待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
まだじゃ、まだ楽しみたい! まだ、満ち足りない!!
試験だとか、協力だとか、儂にはどうでも良い。こんな楽しい時間を、逃すなんて真似は出来ぬっ。ああ、楽しいのぅ! 嬉しいのぅ! 思う存分呪い合えることが、なんと心地好いことか!
「まったく! 君は、目的と手段を履き違えていないか!?」
殴り合いの最中。おおるまいとが呆れたように笑う。こやつの動きは、簡単には捉えられん。速過ぎる。が、幸いなのは呪力の流れが分かり易いと言うこと。直前にどう動くかは、呪力が教えてくれる。赫鱗躍動で動体視力を限界まで引き上げたことで、もうおおるまいとの動きを見逃すことは無い。
意図の隠されていない右の拳を皮一枚で避け、顔の横を通り抜けた腕に血の網を絡ませる。同時に、腹へ拳を叩き込む。もう何度殴ったか分からん。手応えはあるのに、まるで効いとらんっ。
挙げ句、当たり前のように赤縛を引き千切ってまで見せる。
化け物め! じゃからこそ、挑む価値がある!
「君の実力は大したもんさ。けどね!」
繰り出されるは、左右の拳。一度や二度で止まらず、何度も何度も繰り返される。
どれかひとつでも当たれば、無事では済まない攻撃。そのひとつひとつを紙一重で避け続けるのは、そう難しくない。呪力の流れが分かり易いからの。が、しかし。いつまでも避け続けることは出来んじゃろう。儂の体力が尽きればそこで終いじゃ。のんびり避けて回っていられる時間は、そんなに長くない。
こやつが見せる威圧感は、生半可なものじゃないからのっ。
「ふーーっ、ふーーっ」
楽しい。嬉しい。心が溶ける。理性が潰える。この先、これだけの猛者と何度呪い合えるのか。下手をすれば、二度と無いかも知れぬ。もう二度と、こんな風には楽しめないのかも。
このままずっと、この喜びが永遠に続いて欲しい。他の何を忘れたって良い。他の誰を失くしたって、構わん。儂は、儂は……っ!
「一人で私に勝とうなんて、甘いんじゃないかな?」
振りかぶった拳が迫る。それも寸前で避け、もう一度血の網を張り巡らせる。今度は腕だけではない。全身にじゃ。
その時。
「一人じゃねえ! ナメんな!!」
この楽しい時間に、小僧が割り込んで来た。
「は?」
おい、貴様……! ふざけるなよっ! 儂の楽しみを奪う気か!? そもそも、貴様じゃおおるまいとの相手など出来んじゃろうが!!
「くたばれぇえ!!」
大きな爆発が、一瞬足止めされたおおるまいとに直撃した。が、無駄じゃ。直ぐ動いてくる。この筋肉阿呆に、そんな程度の攻撃が通るものか。
そもそも! 何勝手に割り込んどるんじゃ貴様は!! 許さん……! 許さんぞ……!!
「邪魔じゃ小僧! 下がっとれ!!」
「ああ゛!? 援護しろっつったのはてめえだろクソチビィ!!」
「喧しい! いいから下がれ!!」
ふざけおって……! もう援護など要らん! 今のおおるまいと相手に、それは自殺行為でしかないじゃろっ。死ぬ気か!? 助け……てはやるが!!
「ぐっ!!」
おい! 簡単に顔面を掴まれるな! まったく、世話が焼ける……!
「赤縛!」
おおるまいとが動かぬように、何重にも縛り上げる。手足や胴体、首もじゃっ。こんな事をしたって、こやつなら数秒も掛けずに抜け出して来るじゃろう。現に今も、硬化した血を力で砕き外そうとしておる。簡単に抜け出そうとしおって! そうでなくてはつまらんがな!
おおるまいとが抜け出すまで、そう時間は無い。圧縮は間違いなく足りんが、小僧の顔面を掴む右手に穿血を放つ準備をする。ひとまず、小僧を助けることを優先する。腹立たしいが、お楽しみは一旦お預けじゃ。くそっ。
「穿血っ!」
放つ。狙いは腕。圧縮が足りないから、貫くことは出来ん。それでも多少傷付けることは出来る筈じゃ。血星磊が突き刺さったんじゃからの。傷のひとつぐらい付いてくれなければ、困る。
穿血を放つと同時、小僧が暴れ出した。顔面を掴まれたまま爆破を繰り返すとはのぅ。それが足掻きになるかは知らんが、何もしないよりは遥かに良い。
「あだっ、あだだだっ!?」
爆破と穿血を受けてその程度で済ませるな、たわけ! 貴様の耐久力はどうなっとるんじゃっ。何でもかんでも筋肉で解決しおって! 許すがな! 強ければ何だって構わぬ!
「マジで私を倒す……気しかないようだなっ!」
爆破と穿血を受けながら、それでも怯むことない筋肉阿呆が、小僧を思いっきり地面に叩き付けた。鈍い音がした。骨の一本や二本は折れたかもしれん。すまん、それは半分儂が悪い。
儂はともかく、小僧や緑谷に今のおおるまいとは荷が重い。
「緑谷! 小僧を抱えて下がれ!」
当たり前じゃが、今のおおるまいとは不自由無く動ける。どうやら加減はしているようじゃが、それでも儂以外の二人を叩きのめすなんて造作も無い。それに儂とて、対応をひとつ間違えればどうなるか分かったものじゃない。それを楽しく思うのは事実じゃけどなっ。
再びおおるまいとの懐に潜り込み、拳を握る。赫鱗躍動に呪力を合わせても、こやつには通じない。じゃから、今度はそこにもうひとつ足す。血が詰まったなら、その時はその時じゃ!
「どっ、こいせえっ!!」
右拳の血液を凝固させ、全力で殴る。手応えは……。
「むぐ……っ!?」
有り、じゃ! ここまでして、ようやく打撃が通ったっ。やっと怯んだな、この筋肉阿呆!
血が詰まる危険を冒し、反撃を考慮する事なく殴らねば満足に打撃が通らぬとは、いい加減にしろよっ。構わん、許してやる! 初めて隙らしい隙を見せたな!?
血液凝固で硬化した拳は有効と見て良い。ならば、今度は左の拳でも同じ事をしてくれるっ!
「ひひっ」
楽しい! 楽しいのぅ! もっとじゃ! まだやれるじゃろう!? まだ足りん! もっともっと、儂を楽しませてくれ!!
「そこまでに……しておこうか! 廻道少女!!」
また、拳が迫る。人の命など容易く奪えるその一撃を、首を傾け紙一重で避ける。風切り音がとんでもない。どころか、その風圧で鼓膜が破けた。構わん、片耳が聞こえなくとも良いっ。そんな事より、こやつを殴り続ける事の方が大事じゃ!
硬化させた左右の拳で、ひたすら殴り続ける。何度も、何度でもっ。
「けひっ」
ああ、笑ってしまう。抑えられない。まだ満たされないっ。全然足りないんじゃ!
もっと、もっと! もっともっともっと、もっと!!
楽し過ぎて、息が上がる。気が付けば、手足が重い。それでもまだ、殴る手は止めん! 止めてはならないっ。おおるまいとが倒れるその時まで、休むつもりもないっ!
「たの、しい、のぅ……っ!」
もう、息が続かない。呼吸をしろと体が訴えている。視界の端で、緑谷が小僧を抱えて走ったような気がする。片方しか聞こえない耳に、何か騒がしい声が聞こえた。何を言ってるかは知らん。
「ほんと! いい、加減に……! しようなっ!!」
今度は拳ではなく、手のひらが迫る。避けようと思ったが、重くなった手足では上手く避けれなかった。じゃから、肩を掴まれてしまった。
その次の瞬間。また儂の体は振り回された。動体視力が上げたままじゃから、今度は目に映るもの全てがしっかりと見れる。おおるまいとは二回、三回と高速でその場で回り……。
「逃げたい君達には、こいつをプレゼントだ!!」
儂を、思いっきり投げた。小さくて軽い体は何処かに向かって直進し、やがて何かにぶつかる。その衝撃が背中から胸まで突き抜けて、一瞬息が止まる。その直後、後ろから悲鳴が聞こえた。怒鳴り声もじゃ。どうやら、儂が投げられた先には緑谷と小僧が居たらしい。人を軽々と遠くまで投げおって!
術式を解き、
「げほっ! かっちゃん、廻道さんっ! 大丈夫っ!?」
「なに軽々と投げ飛ばされてんだクソチビィ! つーか避けろやクソナード!!」
喧しいっ。鼓膜を治したのは間違いじゃった!
「貴様等はさっさと脱出しろっ。あの化け物は儂が止めといてやる!」
「一人じゃ無茶だよ! それに、逃げられるとも思えない! 本気のオールマイトだよ!?」
「やる気ねえなら一人で逃げてろ! てめえの力なんて要らねえんだよクソが!!」
「ああもう、勝手にしてろ貴様等! 口を開けば喧嘩ばかりしおって!!」
もう知らんっ! こんな奴等は放っておく! それよりもおおるまいとじゃっ。儂を二度も投げ飛ばしたあの筋肉阿呆は何処じゃ!?
「君達、そろそろ協力したらどうなんだ?」
しまった。血を詰まらせぬ為に術式を解いたのは間違いじゃった。
儂の意識は、ここで途切れた。
赫鱗躍動・載+呪力強化+血液凝固でようやく打撃が有効になる呪力強化オールマイトVS重り無し呪力強化オールマイトの打撃を見切る円花。に割り込むかっちゃんと逃げたい緑谷くん。もう滅茶苦茶って感じです。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ