青年は無言で斬りかかってくる。凄まじいスピードだが狙いは甘い。
大振りの斬撃を躱すと、ナイフの表面に電流と火花が迸った。
……電磁ナイフってやつか。
電磁ナイフは刺突して刃から電流を流すことで敵を気絶させる武器だ。
電源が内蔵されているため柄が重く、振り回しての斬撃には向いていない。
実際、攻撃は容易に躱せている。
青年は空振りしても気に留めず、ひたすらに斬り付けてくる。
無駄な動きが多いが、踏み込みやスイングスピードは異様に速い。
身体能力は通常のアークスよりはるかに高いのだろう。
今は攻撃を躱せているものの、おれのスタミナが持たなくなる可能性もある。
このままでは危険だが、レイブンを装着できるほどの隙があるわけでもない。
格闘で仕留める以外に選択肢はない。
訓練生時代に対人格闘術を叩き込まれたときは何の役に立つのかと思ったが……
今まさに役立ちそうだ。どうにか隙を作って反撃しよう。
斬撃を払いのけながらしゃがみ込み、おれは足元の小石を手に取った。
(石は最も身近で攻撃的な武器らしい……訓練で教官に聞いた。)
ナイフの追撃をかわし、相手の顔面めがけて石を投げつけると、
青年は咄嗟に腕で目を守った。明確な隙。こちらのターンだ。
おれはナイフを握っている手を蹴り上げ、そのまま肩を腕で固定しつつ
肘から先を「曲がらない方向」へ思い切り曲げてやった。
青年の腕は動かなくなり、手からナイフが転がり落ちる。
「ここまでだ」
おれは青年が落としたナイフを拾い上げ、首筋に突きつけた。
やはり電磁ナイフだ。電撃用スイッチが付いている。
青年は肘を壊されたにもかかわらず、声も上げずに俯いている。
「命の恩人にこんなことはしたくないが、今は時間がない」
「電撃で気絶したくなければ、退いてくれないか」
青年は穏やかな表情で口を開いた。
「無関係だった君に、もう迷惑をかけたくなかった。気絶させてドライバーを
返してもらおうと考えたんだ」
「斬りかかられたら十分迷惑だ……普通に話しかけてくれ」
「話しても結局力ずくになったと思う。君は決意が固そうだし」
……それはそうかもしれない。
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青年から事情を聴いてみると、
彼は「造龍兵の制御装置に子供たちの脳が組み込まれている」ことを知っていた。
これから子供たちの脳を救い出すために、ファウの研究所へ向かおうとしていたらしい。
その前におれを気絶させてレイブンドライバーを回収し、ついでにテレパイプガンも
拝借しようとしていたというわけだ。
「……子供たちの脳を救い出したとして、そのあとの生命維持は
どうするつもりなんだ?」
「僕の知り合いがヴォイドの元研究員でね。彼女に頼んだら引き受けてくれたよ」
どうやらおれと全く同じことを考えていたようだ。
それに「ヴォイドの元研究員」の女性。まさか……
「おれも脳の受け入れ先を探してたんだ。あんたが声をかけたのは、
アキさんという人じゃないか?」
青年は驚いた様子で少し目を見開いた。
「世間は狭いね。その通りだ」
「僕はヴォイドで生み出された次世代アークスの実験体さ。
アキは僕の調整を担当してくれていた。育ての親みたいなものなんだよ」
次世代アークスの実験体……アキが調整担当……
やや混乱しているおれをよそに、青年は続けた。
「アキが突然担当を外されてからは酷かった。瞬発力や再生能力を高めるために
かなり無理な改造を施された」
肘を動かしながら話す青年。さっきおれが壊した肘はもう治りはじめているらしい。
「死んだほうがマシと思ったけど、気付いてしまった。
研究所から逃げ出すための力が自分にはあるってね」
今から半年ほど前、青年は自らと同じくヴォイドで研究中だった
レイブンドライバーを強奪して研究所から脱出。
以降はアークスシップ市街地に潜伏しながら、ヴォイドへの妨害活動を
続けていたらしい。
「なるほど。一昨日の夜、市街地でレイブンを装着して
ヴォイドの襲撃を阻止していたな」
「ああ。結局失敗して、助けてくれた君にドライバーを託して……
今に至るということだね」
青年は可動域を確かめるように肘を動かしている。もう治ってしまったのか。
「……それで、だ。襲いかかっておいて都合がいい話だけど、
ドライバーを返してくれないか。君にこれ以上迷惑は」
「それはダメだ。おれにやられるようじゃ、今の造龍兵を出し抜くなんて無理だぞ」
押し黙る青年。嫌な言い方をしたが、ここは引き下がれない。
「子供たちの脳は、おれが必ず救い出す」
「だから、逆にお願いだ。ドライバーをあと少しの間だけ貸してくれ」
青年は数秒目を閉じた後、頷いた。
「わかったよ。たしかに君が動いた方が成功率は高いか」
「勝手を言ってすまない。終わったら、ドライバーは必ず返す」
彼が今後もヴォイドから身を隠すために、レイブンは必要な装備だろう。
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青年はゆっくりと立ち上がりながら口を開く。
「アキには制御装置をまるごと転送すると伝えてある。転送先の座標は……これだ」
空間に投影されたウィンドウには座標を示す数列が表示されている。
おれはテレパイプガンを取り出し、転送先座標を登録した。
「その座標に転送すれば、自動で生命維持を開始できるようにセッティング
してあると聞いている。転送後、アキに急いで連絡を入れたりしなくても大丈夫だよ」
「あとは、これを」
青年はポケットから透明なテープのようなものを取り出し、手渡してきた。
「レイブンの応急修理用テープだ。フォトンの漏出は防げる
……たしかマスクが割れていただろう?」
「すまない、恩に着る」
「そうだ、昨日のお礼を言ってなかった。危ない所を助けてくれて本当にありがとう」
「僕も一昨日助けてもらったし、お互い様さ」
「子供たちの脳、救ってあげてくれ。君を巻き込んだ僕が言うべきでは
ないかもしれないが」
「ああ、任せろ」
青年から差し出された右手を、おれは強く握った。
「そういえば名乗っていなかった。僕はアウル。くれぐれも気を付けて」
「カラスマ・レツだ。また会おう……ドライバー返すしな」
アウルは頷くと大きくジャンプし、森林の奥へ消えていった。
脳の生命維持の算段は付いた。後はヒューイと連携して造龍兵を抑え、制御装置を
転送すれば子供たちの脳を救い出せる。彼らの身体や殺された家族はもう戻らないが、
脳が無事なら子供たち自身はキャストとして生きていくことができる。
このまま制御装置の部品にされ続けるよりは遥かにマシなはずだ。
子供たちを襲った理不尽への怒りに身体が熱くなっていく。リベンジ開始だ。