待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
期末試験が近付いてきた。夏休みには合宿が有るそうなんじゃけど、試験結果が悪い者は学校に残って補習地獄を味わう羽目になる。相澤先生にそう通達された。で、この合宿。被身子が同行することになっている。理由はふたつ。警護の都合上そうした方が良いってだけのことじゃ。儂と被身子を別々に警護するよりも、まとめて警護してしまった方が警護する側としては楽じゃからな。
もうひとつは、おおるまいとの活動時間が減った。実は保須での一件が、かなり堪えていたらしい。お陰で被身子の警護を今まで通り続けることが出来なくなってしまった。
そんな訳で、儂は期末試験を頑張るしかなくなった。じゃって、被身子が楽しみにしてるんじゃ。学校行事とは言え、儂と外に出掛けられることが余程嬉しいみたいでの。儂が補習地獄になってしまうと、被身子も合宿に同行出来なくなる。
ううむ……。困った。実技はともかく座学に自信が無い。特に英語。中間試験では壊滅的な結果じゃった。赤点こそ取らなかったものの、くらすめえと達の点数と比べたら低すぎた。
儂、英語、分からん。まったく分からん。あいきゃんのっと……なんじゃっけ?
もう英語なんかより、日本語を試験してくれ。常闇に教えて貰おうかと思ったが、あやつは中間試験の結果が良くなかった。くらすでの順位は、下から数えた方が早い。まぁ儂も似たようなものじゃったが……。雄英、試験内容が難し過ぎやしないか? もう少し手心と言うものをじゃな……。いや、勉強不足は儂の不徳じゃけども……。ううむ……。
試験当日まで、一週間を切っている。今回の試験で散々な結果を出すわけにはいかん。しかし儂一人でどうにか出来る気がしない。なのでもう、不本意ではあるが被身子に頼るしかない。こやつの勉強を邪魔したくはないんじゃけど……背に腹は変えられんと言うか、何と言うか……。
……、被身子! 儂を助けろ! あとついでに常闇も!
「じゃあ、円花ちゃんは英語を重点的にやりましょうか。常闇くんは全科目頑張りましょう」
「よ、よろしくお願いします。渡我先輩……」
放課後。寮の居間で被身子が冷たい笑みを浮かべた。儂の隣に座る常闇に向かってじゃ。むやみやたらに威圧するのは止めんか。常闇が冷や汗かいてるぞ。そんなにこやつを寮に招いたことが気に食わんのか……?
それはそれとして、被身子よ。その格好は何じゃ? 何でまた母の
「実は前々から期末テストの予想を作っておいたので、解いてください。現状どこまで授業を理解出来てるのか、確認したいのです」
そう言って被身子が渡して来たのは、手製の問題用紙と回答用紙。全部で七枚。一枚ずつ内容を見ていくと、全科目分ある上に期末てすと予想問題と書いてある。つまりこれから、模擬試験を受けろと言うことじゃな?
ところで、何で
「ちなみに、今日はトガの事を先生って呼んでも良いですよ? 勉強駄目駄目な円花ちゃんには、たぁっぷり教えてあげますから。常闇くんはついでです」
「……」
いかん。背筋に冷たいものを感じた。と言うかじゃな被身子。学力特待生のお主と比べたら、勉強出来ない奴の方が儂は多いと思うんじゃけど? 中間試験で散々な結果を残したとは儂じゃけども。どうも最近、勉強をする余裕がない。そんな時間が無い。しかし学業は学生の本分じゃから、怠けるわけにはいかんのぅ。いやしかし、その為に被身子の相手をしないのはどうなんじゃ?
……とにかく。せっかく模擬試験を作って貰ったんじゃ。やるだけやってみよう。自信の程は、欠片も無いがな。
◆
「常闇くんは応用で躓いてるみたいですねぇ。あと、選択問題が分からないからって鉛筆を転がすのは止めましょう。
円花ちゃんはケアレスミスが多いのです。テストでもポンコツを発揮しなくて良いんですよ?」
「選択とは自らの運命」
「あ、カッコつけるところじゃないです。今そういうのいいんで」
「はい……」
模擬試験の結果は、よろしくなかった。採点を進める度、被身子の眉間に皺が寄る程度にはよろしくなかった。試験でもぽんこつ扱いされるのは解せぬが、生憎今の儂に発言権は無い。常闇、お主も黙っといた方が良いぞ。被身子を怒らせるのは、今は得策ではないんじゃ。
「円花ちゃんは見直しをちゃんとしましょう。分かりました?」
「う、うむ。そうする」
「……二人とも応用で躓いてるようなので、その辺りを重点的にやりましょうか。と言うわけで、常闇くんはこちらのノートを使って自宅で勉強してください。今日はもうこんな時間ですし」
全科目分の模擬試験をやっていたからか、普段なら夕飯を食べている時間になっておる。儂と被身子は寮住まいじゃから問題無いが、常闇はそうじゃないからのぅ。これから帰宅することを考えると、これ以上遅くなってしまうのはいかん。それは分かっておる。分かっておるんじゃけど……。もう少し勉強していったらどうじゃ?
いや、実はさっきから嫌な予感がしての……。常闇に帰って欲しくないんじゃ……。
「ありがとうございます。渡我先輩」
「期末テストの結果が悪かったら刺しますから、そのつもりで」
「……期待に応えられるよう、努力します……」
あ、駄目じゃなこれ。常闇、もう少し粘らんか。言われるがままに帰ろうとするんじゃない。こら待て、筆記帳を鞄に仕舞って立ち上がるな。真っ直ぐ玄関に向かうな。おい、おいってば。
「今日はありがとうございました。また明日、よろしくお願いします」
「はい。気を付けて帰ってくださいね」
「じゃあ廻道、また教室で」
「……う、うむ……。またの常闇……」
ああ……。帰ってしまった。寮から出ていってしまった。常闇が去るなり、被身子は玄関の鍵を静かに掛けた。そして猛然と儂の方に向き直ると、悪どい笑みを浮かべて迫ってきた。いかん、これはいかんぞ。に、逃げねばっ!
「何処に行くんですかぁ?」
踵を返すと、一歩踏み出す間も無く後ろから抱き締められた。玄関から居間に向かって逃げようとしてみたが、やはり駄目か……。
被身子の顔は見えんが……声で分かる。今の被身子は結構機嫌が悪い。やはり常闇を連れて来たのは間違いじゃった。
「逃げちゃ駄目ですよ? 円花ちゃんにはこれから、色々たっぷり教えてあげますから」
「勉強を、じゃよな……?」
冷や汗が、冷や汗が止まらん。誰か何とかしてくれ。勉強をすることは良い。それは構わんし、頑張るつもりじゃ。期末試験まで、時間も無いからの。勉強を教えてくれるのは大歓迎じゃ。
しかしそれだけなら、ただ勉強を教えてくれるだけなら、こうも嫌な予感はしない筈じゃ。
おい被身子、貴様さっきから何を考えている? 絶対ろくでもない事を考えとるじゃろっ!
「もちろん、勉強ですよぉ。保健体育の」
何て? 今、何と言った?
おい、引っ張るな。貴様、何で寝室に向かっとるんじゃ!!
鏡の前で丁寧に丁寧に何処が弱いか教え込まれる円花の話は、いつか書きたいと思います。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ