仮面ライダーレイブン 第3夜 第1幕
パティ達と別れて数時間後の19時過ぎ。
おれはアークスシップ17番艦のタイレル大学寮付近まで、レンタカーでやって来た。
見覚えのある郊外の住宅地。周囲を見回すと、寮の方向へ歩いていく若者がちらほら。
大学から帰宅する学生達だろう。
続いて目に入ったのは、仰々しい装甲服を装備した戦闘員達だった。
驚いたおれは思わず二度見した。フルフェイスタイプのヘルメットを
装着しているため昨日と同一人物かまではわからないが、
纏っているのは昨夜この場所に現れた戦闘員たちが装備していた装甲服だ。
警備をするような様子で巡回しながら、学生とすれ違うと会釈までしている。
後方には赤い体色のキャストが指揮を執っている姿も見えた。
……間違いない。キリクだ。
件の天才少年の誘拐を阻止しつつ、キリク達に首謀者の居場所を吐かせようと
ここまで来たわけだが……
奴らがこうも早く現れるとは。張り込みの手間が省けたのはありがたいが、
状況が掴めない。少し情報収集が必要だ。
寮に住んでいる学生たちはこの状況について何か知っているかもしれない。
彼らに話を聞いてみるとするか。
おれは念のため、一般市民らしい服に着替えてから車を出た。
キリク達に素顔を見られているわけではないが、アークス然とした格好をした男が
うろついていたら怪しまれそうだ。
おれは道を尋ねる体で、近くを歩いていた青年に声をかけた。
「すみません、タイレル大学寮はこっちの道で合ってますか?
友人の忘れ物を届けなくちゃで……」
「ええ、このまままっすぐ行けばすぐですよ」
……青年はあまり警戒せずに受け答えしてくれた。少し話ができそうだ。
「よかった、ありがとうございます。ところで……すごい装備の警備員さんですね」
「きのうダーカーの襲撃騒ぎがあったんですよ。
アークスの特殊部隊が暫く夜通し警備するらしいです」
「ダーカーが……それじゃ今日は不安ですよね」
「そうなんです。怖いからしばらく実家で寝泊まりしようと思ったんですけどね、
寮生は外泊禁止と言われまして」
キリクの部隊は警備の名目で寮の周辺を巡回しているらしい。
加えて寮生は外泊を禁じられている。……不自然だ。
彼らが寝静まったころに寮内へ侵入し、昨夜誘拐し損ねた少年を
確実に連れ去るつもりだろうか。
見る限り、戦闘員の数は全部で4人。拠点としている装甲車は小型で、控えの人員は
いないようだ。レイブンを装着して奇襲すれば撃破できる規模の部隊だろう。
ただ、今はまだ人目がありすぎる。事を始めるにはまだ早い。
おれはこの後の戦闘に備え、隠れやすい場所をチェックしながらレンタカーで
周辺を見て回ることにした。自然公園の藪や立体駐車場など、
隠れられる場所はそこそこあるようだ。
___________________________________
隠れ場所に目星をつけつつ、戦闘の下準備を進める。
おれはレイブンドライバーから「フェザーダート」を取り出して、
街路樹の幹や路地裏など目立たない場所に2本ほど刺しておいた。
フェザーダートは通信妨害機能を持つ投げナイフ。起動させればキリク達の通信を
妨害して連携を乱し、増援を呼ばれることも防げるはずだ。
22時を過ぎると寮周辺はすっかり静かになった。
キリクは装甲車で待機しているのか姿が見えないが、戦闘員達は巡回を続けている。
誘拐へ向けた作戦行動が始まれば、戦闘員が固まって動いて奇襲をかけづらくなる。
人の気配が無い上に戦闘員が単独で行動している今の内に、動き出した方が良いの
かもしれない。
おれは隠れ場所としてチェックしていた、立体駐車場へ向かった。
地下にも駐車スペースがある5階建ての駐車場……行動開始ポイントにもってこいだ。
戦闘員たちの目に触れない地下の駐車スペースでレイブンを装着してから、
上階へ移動して奇襲の隙を窺うとするか。
地下の駐車スペースへレンタカーで入場すると、車はほとんど止まっておらず
場内は静まり返っていた。
レイブンドライバーを取り出して腰に当てると、鼓動が徐々に早まってくる。
……行動を開始すれば、本格的にヴォイドに盾突くことになる。もう後には戻れない。
だが、放っておけば誘拐された子供たちが脳を取り出されてしまうかもしれないのだ。
覚悟を決めて動き出さなければ。
______________________________________
気持ちを落ち着かせようと深く息を吸ったところで、
カツン、カツン、という硬く無機質な音が場内に響き始めた。
装甲服を思わせる金属質な音。これはおそらく足音だ。
戦闘員が一人、こちらへ向かってきているのかもしれない。
勘付かれたか?同じ車が寮周辺をうろついていたのが怪しかったか。
……迷っている場合ではない。おれはレイブンドライバーの装着ボタンを押した。
[Cover up… Raven…Complete]
くぐもった電子音声と共に青黒いもやが立ち込め、
おれの全身にレイブンスーツが装着された。マスクの望遠機能を作動させ、
車の窓から外を確認すると、ライフルを構えてこちらへ歩いてくる戦闘員の姿が見える。
やはり怪しまれていたようだ。この閉鎖空間で増援を呼ばれるのはまずい。
[Jamming system start up…active]
おれはフェザーダートの制御デバイスを取り出してトリガーを引き、通信妨害機能を
作動させた。これで敵は、無線で連絡を取りあえなくなるはず。
どうやら事前に仕掛けたフェザーダートのナイフはしっかり機能しているようだ。
戦闘員は通信機能の異常に気付いたらしく、戸惑った様子で手元の通信端末を
確認している。戻って増援を呼ばれても厄介だ。このまま何もさせずに倒してしまおう。
おれは続いて「クロウバレット」を取り出し、攻撃用の弾丸を装填した。
次は敵の視覚を奪う。視覚を奪うには……光を奪えばいい。
おれは車外へ出て、間髪を入れずに照明を次々に撃って破壊していった。
たちまち場内は闇に包まれたが、レイブンには暗視機能が搭載されている。
面食らっている戦闘員の姿も丸見えだ。
敵もヘルメットの暗視機能をオンにしたようだがもう遅い。
「レイブンヤイバー」を抜いたおれは一気に跳躍し、敵を正面から斬り付けてやった。
「グァッ!」
斬撃は胴体に命中した。戦闘員は短い叫び声をあげ、その場に崩れ落ちる。
直後、倒れた戦闘員の装甲服から煙が噴出した。レイブンのアーマーには水滴が
付着している。高温の蒸気だったようだ。拘束用のスタンモードで
斬り付けたことで強烈な電流が流れ、装甲服の冷却機能が誤作動したのだろうか。
「よし、まず1人」
倒れた戦闘員を地下駐車スペースの隅まで引きずり、万一回復しても
すぐには動けないよう手錠とワイヤーで手足を拘束しておいた。
(戦闘員の持ち物を拝借させてもらった。)
残る敵は戦闘員3人とキリクだ。うかうかしていると敵が固まって
動き出すかもしれない。襲撃の首謀者の居場所を尋問するのは、
敵全員を無力化させてからの方が良いだろう。