待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

82 / 429
緑谷の成長。

 

 

 

 

 

 今日から、いつも通りの授業が始まる。結局昨晩は抱かれてしまったが、睡眠はちゃんと取れたので良しとする。被身子の進路も儂の秘書という事で決まったようじゃし、来年の仮免取得に向けて勉強して行かねばな。呪眼(のろいまなこ)作成に、日々の授業。そして被身子の警護を考えたら、当面は忙しくなりそうじゃ。ゆっくり休んでいる暇は、当面無いかもしれぬ。まっこと面倒じゃとは思うが、やるしかあるまい。

 

「アッハッハッハッ! マジか!! マジか爆豪!!」

 

 久しぶりの教室は、騒がしい。席に着きながら何事かと教室の入り口を見ると、切島や瀬呂が腹を抱えて笑っておる。原因は直ぐに分かった。登校して来た舎弟が、普段とは違う髪型をしておる。いつもは爆発したかのような髪型をしているのに、今朝はきっちり八二分け。なるほど、これは……。い、いかん……っ。笑うな……! いや、しかしこれは……っ。

 

「ぶふっ」

 

 無理じゃ。いや、(まこと)に無理じゃこれ。いかん、腹筋が捩れる。

 

「笑うなぶっ殺すぞ! クセついちまって直んねえんだよ!!」

「やってみな8:2坊や!! アッハッハッハッ!!」

「ぶふっ、んぐっ、がははっ! 舎弟、お主、お主……!」

 

 駄目じゃ、腹が痛い。今の舎弟は面白さが強烈過ぎる。そんな髪型でいつものように凄まれても、むしろ面白さが倍増するだけじゃ。人の外見を笑い飛ばすなど良くないことじゃが、これに関しては無理じゃっ。こやつ、まともな格好が似合わない男じゃなぁ。

 

「てめえクソチビィ!! 笑ってんじゃねぇえっ!!」

「ああ、いや、すまんすまんっ。少し面白過ぎたわっ。たまにはやるな小僧!」

「こんなんで勝っても嬉しくねえんだわ!!」

 

 いや、何と戦ってるんじゃ貴様は。儂の腹筋を倒したいと思ってるなら、それはもう貴様の勝ちじゃけど。あと、怒ると元に戻るのかその髪型。何とも不思議な奴め。

 

 ああ、笑った笑った。涙が出るわ。たまには喧しい教室も良いものじゃな。

 

「すまんすまん。で、どうじゃった職場体験は? 為になったか?」

「……ちっ。アホみてえなとこだった。行くとこ間違えたわっ!」

「間違えたって、爆豪おめーベストジーニストの所だろ? チャート四位のとこ」

「何の学びにもなんなかったんだよ! くそが!!」

 

 べすとじいにすとが誰かは知らんが、舎弟曰く今回の職場体験は何の学びにもならなかったらしい。何でじゃ。飯田のようなやらかしでもして、盛大に怒られたのか? 舎弟ならばそれも有り得るが……。

 

「切島はどこじゃった?」

「俺はフォースカインドさんのとこ! 色々学べて良かったぜ!

 廻道は、オールマイトとイレイザーだよな? どうだった?」

「ううむ……」

 

 どうだった、と聞かれてもそれはそれで返答に悩む。儂の職場体験は、何かと忙しかった。その中から学んだことと言えば警護の仕方であったり巡回警備(ぱとろおる)についてだった。後は英雄(ひいろお)の労働体制やら何やらと知識を得たが……正直これらは他の職場体験先でも学んでいることじゃと思う。

 

「てめえ、オールマイトと動き回ってたんだってな? 随分と有名になって良いご身分だなおいっ!」

「ああ、それな。ネットでバズってたよな。次の平和の象徴とか、オールマイトの一番弟子とかさ。どんな事教えて貰ったんだ?」

「……ごみ拾いの仕方、かのぅ」

「えっ」

「は?」

 

 首を傾げたくなる気持ちは、分かる。しかし実際、おおるまいとに教わった事はそう多くない。あやつの活躍ぶりや仕事の仕方は間近で見てきたが、あまり参考にはならん。数秒で事件現場に着いたと思ったら、一秒すら使わずに事件解決。そしまた次の現場へ。正直動きが速すぎて何をやってるか分からん事が殆どじゃった。後になって解説されることもあったが、どれも参考になったかと言うと微妙なところでの。

 そう考えると、しっかり教えて貰ったのはごみ拾いぐらいじゃな。

 

「ひいろおは本来、奉仕活動。地味と言われても、そこは変わってはならんそうじゃ」

「ああ、なるほど。地道な活動こそNo.1への道ってことか! くぅう、流石オールマイト!」

 

 切島は何か都合良く解釈して感動しとるが、多分違うと思うぞ。そもそもあやつ、儂を後継に選んでなどおらん。それは緑谷の方じゃ。

 ……そう考えると、儂より緑谷を迎え入れた方が良かったんじゃないか? 

 

「あやつの意図は知らん。ただ切島、舎弟。ひとつ言えるのはな」

「言えるのは?」

「儂はもう、空を飛ぶのは懲り懲りじゃ。あんなのは二度と勘弁じゃよ」

 

 もう、あやつの腕に抱えられて空を飛びたくはない。まっことそう思う。あれは命が幾つあっても足りぬ愚行じゃ。

 

 

 儂は! 二度と! 空を飛びたくないっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハイ、私が来た」

「ヌルっと入ったな……」

「パターンが無くなったのかしら?」

 

 午後。久しぶりの英雄(ひいろお)基礎学の授業が始まった。今日ぐらいは巫女装束(こすちゅうむ)を着ないで居たかったが、そうもいかんらしい。まぁこの服は、今後着続けることにはなる。儂自身がどう思っていようが、この体は女子(おなご)のそれじゃ。いい加減、女物の衣服を着ることにも慣れてきた。洋服はまだ着るのに抵抗があるが、それもその内慣れてしまうじゃろうなぁ。それに、被身子が喜ぶなら可愛い格好ぐらいしても良いと最近は思う。

 

「今回は遊びの要素を含めた救助訓練レースだ!!」

 

 で、じゃ。此処はどうなっとるんじゃ? 運動場がんま……とか言う場所らしいが、見渡してみたところ、やたら複雑に入り組んでおる。こんな所を一人で動き回ったら、迷子になる気がしてならない。まぁ良いか、別に迷子になっても。儂は困らんし。後で叱られる事だけが面倒じゃけど、迷子になってしまうのだから仕方がない。この授業中に迷子になったとしても、誰か探してくれるじゃろ。うむ、そう考えたら迷っても良いな。行く道については、何も考えずに選ぶとしよう。

 

 それに、最近散歩が出来とらんからのぅ。次の休日は被身子と散歩するのも悪くない。いっそ何処かに出掛けるか? いや、その前に外出許可を取るのが先か。

 

 ううむ……。許可が出れば良いが……。儂、まだ悪党(う゛ぃらん)連合に狙われてるからの。警護のし易さを考えて寮生活をしているわけじゃし……。やはり被身子と逢瀬(でえと)するのは、駄目そうじゃなあ。残念じゃ。そろそろ被身子が不満を爆発させそうな気がするから、何か対策しておきたいところではあるんじゃけど……。

 そう言えば、職場体験中に変な招待状が届いておったな。七月の末に、何かの催し事が何処かで行われるらしい。同伴者を付けても良いそうじゃから、被身子を連れていくか。あやつの勉強の息抜きになれば幸いじゃな。まぁこれも、外出許可が出ればの話じゃけども。

 

「―――来てくれるかの競争だ。もちろん、建物の被害は最小限にな!」

「指さすなよ」

「じゃあ、はじめの組は位置について!」

 

 はじめの組? 位置に付く? 建物の被害は最小限に?

 

「廻道、聞いていたか?」

「何をじゃ?」

「……」

 

 いかん。おおるまいとの話を全く聞いていなかった。常闇が儂を見て呆れている。貴様、その目を止めんか。何でいつもそんな目で儂を見るんじゃっ。知ってるぞ、儂をぽんこつだとおもってるんじゃろ!? 許さんっ!!

 

「……簡単に言えば、誰が一番早くオールマイトを助けに行くかの競争だ。最初の組は、モニターを見ての通り」

 

 常闇に指差された方向を見ると、随分と大きな液晶画面がある。それに映ってるのは緑谷・尾白・飯田・芦戸・瀬呂の五人。あやつ等、いつの間に移動したんじゃ? 気付かなかったわ。

 

「円花ちゃん、幾らポンコツでも先生の話はちゃんと聞かないと駄目よ」

「おい、儂はぽんこつではないが? 麗日、何か言ってやれ」

「えっ、円花ちゃんはポンコツや思う。ほら、迷子なるし」

「ぽんこつではないっ」

「戦闘以外はポンコツだよね。渡我先輩、苦労してるなぁ」

「ぽんこつではないっ!」

 

 梅雨や麗日、そして耳郎が揃いも揃ってぽんこつ扱いしてくる。解せぬ。妙に生暖かい目で儂を見るのは止めろっ。そんな人を可哀想な子みたいに思うのは止めぬか。どいつもこいつも……!

 よし貴様等、そこに直れ。儂がぽんこつではないと分からせてくれるっ。

 

「皆さん、始まりましたわよ。しっかり見学なさって! ほら、廻道さんもっ!」

「はいはーいっ。モニター見ようね、廻道ちゃん!」

「んぐっ」

 

 おいこら葉隠っ、儂の口を塞ぐなっ。首を画面の方に向けさせるなっ。儂は不躾な奴等を分からせるんじゃ。あと貴様! これはせくはらじゃぞ!? 被身子が知ったら儂が大変じゃから止めんか! おいこらっ、おいってば!!

 

「お、始まったな。誰が一位だと思う? 俺、瀬呂が一番」

「あー、うーん……でも尾白もあるぜ?」

「オイラは芦戸!」

「デクが最下位」

「怪我あっても飯田くんな気がするなぁ」

「……みおみわわお(緑谷じゃろ)

 

 誰が一番におおるまいとの所に駆け付けることが出来るのか。その予想をくらすめえと達が始めた。ので、儂は緑谷に一票投じておく。保須での事を考えると、それなりに個性が使えるようになってる筈じゃ。それに、呪力もある。あの特別な個性と呪力が合わす事を覚えれば、将来的におおるまいとと何ら変わらん動きが出来るようになるじゃろう。

 今はまだまだ未熟かもしれんが、それでもすていん相手に戦えてた筈じゃ。でないともう殺されておる。実際に戦っとるところは、見とらんけども。

 

「おおぉおっ緑谷!? なんだその動きっ!!?」

 

 画面の中の緑谷が、目的地に向かって跳ねている。壁であったり屋根であったり、水槽(たんく)何かを踏み台にして前へ前へと跳ねて回る。どうやら、多少個性が扱えるようになったらしいの。この画面越しでは呪力を使ってるかどうか分からんが、中々の速度と跳躍力で進んでいく。体の動かし方に、少し見覚えがある。誰かがこんな感じで跳ね飛んでいたことがあるような……。

 

 ああ、舎弟か。舎弟の動きを真似てるのか。悪くない。誰かの動きを模倣することは、学びになるからの。

 

 まぁ、この調子なら緑谷が一番で終わるじゃろ。ほれ見ろ、予想が的中しそうじゃ。じゃから、儂はぽんこつではないっ。

 

「あっ!」

「あ」

「あぁ……」

 

 ……。落ちおったわ、緑谷。足を滑らせて地面に落下していったわ。その隙に、他の者が次々と目的地に到着していく。

 

 み、緑谷……! 貴様……!! これでは儂がぽんこつ扱いされるではないかっ!!

 

 途中まで良い感じじゃったのに、足を滑らせるでないっ!! どいつもこいつも、そんなに儂をぽんこつ扱いしたいのか!?

 

 

 許さん、許さんぞ……緑谷出久っ!! 後で覚えてろよっ!!?

 

 

 

 

 

 

 ……それはそれとして。緑谷の活躍を見た舎弟が、とんでもない面をしておるの。つつけば爆発しそうな気配を醸し出しておる。これは後で声をかけるとしよう。放っておくと、何をしでかすか分からんからな。







変な招待状……。いったいどこの移動する島からなんだ……?


はい。という訳でやります。I・エキスポ編。なので2人の英雄は観直しましたが……全編デートであの事件には関わらせなくて良いんじゃないかなって気がしてます。ただ円花を雄英体育祭で優勝させてしまった以上、かっちゃんと切島くんが不在になるのでその分の代理をさせ……るにはトガちゃんが何も出来ないんですよね。まぁ少々展開変わるかもです。
その前に期末テスト編が先ですけど!

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。