待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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儂と被身子。

 

 

 

 

 

 一週間に渡る職場体験も今日で終わり、明日から平常授業。ようやく少し気が抜けるようになったので、今夜ぐらいはゆっくり過ごしたい。

 この一週間は、まっこと忙しかったからのぅ。雄英近隣での奉仕活動は、おおるまいとに振り回される形で悪党(う゛ぃらん)退治になってしまうことが多かった。保須での一件が済んだ後は、奉仕活動の他に相澤との巡回警備(ぱとろおる)や被身子の警護が追加されて、余計に忙しさが増した。そんな中でも呪眼(のろいまなこ)の作成は進めなければならないし、被身子の相手を疎かにしたくなかった。

 お陰で、毎日寝る頃にはくたくたじゃったわ。ただ、それも今日まで。明日からいつも通りの授業が再開される。職場体験と比べたら、絶対に平和な筈じゃ。そうであって欲しい。そうでないと、困る。

 

「……はあ。もう職場体験は懲り懲りじゃあ……」

 

 今日で職場体験は終わり。そう思うと、気が抜けて大きな疲労が押し寄せて来る。居間のそふぁに腰掛けて背もたれに体を預けると、何もやる気が起きぬ。のんびりお茶でも飲んで、寝る時間まで気を抜いて居たい。今だけは、怠惰に過ごして居たいんじゃ。

 

「職場体験、お疲れ様なのです。大変でしたよね?」

 

 気を抜いたまま体を休めていると、勉強道具を抱えた被身子が隣に座った。今宵はもう寝間着姿のくせに、まだ勉強するつもりらしいの。相変わらず、被身子は勉強を頑張り続けておる。

 寄り掛かりたい気持ちが有るが、今は我慢しよう。こやつの勉強を、邪魔したくはないんじゃ。

 

 って、おいっ。急に抱き寄せるな。嬉しいけども、甘えるのは後にするって今決めたところなんじゃぞ。こら、人の頭を膝に乗せようとするな。誘惑するなっ。今膝枕なんてされたら、儂はもう動かんぞ? それでも良いのか貴様ぁ……。

 

 ぐぬぬ。抵抗虚しく、膝枕されてしまったわ。何じゃもう。人が遠慮していたと言うのに、甘やかしおって。

 ……いや、もう良いか。こうなってしまったら、諦めてされるがままにしよう。

 

「うむ、大変じゃった。来年は勘弁して欲しいのぅ」

「来年の今頃は、多分仮免の取得で忙しいですよ? 何でも、合格率は例年五割を切るとか」

「……お主、何で来年の予定を知っとるんじゃ? 普通科じゃろ」

「二年のヒーロー科に友達が居るのです」

「なん、じゃと……?」

 

 友、達……? 被身子に、友達? ば、馬鹿な。それは有り得ぬ。幼稚園の頃から、儂以外の誰かとろくに関わろうとしなかったこやつが?

 さては、夢でも見ているな? どうやら知らぬ間に寝てしまったらしい。ほら、頬をつねっても痛く……いや、痛い。えっ、痛い。夢じゃ、ない……? ば、馬鹿なっ!?

 

「友達ぐらい居ますよぉ。去年からたまに勉強を教える代わりに、ヒーロー科のスケジュールを教えて貰ってるんです」

「……そ、そうか。お主、友達居たのか……」

「私の事、何だと思ってるの?」

 

 いかん。むっとされた。でもでもじゃって、お主が同年代の子供と話しているところを儂は見たことが無いんじゃぞ。自分の教室で普段何をしているかも話さんし、被身子には友達が居ないと思っても仕方なかろう!?

 

 でも、そうか……。居たんじゃな友達。居ないよりは良い、と思う。うむ、今度紹介して欲しいのぅ。どんな友達なのか、不思議と気になる。

 

「もぅ、円花ちゃんの馬鹿。私にだって友達ぐらい居るのです」

「す、すまん。じゃってお主、儂ばかりじゃから……てっきり居ないものかと、むぐぐっ」

 

 指で頬をつつかれた。そんなに頬を弄らないでくれ。喋れなくなるから。

 しかしお主、よく儂と喋りながら勉強出来るのぅ。器用な真似をしおって……。

 

「まぁ、トガは円花ちゃんが最優先ですけど。友達と遊びに行ったことは無いですし」

「……友達か、それ?」

「向こうも私も、勉強で忙しいのです。遊んでる余裕なんて、お互い無いですから」

 

 まぁ、言われてみればそうじゃな。被身子は特待生で居る為に他の生徒の何倍も勉強しなければならないし、友達も英雄(ひいろお)科に居るのなら確かに遊んでいる余裕は無いじゃろう。

 いや、でも。しかし、じゃな? 友達が居るなら、居ると言ってくれても良かったんじゃないか? それに、たまには遊びに行ったって儂は良いとは思うが……。

 

「それに、円花ちゃんだって友達と遊びに行かないじゃないですか」

「……」

 

 ぐぅの音も出ん。言われてみれば、そんな気がしてならない。何年か前のばれんたいんでいに、常闇に道案内をさせた事が遊んだと言えるなら、一度ぐらいはある……かのぅ?

 いや、待て。被身子と儂では少々事情が違う。儂が遊びに行かないのは、遊びに行ったらお主が嫉妬するからじゃ。常闇と出掛けるなんて口にしようものなら、被身子は間違いなく嫉妬する。じゃからほら、儂は行きたくても行けなかっただけで、行こうとしなかったわけでは……わけでは……!

 

「あと、私が誰かと遊んだら妬いちゃうくせに。最近の円花ちゃんは、やきもちさんですから」

「いや、別に妬かんが?」

 

 妬くわけ無かろう。お主じゃあるまいし。

 

「じゃあ想像してみて? 私が、誰かと遊びに行って楽しそうにしてたら?」

「いや、別に想像しても……」

「じゃあ、明ちゃんと今度遊びに行きますね」

 

 明? ああ、発目の事か。別に遊びに行くぐらい何とも……。そもそも、あやつは遊びに出掛けることがあるのか? 遊びに行くぐらいなら工房に引きこもるじゃろ。

 

 被身子が、発目と遊びに行く? 遊びに行って、楽しそうに笑う……?

 

 ……、は?

 

「ほら、妬いてるのです。むっとしちゃって、カァイイねぇ」

「うるさい。変な想像をさせるな、たわけ」

 

 何故か、無性に苛ついてしまった。被身子が誰かと遊びに行くことは、悪いことじゃないのに。たまには儂以外の誰かと息抜きしたって構わんと思っているのに。被身子が誰かと遊んでいる場面を想像するだけで、何故か苛々するんじゃ。

 

「円花ちゃんをほったらかして遊ぶなんて、私はしませんよぉ。遊びたかったら円花ちゃんと遊びますし」

「……儂で遊ぶの間違いじゃないか、それ」

「んふふっ。それは後でたぁっぷり、ね?」

 

 つい下から被身子の顔を睨むと、悪どい笑みで返された。いかん、これは藪蛇(やぶへび)じゃったか? わ、話題を変えねばっ。このままだと後で大変な事になる気がしてならん!

 

「そ、そう言えばじゃな? 何で最近、六法全書なんて読んでるんじゃ?」

 

 これは、気になっていることでもある。職場体験が始まる前ぐらいから、被身子は分厚い六法全書を読むようになった。読書には向かない本じゃと思うし、何であんなものを熟読しようとしているのか。これがさっぱり分からない。

 普通科では法律の科目があるのか? それとも特待生は法律の勉強をさせられるのか?

 

 ……うむ。分からんっ。

 

「進路、少し悩んでるのです。弁護士とか、税理士とか、秘書とか。円花ちゃんは、どれが良いと思います?」

「……被身子がなりたいと思ったなら、どれでも良いと思うが」

「もう。ちゃんと一緒に考えて欲しいのです。円花ちゃん、将来はヒーロー事務所立てますよね?」

「……」

 

 いや、どうじゃろうか。もちろん、呪術師をやっていく為に英雄(ひいろお)免許は取る。相棒(さいどきっく)とやらになるつもりは、無い。であれば事務所を立ち上げてしまうのが良いと思っていたが、それも難しそうでのぅ。事務所を持たずに英雄(ひいろお)になれるのなら、それが手っ取り早いとも思っておる。可能かどうかは知らんけど。

 

「分からん。一人で立てるのは面倒らしいし、相棒(さいどきっく)になるつもりもない」

「じゃあ、フリーランスでやります? となると……やっぱり秘書ですかねぇ」

「ひいろおは、事務所を持たなくても良いものなのか?」

「大丈夫ですよ? 事務所を持たずに日本各地を転々としてるヒーローが、既に居ます。前例があるなら、多分OKなのです」

 

 ふむ。それは都合が良いな。雄英を卒業したら、日本各地の呪霊を祓って回るつもりじゃからな。前例があるなら、事務所は立てなくても良いな。で、被身子よ。何で普通科のお主がこの手の話に詳しいんじゃ?

 

「私、将来は円花ちゃんのヒーロー活動をサポートしたいんです。だから顧問弁護士とか、税理士とか、秘書とか……その辺りが良いかなぁって」

「……いや、被身子。それは……」

「……もしかして、反対……ですか?」

「……」

 

 ううむ。どうしたものかの。被身子の気持ちは、嬉しい。儂の為にあれこれと考えてくれているのは、嬉しく思う。じゃけど、それが良いことなのかは分からぬ。

 被身子は、儂の許嫁じゃ。将来は結婚する。お互いにそう決めてる。とは言え、被身子の将来を儂一人に縛り付けて良いものなのか。職業ぐらい、儂に関係無いものを選んでも良いと思う。こやつの人生はこやつの好きにさせてやりたいと思っているが、何でもかんでも儂を基準に考えるのは……。

 

「……駄目、ですか?」

 

 不安そうに、見詰められる。真っ直ぐ見詰め返すと、目を伏せられた。そんな顔をしないでくれ。お主が笑っていないのは、嫌じゃ。

 

「……儂は、いつだってお主がしたいようにすれば良いと思ってる。じゃけど、お主は儂だけで良いのか?」

「はい。円花ちゃんだけで良いのです」

 

 即答されたわ。あの時から少しも変わっておらんのぅ。儂が良い、儂しかないって、被身子は言い続ける。それ以外の選択肢には何一つ目をくれず、一直線に進み続けて……。

 我ながら、とんでもない女に惚れてしまった。勿論、責任は取る。こやつと結婚するって、儂は決めているしの。今更それを覆す気にはなれぬ。

 

 被身子の頬に手を伸ばす。優しく撫でると、手のひらに頬を擦り付けて来た。まっこと、仕方のない奴め。

 

「被身子。儂って……その、ぽんこつ……じゃろ?」

「はい。とってもポンコツなのです」

「……別にぽんこつではないがな。とにかくじゃ、一人で出来ない事はそれなりに多い」

「知ってます。円花ちゃんは駄目駄目の弱々ですから」

 

 貴様。後で覚えてろよ? 謝っても許さんからな??

 

「じゃから、儂に出来ない事をやって貰えると……助かる。儂は雄英を卒業したら、日本中の呪霊を祓いたいんじゃよ。事務作業とか分からんし、その手の事をやって貰えると……」

「んー……。なら、秘書にしますっ。円花ちゃんの事、ぜーーんぶ私が管理するのです!」

「いや、全部は管理しなくても……」

「駄目ですよぉ。円花ちゃんはポンコツですから、誰かが管理しないと。で、それって妻の務めですよね!」

 

 まぁ、そう……なのか? そうかもしれんし、そうじゃないかもしれん。いや、そうじゃない気がする。してきた。じゃから被身子、悪どい笑みを浮かべるのは止めろっ。

 

「だからぁ、私がお世話してあげるのですっ。これからも、私無しじゃ生きられないぐらいに!」

 

 いや、それは……今と同じような気がするが。良いのか貴様。それで良いのか?

 

 ……まぁ、笑って居るのなら良しとするか。好きなようにさせてやろう。

 

 

 で、被身子。誰がぽんこつじゃって? 駄目駄目の弱々と言ったか? よぅし貴様、今から思い知らせてやるっ。

 

 

 儂は! ぽんこつでも! 駄目駄目の弱々でもないっ!

 

 

 

 

 

 










そしてまた連敗記録を更新しましたとさ。ちゃんちゃん。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ

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