鮮血が僕の視界を彩る。僕はそれが自分や友達の血じゃなくて、心底安心した。
相澤先生がヴィランに負けた。
目の前に先生を倒したヴィランが来た。そいつは紫色の大男だった。
(何を勘違いしたんだ。僕は!)
(自分たちならなんとかなると思って!)
鮮血が僕の視界を彩った。
「よう。」
誰かの声が聞こえた。殺意に満ちた声色だった。
大男の丸太のような腕が血を撒き散らしながら冗談みたいに切り飛ばされた。無型悟によって。
「無型くん!」
それにしても、彼はどこから現れたのだろうか。全く気づかなかった。
「な!?コイツ。どこから現れた!?」
ヴィラン達は動揺している。
「だが、まだだ。」
全身に手が付いてる。そうとしか形容できない男が呟いた。
(さて、どうするか。)
残った敵は、手男と、霧野郎。相澤先生は、まだ生きてるが、とっとと手当しないと不味そうだ。
紫筋肉はしばらく痛みでうごけ、
ブンッと空気の砕ける音がした。
その音が耳に届く前に、無型悟の体は冗談みたいに真横に吹っ飛んだ。そのまま、そこらに生えていた木にぶつかった。
「ガハッ!?」
痛え。背中あるか?これ。痛みで混濁する思考を何とかまとめようとする。その結果、出力されたのは一つの疑問だった。
さっきまで、自分の立っていた場所に、紫筋肉の拳があった。さっき切断した拳が。
その疑問に無型は即座に解を出した。
「再生系の個性か。」
油断した。奴の個性は筋力を増強させるものかと決めつけていた。だが違った。
(何かの動物の個性か。いや、パワーがあって再生能力のある動物なんて聞いたことない。恐らく、轟のような複合個性。)
厄介だ。
とりあえず立たねぇと。そう思い、右腕を使って立とうとする。
(あれ?力が入らない。)
疑問の答えはすぐわかった。
(なるほど、あれほどの一撃を受けて意識を保てる事が妙だ。全く、運が良かった。ギリギリで右腕で受けることが出来た。そう、受けた。あの一撃を。おかげで今こうして思考できる。その代償だ。右腕はもう使い物にならない。)
無型悟。彼のその右腕は最早、原型を保てていなかった。骨がはみ出て、肉が溢れ出していた。もはや使い物にはならない。
「もう終わりかぁ。三下。」
腕だらけの男が吠える。
「ハンデとしてはちょうどいい。テメェら程度ならな。」
ならばこちらも吠えるまで。
「あ?」
おお、イラついてるな。
「やれ、脳無。」
腕だらけの男がそう言うと、そばにいた脳無と呼ばれた男が走り出した。
(待った無しかよ)
「ちぃっ。」
懐からナイフを取り出す。刀は衝撃で折れた。こいつ相手には心許ないが贅沢は言えない。片手だけで扱える、今使える唯一の武器だ。
脳無が目の前まで迫る。
言うまでもなく、奴の攻撃をまともに受ければ俺は死ぬ。ならどうするか。簡単だ。
避ければいい。
脳無の腕が俺の顔面をすり抜けた。おそらく第三者からはそう見えるだろう。
無型悟はただ避けた。気づけば無型悟は濃霧の背後にいた。
「いい狙いだ。おかげで避けやすい。」
脳無が振り向きざまに拳を振り抜く、その前に、無型悟は脳無のアキレス腱を切り裂いた。
肉の裂ける音が響く。血は舞い散り、巨体のバランスが崩れる。振り抜こうとした拳は地を叩く。地面は割れ土が舞う。
そして、隙ができる。
(奴を倒す上での最大の難所は、その超再生だ。あれを何とかしない限り奴を倒す事は出来ない。だが、倒すとまでいかなくてもいい。俺が狙うのは奴の無力化だ。助けが来るまでの間、それだけの時間、奴の動きを止める方法。博打だがやるしか無い。)
次の瞬間、無型悟のナイフが脳無のうなじに、突き刺さった。
その瞬間、脳無は動きを止めた。
「まだだ」
無型悟はさらにナイフで脳無の肉をかき混ぜた。
(傷はできるだけ複雑な方がいい。)
巨体が地に臥す。そのうなじは見るも無惨なことになっていた。そして再生が始まる。だがいつまで経ってもその巨体が立ち上がる事はなかった。
(何とか、賭けには勝ったか。)
「何をやった?お前。」
手男が問う。
「なるほど、気になるか。じゃあ、種明かしと行こう。」
(時間が稼げていいし。)
「人体には、あたりまえの話だが治りやすい部位と治りにくい部位がある。俺はその治りにくい部位かつ、体を動かすのに必要不可欠な部位を切った。それもぐちゃぐちゃに。多分治るのに暫くかかるんじゃ無いかな、以上だ。何か質問ある…か。」
(不味い、アドレナリンが切れてきた。痛え。)
相変わらず、右腕からは少なくない量の血が流れる。意識も間も無く消える。
手男が何か言っている。俺の耳はそれだけの音しか拾えなかった。
(だがイラついてるな。してやったりだ。)
思考はまだ回る。
視界が狭ばる。
もう時間はない。
段々、足から力が抜けてくる。
(マジかよ。)
どうやら勘違いをしていたらしい。脳無の傷が以上な速度で再生し始めた。
「あ…」
(不味い、意識が。)
薄れゆく意識の中で俺が聞いたのは、耳をつんざく轟音と
「もう大丈夫。私が来た。」
紛れもない勝利宣言だった。