまったく別の力じゃ。体内に宿る力と言う意味では、同じじゃけどな。ついでに幼少の頃に発現すると言う点も同じか。

 あと、おおるまいとよ。穿血を必殺技などと呼ぶな。別に必ず殺せる技ではない。避ける奴は避けるし、防ぐ奴は防ぐ。回避も防御も難しいってだけの話じゃ。

 

「穿血の事は良い。個性の呪力強化についてはおいおい話そう。それよりも……緑谷は大丈夫なのか?」

「……そう、そこなんだよ。現状の彼は個性の調整を間違えると大変な事になる。もしそこで呪力による強化までしてしまったら……もっと大変な事になるんじゃないかって……」

「……個性を強化した際、反動も大きくなるのか?」

「いや、そんな感じはしないんだ。でも私の個性は残り火と言っても良いもので、本来の力とは程遠い。そもそも私は体が出来上がってるから、反動なんて無いんだけど……」

 

 緑谷はまだ体が未熟。それ故に個性の操作を少しでも誤ると、体が壊れる。それは知っていた。しかし個性に呪力強化が加えられた場合、その反動がどういう事になるのか分からん。普通に個性を使うだけでも手足が壊れるのに、その上呪力強化で反動が増えてしまったらどうなるのか。

 ……あやつ、手足が吹き飛ぶんじゃないか? そう考えると、むやみやたらに個性を強化するべきではない。となると……。

 

「この件は緑谷にも話しておけよ。うっかり個性を強化してしまったら、下手すれば大惨事じゃ」

「もちろん。後で電話しておくよ」

「で、じゃ。何で呪力で個性を強化できるんじゃ? その辺、お主に分かるか?」

 

 緑谷の事は心配じゃけど、それはそれとして個性の呪力強化は気になる話じゃ。これは詳しく聞いておきたい。聞かねばなるまい。場合によっては、儂も個性を使うことになるからの。

 

「んん……。これは推測だけど、個性が身体機能だから……じゃないかな? 個性は使い続ければ成長するものだからね。筋肉みたいに!」

 

 おい、急に膨らむな貴様。圧が増すじゃろ。笑顔を浮かべるな。筋肉大男がいきなり目の前に出現した儂の身になれ。

 

「……なるほど。そんなものか」

 

 おおるまいとの推測が正しいものかは分からぬが、有り得ない話でも無さそうじゃ。個性は使えば成長する力。現に舎弟の『爆破』が、体育祭では少しばかり強力になっておったからの。

 ならば儂の『回転』も使い込む程に強くなり、更に呪力で強化出来ると言うことか。たまには使ってみても良いかもしれんな。

 

「と言う訳で、今日の職場体験は終わり! ゆっくり休んで、明日に備えよう! 明日はゴミ拾い、それとヒーローとしての身辺警護について教えてあげよう!」

「……相分かった」

 

 こうして。儂の職場体験初日は終わった。明日は身辺警護についてか。ごみ拾いについては、どうせまたごみ拾いにはならないような気がするのぅ。じゃってこやつ、絶対誰かを助けようと動いてしまうぞ。

 しかし、身辺警護について学べるのは良いことじゃの。儂は被身子を守らねばならんのじゃしな。今一度、一から教えて貰うのも悪くはない。

 

 

 

 

 

 

 








個性は身体機能、呪力は身体能力を強化できる→個性の呪力強化行けるな。やったろ! で、こうなりました。
つまりこの先、OFAがとんでもないことになるってことです。また、USJで戦闘しなかったことと呪力による身体強化でオールマイトの活動時間がむしろ増えました。でもまぁこの人の事だから、通勤時に大分時間使っちゃうんでしょうね。そして遅刻もして、根津校長がキレる。間違いない。

ヒーロー側、円花含め戦力大分上がってますが、まだ一切描写出来ない敵連合側も戦力ヤバくしていくので実はイーブンです。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ

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