ARIA The NAVIGATIONE 異世界に転生して麗しの水先案内人と過ごすスローライフ♡ 作:neo venetiatti
「いい人見つかったよ!」
オレを無理やり引っ張ってきた、あんずと呼ばれた女の子は嬉しそうにそう言った。
「あんず?いきなりナニ?」
テーブルに座っているメガネをかけた女の子が不思議そうにこちらを見た。
「だから言ってたじゃない?アトラちゃん?」
「私が何を言ってたの?」
「もう!こないだ言ってたでしょ?ことばの問題のこと!」
「ああ、あの件ね」
「そう!ソレ!」
「で?」
あんずはオレの方に手を向けてちょっと得意気になっていた。
「見つけたの。通訳のひと」
「え?なに?どういうこと?」
アトラは驚いてキョトンとしていた。
だがその横にいるもう一人のウンディーネ姿の男の子・・・じゃなくて女の子は、あんずのことばに驚きつつも、少し呆れた反応をしていた。
「あのさあ、あんず?いきなり男の人を引っ張ってきたりして、一体なんなの?」
「だから今言ったでしょ?あゆみちゃん?通訳よ!ツ・ウ・ヤ・ク!」
「通訳って・・・ホントに?」
あゆみという女の子はオレの全身を上から下まで疑いの眼差しで眺めた。
オレはといえば訳がわからないまま、その場で立ち尽くしていた。というか、立たされている気分。
「で、あなたは誰?」
あゆみの質問はごく当然のことだった。
「あ、あの、聞きたいのはこっちなんですけど?」
「えー?なにソレ?質問に質問で返すなんて反則なんじゃないですか?」
「だけどホントに訳がわからないわけで・・・」
「あっ、わかった。時給の交渉ってこと?いきなりそこ?ちょっとそれってどうなのかなぁ~」
いきなり引っ張ってこられてなんなんだ?
しかもなんか時給の話になってる!
「そうよ、あんず?いきなりギャラ交渉する人ってどうかと思うわ」
アトラさんまで言い始めてる。
この集まりって一体・・・
「ちょっと待って。二人とも落ち着いて!今さっきそこで会ったばかりの人なんだから。いきなり時給がどうのって失礼よ!」
「でも通訳のひとって」
「あんずがそう言ったっしょ?」
「だからぁ、それに適任の人がみつかったって話なの!」
ふたりは「なんだそれ」と無言ながら表情でツッこんでいた。
つまりこのあんずってウンディーネの女の子は、先程のトイレを探していた男性の言葉がすんなりわかったオレを見て、渡りに舟と言わんばかりに通訳に使えると思ったらしい。つまりは、その観光案内の仕事でってことのようだ。
「マンホームから来られたらしいの。私たちにはわからないマンホームの昔の言葉とか方言とかがわかるとなると・・・」
「なるほどね」
「なによ?あゆみ?なるほどって、どういうこと?」
アトラの疑問にあゆみは軽く咳払いをした。
「ここ最近マンホームからの観光客が増えてるっしょ?本家のヴェネツィアがちょっとあんな感じだし。その分だけネオ・ヴェネツィアに対する期待も大きいってことのようだし」
「マンホームからのお客様はこれから益々期待できる訳じゃない?そう思わない?アトラちゃん?」
「つまりあゆみやあんずは、マンホームからのお客様の獲得は今後大事だということなのね?」
「そうゆうこと!」
あんずはようやく伝わったとばかりにニンマリと笑った。
だが三人のなかで話がスムーズに伝わったとしても、はいそうですかと当然聞ける訳ではない。
「あのー、つまりこういううこと?」
三人は一斉にこちらを向いた。
「三人は観光の仕事を自分達で始めようとしている。だけどそのためには言葉の問題があると。そうなると通訳が必要だと」
「そういうこと。あんた飲み込みが早いね」
あゆみが感心したようにそう言った。
「そこは聞いていればわかると思うけど」
「じゃあ決まりでいいですか?」
あんずは嬉しそうに応えた。
「あんず?いきなりは無理があるんじゃない?第一、この人がどういう人なのかわからないわけだし」
アトラが冷静に反応した。
「そう言われればそうなんだけど。でも私たちにはそう時間がある訳じゃないいし・・・」
なんとなくだが、事情があるらしいというのはわかってきた。
仕事を探しにやって来たおれにとってもすぐに仕事にありつけるのは有難い話ではあるのだが、仕事になるかどうかもあやしい感じがする。
「あのー、聞いてみてもいい?」
三人の深刻な表情に、ちょっと気を使いつつも聞いてみた。
「おれは仕事を探しにここへ来たわけなんだけど、話の雰囲気からするとまだ始めてない訳だよね?その観光の仕事は?」
「そうだよ」
あゆみがあっさりと答えた。
「これからなんだよね?」
「だからそうだって」
「じゃあそもそも無理だよね?この話」
「まあ、そういうことになりますね」
またもやあゆみはあっさりと答えた。
「あゆみちゃん!そんなこと言ってたらいつまでたっても始められないじゃない!」
「そう言ったって仕方ないっしょ?事実は事実なんだし」
あんずはあゆみの言葉にほっぺをふくらませて怒った顔になった。
「それじゃあおれはこの辺で・・・」
そう言ってその場から離れようとした。
「えっ?帰るんですか?」
「いや、だって」
「なんで帰っちゃうんですか?」
「なんでって、この状況はそうなるんじゃないかと」
「ひどくないですか?」
「ひ、ひどい?」
あんずは批判的な顔で見つめ返してきた。
あゆみとアトラもなんだかこちらをおかしいことをしている人を見るような目で見返していた。
「わかりました。なんか事情がありそうなんで、もうちょっと聞きますよ。そこまで言うんなら。お役に立つのかどうかわからないけど」
おれは諦めに似た気分でため息をついた。
そして空いていたイスに腰かけた。
それに合わせるように、三人が一斉にイスをひとつずつ横に移動して座り直した。
おれはまたもや大きなため息ををつくはめになった。
「つまり、そのウンディーネには3段階の位があって、あなたたちはまだ真ん中のシングルというやつなんですね?」
おれのその確認で聞いたことばに三人は一斉にため息ををついた。
「おたく、うちらにとって聞きたくない話をよくもまぁ言ってくれますね?」
「でもそう言ったのはそっちなわけで」
「確かにそうなんですけどね」
あゆみは頬杖をついておれをジロッと見返してきた。
「でも昇級試験は難しいし、なかなか先に進めない。おまけに試験官の先輩とはどうしてもウマが合わないと」
「そういうネガティブなところは忘れてください!」
アトラが急いで否定してきた。
「まあとにかくなんにせよ、ここらへんで次にどう進むべきかを考えたほうがいいのではと、三人で話し合った結果、独立だとなったわけだ」
あんずはギクッとなってまわりをキョロキョロ見回した。
「スミマセン。そこはデリケートなところなんで、もうちょっと声を落としてもらえませんか?」
「わかりましたよ」
三人は次なる一歩を踏み出す決断をしていたところだった。
何故それを職業紹介所で行っていたのかは定かではないが、結構微妙な話を微妙なところでやっていたのは確かだった。
彼女達三人はここネオ・ヴェネツィアで観光の仕事をウンディーネという職業で続けてきたわけだった。一人前のウンディーネ、つまりプリマになって仕事をバリバリやることを夢見ていた。だがそこにはどうしても越えられない高い壁があった。そうこうしてうるうちに、年齢と将来のことが頭をかすめるようになってきたわけだった。
もしシングルのままだったら・・・
「うちはどっちでもいいんだけどね」
あゆみはアトラとあんずとは少し考えが違うようだった。それゆえにふたりと少し温度差があった。
だが、なんか面白くなるんならという条件でふたりの話に乗ることにしたという。
「そこで三人はこれまでの経験を生かして、観光業に打ってでようとしたわけ?」
「そこはやっぱり観光でご飯を食べてきたわけなんだから、そうなると思うのよね」
「私もアトラちゃんのいうことに賛成なの。それにこれからネオ・ヴェネツィアはなんか色々始めるっていう情報も手に入れたしね♡」
「なんか色々って?」
そこにあゆみが口を挟んできた。
「それ、どこまでほんとかわからないからね」
「だってこの前、親しい常連のお客さんから聞いたって、あゆみちゃん言ってだでしょ?」
「聞いたよ?確かに聞いたけど、市場のカボチャ売ってるおばちゃんの話だからね」
「でも事情通だっていってなかった?アリスちゃんのネオ・ヴェネツィア国際映画祭のプレゼンターの件も、オレンジぷらねっとにいる私たちより先に知ってたでしょ?」
「確かにそうだったけど」
二人の会話が落ち着いたところで聞いてみた。
「それって、観光業に打ってでようとした理由が他にもあるということ?」
「エヘン!」とあんずは咳払いをして見せた。
「よくぞ聞いてくれました!つまり本題はそこなんです。私たち、何も無謀な賭けに出ようとは思ってません。ちゃんと根拠があってのことなんです!」
「はぁ」
なんかすごい自信ありげだなぁ・・・
「いいですか?なんとですよ!このネオ・ヴェネツィアがですよ?新しく生まれ変わるっていう話なんです!」
あんずは一段と目を輝かせて言い放った。
「ちょっとあんず?それってまだ決定した話じゃないんだからね」
あゆみがあんずに釘を刺すように口を挟んだ。
「でもこんな話、聞き逃すわけにいかないでしょ?しかも私たちには絶好のチャンスよ。これを逃す手はないわ!」
その反応を見てあゆみは大きくため息ををついた。
「やっぱり言うんじゃなかった。時期尚早とはこういうことなんだろうなぁ・・・」
二人の様子を見比べていると、やはりそこは聞かないわけにはいかない。
「あのー、つまり、どういうこと?」
「よくぞ聞いてくれました!」
「二回目だ」
「何回でも言いますよ!」
「とりあえず一回で結構です」
「そんな遠慮しなくても」
「あの・・・」
「エヘン!」
あんずは仕切り直した。
「題して、ネオ・ヴェネツィア夢ランド計画ぅー!」
なんだ?夢ランド?それってテーマパークでも立ち上げるつもりなのか?しかもネオ・ヴェネツィアとも言ってる。
まだネオ・ヴェネツィアのことすらちゃんとわかっていないおれからすると、なんのことかすらピンとこない。いったいどうしたもんか・・・
「スゴいでしょ?」
「スゴいと聞かれても・・・」
「えぇー?わかんないんですかぁ?」
「だっておれは最近・・・というか、来たばっかりだから、ここへは」
「来たばっかり?」
「そうですけど?」
「そうなんですかぁ?」
あんずはホントに驚いておれの顔を見ていた。
「それじゃあダメじゃないですかぁー!」
「ダメ?何が?」
「観光案内ですよ!ネオ・ヴェネツィアのこと、詳しくない人が案内なんて出来ないじゃないですかぁー!」
おれは今怒られている。怒られているよね?確かに怒られているよね?なんで怒られなきゃいけないの?
「あ、あの、あんずさん?なんでおれが怒られなきゃいけないの?無理やり引っ張ってきたのはあなたであって・・・」
そこであゆみは大きなため息ををついた。
「だから言わんこっちゃない。こんな訳のわからない人をいきなり連れてきて通訳だとか言ったりして」
「訳のわからない・・・」
開いた口がふさがらなかった。ホントに。
だが無邪気に話す三人はわかってなかった。実はこんなところで話す内容ではなかったのだ。
あんずのいったネオ・ヴェネツィア夢ランド計画は、必ずしもオーバーな話ではなかった。
そもそも夢ランド計画って、なんのこっちゃわからない話なんだが、実のところ秘密裏に進行している話が、ここネオ・ヴェネツィアには本当にあった。
三人はそのことに触れる話だとは思ってなかった。
「なぜあの三人が知ってるの?」
少し離れたテーブルに座っていた女は、その場には全くといっていいほど似つかわしくない大きなつばの帽子に真っ黒のサングラス姿で経済新聞を広げていた。
その新聞で顔を隠していたが、隠せるわけもないほどの出で立ちで、あんずたちの方に聞き耳を立てていた。
「いったいどこから漏れたの?チョーチョー機密情報だというのに・・・」