待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「すまん、遅れた。後は儂がやるから下がって良いぞ」
被身子に案内された儂は、割と短い時間で飯田の居る路地裏に辿り着いた。到着した儂の目に入ったのは、既に傷だらけの飯田や轟。緑谷と、誰かも分からん
……こやつが、すていんとやらか? 人殺しの面をしておるな。飯田達を追い詰めているぐらいじゃから、それなりに腕が立つようじゃ。その実力は気になるところじゃが、それよりもまず優先することがある。
「っ、廻道さん……! 気を付けてっ、血を見せちゃ駄目だ!」
「ステインの個性は血液の経口摂取で体の自由を奪う。お前の個性じゃ相性が悪い」
「相分かった。邪魔するなよ」
ひとまず、子供達は全員生きている。そこの大人については知らん。生きようが死のうが、勝手にしてくれ。儂がわざわざ気に掛ける必要は無いからの。
すていんとやらの個性が血に関わる力なのは分かった。赤血操術は使わん方が良いじゃろう。この小さな体で術式を使わず戦うのは面倒じゃが、どうとでもなる。呪力強化があれば刃物は怖くないからの。
あの悪党は、儂が殴る。こやつ等に手を出したんじゃ。ただその前に、二つやっておく事がある。
「被身子。悪いが緑谷や飯田を止血してやれ。轟、被身子を手伝え」
「はいっ」
ひとつは、指示を出しておくこと。全員怪我をしている。それなりに血を流しておるから、そのままにしておくのは良くない。
……鞄を持ってくるべきじゃったな。確か被身子の鞄の中には、救急箱が入っていた筈じゃ。
そして、もうひとつは。
「おい、飯田」
「っ、廻道くん……! すまない、君まで巻き込ん、ぐはっ!?」
「い、飯田くん!?」
この阿呆を殴っておくことじゃ。加減はしておいてやる。儂が本気で殴れば死んでしまうからの。
「今はそれで許してやる。止血して貰ったらここから離れろ。大通りの方には行くなよ、脳無とやらが暴れてるからのぅ」
指示は出した。飯田も殴った。なら、やることはあとひとつだけ。目の前の悪党を、どうにかするだけじゃ。こやつの実力はそれなりに高い筈。いい加減、我慢の限界じゃ。さっきはお預けされて、今の儂は虫の居所が悪い。頭に来とる。
飯田を止めるついでじゃ。八つ当たりしていこう。この期に及んで殺さない程度に加減しなければならんのは、苛つくがな。
「―――ハァ。次から次へと……また子供か」
「儂が来るまでにこやつ等を殺せなかった貴様が悪い。次は儂が相手じゃ、悪党」
「……」
鬱陶しい奴じゃな。人を品定めでもするかのように睨みおって。まぁ、貴様の考えなど儂にはどうでも良い。知るつもりなどないし、それよりも大事なのは貴様が儂にとって何なのかと言うこと。
すていんは、子供を三人傷付けた。それを許す理由は何ひとつ無い。
「ほら、貴様の間合いじゃ」
真っ直ぐ。何も考えず、こやつの手が届く範囲に踏み入る。その瞬間、真下から刀が振り上げられた。
血を見せるなと緑谷は言っておったな。であれば、この刃は踏み折っておくか。なに、儂の
じゃから。すていんの刀を一撃で踏み折る。鈍い音が辺りに響いた。自分の得物を簡単にへし折られた事に驚いたのか、悪党は大きく後ろに下がった。
「防刃か。相当硬いな……」
「その刀がなまくらだっただけじゃ。貴様、そんな程度か?」
距離を取りたければ、勝手にすれば良い。子供達から遠ざかるしの。何ならもっと遠ざかって欲しいぐらいじゃから、もう一度すていんに近づくとするか。そう思い前へ踏み込むと、ろくに明かりもない暗闇の中で
とは言え、当たると痛い。鉄の塊を投げ付けられたんじゃから、痣ぐらいは出来ているかも知れんな。じゃけどこんな程度は怪我と思えんし、治すのは後で良い。
「どけ、邪魔だ」
刃の投擲では意味が無いと悟ったのか、折れた刀と脇差し程のないふを構えながら悪党が迫ってくる。この衣服に刃が通らぬと分かった以上、恐らくはこやつは露出した部分を狙ってくるじゃろう。顔か、首か、手か。何処を狙われようが、どうでも良い。好きなように狙って来い。
貴様は、儂を楽しませてくれるのか? つまらん真似をしたら許さぬぞ。
距離が潰された。動きは遅くない。単純な移動速度は飯田程速くはないが、それでも遅いとは言い切れぬ。身を低くした悪党が、儂の足元で刃を振るう。横一文字に、一閃。それは軽く跳躍することで避けて見せる。ほら、次はどうするんじゃ貴様。儂は今、一瞬とは言え宙に居るぞ。見ての通り隙だらけじゃ。
まだ地に足が付かぬ儂に向かって、今度は真下から真上に向けてないふが突き出された。その刃先が狙うのは、儂の顎。まだ地に足が付かぬので、顎と刃の間に左腕を割り込ませる。当然、袖ごとじゃ。
左腕が鈍い衝撃に襲われる。まだ宙に居たものじゃから、踏ん張れぬ。なので姿勢も崩れた。地に足は付いたが、少々隙だらけになってしまったのぅ。
折れた刀が、右の頬に迫る。お、これはちゃんと避けねば斬られるな。そんな鬼気迫る表情で、刃を振るうか。悪党らしく、殺すことも厭わぬようじゃな。
「けひっ」
ああ、悪くない。殺気を向けられるのは心地好い。
振るわれた刃を、崩れた姿勢のまま避ける。股を割って、無理矢理頭の位置を低くすることで。刃は皮膚には振れなかったが、髪が少し斬られてしまった。
……ううむ。惜しむらくは、こやつの実力がそれ程高くないと言うことじゃ。くらすめえと達と比べたら強くはあるんじゃけどな。動きは速めじゃし、攻撃することに躊躇いが無い。しっかりと殺すつもりで刃を振ってくる。殺気だけは悪くないのぅ。
「おっと」
更に振り下ろされた刃を、その場から後ろに転がることで避ける。また髪を掠めた。
さて、そろそろ儂が攻撃しても良いじゃろう。殴って終いじゃ。これ以上長引かせても仕方がないからの。
「……よく避ける。身が軽い。しっかりと俺の動きが見えてなければ出来ない芸当だ」
「そう言う貴様は、少し動けるようじゃな。その殺気だけは褒めてやろう」
悪党に褒められても、嬉しくはない。まぁ確かに、この体は前世と比べれば身軽なものじゃ。体も柔らかい。その分、力と重さ……体力なんかも落ちるが、貴様程度を相手取るには何の問題にもならん。そんな事より、貴様はその殺気だけ向けておれ。少しだけ気分が良くなるんじゃ。
「……貴様は、何の為にヒーローを目指す?」
刃先が向けられた。質問の意図は分からん。問答に付き合ってやるつもりは無いが、少し時間を稼いでおくか。儂の後ろには、まだ被身子達が居るからの。
儂が
「私利私欲」
これに尽きる。別に
「論外」
どうやら、悪党の気に触れたらしい。殺気が増した。良い、良いぞ。気分が良い。そのまま殺しに来い。貴様の更なる実力を見せてみろ。大した期待は出来ぬが、さっきからその殺気だけは悪くないんじゃ。
刃物を手にしたすていんが、再び動く。今度は壁に向かって走り、壁を蹴って高く跳ぶ。折れた刀が投げ付けられた。避けるのも防ぐのも用意な投擲じゃ。どれ、掴んでやろう。
悪党の動きから目を離さぬまま、投げられた刀を掴む。少し手のひらや指が斬れた。血を見せてはならぬそうじゃが、経口摂取させなければ良いんじゃろ? 近寄らせないか、すていんが持つ刃に斬られなければ良いだけの話じゃ。そうじゃ、この折れた刀で相手をしてやるか。短刀より少し長い程度しか刃渡りが残っていないが、この体で扱うには十分じゃな。
まだ宙に居るすていんは、儂ではない方を見た。そして手にした大振りのないふを、儂の背後に居る誰かに向かって投げた。仕方ないから、ないふの軌道に向かって刀を投げる。
鉄と鉄のぶつかり合う音が、響く。あやつは未だ、宙に居る。着地するまで、少しだけ時間がかかるじゃろう。
……隙だらけじゃな、つまらん。
もう良い。殴って終わりにするか。
力を込め、跳ぶ。高く跳躍し、すていんの背後に躍り出る。その時、緑谷が視界に入った。拳を振りかぶっておる。飯田が跳んだのも見えた。貴様等、邪魔をするなと言ったじゃろうが。
……、まぁ良い。もう好きにしろ。どの道、これで終わりじゃからな。
「赤縛」
殴るつもりじゃったが、
緑谷の拳や飯田の足で、その身を打ち抜かれた。
ステインの殺気にちょっと喜ぶ円花の図。大暴れさせてあげたいんですが、円花が人目を気にせず大暴れ出来るタイミングでもないので今回もお預けです。直近で可能性があるのは期末テスト……かなぁ。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ