待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
夜。食事を済ませ、風呂も済ませた。寝間着も着た。じゃから今日はもう、他にやって置かねばならぬ事は何も無い。なので儂は、居間のそふぁで勉強を始めようとした被身子の膝上に腰掛ける。そのついでに、目の前の机に広げられた教科書やら筆記帳を勝手に閉じておく。
「円花ちゃん?」
「今宵は勉強は無しじゃ。良いな?」
「えっ」
「無しったら無しじゃ」
「……もぅ。急にどうしたの?」
「何でも良かろう? 勉強は無し。ほれ、のんびりするぞ」
我ながら急過ぎるとは思う。現に儂に膝上を占拠された被身子は、少し困惑しているしな。が、譲るつもりはない。今日はこやつに勉強させないと、勝手に決めてあるんじゃからな。
被身子が勉強を頑張っているのは、儂が誰より知っている。勉強はこやつがやらねばならぬ事。特待生で居続ける為には、怠けるわけにはいかない。それは重々承知しているし、邪魔をしたくは無い。じゃけど、たまには息抜きさせてやりたい。
……別に、被身子は自身の体調を管理出来ないような阿呆ではない。勉強に疲れたら息抜きしてるし、その辺りの調整はしっかりしているように見える。じゃから白状すると、本当は儂が構って欲しいだけじゃ。
体を預けると、後ろから抱き締められた。被身子は儂の肩に顔を埋めて、何も言わん。匂いを嗅がれてるような気がして、くすぐったい。顔が熱くなって来た。まぁ良い、好きにしろ。多少のせくはらは許そう。行き過ぎた行為は……今宵は、しても……。
「……どうしたの? 珍しいのです」
「いや、別に。そんな日もあるってだけじゃ」
「んふふっ。今日の円花ちゃん、甘えんぼですね」
いや、甘えてるつもりはないが。むしろ甘やかしてるつもりじゃが? なんじゃお主。変な事を口走りおって。勉強に疲れてるのか? なら、隠さずにそう言わんか。仕方ない奴じゃなぁ。ほれほれ、頭でも撫でてやろう。
「ん……っ。ふふ、なぁに?」
「別に、何でもないが?」
「そう? 何か、今日の円花ちゃんは素直な気がします」
「いや、じゃから何でもないが?」
頭を撫でるだけで人を素直だの何だの……。まったく、何を考えてるんじゃか。被身子の思考は、時折分からん。普段から自由奔放じゃしな。理解する方が難しいのは事実じゃが、今日は特に分からん。とでも思わんと、やってやれん。こやつを甘やかすなんて別に難しい事でも何でもない。これまでだってそうして来たつもりじゃ。
じゃけど。何か今日は……と言うか今宵は、こう……。こう、な?
いかん。顔が熱い。何で被身子を甘やかすだけで、こんなにも熱くなるんじゃ。何なら顔だけじゃなく、体すら熱くなっている気さえしてくる。
「もしかして、構って欲しいの?」
「……っ」
べ、別に。違うが? そんなんじゃないが? 構って欲しいのではなく、構うつもりなんじゃが?
「んふふっ。お布団、行きます?」
ろくでもない事を囁くな貴様。この体勢じゃ顔は見えぬが、悪どい顔をしたじゃろ。分かるんじゃからな。まぁ最後は布団に入るが、今は違うんじゃ。おいこら、腹を撫でるな。帯を緩めるなっ。今は、そうじゃないっ!
「行かんっ」
一度、無理矢理立ち上がることで被身子の魔の手から逃れる。危ないところじゃった。このまま流されたら、布団一直線になるところじゃった。お陰で寝間着が乱れてしまったから、直しておく。でないと、何をされるか分からん。いかんな、被身子の好きにさせてると何も出来ぬ。いつものように抱かれてしまう。そうじゃないんじゃ、今宵は違うんじゃっ。
「……良いか被身子。儂が良しと言うまで、何もするなよ」
「それは難しいのです」
「……」
即答するな、たわけ。我慢が出来ぬ奴じゃとは思っているが、たまには我慢してくれ。お主が好き勝手にしてしまうと、もう儂は何かをするどころでは無くなってしまう。されるがままになってしまうんじゃ。そしてそれは、今は望むところではない。
乱れた寝間着を直し終えたので、振り返る。直ぐ、そふぁに座ったままの被身子が見えた。視線が合う。欲しがりな目をしていると言うか、何故かもうすっかりその気じゃなこやつ……。つい期待してしまうが、まだ抑えておく。お楽しみは、もう少し後じゃ。
「今日は儂が好き勝手にするんじゃ。貴様は、されるがままになっておれ」
「あ、もしかしてトガを抱きたいんですか?」
「阿呆。そうではない」
まぁ抱き締める、と言う意味ではその発言は正しいの。夜の営みという意味で言ってるなら、今回は間違いじゃ。
今度は、体を向かい合わせる形で被身子の膝上に腰を降ろす。こやつの首に腕を回して、隙間無く身を寄せる。それから頭を撫で回す。まだ風呂から上がってそんなに時間は経ってないので、髪は少し湿ったまま。洗髪剤の匂いがする。儂もそうなんじゃろうな。同じものを使っているわけじゃし。
「ちゃんと、休んでるか?」
「えっ」
「頑張り過ぎてないか?」
「もぅ……。息抜きはちゃんとしてますよぉ」
「
被身子の言葉を信じられないわけじゃない。実際こやつは、ちゃんと息抜きをしている。元々我慢が出来ぬ奴じゃから、休みたいと思ったら直ぐにでも休んでいる。けども、一度過労で倒れた事があるからのぅ。疲れてる素振りを見せていなくても、実は疲れているんじゃないかと疑ってしまう。特に儂が職場体験している時は、連れ回してしまったしの。
「大丈夫なのです。勉強も家事も、好きでやってることですから」
「……なら、良いんじゃけど……」
「でもぉ、とっても不満に思ってることがあります」
「それは何じゃ?」
「寮生活が始まってから、デートしてません」
……。それは、そうじゃけど。でも、仕方がないところがある。儂が
じゃけど、被身子の気持ちは分かる。儂だって、たまにはこやつと二人きりで出掛けたい。寮の中では身を寄せ合うことぐらいしか出来んわけで。外出許可、下りるかのぅ。今度相澤先生に掛け合ってみるか。良い顔はされんじゃろうけどな。
「で、考えたんですけど。期末テストが終わったら、I・アイランドに行きませんか?」
「あい・あいらんど?」
「この間、招待状が来てたじゃないですか。ちょっと調べたんですけど、あそこなら多分外出許可が下りると思うのです」
「……じゃあ、行くか?」
「はいっ!」
んぐっ。急に抱き締めるな。そんなに思いっきり抱き締められると、息苦しいじゃろ。嬉しいのは分かったから、少しでも落ち着け。と言うか貴様、何もするなと儂は言って……。
「ん……っ」
噛むな。首を甘。おい、そふぁに押し倒すな。慣れた手付きで脱がしにかかるな。寝間着をはだけさせるんじゃないっ。くそ、貴様っ。今宵は儂が甘やかす番じゃぞ! 大人しくせんか!
「んんっ」
どこに手を入れてるんじゃっ。止せっ、撫で回すな! それは後でじゃ、少し我慢と言うものを……!
「こら、被身子……っ」
「今日は、ここでしましょうか。円花ちゃんだって、したいですよね?」
「後でじゃ、後でっ! 少しは我慢出来んのかっ!?」
「無理ですよぉ。そもそもトガを我慢させたいなら、そんな簡単にくっ付いちゃ駄目なのです」
っ、き、貴様……っ! 儂が甘やかそうとしているのに、何で直ぐそうやって……! 許さん、今日と言う今日は分からせて……!
「そんな顔で睨んでも、逆効果ですよ? 襲ってくださいって言ってるようなものなのです」
「言っとらんっ。貴様、いい加減に……!」
「好きって言ってくれたら、止めても良いですよ?」
「……っ!」
「言わないなら、このまましちゃいます」
「言ってもどうせするじゃろうがっ」
「あ、バレました?」
この……っ。何を楽しそうにしとるんじゃ貴様っ。そんなに儂を弄ぶのが楽しいか!? いつもいつも調子に乗りおって!
甘やかそうとして襲われる円花の図。さーて次回は期末テストですかねー。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ