残りの戦闘員は3人。状況を確認するために屋上へ移動して周囲を見回すと、
戦闘員が1人、この立体駐車場の方向へ向かっている姿が見えた。
「フェザーダート」による通信妨害は依然機能しているようで、
通信端末をしきりに確認している。おれに気付いている様子はない。
単なる巡回でこちらに歩いてきているのだろう。
近付いてくる戦闘員に視線を合わせると、マスクのモニターに戦闘員の
バイタル情報が表示された。防御力の低い箇所にはマーキングまでされている。
……どうやら頭部に打撃による衝撃を与えるのが最も有効らしい。
正面切っての戦闘で頭部に打撃を当てるのは至難の業だが、今は敵に気付かれていない。
奇襲……ここから飛び降りて跳び蹴りを命中させれば一撃で倒せるかもしれない。
おれは周辺をもう一度見回し、他の敵の動きを確認した。
キリクは装甲車で機材を確認しているようだ。残りの戦闘員は大学寮付近を巡回中。
どの敵も距離が離れているうえに通信も妨害しているため、このまま奇襲をかけても
恐らく気づかれないだろう。
おれは戦闘員が駐車場の入り口前まで来たところで、屋上から飛び降りた。
無音。急降下で風を切る音さえも、レイブンは消してしまうらしい。
敵の頭部めがけて思い切り足を突き出すと、強い衝撃が足に伝わってきた。
戦闘員は数メートル吹き飛び、うつぶせに倒れた。動き出す気配はない。
装甲服からは先程と同様に蒸気が噴出している。
__________________________________
[Caution! jamming system battery low]
倒した戦闘員を駐車場の地下まで引きずり、拘束したところで
マスクのモニターに警告メッセージが表示された。フェザーダートのエネルギーが
あと30秒で切れ、手元に戻ってくるらしい。通信妨害が中断してしまうのはまずい。
敵の通信が復活すれば増援を呼ばれる可能性がある。多数の敵に囲まれたら終わりだ。
フェザーダートのナイフは手元にあと2本あるが、現在地は駐車場の地下。
ナイフを設置しても通信妨害がうまく機能しないかもしれない。
レイブンによって強化された脚力を活かし、階段を跳躍しながら駆け上がって
屋上に出たおれは、即座にナイフを設置して通信妨害機能を起動した。
すると同時に先程設置したナイフが手元に飛来。ナイフは手元の制御デバイスに
自動で収納された。
屋上から周囲を確認すると、こちらへ向かって走り出した戦闘員2人の姿が見えた。
通信妨害が数秒途切れ、その間におれが先程倒した戦闘員2人の現在地を
把握したのかもしれない。1分もすれば地下の駐車スペースにやってくるだろう。
……新たに設置したナイフによる通信妨害はしっかり作動している。
幸い、敵はまだおれの存在にも気づいていない様子だ。
倒した戦闘員との合流を許せば、ムーンアトマイザーで蘇生されてしまう。
そうなる前に倒してしまう必要があるが……彼らはヴォイド所属の戦闘部隊。
つまり相当腕の立つアークスのはずだ。2人を相手に正面からぶつかっても
勝てる保証はない。レイブンの隠密能力と武装を駆使し、敵を確実に撃破する
作戦を考えなくては。おれは思案を巡らせながら、再び地下へ向かった。
地下スペースは先程照明を破壊したため真っ暗な状態だが、戦闘員達は
恐らく暗視機能を作動させて侵入してくるだろう。闇に紛れて不意打ちを
仕掛けるのは難しそうだが……
「そうだ、閃光弾」
クロウバレットには閃光弾が5発付属している。暗視機能を作動させた状態で
閃光を放てば、敵の視覚に大きなダメージを与えられるだろう。視覚を奪った状態で
消音機能を活かせば、強烈な奇襲を仕掛けられるはずだ。
物陰で待機していると、2人の戦闘員の声が聞こえてきた。
「反応はここだったな」
「周囲警戒、何かいるはずだ」
アサルトライフルで武装しているようだ。下手に飛び出せば斉射を食らうだろう。
敵に攻撃を許さず、一撃で仕留めなければ。
おれは息を潜めつつ閃光弾を装填し、好機を待った。
_____________________________________
敵はライフルを構えて周囲を警戒しながら、こちらへ近づいてくる。
おれは戦闘員2人が同じ方向を向いた瞬間を狙い、物陰から閃光弾を発射した。
天井付近で炸裂した弾丸から数秒間強烈な光が迸っている。戦闘員2人は
視覚を失ったようだ。狙い通り、暗視装置が強い光で動作不良を起こしたのだろう。
すかさず物陰から飛び出し、背後からレイブンヤイバーで二人まとめて斬り付ける。
装甲服に青白い電流が流れると、やはり蒸気を吹き出しながら戦闘員は倒れ伏した。
これで戦闘員は全員撃破だ。
____________________________________
残る敵は、キリクのみ。この場所まで様子を見にくるかもしれないが、
ここで待ち構えるのは悪手だろう。戦いの中、隙を見て戦闘員の拘束を解かれたり、
ムーンアトマイザーで蘇生されたりでもしたら一巻の終わりだ。フクロにされてしまう。
同じ場所に留まるのは危険と考え、おれは駐車場の屋上から向かいの建物の屋上まで
一気に跳躍して移動した。
戦闘員が全員戦闘不能に陥っている今が、奴を撃破するチャンスだ。
周囲を見回し、キリクの姿を探したがそれらしい姿が見つからない。
[Warning! Enemy Attack]
寮付近に停められた装甲車に目を凝らしていると、突然マスクのモニターに
敵の攻撃を知らせるアラートが表示された。
「よク会うナ、哀レなヒーロー」
聞き覚えのあるガス漏れのようなしゃがれ声。おれは咄嗟に後方へ飛び退いた。
直後、上空から現れた赤いパーツのキャストがおれがいた場所に大剣を叩きつけていた。
……キリクだ。
床には大きな亀裂が入っている。間一髪。この場所をどうやって掴んだのだろうか?
「ダーカーの襲撃に備えて寮の警備か。白々しいな、誘拐犯」
平静を装い、おれは軽口でキリクを挑発した。
「次邪魔すレば排除すルと言っタヨな。さ、やロうか」
キリクは動じず大剣を構えている。禍々しい棘を備えたそれは
獣のような唸り声を上げた。趣味の悪い武器だ。
レイブンを装着しているおれはレーダーに映っていない。
そして先程戦闘員を倒した駐車場からは移動している。
にもかかわらずキリクはおれの居場所を正確に把握し、奇襲してきた。
このからくりを看破しなければ、レイブンの隠密性能を活かしきれないだろう。
呼吸を整えつつ、おれはレイブンヤイバーを再び構えた。