待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
救助訓練
以後、例え授業中であろうと儂を一人で出歩かせるのは禁止と言うことになった。ついでにくらすめえと全員から怒られた。少し解せぬ。儂とて迷うつもりで歩いているわけじゃない。気が付いたら迷っとるだけじゃ。じゃから、全員してぽんこつ扱いは止せっ。
そんなこんなで、現在更衣室。もう夕方五時を過ぎてしまっているので、さっさと着替えて下校しようと言う流れになっておる。
「すっごい迷子だったね、円花ちゃん。一人で出歩いたらあかんよ?」
「ほんとだよーっ。廻道ちゃん、出掛ける時は誰かと一緒にね!」
「まさか二時間近くも見付からないなんて……。廻道さんの迷い方は不可思議ですわね……」
「なんでそんな迷子になるのかしら?」
ううむ。迷子になったのは儂。迷惑をかけたのも儂。そこは分かってるし、悪いとも思っている。思っているが、着替えながら詰め寄るのは止めてくれんか? まさか貴様等、一瞬でも目を離せば儂が迷子になるとでも思っているのか? 方向音痴なのは認めるが、そこまで酷くはないぞ。
そもそも、更衣室の中でどうやって迷子になるんじゃっ。
「迷子になったのは、儂が悪かった。でも道は繋がってるんじゃからあんなに慌てるような事でも……」
「その考えが駄目なんじゃない? 今度みんなで、迷子にならない歩き方を教えてあげようよ」
「いや、そこまでして貰う必要は……」
「賛成!! じゃあ今度、みんなで出掛けようよ、廻道ちゃんの迷子克服も兼ねて!」
……話が勝手に進んでいく。儂の意見は無視らしい。ううむ、解せぬ。まっこと解せぬ。我ながら何であんなに道に迷うのか不思議ではあるが、この扱いは納得出来ぬ……。被身子とて、もう少し優しいような気がする。いや、前言撤回じゃ。被身子の方が容赦ないのぅ。
「―――隣は――!? ――ろう!? 女子更衣――!」
着替えを進めていると、隣が喧しい。ここは女子更衣室じゃから……隣は男子更衣室か。今聞こえたのは、峰田の声か? 何やら随分騒いでおるようじゃの。着替えぐらい静かに出来んのか、あやつ。
「なんか、隣うるさいね……?」
「峰田が騒いでおる。何でかは知らんが」
「まさか……」
「覗きね」
「……そうか。隣行ってくる」
覗きか。まぁ儂は覗かれたとしても何とも思わんが、他の
と思って更衣室を出た瞬間。後ろから思いっきり引っ張られた。開いた扉は勢い良く閉められた。驚いて後ろを振り返れば、大慌てになった梅雨と麗日がおる。何でじゃ、服は着とるじゃろうがっ。何がそんなに気に食わないんじゃ貴様等っ。
「そんな格好で男子の前に出たらあかんよ!?」
「円花ちゃん、せめて前は閉じなきゃ駄目よ」
……? いや、閉じとるが。何を言っとるんじゃ貴様等。儂はこの通り制服を着て……ああ、上着か? ぶれざあを着てないから文句を言ってるのかこやつ等は。それならそうと言って欲しいのぅ。儂は母と違って、言われなければ分からんのじゃ。いや、言われても分からん事はあるが……。
ともかく、じゃ。何が悪いのか、しっかり口に出さんか。
「ちょっと待って! ボタン、ちゃんと閉じなあかんっ!」
いや、じゃから閉じてるじゃろうが。確かに腹と下着は見えているが……。そんな大騒ぎする事じゃなかろう?
「円花ちゃん。そんな格好で男子の前に立ったら、被身子ちゃんが怖いわよ?」
「……」
それは、いかん。
記憶違いでなければ、覗きは犯罪の筈じゃ。これについては、二度としないように矯正した方が良い。峰田の奴を言って聞かせるのは無理じゃと思うが。助平じゃからな、あやつ。儂を除いた
「行かなくて良いよ廻道。今、処したから」
「……そうか。なら良い」
儂が麗日や梅雨に捕まっている間に、耳郎がどうにかしたらしい。何をしたかは知らぬが、あやつの耳が壁に刺さってるのを見て、何となく理解した。さては貴様、覗き穴の向こうに耳を挿し込んだな? となると峰田の奴は目を潰されたことになるんじゃが……。
まぁ、良いか。今回は、と言うか今後も峰田に何があったとしても、それはあやつの自業自得じゃ。死ななければ文句は言わん。多少の怪我は保健室に行けば治して貰えるしの。目玉ぐらい、何とかなるじゃろうて。……なるよな?
さて。気が付けば全員の着替えも終わったことだし、教室に帰るとするか。っと、その前に……。
少し、舎弟と話すとするか。あのまま放っておくのは、良くないからのぅ。
◆
「お、小僧。少し顔貸せ」
「ああ゛っ!?」
更衣室を最初に出ると、隣の扉から舎弟が出て来た。今日はもう帰るだけじゃから、少しぐらいこやつの言い分を聞いておこうと思って声を掛けてみた。相変わらず態度が悪いのぅ。何で人に話し掛けられると、そんな威嚇するんじゃ貴様は。切島や上鳴、それと瀬呂が気遣ってくれなかったら、くらすで孤立しててもおかしくないぞ? いや、既にしてるようなものか……?
「顔を貸すのが嫌なら、教室まで話し相手になってくれ。貴様、儂には絶対服従じゃろ?」
「……ちっ!」
おいおい。盛大に舌打ちしたわ、こやつ。まっこと態度が悪い。いっそ殴ってしまった方が早い気がするが、暴力は良くないからの。飽くまで話し掛けるだけにしておこう。
歩きながら話す為に舎弟の隣に立つと、露骨に距離を取られた。顔まで逸らしおった。面倒な奴じゃな。
「何をそんなに苛立っておる? そんなに緑谷が気に食わんのか?」
機嫌が悪い理由は、知っている。さっきの授業で緑谷が見せた動きが、心底気に入らないのじゃろう。じゃからってこうも苛つくのは、変に意識し過ぎではないか?
「……てめえには関係ねえだろ。くそが」
「そうか。で、何がそこまで気に食わんのじゃ?」
「聞いてんのかてめえ。関係ねえっつってんだよ」
「……」
聞いたところで口を割りそうには無いな。仕方ない、表情から読み取るとするか。どれどれ……、ううむ。苛立ってるようにしか見えんな。少し焦っている……か? いや、分からん。人の心を読むなんて芸当は儂には出来んし。
「そもそも接触禁止だろうが」
「そんなもの、有って無いようなものじゃろ。同じくらすで、同じ授業を受けとるんじゃから」
「……」
「ああ、父には言わんぞ。母にもな」
「んなこと心配して口閉じてるわけじゃねえ。てめえが鬱陶しいから黙ってんだよっ!」
これは駄目そうじゃ。取り付く島もない。どうしたものかのぅ。いずれこやつから話してくるのを待つか? いや、自尊心の塊でしかない舎弟が素直に心中を吐露するとは思えん。強引に聞き出すとしても、逆効果になる気がしてならん。
……まったく。面倒な奴じゃな貴様は。
「てめえ何処向かって歩いてんだ! 教室はこっちだ!! 階段を上がれえ!!」
む? こっちな気がしたが……そうか。違うのか。階段は向こうにもある筈じゃから、てっきりそっちかと思ったわ。
「いい加減その方向音痴を直せ!! 方向感覚どうなってんだ!!」
今度は喧しいのぅ。この小僧、どうしてくれようか。放っておけば何かしでかすじゃろうし、かと言って構えばこの様じゃ。大人しくさせるのはもう諦めてるようなものじゃけど、もう少しその態度をじゃな……。
面倒を見ると決めた以上はそうして行くつもりじゃが、どうにも手を焼かされる。ここまで手間が掛かる子供は、儂の人生には前世含めて居なかった気がするのぅ。どれ、今度緑谷に相談してみるか。あやつは儂より小僧の扱いに慣れてるしな。うむ、そうしよう。
等と考えていると、教室に着いた。儂の席に座った被身子が机に突っ伏して寝ておる。こやつ……。いや、まぁ良い。寝かせてやりたいところじゃが、取り敢えず起こすとするか。
ほれ被身子、起きんか。どんな夢を見てるか知らんが、もう起きてくれ。その寝顔をくらすめえとに見せびらかすつもりは、儂には無いんじゃからなっ。
これ本当にまったく気が付かなかったんですけど、Twitterでファンアート描いてくださったお方が居ました。今更になりますが、この場を借りてお礼申し上げます。今朝見付けてびっくりしちゃった。素敵なイラスト、ありがとうございました!!
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