仮面ライダーレイブン 第2夜 第1幕
全長2メートルほどの化物と対峙したおれは、間合いを測りつつ敵を観察した。二本足で立ち、全身には鳥類を思わせる羽毛。その風貌はこれまで戦ってきた原生生物エネミー、龍族や機甲種、そしてダーカー……どの種族とも全く異なるものだ。
いや、頭部には見覚えがある。二列並んだ刺々しいトサカに、嘴のように鋭く前方に伸びる上顎。「クローム・ドラゴン」……。眼前の化物の頭部は、アークス研究部の特務機関「ヴォイド」が生み出した人造龍のそれと酷似している。
全身の各部には拘束具のような装甲が鈍く輝いている。甲殻の類ではなく、どうみても人工物だ。人の手によって装着させられたものだろう。原生生物やダーカーの尖兵ではなく、人工的に生み出された生体兵器なのだろうか。そんなヤツがどうしてここに?
化物は低く呻くような咆哮を上げながら、赤黒いやり状の巨大な結晶を生成して撃ち放ってきた。結晶を撃ち放つ攻撃には見覚えがある。クローム・ドラゴンの攻撃方法の一つだ。おれは身をひるがえして結晶を躱した。装着している「レイブンスーツ」の性能だろうか、身のこなしが筋肉レベルで最適化されているように感じる。結晶の弾速は銃弾のようだったが、擦りもしなかった。
化物は続けざまにまっすぐ飛び掛かってきた。謎の青年を一撃で戦闘不能に追い込んだ先程のパワーを見るに、正面から打ち合うのは得策ではないだろう。おれは敵を向かい打つべく走り出し、前方に飛び出す……と見せかけて、化物の脇をスライディングですり抜けた。
空に向かって体当たりすることになり、化物は大きく体制を崩す。チャンスだ。すれ違った瞬間におれは振り向き、その回転の勢いも乗せながら手にした刀で化物を斬り付けた。かなり無茶な動きだが、スーツがおれの動きを最適化しながら瞬発力を強化しているようだ。斬撃は化物の装甲と分厚い羽毛にやや阻まれたものの、しっかりと刃が通った感触があった。
化物の背中から少量の黒い血が飛び散る。痛みに激昂したのか、化物は甲高い咆哮を上げながら振り向き、怒りに任せるように勢いよく腕を振り上げた。縄のような筋肉が浮かぶ剛腕。手刀攻撃が来る!背筋に冷たいものが走ったおれは、攻撃をバックステップで躱すべく両足に力を込めて跳躍した。地面を蹴る瞬間、ふくらはぎに数十個のバネが取り付けられ、一気に反発力が解放されたような感覚。
「……え」
おれの視界は一気に上昇した。眼下に見えるのは大学寮の屋上。しかもどんどん遠く、小さくなっている。
「……やっばいッ!跳び過ぎた!」
レイブンスーツによる身体能力強化が凄まじく、バックステップのはずが想定外の大ジャンプをしてしまったのだ。先ほどから思い通りの動きができていたせいか油断していた。レイブンスーツを纏った状態で徒らに力を込めると、全ての動きが過剰になってしまうのかもしれない。
いきなりの大ジャンプに化物は混乱し、一瞬おれを見失ったようだ。出鱈目に頭を振り回しながら周囲を探している。程なくして空中におれの姿を見つけた化物は、再び攻撃を仕掛けるべく跳び上がってきた。
「この高さを跳ぶのかよ!」
「クソッ、防ぐしかない!大丈夫かコレ」
大幅な脚力強化は頼もしい機能だが、戦闘中の不用意な大ジャンプは自殺行為だ。足場が無ければ空中では跳躍できず、回避行動がかなり制限される。おれは刀を前方に構え、防御姿勢を取った。
化物によって振り下ろされる暴力的な手刀。刀を構えて受け止めた両腕に
強烈な振動が伝わってくる。化物の手刀が粗削りだったおかげか、打撃は刀で何とかそらすことができ、受け身を取りながら着地することができた。
振動で若干腕がしびれているが、打撃は完全にスーツの装甲内部に吸収されているようで、大きなダメージは無い。刀も無傷。防御姿勢さえ取れればレイブンスーツの耐衝撃強度はかなり高いようだ。
さらに驚いたことに、これだけ派手に動き回っても物音が全く生じていない。生体反応とフォトンの隠蔽に加えて、異常に高い消音性能も兼ね備えている。このステルス性こそが、レイブンスーツ最大の武器なのかもしれない。
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化物は追い打ちを加えるべく猛進する。突進ばかりで芸のない奴だが、
ステルス性を武器にするなら絶好の相手だろう。
「隠れて仕留める……やってみるか」
ステルス性を活かすなら、まずは化物から身を隠す必要がある。敵の視界から、一瞬でも逃れなければ。おれは化物の視線をそらすため、手にした刀を化物の横を掠めるように投げつけた。
化物の目は飛んでいく刀を追い、視線はおれから逸れていく。狙い通りだ。すかさずおれは脚に力を込め、大学寮の屋上まで跳び上がって着地した。何となく、力の込め方と跳躍力のバランスが掴めてきた。
化物は周囲を見回している。おれの姿を完全に見失っているようだ。スーツの機能によって、発される気配も音も遮断されている。レイブンスーツを装着している間、おれは視認以外の方法で知覚されないと考えて良いだろう。一度視界から逃せば、再び捕捉することは困難なはずだ。
[Strike Raven READY]
くぐもった電子音声と共に、マスクのモニターにシステムメッセージが浮かんだ。強力な攻撃の発動準備が整ったらしい。跳び蹴りを放つ人型のピクトグラムが表示されている。
……必殺の跳び蹴りなら、奇襲攻撃にもってこいだ。攻撃を発動するべくモニター内の表示に目線を合わせると、両足にエネルギーが集中していく感覚が伝わってきた。
化物に狙いを定め、屋上から跳躍して急降下。その間も足にエネルギーが集中していく。そのまま化物の後頭部を踏みつけるような形で、おれは全力の跳び蹴りを叩き込んでやった。脚部に取り付けられた数十個のバネに溜め込まれていた力が、一気に爆発するような感触。
強烈な打撃をモロに食らった化物は大きく吹き飛び、ゴロゴロと転がって倒れこんだ。急降下の運動エネルギーを加えた全力キック。無事ではいられないだろう。
化物はうめき声をあげながら地に手を付き、なおも立ち上がろうとしている。ただ、ダメージは大きいらしく動くのがやっとといった様子だ。
「おい……まだ動けるのかよ」
おれは先程フェイントで投げつけた刀を回収した。ここは市街地。市民の安全のためにはとどめを刺さなければ。蠢く人型の化物を前に、おれは深く息を吸い込んで刀を構えた。急所がわからない以上、首を落とすしかない。