「まだ患者の避難が続いている。伝えてないのか?」
「もちろん伝えましたよ!伝えたんです!」
目つき鋭く問うヒューイに対して、部下はしどろもどろに答える。
爆撃の時刻変更も要請したが、全く取り合ってもらえないらしい。
「どうしようもない奴らめ……連中らしいといえばらしいか」
ヴォイド直属の実働部隊には強烈な選民思想を持つ者が多く、ヴォイド所属外の隊員とは
まともな会話すら成立しないことがあるほどだそうだ。六芒均衡のヒューイでさえ、
扱いには困っているという。
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おれもこの場に居合わせた以上、何かしら役に立たなくてはならない。
爆撃まで10分、避難完了まで15分。爆撃自体を中止させるのは難しそうだが、
足りない5分を稼げば病院の患者が巻き込まれることは防げるはず。
「避難完了まで足りない時間は5分ですよね。5分だけ稼げれば患者は助かる」
「そうだな。おい、キャンプシップの準備を頼む……急ぎだ!」
ヒューイはうなだれる部下に発破をかけるような口調で命じた。
「俺が話をしに行く。六芒の言葉ともなれば、さすがに耳を貸しはするだろう」
どうやらヒューイは自ら爆撃機に侵入し、操縦士を説得して爆撃を中止させるつもりらしい。
爆撃機はアークス所属の機体だ。キャンプシップである程度接近すれば、
機体同士をテレパイプで接続して爆撃機内に入り込めるが……
「えぇ……ちょっと待ってくださいよ!」
ヒューイの部下は血相を変えてヒューイに組み付いた。いや、ヘルメットで
表情はわからないが……血相を変えているのはわかる。
「ダメですよ!爆撃はヴォイド直々の命令によるれっきとした任務です!
それをアークスのトップであるヒューイさんが妨害したら大問題に……」
「大問題くらいで人の命を救えるなら御の字だ!キャンプシップを出せ!!」
たしかに、作戦行動の妨害はアークスそのものに対する反逆と判断されかねない。
実行すればヒューイは重い懲罰を受けることになるだろう。今こうしている間も、
ダーカーとの戦いは続いているのだ。
くだらない内輪揉めで彼ほどの戦力を失うわけにはいかない。
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振りほどかれてなお組み付こうとするヒューイの部下を制止し、おれは歩み出た。
「ここに名前も所属もわからない謎の男がいる。おれが行きますよ」
苦虫を噛み潰したような表情でこちらを見据えるヒューイ。
「きみだって大事な隊員だ……が、そうなんだよな。けっこう適任なんだよな……」
「いやいやいやダメでしょ、そもそも誰なんですこの人?アークスかどうかも照合できないし」
……すでに2分ほど経過している。
ヒューイの部下は困惑している様子だが、丁寧に説明している暇はない。
おれはレイブンヤイバーを抜き、彼の首に突きつけた。
「時間がない。キャンプシップの準備を」
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両手を上げて硬直している部下の肩をヒューイがなだめるように叩く。
「脅されてしまっては、仕方ないよな。きみは悪くない。
避難の指揮はおれが引き継ぐ。彼を爆撃機の内部へ送り出すんだ。頼むぞ」
ヒューイの部下は肩を落とすような仕草を見せながら、
通信端末でキャンプシップへつながるテレパイプを作動させた。
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キャンプシップに乗り込み、数十秒。
機体はオートパイロットで爆撃機を追跡しており、
まもなく爆撃機内部へテレパイプがつながるようだ。
「ヒューイさんの知り合いみたいだけど、本当に何者なんだよ、あんた」
「正体隠してヴォイドに盾突いてるんだろうが、ヴォイドはアークスの中枢でもあるんだ。
混乱させれば、ダーカーとの戦いに支障が出るんだぞ」
備え付けの電子端末を操作しながら、ヒューイの部下が問いかけてきた。
「組織を混乱させる類の馬鹿をやってるってのはおれも重々承知だ」
「だがダーカーとの戦いを大義名分に人の命が蔑ろにされようとしているなら……
おれは黙ってられない」
「あんたの信念は結構だが……!」
「ヴォイドの所業を知ってしまった。……親を殺される子供の声も聴いてしまった」
「証拠隠滅のために、今度は入院患者が殺されようとしている……
何もせずにはいられないんだよ。誰かがヴォイドに盾突かなければ、
理不尽な目に遭う人がずっと……」
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おれの言葉を遮るようにけたたましいアラートが鳴り響く。
キャンプシップが爆撃機へ十分接近し、機体内部への転送ゲート開通に成功したらしい。
テレプールにテレパイプの光柱が形成されている。
「……もういい、準備完了だ。行けよ」
「あとホラ、これ持ってけ」
ヒューイの部下からトランシーバーが投げ渡された。
「病院の避難が完了したら合図する。それが振動したら避難完了だ。
避難完了までは……作業状況的にあと10分ぐらいだな」
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受け取ったトランシーバーをベルトに取り付ける。振動すれば気付けそうだ。
爆撃機からは通信が入っているようだが、ヒューイの部下は無視を決め込んでいる。
「ありがとう。この恩は忘れない」
「良いから早く行け……あ、ヴォイドの奴らは本当に話通じないからな。
やるなら力ずくしかないぞ。」
おれはクロウバレットに閃光弾を装填し、続いてレイブンヤイバーも取り出した。
「ああ、元からそのつもりだ」
「爆撃はマニュアル操作のはずだ。まぁ……爆撃機に乗ってる奴らを全員黙らせれば良い。
取り敢えずはそれで、避難完了までの安全確保になるだろうな」
「……よし。合図だけ、頼む!」
おれはテレパイプに飛び込んだ。
避難完了まで10分。何が何でも爆撃はやらせない。
おれはアークス隊員。組織に所属する人間だが……
組織の所業で理不尽に人が殺されようとしてるなら我慢ならない。
無理やりだろうと、命令違反だろうと、止めてやる!