待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
まさか同じ服をもう一着用意されているとは思わなかった。水浴びを終えた儂は、また赤いしゃつわんぴを着て被身子と共に
儂に変身している被身子は、すっかり浮かれてしまっている。笑顔を浮かべっぱなしで、落ち着くことなどまるで知らん。変身して
それにしても。ううむ……。今の被身子は儂そのものじゃ。姿形や声まで再現されるのは知っておったが、口調まで真似られると自分が二人居るような気がして何とも妙な感覚がある。個性とは何でも有りな力じゃと知っていても、寸分違わず儂に化けられるのは不思議な感じでのぅ。
「何処か行きたいところは有るか? 色々調べては置いたが……最初は散歩が良いかのぅ?」
「そうじゃな。散歩にしよう」
「儂から離れるなよ? 方向音痴なんじゃから」
「こんなにくっ付いてて、どうやって離れるんじゃ」
こうして会話をすると、まるで自問自答をしているかのような気分にさえなってくる。しかし見た目は儂でも、やはり中身は被身子なんじゃと思わされる部分があるのも事実。どんなに姿形が同じじゃろうと、声や口調が一緒じゃろうと、その向こう側に被身子が居る。特に表情なんかは、儂のものではない。と、思う。こんな風に笑うのは被身子だけじゃし、その笑顔が好きなのも儂だけじゃ。そこは誰に譲るつもりもない。
さて。せっかくの
見知らぬ街中を、宛もなく歩くのは楽しい。今は被身子も居るから迷子になることもない。何なら、二人して迷子になっても良いかもしれん。
……なんて阿呆な事を考えてしまう辺り、やはり儂も浮かれているようじゃ。これでは被身子と大差無い気がする。まぁ別に、今日明日ぐらいは羽目を外したって良いじゃろ。
「そう言えば、腹は空いとるか?」
腹? ……ああ。言われて気付いた。飛行機から降りたのが昼頃で、その後直ぐに
うむ、食べていないことに気付くと腹が減ってきた。何か胃に入れておかねば、夜まで持たぬ気がする。
「……昼食はまだじゃったな。少し遅いが、何か食べるか?」
と言うか、この辺りに飲食店はあるのか? どうせなら被身子の手料理が食べたいところじゃけど、今回の
「店に入るのも良いが……どうせなら食べ歩きの方が良いのぅ。あそこの店とかどうじゃ?」
そう言って被身子が指差したのは、少し離れた交差点の角にある店。……なんじゃあれ? 店頭に掲げられた看板は英語で書いてあるから、何の店かも分からん。店内の様子を眺めてみると……。
……? いや、分からん。何の店じゃあれ。
「ふぁすとふうどじゃよ。ほら、まっくみたいな」
「ああ、はんばぁがあの店か」
「この店はさんどいっちじゃけどな。何が食べたい?」
「それは店に入らんと決められんじゃろ」
「それもそうじゃな。お主好みの品が有ると良いが……」
有るかのぅ。いや、結局何を食べたところで物足りなく思うのが関の山じゃと思うが。どうせどこで何を食べても、被身子の手料理には敵わん。この際、腹を満たせれば何でも良い。
まぁとにかく、店に入ってみるとするか。注文は被身子に任せるとしよう。どうせ儂、
被身子に手を引かれて交差点を渡り、緑の看板が掲げられた店に入る。どうやらそれなりに繁盛しているようで、客が多い。誰も彼もが
「日本人か? 珍しいね。嬢ちゃん達みたいなお客さんは」
店に入ると、
「っと、片方は英語が話せなさそうな顔してるな。ちょっと待ってな……ああ、これこれ。ほら、ご注文をどうぞ」
店主なのか店員なのか。どちらかは分からんが、とにかく
あと、英語が話せなさそうな顔ってなんじゃっ。確かに英語は分からんが!
「I・アイランドには観光に?」
「いや、れせぷしょん・ぱぁてぃいとやらに招待されたんじゃ。時間があるから、こやつとでえとしようと思ってのぅ」
「レセプション・パーティーに? そりゃ驚いたね。
パーティーの時間までのんびり観光でもしていったら良いさ。と言ってもこの辺はオフィス街だから、デートには向かないね」
儂を差し置いて被身子と爺さんが会話を弾ませている。ので、この間に何を食べるか決めようと思う。
「デートするなら、そこの通りから別ブロックに行った方が良い。で、ご注文は?」
「相分かった。注文は……五番をふたつ。食べながら歩くから、強めに潰してくれると助かる」
「お、五番を強めに潰して持ち帰り? そんな注文する奴は珍しいね。ちょっと待ってな」
なるほど……。内容が読めなくても、番号を言えば良かったのか。ところでどんなさんどいっちなのか、まったく分からないんじゃけど? まぁ被身子が選んだのなら、間違いにはならんか。どうせ何を頼んだところで物足りなく思うのは変わらないんじゃろうし。それならば被身子に任せた方が、まだ満足出来るかもしれん。
我ながら単純だとは思うが、被身子が選んでくれたなら無条件で美味しいと思える筈じゃ。……多分。
「お主、すっかり偏食に育ったのぅ。やっぱり外食は嫌いか?」
「別に。被身子の手料理に勝る飯を知らんだけじゃ」
「母のは?」
「母のは別枠じゃ。お袋の味はそう言うものじゃろ?」
「……ううむ。まだ勝てそうにないか……」
いや、別に勝とうとしなくても良いじゃろうが。儂の胃袋なら、とっくの昔に掴まれておるが?
これ以上料理上手になられても、それはそれで困る。気がする。これ以上儂好みの味を作るようになってしまったら、もう二度と外食出来なくなるような気がするから止せ。ただでさえ、外食に気乗りしなくなってしまったのに。
「ところで思ったんじゃけど」
「何じゃ?」
「……お主、最近嫉妬深くなってないか?」
「は?」
何を言っとるんじゃこやつ。誰が嫉妬深いって? それは被身子の方じゃろ。儂は別に、貴様が誰と話していようと何も思わん。許嫁の交遊関係に口出しする程、小さな器ではない。
だから、誰と談笑しようが儂は構わん。好きにしたら良い。
「今だって、嫉妬しとったじゃろ? 今日のお主は、いつもより素直でかぁいいのぅ」
「しとらんが? おいっ、こんなところで迫るなっ」
「良いではないか。でえと中なんじゃから」
だからって、店内で抱き付くな。あと、いつもより素直って何じゃっ。おいやめろっ、人前で
「んん゛っ、店で妙な真似をしないでくれ。ほら双子ちゃん、五番を強く潰しておいたよ。ふたつで16ドルね」
「すまんすまん。許嫁が拗ねてたからつい」
拗ねとらんわ。貴様が笑顔で誰と話そうが、そんな事で拗ねたりするものか。まったく、こやつと来たら……!
「コーヒー、熱いから気を付けな」
「ありがとう。じゃあ、行くとするかの」
手早く支払いを済ませた被身子が、さんどいっちと珈琲を抱えて歩き始める。おい、先に行くな。はぐれたら迷子になるじゃろ。見知らぬ街中で迷子になったら、大変じゃろうがっ。
あと何話このデートに使うのか分かりませんが、まぁ長くなるとは思います。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ