「……ああ、俺は罰を与えるために君をここへ呼んだわけではない!
それはおれの仕事じゃない!」
ヒューイは芝居がかった仕草で肩をすくめて見せた。
「もう一つ聞かせてくれ!君が戦ったこの化物……弱点はあるか?」
「俺はこの化物の討伐を引き受けたんだが……あまり時間がない!」
昨夜おれが脱出した後、アークス本部は匿名の通報によって造龍兵の暴走を認知。
討伐部隊を向かわせたそうだ。しかし程なくして、ヴォイドが造龍兵の暴走を
隠蔽するために研究所を爆弾で吹き飛ばすようアークス本部に命じたらしい。
だが研究所には病院が併設されている。そんなことをすれば巻き添えになってしまう。
そこでヒューイが待ったをかけ、造龍兵の討伐を自ら名乗り出てくれたそうだ。
「あの化物の…弱点」
「映像を見る限り苦戦していたようだが…何か掴んでいないか!
万全を期したくてな!」
造龍兵の戦闘力の決め手は「制御装置」だ。
壊してしまえば、ヒューイの敵では無い。無いのだが……。
あれを壊せば、装置に組み込まれた子供たちの脳は死んでしまう。
しかし、彼に造龍兵を倒すための情報を渡さなければ病院が
爆破に巻き込まれてしまう。
もう犠牲者を増やしたくない。おれは言葉を絞り出した。
「造龍兵は戦闘行動を機械で制御しているんです。
制御装置を破壊すれば……戦闘力は落ちる」
「おお!単純明快!……でもなさそうだな。何かあるのか?」
おれは事の顛末を全て話した。
暴走している化物はヴォイドの生体兵器で、制御装置には人間の子供の脳が部品として組み込まれていること。
相次いでいた市民襲撃は子供を誘拐して脳を取るためにヴォイドが仕組んでいたこと。
証拠が録音された遺留品を拾ってすぐに、本部から事件への関与を禁じられたこと。
レイブンドライバーを手に入れ、正体を隠して誘拐された子供達の行方を追った
結果……今に至ったということ。
「あの市民襲撃事件、俺はレギアスに止められて探らなかったんだが……
君は本部の命令に背いてまで動いてくれたのか」
「命令違反ですし、結局誰も救えていない」
ヒューイは大げさに首を振って見せる。
「君の命令違反がなければ、子供の脳を使った兵器が量産されていたかもしれん!
とにかく、装置の破壊という手は無しだな」
「で、君は昨夜、どうしようと考えた?」
おれはテレパイプガンを取り出し、ヒューイに差し出した。
「この道具、テレパイプガンは撃った対象を任意の場所に転送できるんです。
誘拐された子供たちをこれで逃がそうと思っていたんですが…」
「既に脳を取られて、制御装置に組み込まれた後だったんだな」
「制御装置をテレパイプガンで転送して、子供たちの脳だけでも
逃がそうと思ったんです。でも……転送した後に脳の生命を維持する方法が無くて」
大げさにガッツポーズをとるヒューイ。
「なるほど!脳の生命維持さえできれば、制御装置を転送して造龍兵の力を削げるな!」
「君自身じゃ無理でも、ほら!何かツテがあったりしないか!?」
単純な話だがその通りだ。自分だけではどうにもならないなら、協力者を募れば良い。
「アキ」……元ヴォイド研究員の彼女なら、何とかできるかもしれない。
そういえばアキは造龍兵や制御装置についても知っていた。
「ヒューイさん、心当たり……あります」
「よし!それなら……っと通信か!ちょっと待ってくれ!」
「ヒューイだ!首尾はどうだ!」
現場で造龍兵を抑え込んでくれているアークスからの通信のようだ。
「……ああ、わかった!すぐに俺も向かう!俺が着いたら退却していい!もう少し
持ちこたえてくれ!あと、制御装置……箱型の機械!絶対に壊したらダメだぞ!」
通話を終えたヒューイがこちらに振り向く。
造龍兵は制御装置を体内に取り込もうとしているようだ。派遣されたアークスが
攻撃を続けており何とか阻止できているが、長くは持たないらしい。
「俺は今から現場のアークスに加勢する!レツ、君がやるべきことはわかるな?」
「脳の生命維持手段、確保します!」
ヒューイはおれの肩を叩いた。
「キャンプシップを手配しておく!片が付いたら君が現場に来て決着をつけろ!
その、テレパイプガン?の扱いに俺は慣れていないからな!」
「昨日装着していた、あの青いスーツで正体を隠してOKだ!子供を救おうと
動いた君が上層部に粛清されたらかなわん!」
「ありがとうございます……わかりました」
自分一人では手詰まりに思えた事態が再び動き出した。
アークス本部への不信感から誰の手も借りずに動こうとしていたが、
それは間違った選択だったかもしれない。
ヒューイは転送装置で現場へ急行した。おれも急いでアキに連絡を取らなくては。