待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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許可を得た。

 

 

 

 

 

 保須に行きたい。行かねばならぬ事情がある。しかし、その為に被身子を放っては置けぬ。飯田の事は気になるが、じゃからと言って被身子を一人にするのは駄目じゃ。とは言え、あまり悠長にしている時間もない気がしてならない。昨日相澤が保須に向かって、まだ帰って来ておらんのじゃ。聞いた話によると、どうやら飯田と共に行動しているらしい。儂の職場体験がほったらかしになってしまうことについて、電話で謝られたわ。これについては仕方ないことじゃし、おおるまいとが居るからわざわざ謝る必要は無いと儂は思うがの。

 

 今日で職場体験は二日目。午前中はおおるまいとに、英雄(ひいろお)としての身辺警護についてあれこれと教えて貰った。気を付けるべき点や、気を付けなくても良い点。心構えであったり、定石であったり。色々と事細かに教えて貰ったのは、多分今後の役に立つじゃろう。それはそれとして、二年の教室で被身子の身辺警護をするのは……それなりに気疲れする羽目になった。

 休み時間になる度に、被身子のくらすめえと達にあれやこれやと聞かれたんじゃよ。で、そうなると被身子が不満そうにしておっての。機嫌を取りたいところじゃけど、儂は職場体験中。被身子の護衛として、二年の教室に居るんじゃ。被身子だけにかまけるのは、いかん。

 お陰で昼休みになると、それはもう大変な思いをした。被身子の機嫌を直すのに、儂は苦労した。巫女装束(こすちゅうむ)姿なのに思いっきり噛み付かれて、危うく血で汚してしまうところじゃった。血の味がする接吻(きす)は、別に悪くなかったがの。すっかり毒されてしまっている。身も心も被身子好みにされていると言うか、何と言うか……。

 まぁ、悪い気はしない。好きな人と同じになる嬉しさ、と言うのが最近は少しだけ分かってきた気がしないでもない。じゃからって、被身子の血を吸いたいとは思わぬが。……今のところは。

 追々、血の味を覚えさせられそうな気がしないでもない。

 

 寮で被身子の機嫌を直した後、つまり昼休み明けに儂を待っていたのは奉仕活動じゃ。つまり、ごみ拾い。おおるまいとと一緒に、街に出た。なので、またこやつが何処かに飛んでいこうとする前に交渉しようと思った。一度でもこやつが動いてしまえば、もう話すどころじゃない。何度でも空を飛ぶ羽目になってしまう。

 

「儂、保須に行きたいんじゃけど」

「……飯田少年の事かい?」

「そうじゃ。あやつが気になる。放っておけん」

 

 家が乱立した住宅街にて。儂は火ばさみ(とんぐ)で道端に落ちていたごみを拾いつつ、今日はこすちゅうむ姿のおおるまいとに話し掛ける。飯田の話題を出すなり、こやつは難しい表情になった。出来ればこの話題をして欲しくないんじゃろうな。しかし、じゃからと言って引き下がることは出来ぬ。何事も無い可能性の方が高かったとしても、僅かでも子供が死ぬ可能性が有るなら儂は黙って居られない。どんな事情であれ、子供の命に危険があるのなら儂は動く。こればっかりは、どうしようもない。もはや生態と言っても良いかもしれぬな。

 

「相澤くんが付いてるよ。復讐なんて馬鹿な真似をしようとしても、彼が止める」

「それはそうかもしれんがな。大人が押さえ付けて、何とかなる問題だと思うか?」

「……なるかもしれないし、ならないかもしれない。今すぐ飯田少年に止めに行きたいって気持ちは、私にも分かるよ」

「じゃったら、行かせてくれ。万が一も起こしたくないんじゃ」

 

 例え相澤が側に付いていようとも、飯田の身に万が一の事態が起きる可能性は零じゃない。じゃから、儂が側に居なければ儂が安心出来ぬ。

 

「それを飯田少年が望まなかったとしても?」

「……余計なお世話に思うか?」

 

 そんなこと、儂が一番分かってる。復讐に身を焦がした者からすれば、まっこと余計なお世話じゃ。きっと飯田は、鬱陶しく思うじゃろう。余計に止まれなくなるじゃろう。周囲全てを蔑ろにして、突き進もうとする筈じゃ。

 

 じゃけど、じゃけどなぁ。止めなきゃいけない。復讐が何を産むか、儂は知っとる。知っとるからこそ、儂のようになろうとしてる子供を放っては置けない。

 

 ここでおおるまいとを睨み付けたところで、こやつは首を縦には振らないじゃろう。この交渉自体、するだけ無駄じゃ。やはり勝手に動くしかないのぅ。勝手に動いて、飯田を止めに行かねば。

 

「そうだね。君がやろうとしてる事は、余計なお世話かもしれない。……でもな。

 余計なお世話ってのは、ヒーローの本質でもある」

 

 ……英雄(ひいろお)の本質? いや、そんなものは儂には無いぞ、おおるまいと。何を言ったところで飯田を放って置かないのは、儂の為でしかない。儂の主義に、儂が背を向けぬ為にやる事じゃ。何なら余計なお世話ですらない。ただの……ただの自己満足じゃ。それ以上でも、以下でもない。

 

「よし、廻道少女の気持ちは分かった! ここはオジサンに任せて!」

 

 笑いながら親指で自分を指差すおおるまいとが、やけに輝いて見える。何じゃこやつ、急に張り切りおって。貴様、いったい何をするつもりじゃ。どうも嫌な予感がするのぅ。この姿には妙に見覚えが……。あぁ、思い出した。ろくでもない事を言い出す直前の被身子と同じじゃなこれ。

 ってことはじゃ。儂、これからろくな目に遭わない……?

 

 ……、いや……、勘弁して欲しい。被身子に振り回されるだけでも儂は手一杯なんじゃが? その上この筋肉阿呆にまで振り回されるなんてことになったら、心身が持たない。絶対に持たない。

 いかん。自分で頼んでおきながら、話を取り消したくなってきた。嫌な予感が、どうにも嫌な予感がして落ち着かない。

 

「明日、保須に向かおう! 渡我少女も連れて!」

「……う、うむ。それはありがたいが……良いのか?」

「もちろん! ただし今日明日の職場体験はしっかり集中して臨むこと! 保須に向かうのは、明日の職場体験が終わってからだ!」

 

 それは、至極真っ当な指示じゃと思う。思うんじゃけど、やはり嫌な予感が消えないんじゃ。どうしてこやつの笑顔から、被身子の笑顔を連想してしまうのか。まったく似ていないのに、何でじゃあ……。

 

 ま、まぁ……。何はともあれ、保須に行くことが出来るんじゃ。それ自体は、喜ばしく思っても良いじゃろう。良いん、じゃよな……?

 

「と言うわけで廻道少女、今日と明日でゴミ拾いを終わらせようか!」

 

 ……いや、それは無理じゃろ。どう考えたって無理じゃって。貴様、街で何か有れば儂を抱えて飛ぼうとするじゃろ? で、一度そうなったらごみ拾いどころでは無くなってしまう。ごみ(悪党)拾いになってしまう。

 つまり儂は街に悪党(う゛ぃらん)が出てこないことを祈りつつ、ごみ拾いをしなければならない。ごみ拾いはまだしも、悪党の出現自体はどうしようもなくないか?

 

 たまたま偶然、今日明日は悪党が姿を見せない。なんて都合の良いことが起きん限り、ごみ拾いを完遂するのは無理じゃ。

 

「大丈夫、頑張れば今日と明日で終わるから!」

 

 ……、(まこと)に? おおるまいと、真にごみ拾いが終わると思っているのか? 自分がどれだけ無茶苦茶な事を口走っているのか、さては理解しておらんな?

 雄英近隣、その住宅街のごみ拾いを、僅か二日で終わらせる。より正確に言うのであれば、一日半で終わらせなければならない。

 

 こ、これは……死ぬほど忙しいのでは?

 

 

 

 

 

 

 







と言うわけで、円花・オールマイトも保須行きになります。これにより相澤先生だけでなく、円花・オールマイトも保須参戦ですね。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ

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