待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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円花の悪戯。

 

 

 

 

 

 二度目の気絶をしたすていんを警察に引き渡した後。儂と被身子は荷物を回収してから、おおるまいとの英雄(ひいろお)事務所にやって来た。東京六本木にある大きな建築物(びる)が丸々おおるまいとの事務所だと言うんじゃから、流石は平和の象徴とでも言うべきなのだろうか。この建物の中には宿泊施設まであるようで、実際に宛がわれた部屋は綺麗な上に広々としている。被身子曰く「ビジネスホテルよりはしっかりしてるのです」だとか。

 ここ最近は事務所を閉じていたと言う割りに、建物の中は埃っぽくない。定期的に人の手を入れて、清掃だけはして貰っているらしい。

 

 ただひとつ問題があるとするなら、廊下でも部屋でも壁や天井におおるまいとを連想させる飾りがなされている事か。かぁいいには疎い儂でも流石に分かる。これはかぁいいとは言えん。むしろ珍妙じゃと思う。とは言え緑谷が喜ぶような気がしたから、すまほで写真を撮っておいた。後で送信しておこう。

 

 ちなみに、悪党(う゛ぃらん)連合の三人はおおるまいとと相澤によって捕縛。警察に引き渡したと聞いた。これで悪党連合が動かなくなると思いたいところじゃけど、そう上手くいかんじゃろうな。恐らく、直ぐにでも逃げ出す筈じゃ。使役した呪霊が助けに来た場合、それこそ警察側に対抗する手段が無い。その旨をおおるまいとに伝えると、あやつは儂等を事務所に入れた後に警察へと向かって行った。同行を申し出ると、今日はもう休めと命じられてしまった。何より被身子が離してくれなかった。

 

 その後。少しの休憩を挟んだ後に食事を済ませると、夜の十時になろうとしていた。なので、儂と被身子は現在浴室の中。浴槽は無く灌水浴装置(しゃわあ)しかない上に、いちいち仕切りがなされていて少し手狭じゃ。そんな場所に二人で入って、時折体をぶつけ合いながら体を洗っていると急に壁に押さえ付けられた。

 被身子が、荒い息をしている。もう我慢の限界のようじゃ。今日のこやつは、とても我慢している。あの時は仕方なかったとは言え、負傷者の応急処置をやらせてしまったからのぅ。血が欲しくて仕方ない筈じゃろうて。

 

 じゃから。

 

「もう我慢しなくて良い。……おいで」

 

 もう、好きなようにさせてやらねば。そう思って囁いてやると、いきなり首に噛み付かれた。血が出る。痛い。でも、今ではこの痛みが心地好いものに感じられる。荒い息で夢中になって血を求める被身子が、どうも愛しく思える。飢えた(けだもの)を愛でる趣味は無いが、こうして激しく求められるのは……嬉しく思う。

 

「ん……っ、少し落ち着、んぅ……」

 

 噛み傷に舌が這ったり噛み傷を吸われると、痛いのにくすぐったい。自然と熱っぽい吐息が漏れ出して、気恥ずかしい。

 

「っ、はぁ……っ。円花ちゃん……んっ」

「ひみ、こ……。ほら、もっと……」

「んっ、ちう……ちうちう……」

「んんぅ……」

 

 いかん。血を吸われてるだけなのに、それ以外は何もされていないのに、体が熱に浮かされてきた。今でも湯を浴びているからじゃろうか? それとも、この体は吸血されるだけでも興奮するようになってしまったのか?

 

 ……いや、それは……流石に。我ながらどうかとは思う。

 

 被身子が、血を吸うことで喜ぶのは分かる。じゃけど、血を吸われることで儂が喜ぶのは何か違うと言うか……。

 この喜びに身を浸してしまうのは人として駄目になる気がすると言うか……。

 

「ん……っ。ふふ……。もしかして、その気になっちゃいました?」

「……なっとらん」

 

 何を言っとるんじゃ、こやつ。大層嬉しそうな顔で、変なことを囁くな。幾らなんでも、血を吸われるだけでその気になるなんて……。

 

 

「じゃあ、確かめても良いですか?」

 

 

 何をじゃ。貴様、何を確かめるつもりじゃっ。おいこら、止せっ。腹を撫でるな! ここで何をするつもりじゃ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 のぼせたわ。長い時間湯を浴びながら血を吸われ続けた結果、儂はのぼせた。今は寝間着(ばすろおぶ)姿で寝具の上に横たわって、体を冷ましている最中じゃ。水分補給はしっかり済ませたから、放っておけば回復するじゃろう。今日はもう寝るだけじゃから、わざわざ反転術式(はんてん)しないでも良い。

 まったく被身子め。血を吸うだけならまだしも、せくはらまでしおって……。ここはおおるまいとの事務所で、他に誰も居ないと言っても寮の外じゃ。まぁ、その……拒まなかった儂も悪いとは思うが……。いや、拒めなかったと言うか……。したかったのは、事実じゃし……。

 

 ううむ。いかんのぅ。儂がしっかりしないと、被身子が暴走してしまう。外では我慢しろと言ったのは儂なんじゃから、儂だって我慢しなければ。

 

「大丈夫ですか……?」

「平気じゃ。寝れば治る」

「ごめんなさい。ちょっとやり過ぎちゃったのです」

「良い。それより、もっとこっちに近寄れ」

 

 ふと時計を見ると、日付が変わろうとしている。そろそろ寝なければ明日に障る。今日……と言うかここ数日は忙しく、疲れてしまった。職場体験に呪眼(のろいまなこ)の作成。保須への移動に悪党との戦闘。あれやこれやと目まぐるしく、ゆっくりしている時間が無い。明日は雄英に戻らなければならないから、朝早くから動くことが決まっている。一時間目が始まるまでに、校舎に戻らなければ。被身子の勉強を邪魔してはならん。

 じゃから、今日はもう寝る。寝るったら寝る。そう決めたんじゃ。

 

 じゃからほれ、早くこっちに来んか。いつまで寝具の縁に腰掛けてるんじゃ。おい、何を遠慮がちに近付いておる。もっとじゃもっと。いつも通り寄り添わんか。俯いて目を逸らすな。反省はもう良い。別に儂は怒ってないから、ばつが悪そうな顔をするでない。まったく、仕方ない奴じゃなぁ。

 

「ほら、被身子」

「わぷっ!? ちょっ、円花ちゃ……っ!」

 

 仕方ないから無理矢理腕を引いて、強引に誘い込む。それからこやつの首に腕を回して、覆い被さることにする。お互いの寝間着が着崩れてしまった気がするが、直すのは面倒じゃ。このまま寝る。ああでも、寝る前に接吻(きす)ぐらいしても良いな。さっきは好き勝手されたんじゃから、少しぐらい悪戯しても良いかもしれん。お返しじゃ、お返し。たまには儂だって、こういう事をしても良かろう?

 

 耳たぶが目に入ったから、いつもされているように接吻(きす)をする。すると、被身子が大きく反応した。何故か息を詰まらせて、身を固くしておる。何じゃお主、人を好き勝手にするのは良いのに好き勝手されるのは苦手なのか? ならもっとしてやろう。たまには儂がどんな気持ちか味わったら良いんじゃ。

 

 って、おい。何で貴様が上になるんじゃ。悪どい笑みを浮かべるな。さっきまでの沈んだ表情は何処に消えた?

 

 おい被身子。被身子ったら。

 

 

「もう一回、しちゃいます?」

「しないっ。もうしたじゃろ!」

「でも、誘ってますよね?」

「は? 誘っとらんが?」

 

 今日はもう寝るっ。寝る前に、少し悪戯しただけじゃっ。何でそれが誘ったことになる……!?

 

「円花ちゃんって、誘い受けですよねぇ。いっつもそうやって、簡単にトガを誘惑して……」

「しとらんが!?」

「してますよぉ。今だって、耳にキスしちゃって……。あんまりそういう事されると、襲いたくなっちゃう」

 

 い、いかん……。これはいかん。被身子がすっかりその気になっておる。何でじゃっ。貴様、何で今その気になった!? もう今日はしたじゃろっ。さっき、沢山したじゃろ!? これ以上儂に何をするつもりじゃっ!!

 

 

「んふふっ。いただきまぁす……♡」

「ま、待て……! こらっ、被身子……!!」

 

 

 迫るな! 耳を撫でるなっ! 体をまさぐるなっ!! いい加減にしろよ貴様ぁっ!!!

 

 

 

 

 










三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ

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