待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
職場体験初日が終わった後、儂は萎んだおおるまいとに連れられて寮に戻った。一人で帰れると言ったんじゃけど、一度雄英の敷地内で迷子になったことを引き合いに出されると、もう黙るしかない。教師達が儂をどう見ているか垣間見えたようで、何とも言えぬ気分になったわ。一度盛大な迷子になったぐらいで、何を大袈裟な。いちいち大慌てで止めおって。
儂に方向音痴な部分があるのは認めるが、寮は校舎から見える位置にあるんじゃぞ。流石に迷子になる筈がなかろう? まったくどいつもこいつも……。
そんなこんなで一人で寮に戻ってきた儂は、部屋着に着替えるのも面倒じゃったから
……まぁ、求められるのは嬉しいけども。寮の中であれば何をしても良いと言ったのも、儂じゃけど。
作業台の前にある椅子に腰掛けた儂は、台の隅にある台座にすまほを置く。すると、壁や作業台そのものが独りでに蠢き形を変えていく。十秒と経たぬ内に変形は終わり、作業台の中央にはどこぞから取り出された作りかけの呪眼が、ろぼっとああむによって安置された。
「昨晩の作業の続きを」
両手を強く叩き合わせ、一言発する。この作業台は……儂の声で動くようになっておる。被身子曰く儂は機械音痴らしい。なのであやつが勝手に、この作業台が言葉で動かせるように改造して貰ったそうなんじゃ。寮の隣の天幕にほぼ住み着いている、あの発目に。
妙に仲が良いんじゃよな、あやつ等。最初の頃は発目に対して被身子は嫉妬しまくってたんじゃけど、いつの間に談笑する程度には仲良くなっていた。切っ掛けは、……何じゃったかな。確か開発の虫の発目が空腹と不眠でぶっ倒れてしまったことがあって、隣の天幕が騒がしくなってのぅ。後日、疲れた顔のぱわあろおだあ先生に「たまにで良いから様子を見てくれない?」と頼まれたのが最初じゃったか。で、それ以来たまに被身子が隣を覗きに行って……気が付いたらそれなりに距離が縮んでいたようじゃ。
……まぁ、友達が出来るのは、良いこと……じゃよなぁ。被身子は雄英に入っても、友達が出来た気配がろくにしないしの。じゃから、まぁ……。
……。…………儂、やはり発目は嫌いじゃ。好きになれん。その理由はあまりに幼稚じゃから、思い浮かべないことにする。勿論、被身子にも内緒じゃ。言ったら間違いなく、調子に乗るからのぅ。
さて、作業しよう。まだ呪具と化していない眼鏡に人差し指を当て、ゆっくりと慎重に呪力を流していく。大量に呪力を流してしまうと、器となる眼鏡そのものが壊れてしまう。
出来れば被身子が帰ってくる前に、ひとつ呪眼を完成させておきたい。作業の遅れを少しでも取り戻したいんじゃ。と、思ったその時。すまほが鳴った。誰かから電話が掛かってきたようじゃ。
「通話」
声で指示すれば操作が出来る。そんな機能をすまほにも組み込んでくれた点については、発目に感謝しておる。その点だけはな。そんな程度では儂と仲良く出来ると思うなよ。
それで? 作業を始めた儂に電話を掛けてきたのは何処の誰じゃ?
「誰じゃ?」
『轟だ。廻道、今……少し良いか?』
「構わん。どうした?」
電話を掛けて来たのは、轟じゃった。早くに終わった儂はともかく、お主はまだ職場体験中だと思うんじゃが。電話してても良いのか? こやつが行った職場体験先は……父親のところじゃったな。何で嫌いな父親の所にわざわざ行くのかは分からぬが、轟が自分で決めたことなら反対はせぬ。何かあったら言えと伝えてあることじゃしの。儂としては、いつ轟父を呪っても良いんじゃけど。
『明日、保須に行くことになった』
「そうか。儂も近い内に保須へ向かう予定じゃ」
『イレイザーやオールマイトがそう言ったのか?』
「いや、儂の独断。飯田を放っては置けぬから、職場体験は抜け出すつもりじゃよ」
どういう事情かは知らぬが、轟も保須に向かうのか。飯田を止めるのに人手が要るかも知れぬから、轟も来てくれるのであれば助かるな。あと、道案内は欲しいからの。儂一人で見知らぬ街を出歩くなんて真似をしたら、間違いなく迷子になって飯田には辿り着けぬ。
「それとな轟。昼頃に、相澤が保須に向かった。理由は儂と同じじゃな」
『先生が? 飯田の事、話したのか?』
「いや、あやつが自分で気付いただけじゃ。教師達で対応するから、儂は気にするなと何度も言われたのぅ」
今頃相澤は、飯田に説教でもしているのかの? 或いは連れ戻している最中かもしれん。どちらにしても、事が良くなるとは思えぬ。復讐心とは、簡単に拭い去れるものじゃないからの。その辺りの事は、轟じゃって分かってるとは思うが。
『廻道は、先生が行って良くなると思うか……?』
「いや。悪くなると思うぞ?」
『そうだよな』
「復讐心は簡単には消えん。自分に止まる意志が無ければ、周りが何をしたって暴走が続くだけじゃよ」
……よし。ひとつ呪眼が出来たな。話しながら作業するのも、たまには良いものじゃ。普段はずっと黙って集中しておるからの。思いの外、捗る気がする。もしかすると、この作業にも慣れたのかもしれぬな。話す余裕が出来るぐらいには。
……そう考えると、もう少し作業中に被身子と会話しても良いかもしれぬなぁ。そしたら、せくはらが減るんじゃないか? 減って欲しい。頼むから。
『……詳しいんだな』
「ただの経験談じゃ。これが飯田に当て嵌まるかは知らんが」
『多分、合ってるんじゃねぇかな』
「さぁの。そこは飯田次第じゃろうて」
さて。次の呪眼を作るとするか。被身子が居ないんじゃから、今の内に素材を補充しておくことにしよう。儂の血と髪じゃ。まずは血を作業台の角に置いてある箱に流し込む。こいつは、ぷりんたあ……とか言ったか? で、次に儂の髪を入れて……髪を切る鋏は何処じゃ? 作業台の上に見当たらんな。そう言えば最近、被身子が自分で散髪しておったのぅ。となると、風呂場か洗面台のどちらかじゃろうて。
仕方ない、探すとしよう。ここで作業が出来なくなるのは惜しい。もう少し進めておきたい。せめて眼鏡の作成だけでも済ませなければ、次の作業がまた遅れてしまう。
『保須で飯田に会ったら、少し話してみる。それと廻道、ひとつ聞きたいんだが術式って』
『ショーートォオ!! いつまで電話をしているんだ!!!』
『……わりぃ。親父がうるせぇから、もう切る。また後で連絡するから』
「う、うむ。またの……」
『それじゃあ、また』
通話が切れた。最後に聞こえた叫び声は……轟の父親のものか? 儂に聞こえる程、息子に向かって怒鳴り散らすのはどうなんじゃ?
……まぁ、職場体験中に儂に電話した轟も轟なんじゃが。儂が思ってるより、案外父親と上手くやれているのか? じゃとしたら良いことじゃと思うが、あやつ……よく父親と会話しようなどと思えるのぅ。その点は、前世の儂よりは間違いなく優れておる。儂の場合は対話の余地が無かったのも事実じゃけどな。
「で、鋏は何処じゃ?」
鋏が無いと作業が進まん。取り敢えず風呂場に行って、探すとしよう。この際じゃから、ついでに風呂に入って着替えておくか? この格好のままで居たら、被身子に何か言われるような気がしてならん。いや、格好を褒められる分には構わんが……下手をすると噛み付かれる。布団に連れ込まれる。明日も着るこの服を血やら何やらで汚すのは、流石に駄目じゃからな。そう言うことは、こすぷれの方で……。
……。………帰ってくる前にこすぷれしてたら、被身子は喜ぶじゃろうか? いやいや、呪眼作成の方が優先じゃ。遊んでいる場合ではない。ただでさえ作業が遅れているんじゃから、しっかり集中しなければ。八月までに、あと二十個は作らなければならないんじゃ。これ以上遅れるのは、まっこと良くない。
いかん、いかんぞ。何でこんなにも、早く被身子に会いたいと思うんじゃ。そこまで寂しがりな儂ではないわっ! あと一時間もしない内に帰ってくるんじゃから、それまでの辛抱じゃろうてっ!
話が何も進んでいない不思議。ちょっと円花が作業通話してるところを書きたかっただけです。てへっ。
ちな円花が発目ちゃんを嫌ってる理由はこのお話から察せると思います。ヒントはトガちゃんと発目ちゃんが仲良くしていると言うことです。円花可愛いね……。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ