アフィンとのミッションはつつがなく終了した。お互い緘口令を意識するとどうにも
気まずくなってしまうため、ミッション終了後はすぐに解散。武装強化へ向かうアフィンの姿が
見えなくなったことを確認し、おれは「クローム・ドラゴン関連の情報のツテ」である
知り合いの科学者「アキ」に電話をかけた。
「はい、はい!レツさんですね!こちらアキさんの携帯です」
電話に出たのはアキの助手、ライトだった。忙しげな声。
低く唸るような検査機の稼働音も聞こえてくる。
「久しぶり、ライト君。いきなりごめん。実はアキさんと会って話がしたいんだ。
クローム・ドラゴンについて妙な噂を聞いて……20分ほどでいいからアポを取れないか」
「ちょっと確認してきますが、あまり期待しないでください」
「忙しそうだな、すまない」
アキは主に龍族を研究している科学者だ。かつてはヴォイドに所属し、
クローム・ドラゴンの研究にも携わっていた。クローム・ドラゴンの頭を持つ生体兵器に
ついても、何か知っているかもしれない。子供たちの居場所に繋がる情報を得られると
良いのだが。
数十秒ほど保留音のメロディが流れたところで、再び電話がつながった。
「もしもし?」アキの声だ。
「アキさん、お久しぶりで……」
「やあ。10分後、ショップエリアでいいね?」
「え!あ、はい!ありがとうございま……」
「よし、では後でね」
通話終了。無駄話を嫌う人ではあるが、今日は特に忙しいのだろう。
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無理に時間を割いてもらったようだし、遅刻はできない。おれはそそくさとショップエリアへ
向かった。モニターでは夕方のニュースが流れている。昨夜の市街地での戦闘が大事に
なっていないか少しハラハラしたが、そのような気配はないようだ。
モニターの方向を眺めていると、歩いてくるアキの姿が目に入った。
電話をしてから5分も経っていない。早めに来ておいてよかった。
「お久しぶりです、アキさん。忙しいのにありがとうございます」
「いや、構わない。君から造龍の話とあってはね……で、妙な噂というのは?」
挨拶もそこそこにといった所だが、話が早いのは助かる。
クローム・ドラゴンの頭を持つ生体兵器について、おれはあくまで「目撃の噂を聞いた」
という体で話した。アークス本部にマークされた状態で、この目で見たというわけにはいかない。
「造龍の頭、全身に羽毛と装甲……ああ、心当たりはあるよ」
「!……本当ですか」
思わず身を乗り出してしまった。
あの化物を生み出した研究者の情報も聞き出せれば、誘拐された子供たちの
居場所の大きな手掛かりとなる。おれは不自然でない程度に質問してみることにした。
「噂の化物、実在するんですね。いや、今後討伐任務が下されたときに備え、情報収集をと……」
「そういうことか。だが討伐任務は無いと思うがね」
「おそらくそれは『造龍兵』。ヴォイド開発の生体兵器だね」
ヴォイド開発の生体兵器。昨夜、キリクと名乗るキャストも同じことを言っていた。ビンゴだ。
「兵器……ですか。それは一体どういった……」
おれはなるべく意外な様子を見せて相槌を打った。我ながら白々しい。
アキは造龍兵について説明してくれた。「造龍兵計画」…あの化物は兵として効率的に
運用するため人間サイズに成長するよう遺伝子操作されたクローム・ドラゴンだという。
攻撃力を高めるため、獰猛な原生生物の遺伝子も組み込んであるらしい。
「全く悪趣味な研究さ」とアキ。同感だ。
「ただ、あの研究は凍結されていた筈だ。しかし、造龍兵を目撃した噂が流れているのか……」
「計画再始動、ですかね」
うなずくアキ。造龍兵は高い攻撃力を持っていたが
兵としての制御に難儀したという。
「恐らく再開した実地テストの様子を目撃したアークスがいて、それが噂になったのだろう」
もちろん実際には噂など流れていない。
情報を聞き出すため嘘を言うのはモヤモヤするが、四の五の言ってもいられない。
造龍兵計画とやらを再始動した研究者の情報を聞き出さなくては。
数秒黙考していたアキがやや苛立った表情で口を開いた。
「研究再開ということは……よくない状況だな」
「造龍兵は制御が難しかった。私も……ヴォイド勤務の頃稼働実験を見たが、
動きは単純でナベリウスの原生生物と変わらないレベルだったよ。」
「それじゃ兵として使うのはちょっと無理ですね」
「ああ。だから当時……兵隊としていかに動きを制御するかが課題になってね」
アキの表情が曇る。相当嫌な思い出だったらしい。
「効率的な統率を可能にする制御装置が作られたんだが……部品に人間の脳を使っていたんだ」
なかなかエグみの強い話になってきた。
部品にされた脳は長時間の運用に耐えられず焼き切れてしまったらしく、結局はそれをきっかけに
一旦研究は凍結となったそうだ。
「造龍兵計画の再開。あの制御装置に取り付けるために、また誰かが脳を取られる
ことになりかねないな」
吐き捨てるように言うアキ。
頭をよぎった嫌な予感。おれは言葉に詰まってしまった。
相次ぐ市民襲撃の犯人は「優秀な子供」を誘拐している。
そこに「造龍兵計画」と「人間の脳を組み込んだ制御装置」。
襲撃の首謀者は造龍兵計画の再始動を進める研究者で……
脳を取り出して制御装置の部品にするために子供を誘拐している、ということではないだろうか。
「人間の脳を……誰なんです、そんな制御装置を創り出した研究者は」
「無論、ヴォイド所属の……む、タイミングがいいな。彼だよ」
アキはニュースの流れるモニターを指さした。
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モニターで流れているのは最近話題の「ハーフキャスト化技術」特集。
心肺のみ機械化することで、脳機能を活性化させる技術だ。主任研究者の男性が
インタビューに答えている。
苦虫を噛み潰したような表情のアキ。
「彼はファウ・タオーノス。あのインタビューでは一般のキャスト技術研究者と
されているが、ヴォイド所属の上級研究員だよ」
「私とは担当分野が違うから、面識はないが……造龍兵計画にご執心のようでね。
人間の脳を使った制御装置を開発したのも彼さ」
ファウはリポーターの質問に対して笑顔で気さくに答えている。
「知の極致へ至りたい人に、大きなチャンスを与える技術です。
高いコストが問題となっていますが、将来的には……」
穏やかな話口だが、
その表情にはどこか余裕のない、無理やり微笑んでいるような、そんな危うさが感じられた。
顔が笑ってはいるだけに、何とも不気味だ。
アキと顔を見合わせ、おれは眉根を寄せた。
「ああは言ってますが……同時に人間を部品として扱っているかもしれないんですね」
昨夜の化物の正体は「造龍兵」。そして人間の脳を使った制御装置。それを創り出した
ヴォイドの上級研究員「ファウ・タオーノス」……彼はハーフキャスト化技術の主任研究者。
襲撃の首謀者はファウである可能性は高い。誘拐された子供は皆ハーフキャスト化手術の
予定があった。優秀な脳の持ち主として目星をつけ、襲撃を命じて誘拐した……ということか。
まだ推理の範疇を出ず、確かな証拠がある訳ではないのだが……
アキの表情は暗い。
「文句の一つも言ってやりたいよ。彼の居場所も連絡先もわからないから無理だけどね」
ファウの研究所の所在地まで聞き取ろうと思ったが、さすがに無理か。
あくまで一アークスのおれがヴォイドの研究者の所在を知ろうとするのも不自然だし、仕方ない。
「造龍兵のこと、教えて貰ってありがとうございました。討伐任務は無いですね」
「アークスの兵器だからね。また龍族関係で何かあれば、いつでも聞いておくれよ」
礼を言うと、アキは携帯端末で電話をかけながら小走りで去っていった。
作業の進捗についてライトをどやしているようだ。気の毒な助手君。
市民襲撃の目的はだいたいわかってきた。造龍兵の制御装置には人間の脳が必要。
造龍兵計画の再始動にあたって、脳を集めるために優秀な子供を持つ家族を狙って襲撃、
子供を誘拐したのだろう。どの襲撃でも両親は殺害されていたが……面倒事を無くすために
消した、といったところか。
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このままでは子供たちは脳を取り出されてしまう。
しかし、首謀者と考えられる「ファウ」の情報が足りない。元ヴォイド所属のアキでさえ、
研究所の所在地はおろか連絡先もわからないのだ。レイブンドライバーがあっても殴り込む先が
分からなければどうしようもない。焦燥感と絶望感に鼓動が早まる。
気持ちを落ち着けるためにカフェへ向かおうとしたところで、携帯端末の呼び出し音が鳴った。
「情報通」姉妹のティア(妹の方だ)からの電話。おれは深呼吸し、平静を装って電話に出た。
「もしもし、どうかしたか」
「お疲れ様。えーと、そう。ナウラの新作スイーツを買い過ぎてね。少しもらってくれないかな」
お菓子のおすそ分けにしてはシリアスな声色に感じる。
「丁度甘いものが食べたかったんだ。今なら、ショップエリアにいるけどどうする」
「よかった、すぐにいくね。ついでに少しおしゃべりする時間、あるかな?」
何か話があるのかもしれない。
襲撃の件についてだろうか。どちらにせよ、カフェは後だ。
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ショップエリアで待つこと数分。後ろから右肩を叩かれた。
パティが指で頬を突こうとしていると予想したおれは、左回りにぐるりと振り向いた。
目の前には指を突き出したパティと呆れ顔のティア。
「お疲れ。お菓子を買い過ぎたって?」
「そうなの。はいこれ、ナウラの新作クッキースティックシュー」
ティアが手にした箱から棒状のシュークリームを取り出し、手渡してくれた。
「生地がサクサクで美味しいよー!……10本は多かったけど」とパティ。
「1本食べて美味しかったからってパティちゃんが調子に乗って
箱入りセット買ったら、賞味期限今日までで……」
「ティアだって止めなかったじゃん!あたし5本は食べたし!」
「なはは、ありがとう。いただくよ」
漫才じみたやり取りに、少し気持ちが和らいだ。
シュークリームを齧ると心地よい歯ごたえの生地からクリームがあふれ出てくる。確かに美味い。
「で、おしゃべりしたいんだったっけ」
パティとティアの表情が揃って少し強張る。
「昨日話した市民襲撃のことで、知り合いから情報が入ってね」
「ニュースになってないけど、昨日アークスシップ17番艦のタイレル大学寮が
ダーカーに襲撃されたみたい」
昨夜の戦闘を誰かが目撃していたのだろうか。頬張ったシュークリームの味がなくなった。
とりあえず初耳、という体で話を聞くことにしよう。
「また襲撃があったのか。今回も子供が行方不明に?」
「今回、被害に遭った人はいないみたい」
「でもね、人型の化物と装甲服を着た人が戦ってるところを目撃した、
なんて話も出ててね、ちょっとした噂になってるんだよ」
やや興奮した様子のパティ。化物と戦う装甲服……多分、昨夜のおれだ。
「噂が気になって、17番艦の警備に志願して調査しようと思ったんだけど」
「17番艦だけ募集がないの!今日から向こう1週間ずっと!」
襲撃や人型の化物……そんな噂が流れている艦だけピンポイントで警備の募集を無くしたのは、
アークス本部が隠したい何かが17番艦にあるからだと考えているらしい。
「襲撃の件で、17番艦?に何かあるかもしれないのか」
おれは腕を組んで頷いた。我ながら白々しい。今日はこんなことばかりだ。
「その可能性は高いと思う。でもこの件は……深入りすると危ないかも」
「そうそう、今日はそれを伝えたかったんだ。シュークリーム買い過ぎたのもあるんだけどさ」
「ダーカーの襲撃があったのに報道は無し。警備任務の募集も停止して……
一般のアークスを遠ざけようとしてるよね、明らかに」
「最近続いてた襲撃にはアークス本部も一枚噛んでて、本部はそれを隠そうとしてるのかも」
アークス本部は秘匿情報に触れたものに容赦がない。パティとティアはこれ以上の
調査はやめておくらしい。
「きみも気を付けてね。命あっての、ええと何だっけ」
「物種でしょ。でも、気を付けてほしいのはその通り」
流石の推理力。引き際の判断も手馴れている。伊達に情報通を名乗ってはいない。
「わかった、そうだな。市民襲撃は不気味だが……関わらないほうがいいのかもしれない」
おれは貰ったシュークリームを平らげ、礼を言って二人と別れた。
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パティとティアに対してはああ言ったものの、誘拐された子供たちが
脳を抜かれようとしている可能性が高いのだ。引き下がる気にはなれない。
さらに有力な情報も手に入った。向こう1週間、17番艦は警備任務の募集がないらしい。
17番艦には昨夜化物と戦ったタイレル大学寮があり、そこにはハーフキャスト化手術を
受ける予定の少年……ニュースでインタビューに答えていた「天才少年」が入寮している。
昨夜捕らえ損ねた彼を誘拐するために、キリクの部隊が再び現れるかもしれない。
そしてキリク達に襲撃を命じているのが……おそらく「ファウ」だ。
昨夜に続き、またタイレル大学寮で張り込みだ。
もし、キリクの部隊が襲撃に現れたら……レイブンを装着して奇襲・撃破し、
子供たちの居場所を吐かせる。そしてキリクはテレパイプガン……撃った対象を指定した地点に
転送できる道具を持っていた。奪うことができれば、ファウに監禁されているであろう
子供たちを安全に逃がせる。
昨夜戦った化物……造龍兵の動きは直線的で、原生生物と変わらないレベルだった。
恐らく制御装置はまだ完成しておらず、子供たちはまだ無事だろう。ただ、一刻の猶予もない。
おれはマイルームに戻ってレイブンドライバーを取り出し、再びアークスシップ17番艦市街地へ
向かった。
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仮面ライダーレイブン 第2夜 終わり。第3夜へ続く。