白い部屋の亜人   作:匿名希望

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亜人ということはもちろん『アレ』も使えます


実験結果

 

 

 

 忍の訓練が終了してから8時間ほどが経過し、時刻は午後11時。

 

「どうだ。今までとは毛色の違う訓練だが、結果は」

 

 20枚ほどの定点カメラの映像が流れる薄暗い部屋で、男・綾小路篤臣は研究員に問いかける。

 この、設計図にも載っていない隠し部屋は、ホワイトルーム内でも最も高いクリアランスを持つ職員のみが存在を知ることを許された部屋だ。

 訓練の映像や、忍に付けた生体センサーから送られてきたデータを見ながら、研究員は自分の上司である綾小路に返答した。

 

「素晴らしい結果です。総戦闘時間はものの9分、月城先生にこそ先手を打たれ一度死亡しましたが、実際に同じ状況が発生した場合全くの無傷で制圧できるでしょう」

 

 そう。今回忍が相手にした16人の精鋭部隊は予め自らが襲われることを知っている。訓練のため当たり前だが、それでも実践を想定して訓練で即座に15人を無力化出来る人間は、世界中探してもそう居ないだろう。

 

「では撃たれた時の心拍数や脳波の変化はどうだ」

 

「ほとんど変化しておりません。痛みこそ脳波の反応から感知できますが、それが彼にとって心理的な負担には一切なっていない事は明白でしょう」

 

 膝をライフルで打ち抜かれ、その後ナイフで首を切る。いくら死んでも復活できるとはいえ全く痛みに臆する事ないのは生物として異常だと言える。それは綾小路にとっては都合の良い事だった。

 しかし、その映像を見て思うところがあったのか、小さく唸ったのちに腕を組む綾小路。

 

「な、何か気になる点でも?」

 

 そんな小さな動作だったが、研究員は恐る恐ると言った様子で聞き返す。

 綾小路という男が、この場所においてどれだけ恐れられる存在かがよく分かるやり取りだった。

 

「……いや、前回よりも感情が豊かになっている気がしてな。そもそもこの施設の子供が教官と会話をすること自体がイレギュラーだ」

 

「不満ですか綾小路先生? 作戦行動を行う上でコミュニケーション能力は欠かせませんよ」

 

 その時、綾小路の後ろの扉が開き、1人の男が入ってくる。

 その男は、今モニターに映っている人物でもあった。

 

「月城か。いいや、その点に関しては不満はない。以前お前から説明を受けたときに納得している」

 

 月城と呼ばれた男はその回答に満足そうに笑みを浮かべ、近くの椅子に座り込んだ。

 

「改めてみると、やはり面白い子ですよ。忍君は」

 

「面白い? お前がそんなことを言うとはな」

 

 心底意外だと言う様子で月城に目を向ける綾小路。

 

「ええ。この環境で、そしてあの体質。最近予算の羽振りも良くなったことから推測するに、綾小路先生は忍君の内臓でも売りさばいているのでしょう?」

 

「……さぁな。だが、忍は既にありとあらゆる方法での死亡を経験している。ちょっとやそっとじゃ精神が崩壊することは無い」

 

 忍の死亡のうち500近くは綾小路の実験によるものだ。

 圧死、餓死、窒息死、溺死、焼死、凍死、失血死、毒死等、種類を挙げればキリがないが、そこから得られたデータは間違いなく綾小路が亜人をどう運用すべきかの指標の元となっていた。

 

「俺の見立てだが、高度な戦闘訓練が施された亜人が4人もいればこの腑抜けた国を落とすことが可能だろう。そしてこれから先、世界情勢は国が亜人をどれだけ所持、その生態について解明しているかで大きく変わる」

 

 その言葉によほどの自信を持っているのか、綾小路は一切揺るがない瞳をモニターに向けていた。

 

「そのための先行研究とでもいうべきでしょうか。それにしても、やはりあなたは運がいい」

 

「世事は辞めろ。それに、忍にはもう一つ重要な役割があることを忘れるな」

 

 穏やかの表情を浮かべ語る月城に一言否定する綾小路。そしてもう一度月城に強く言い放った。

 

「もちろん。先生のご子息、『清隆君をその身を挺して守ること』ですよね?」

 

 そう。忍の重要な役割というのは、いずれ政治家として日本を手中に収める綾小路清隆のボディーガードだった。忍は、常日頃から『お前は清隆を守れ』と言われて育ってきた。

 彼が6歳の頃に亜人と判明してから、今までの6年間で刷り込みの様に言われ続けた言葉だ。

 

「いくら最高傑作と言われようが、清隆は普通の人間だ。……死なない限りは亜人ではないという確証はないが、殺してそうじゃなかったらただのお笑いだ。他に判別する方法があれば良いのだがな」

 

 血のつながった息子ですら、必要に駆られたら殺すことを厭わない綾小路。そこまで彼が叶えたい野望とは一体何なのだろうか。

 

「その点で言えば、彼が清隆君と同じ4期生なのは都合が良い。現状残っているのは彼と清隆君の2人、奇妙な友情が生まれてもおかしく無いんじゃないですか?」

 

「はっ、清隆に限ってそうはならないだろう。待機所での様子を見る限り親しくはしているが、清隆にとっては表面上だけだ。尤も忍側はその限りじゃないと思うがな」

 

 たった1人の同期、そして守るべき相手にすら何とも思われていないと断言する綾小路。

 月城は、その忍の余りに報われない人生に少なからず憐憫の意を覚えた。

 

「明日も訓練だ。お前も格闘でこっぴどくやられたようだな? 明日も長丁場になる。今日はもう休め」

 

 ホワイトルームに所属している職員とは違い、月城は外部の人間の為、開いた予定を練ってこの訓練を行っている。

 何故わざわざそこまでやるのかと聞かれたら『将来性の為』と答えるだろう。それほど彼にとって綾小路とその傘下の人間たちは期待が持てるものだった。

 

「そうさせてもらいます。……私も年でしょうか? もう一対一では勝ち目がありません。全世界を探しても、素手で彼を倒せる人間がどれほど居るでしょう」

 

「居ないだろうな。清隆ですら格闘の訓練では勝てない。文字通り血のにじむような努力の成果だろう」

 

 亜人というのは、死ねば体が健康な状態で復活する。例えば体内に銃弾が突き刺さったままでも復活と同時に分解される。これは()()()()()()()()()()()()だ。

 忍はこの特性を利用することにより、亜人であることが判明してから()()()()()()()()()()()()

 

「正気の沙汰とは思えないがな。あいつは就寝時間となった今でも休まず体を動かし続けているだろう」

 

 方法は簡単。カリキュラムが終わったら自殺、眠くなったら自殺、疲れたら自殺。これを繰り返すのだ。

 これは余談だが、忍に割り当てられた部屋には自殺用のロープが吊るされている。一面白の部屋に吊るされたロープというのは何とも不気味な光景だったと、忍は後に語っている。

 

「正直羨ましくはないですね。さて、私もお言葉に甘えて休ませていただきます」

 

「ああ。ご苦労だった」

 

 そう言って部屋を退出する月城。綾小路はそれに視線を向けることなく、モニターに流れる映像を見続けた。

 ────そこで、1つの違和感に気がつく。

 

「……巻き戻せ」

 

「は、はい」

 

 先ほどから存在感を限りなく薄くしていた研究員に指示を出す綾小路。

 映し出されているのは、忍が敵地に侵入した直後の映像。物陰に隠れて教官をやり過ごす忍の映像が流れているが、綾小路が違和感を覚えたのはそこではなかった。

 

「訓練当時風は吹いていたか」

 

「風ですか……いえ、記録にはほぼ無風となっております」

 

「ここを見てみろ」

 

 そう言って綾小路が拡大させたのは、特筆すべき点は何もない場所の映像だった。砂の道が一面に続いているだけ、忍の居るエリアとかなり離れている。

 いまいち要領を得ない研究員に対し、綾小路は続けて説明をする。

 

「無風だとしたら、砂粒の動き方が明らかにおかしい。これは一体どういうことだ」

 

「……そうですね。しかし映像の乱れではないでしょうか? 20もの映像を同期させているため、時間のずれ等が原因で度々発生します」

 

 その答えが腑に落ちない綾小路だが、現状それを上回る原因を示すことが出来ない為黙るしかなかった。

 

「……そうか。邪魔をしたな。続けろ」

 

 映像を先ほどの場面に戻し、分析を続ける2人。

 

 

 

 ────その様子を彼らの真横から見つめる『人型の黒い何か』が居たのだが、彼らがその存在に気づくことは無かった。

 

 

 




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