待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
ある日の放課後。儂は緑谷と共におおるまいとに呼び出された。この時点で何の用事か察することは出来るが、被身子を待たせることになることだけはよろしくない。じゃって、拗ねるんじゃもん。被身子は放課後になると儂が居る教室に突撃して、半ば儂を拐うような形で連れ去るからの。ここ最近は特に落ち着きが無いと言うか、わがままが過ぎる気がする。どうやら日々の勉強で心労が溜まっているようじゃ。息抜きはさせてる筈なんじゃけど、足りんらしい。そろそろ期末試験が近いてるからのぅ。毎日しっかり勉強している被身子でも、試験が近付くと勉強時間を増やすぐらいじゃ。中間試験の時もそうじゃった。
被身子は普通科と言っても、ここは雄英。学力特待生で居続けるには、それ相応の努力が必要になる。
仕方ない、今宵は盛大に甘やかすとしよう。これ以上頑張り過ぎてしまう前に、一度勉強から引き剥がそう。また被身子が倒れるなんて事態が起きるのは、勘弁じゃからな。
よし。夜にすることは決めた。
「掛けたまえ」
緑谷と共に仮眠室に入ると、そふぁに腰掛けたおおるまいとがそう言った。萎んでおる上に、様子が真剣そのもの。普段の雰囲気とはまるで違う。これは話が長くなりそうじゃ。儂としては直ぐに済ませて欲しいところなんじゃが、仕方ないか。
おおるまいとの雰囲気に気圧された緑谷の背中を軽く押し、儂等は用意された椅子に腰掛ける。それにしても、今日は随分と真剣な顔をしているな。
「君達に話さなきゃいけない事がある。保須での一件についてだ」
「あ、はい。ステインの事ですか?」
「それもある。けどまずは、脳無と言うヴィランについて話そう」
脳無……。ああ、あの脳みそおっぴろげた悪党のことか。おおるまいとが苦戦する戦力を持っていたあやつじゃな。確かにあやつについては気になることがある。すていんの事はどうでも良いが、脳無については儂も知っておいた方が良いじゃろう。今後、あれと同じ系統の悪党が出てこないとは言えんからの。
「まず、脳無は呪力を持っていた。どのようにして呪力を扱えるようにしたかは分からないが、可能性としては脳かもしれない」
「……呪力と脳にどんな関係が有るのかは、儂も知らん。何か分かったのか?」
「脳そのものを弄り回された形跡があるってお医者さんは言ってたよ。詳しい事はもしかしたら君が知ってると思ったが、そうか。知らないか……」
つまり、脳無は脳みそを弄り回された結果として呪力を得たと? 気色悪い話じゃなそれは。そうまでして人に呪力を与えたい奴が居ると言うことか。ろくでもないのぅ。そもそも、脳を弄り回されて無事で居られるのか? あんな風に暴れ回っていたなら、少なくとも生きてはいるようじゃが……。
「何でも知ってるわけじゃない。そう言えばお主、あれをどうやって倒した?」
「ああ、ショック吸収の個性だったからね。吸収しきれなくなるまで、叩き続けて吹っ飛ばした」
……脳が筋肉で出来てるのか貴様。筋肉阿呆じゃとは思っていたが、そこまでだとは思わなかった。流石に引くわ。なんじゃこやつ。
「それと、途中で脳無の呪力が切れてくれたのも大きい。もしかすると、長時間呪力を使えないのかもしれない」
「脳を弄ることで無理矢理呪力得てる、と言うことか?」
「可能性はある。脳無については今もセントラルが調べてる最中でね。
取り敢えず分かった事は脳の構造が常人とは違うと言うこと。脳を弄られた形跡が残っていると言うこと、個性を複数持ち合わせていること。この三つだけさ」
「……それは、凄い話……ですね」
そうじゃな。緑谷の言った通り、凄い話じゃ。とんでもない話と言い換えても良い。つまり
どうにも胸糞悪い話じゃな。知らずに居られたならその方が良かったとは思う。まぁ儂や緑谷の場合、知る以外に選択肢は無い。現状
「それで廻道少女に相談したいんだけど、緑谷少年の呪力操作をなるべく早く万全なものにしたい。
「……それは、緑谷を呪術師に育てろと言うことか?」
確かに、緑谷に呪術師として成長して貰った方が
「いいや。脳無や呪霊が襲ってきた時の為に、緑谷少年にも戦う術が要る。特に呪霊は、呪力でしか倒せないんだろう?
緑谷少年が自衛出来るようにしておきたい」
「……引き続き基本的な呪力操作と、新たに呪霊との戦い方は教えておく。自衛出来るようにな」
緑谷は誰かに何かあれば後先考えずに飛び出してしまう質じゃ。保須の時もそうじゃったし、体育祭でも轟に何度も語り掛けていた。誰かが呪霊に襲われるなんて事態が起きたら、緑谷は動いてしまうじゃろう。そんな事態を想定したら、教えておくしかない。
まぁ、何だかんだで緑谷は儂の弟子じゃからの。そう決めている。一度面倒を見ると決めた以上は、しっかり育て上げねばな。呪術師にするつもりは無いが、せめて呪霊との戦い方はしっかり教えておく。いつぞやに考えた、呪眼作成の手伝いをやらせる時が来たらしい。
「分かりました。呪力操作の訓練、今まで以上に頑張ります」
「おおるまいと。話は以上か?」
「いや……まだある」
……まだ有るのか。やはり話は長くなるようじゃ。仕方ないのぅ、最後まで聞いてやるとするか。被身子を甘やかす時間が減ってしまうことだけが気掛かりじゃけどな。
ああ、不服じゃ。何が不服って、ここ最近は何をするにしても被身子が頭の片隅に居るような気がする。ううむ、少し頭から出ていってくれんかのぅ。まったく、あやつめ。よい、許してやる。貴様に恋した儂の敗けじゃし。
「ワン・フォー・オールについて。改めて一から話したい。少し長くなるけど、良いかな?」
おおるまいとと、緑谷の個性の事か。確か譲渡することが出来る、力を貯め込む個性じゃったな。その個性が呪力すらも貯め込んで居たから、こやつ等は呪力を得た。改めて考えても、わん・ふぉお・おおるは特別な個性じゃ。そんな個性について一から語ると言うことは、何か不都合な事でもあったのか? 或いは今更になって、留意点でも出て来たか?
「知っての通り、特別な個性なのさ。そう、その成り立ちもね」
長い話が始まろうとしている。黙って聞くしかない、か。
◆
ろくでもない話を聞かされた。超常黎明期に存在した悪党に、わん・ふぉお・おおるの成り立ち。脳無に
おおる・ふぉお・わん……とか言ったな。そんな巨悪と緑谷はいずれ戦わなければならない。儂はその巨悪に狙われている。可能性がある。
まっこと、面倒じゃ。何があっても良いように備えておいた方が良いな。何かあってからでは遅い。何かが起こってしまう前に、少しでも良いから対策を講じなければ。
「頑張ります……!! オールマイトの頼み、何が何でも答えます!」
少なくとも、緑谷は
「貴方が居てくれれば僕は何でも出来る。出来そうな感じですから……!!」
「―――!」
緑谷の意気込みに、おおるまいとが絶句した。何かを言おうと口を開き、何も言わずに口を閉じる。どころか目蓋まで閉じおった。
「……ありがとう。話は以上だ、放課後に悪かったね」
「いえ! 話を聞けて良かったです!」
「緑谷、明日の放課後から本格的に訓練を始める。そのつもりで居ろ」
「分かった、よろしくね廻道さん! じゃあ、また明日!」
「うむ。また明日の」
ひとまず、話は終わり。緑谷は決意を新たに仮眠室を出て行った。さて、儂も帰るとするか。おおるまいとの話は分かった。これから、何かと忙しくなりそうじゃ。緑谷にどう呪力操作を教えていくか、考えなければならん。
日々の授業に、期末試験の為の勉強。呪眼作成、緑谷への指導や舎弟の教育。被身子と戯れる時間。
……ああ、忙しいのぅ。時間が足りない。とにかく時間が足りん。が、やるしかない。まずは……。
被身子を甘やかす。今日はもう、それ以外に何かするつもりは無いんじゃ。誰にも何にも、邪魔される謂れはないっ。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ