待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「おいおい。どっか行くのか? 折角だから、オールマイトが殺されるところを見ていけよ」
……、何で
いつぞやに言っていた通り、今回も狙いは儂か? だとすると困るのぅ。今は被身子が側に居る。儂を連れ去る為にこやつを狙う可能性が有るからの。問答無用で殴り飛ばしてしまっても良いが……黒い靄を通って出て来た以上はあの黒靄の悪党も近くに居ると考えて良い。いつこの場に姿を現すか分からぬし、現れたとしたら逃げるのも面倒じゃ。あやつは距離を無視出来るからな。やはり、あの時殺しておくべきじゃった。
まぁ良い。後悔したところで何にもならん。とにかく今は、被身子の安全を最優先しよう。下手に動くのは禁物じゃ。隙など晒せば、被身子が狙われるかもしれん。現にこの手小僧、被身子を見ているし。
手小僧に睨まれた被身子はと言うと、儂の手を握り返している。悪党が突然目の前に現れたんじゃから、怖がったり緊張したりするのは当たり前。……の筈なんじゃけど、どうやら儂の許嫁は肝が座っているらしい。悪党を真正面から睨み返すな、たわけ。気に触れたら危ないじゃろうが。
「……誰ですか?」
おいおい。自分から話し掛けおったわ。
まぁ、良い。手小僧が何かするつもりなら、儂が盾となれば良いからの。こんな奴と被身子が話すなんて御免被りたいが、言ったところで被身子は聞かんじゃろうし……。仕方ない、何も言わんでおいてやろう。
「……表彰式の時の女か。今一緒に居るってことはヒーロー科か?」
ほれ見ろ。警戒された。
「いえ、普通科ですけど」
「普通科かよ。そりゃあ、災難に巻き込まれた、なっ!」
手小僧が動いた。被身子に向かって真っ直ぐ手を伸ばす。黙って見ているつもりはない。儂は即座に被身子を抱き寄せながら、手小僧が突き出した手を拳で弾く。ついでに、その場から跳び退いておく。近くに居たら、またこういう事をされかねんからな。
「いってえ……。はは、やっぱ手を出すなってか? そういやキスしてたもんなぁ。ひょっとして付き合ってんのか? 女同士で?」
……面倒な事になった。この悪党にあの表彰式を見られていただけならまだしも、儂にとって被身子がどういう存在かを自分から教えてしまった。相手は雄英を襲撃して、今日まで捕まっていない悪党。狡賢さなら、それなりのものじゃろう。
「先生がお前を欲しがっててさぁ、廻道円花。一緒にこの世界をぶっ壊さないか? 手始めは……オールマイトだ」
「断る。興味が無い」
「今ならその女を連れて来ても良いぞ?」
「交渉になっとらん」
「だよなぁ。やっぱこんな誘い方じゃ駄目か」
何じゃこいつ。へらへらと笑いおって。こんな状況で姿を現しておきながら、どこか遊んでいるようにも見える。かと言って、ふざけきってるようにも見えん。真剣に、遊んでいるのか? 街をひとつ、襲撃しておきながら?
だとすると、とんだ悪党じゃな。会話はしない方が良さそうじゃの。相手の調子に合わせるつもりはない。
って、こら。被身子っ。こんな時に抱き寄せるなっ。
「円花ちゃんは私の許嫁なのです! ヴィランになんて、あげません!」
その返しはどうなんじゃ貴様。いや、確かに儂は被身子のものじゃけど。人前で抱き寄せて、そんな事を堂々と宣言するのは止めてくれ。流石に気恥ずかしいわ。何で悪党の前で顔を赤くしなきゃいけないんじゃ。まったく、こやつと来たらっ!
……いかんいかん。被身子に呆れている場合ではない。目の前の悪党は次に何をしてもおかしくないんじゃ。警戒を怠るわけにはいかん。
「うわ、まじで付き合ってんのかよ……。こんな時に惚気るか、普通……」
……被身子の惚気はともかく、そこまで引くなよ手小僧。仕方ないじゃろ、こやつは自分の欲求に素直なんじゃ。我慢と言うものを知らん。つまり言いたいと思ったことは基本的に口走る。この惚気については、半分自慢じゃ。もう半分は……焦りじゃな。儂が悪党の誘いに乗ると思っとるのか? 流石にそこまでぽんこつではない。いや、そもそも儂はぽんこつではないが。
「黒霧」
そう手小僧が呟いた瞬間、後ろに何かが現れた気配がする。咄嗟に被身子を突き飛ばし、その場で屈む。同時に前後に血を飛ばす。それから、転んでしまった被身子を抱えて跳ぶ。ひとまず、手小僧からも後ろからの気配も距離を取るように移動した。直ぐに追撃されなかったのは幸いじゃろう。奴等が畳み掛けるつもりなら、少々面倒な事になった。
「……痛いです。円花ちゃんの馬鹿」
「すまん」
「嘘です。ありがと、ごめんなさい」
不満顔の被身子を気遣いながら一緒に立ち上がると、儂等の後ろに現れたのがあの黒靄人間だと分かる。悪党は二人、か。特に問題はない。被身子を守りながらでも、十分相手に出来る。殺せないのは、 手間じゃけどな。
「気色悪いな。当たり前みたいに血を飛ばしやがって」
「そういう術式なのでしょう。確か、赤血操術でしたね」
ほう、知っているのか。儂が使っているのが個性ではなく術式で、しかもその名を知っているのか。ならばこれで、明瞭となったな。こやつ等の背後には間違いなく呪術に精通した者が居る。それも呪霊を操る術式を持っているじゃろう。
どれ、幾つか聞いてみるか。素直に答えてくれれば楽じゃが、どうせそうはいかん。でも、聞く。もしこやつ等の背後に居るのが呪術師、或いは呪詛師なら……そやつは特級呪霊を従える程の実力を持っているということ。
つまり、儂が本気で呪える数少ない相手じゃ。本音を言えば今直ぐ面を拝ませて欲しいが、どうも
ああ、わくわくして来た。つまらん戦いの果てにそやつが居るとするならば、こやつ等を殺してでも引っ張り出すか? それも悪くないのぅ。
「あの時も聞いたが、もう一度聞いてやる。貴様等の背後に居るのは、呪術師か? それとも呪詛師か?」
「……答える必要、有るか? 俺達を知りたいなら
「……悪くないのぅ。どれ、貴様等の下についてやろうか?」
「そんな笑みを浮かべても信用出来ませんね。相変わらず、ヒーローの卵とはとても思えない笑顔のご様子」
ちっ。駄目か。まぁ良い。
さて、この二人をどうしてくれようか。殺せば手っ取り早いが、殺してはいかん。手小僧だけなら撒けば良いが、黒靄まで居ると面倒じゃ。
……もう、良いか。細かい事など考えなくて。被身子に手を出そうとした不躾な輩を前に、大人しくしたいとは思わん。飯田は緑谷が見付けた。気掛かりではあるが、目の前の悪党を無視することも出来ないのは事実。仕方ない、儂は急いでいるんじゃが……相手にしてやるとするか。
呪力を、全身に漲らせる。この戦いに時間をかけるつもりは無いが、ひとまずは小手調べと行こう。
「……それは、止めておいた方が良いですよ」
「あ?」
「あちらの脳無。貴女用に少し改造してあるそうなので」
少し離れたところで、地面が砕けたかのような音がする。それから風切り音。
次の瞬間、儂の体は大きく吹き飛ばされた。
こんな時でも惚気を忘れないトガちゃんの図。
それから中々飯田くんまで辿り着けない円花の図。脇から何かが突っ込んできて、まさにプルスケイオスに……。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ