朝月は鋼鉄纏う勇者である   作:ミートソースカブトムシ

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お絵描きしたりして遊んでたらいつの間にか時間が経ちすぎてたので初投稿です。



第八話 七人御先

俺が守りたかった物は、大切な仲間達と妻だけだ。

結果的にはもっと多くの人も守ったらしいけど、正直そいつらはどうでも良かった。

身体は言う事を聞かなくなり、戦闘を辞めると次第に腐っていく。

常に血を浴びるほど敵を殺す、そんな戦いから数十年。

人類は当時と同じような状況になっている。

否、海だけではなく、陸が戦場になったという更に酷い状態になっている。

深海ではなく天空から襲来し、文明を食らう白い怪物。

俺の時代にあった兵器は軒並み無効化してくると聞いた時は驚いた。

まぁ、勇者という新しい戦力がいるから、今すぐ人類が滅ぶ、という事は無さそうだ。

しかし、討滅兵装なんてろくでもない兵器をまた持ち出す程度には人類は追い詰められているらしい。

 

「人より頑丈な勇者なら、持ってかれないかもな」

 

そんな独り言を口にした。

既に拓海は強い。

呪いは神樹の加護で弾かれる。

それを抜きにしても、拓海の呪いへの耐性は俺並かそれ以上になっている。

海薙の呪いだってあと三十年程度経てば消えるだろう。

 

「はぁ、今はそんな事を考えてる場合じゃないな」

 

今は目の前の問題をどうにかしなければいけない。

 

「あの清姫とかいう精霊、結構な穢れを残していきやがったな…」

 

拓海が切り札というものを使用した際にその身に降ろした精霊は、拓海の体内に穢れを残していった。

これ程の穢れは精神的に良くない。

連続での使用は危険だろう。

どうにかその事を伝えたいが、穢れに邪魔されて拓海とまともに意思疎通ができない。

それはつまり、戦闘のサポートができないということ。

仕方ない、この穢れが消えるまで待とう。

幸い、拓海はただでやられるほど弱くない。

安心して見殺しにできるというものだ。

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

線が消えなかった。

今までこんなに長い時間見えているのは初めてだ。

頭が痛くて、物に触れれば崩れて、人を見るのが怖い。

一人になりたい。

一人になっても逃げられない。

歩くだけで地面は崩れそうだ。

終末を一気に叩きつける景色は吐き気を誘う。

助けてもらえば良い。

誰に?

この線が見えてるのは俺だけだ。

馬鹿正直に他人に話しても天恐や他の何かとして片付けられるだろう。

 

潰せ。

 

なら、誰にも話さない方が良い。

 

壊せ。

 

思考が分離する。

 

殺せ

 

生きている物を例外無く殺せるこんな眼いらない。

自身の手を目にやり、徐々に力を強める。

深いところに無理やり沈めるように。

病室のドアが開く音がする。

それに構わず、あともう少し、痛みに耐え…

 

「拓海!」

 

手を無理矢理逸らされ、目に光が差し込む。

目の前に広がるラクガキまみれの病室が一瞬見えた。

そして、すぐに瞼を閉じた。

世界を見るのは怖いから、何かの拍子に壊してしまうから。

そこにいるのは誰だろう。

きっと看護師では無い。

この病院の看護師の中にあんな安心する声の人はいない。

聞き覚えがあって、聞いたら安心する声の持ち主。

なら、この目は尚更潰したい。

彼女の線には、死んでも触れたくないから。

 

「離してくれ」

 

観念して瞼を開く。

焦った様子で俺を抑えていた千景は、その手から力を抜いた。

残念ながら、あの程度の圧迫では目に何の異常もなかった。

もっと力強く、躊躇いなくやってれば良かったと後悔する。

 

「何を、なんで……あんな事をしていたの……!」

 

焦りが怒りへと徐々に塗り替えられていく。

初めて千景が怒った顔を見たかもしれない。

 

「べつに、目が痒かっただけだよ」

「嘘……そんな雰囲気じゃなかった」

 

目を潰そうとしていた。なんて素直に言えない。

何も言わない俺を見て、千景は呆れたと言いたげな目でこちらを見る。

溜息の後、押し付けるように何かを渡された。

それは木箱だった。

 

「何これ」

「拓海のお母さんから渡してって言われたのよ」

「母さんが?」

 

心当たりはある。

少し時間が掛かると言われたから数週間後かと思っていた。

不機嫌な千景を横目に箱を開ける。

中に入っていたのはただの眼鏡だった。

黒縁の…ボストンとかいうやつだろうか。

 

「眼鏡…?」

 

千景は不機嫌そうな様子を少しだけ残しながらも、中身が気になっていたのか眼鏡に視線を向けている。

いい加減辛いので、早速眼鏡をかけてみた。

 

「おぉ」

 

視界の線が一瞬にして消え失せる。

いつもは眼鏡をかけて、必要な時は外せば良いということを理解する。

こんな良い物を作ってもらえるのなら、もっと早いうちに相談しておけば良かった。

頭の痛みも引いていく。

 

「目……悪いの?」

 

千景が眼鏡をかけた俺を見てそう言った。

 

「目は大して悪くないよ。いや、悪いと言えば悪いのかな…」

 

はっきりとした言葉が出てこない。

そこから会話は途切れてしまった。

あぁ、そういえばまだお礼を言ってなかった。

 

「郡、ありがとう」

 

千景は一瞬驚いたような顔をし、目を逸らした。

 

「あっ」

 

風が強い。

木箱を包んであった布は飛ばされ宙を舞う。

 

そして、その場に静止した。

 

「「!!」」

 

警告音が病室に響く、スマホに表示される樹海化警報の文字列。

人類の天敵が侵攻してきた合図だ。

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

「一度目の侵攻より数が多いな…」

 

俺と友奈抜きでも負けはしないだろうが、病院を抜け出してきて正解だった様だ。

眼鏡を外して戦闘態勢へと入る。

 

「討滅兵装さえあれば被弾とか気にせず立ち回れるんだけど…」

「油断するな、アレの防御力は期待できないと言われているだろう」

 

叱るように若葉が言葉を綴った。

 

「…そうだね、気をつけるよ」

 

若葉達と比べると頑丈にはなるんだけどな。

思考を切り替える。

不快な死とはおさらばするために、目の前の敵を殺し尽くそう。

 

「おじいちゃん、カーナビよろしく」

 

何も返ってこなかった。

 

「……?」

 

眠っているのか、聞こえなかったのか。

カーナビはうんともすんとも言わない。

そういえば、この前の戦いが終わってからおじいちゃんと話していない。

 

「まぁ、いないならいないでいいけどさ」

 

頭の中で喋られるのはうるさいし気持ち悪い。

いくら祖父でもその不快感は完全には消えない。

刀を鞘から抜き、前を見る。

身体は思考を捨てて動いていた。

線を自動でなぞる殺戮機、華やかな剣筋はバーテックスを確実に一匹ずつ滅していった。

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

迫る敵を手当り次第に葬っていく。

 

「高嶋さん……大丈夫なの?」

 

拓海と一緒にここに来てしまった友奈への心配を口にする。

二人が着いてくると言った時は止めたのだが、結局押し切られてしまった。

 

「大丈夫!みんなが戦ってるのに私だけお休みなんてできないよ!」

 

それを聞いて、思わず口元が緩んだ。

 

「おー、ぐんちゃんが笑った!今日は緊張してないね!」

「ええ……前みたいな醜態は晒さないわ……」

「うん!よ〜し、それじゃバーテックスなんて全部倒して、四国を守るよー!」

 

バーテックスの方へと向き直し、武器を構える。

恐怖は無い、戦う理由はハッキリしていて、身体は前みたいに震えてない。

 

(……私が一番多く殺して……一番勇者として活躍する……)

 

理由は明白。

郡千景という人間は…

 

(私は……勇者だからこそ価値がある……)

 

人々を守り、バーテックスを討つ勇者だからこそ、私は賞賛され、愛される。

しかし、それ以上に私を駆り立てる動機があった。

 

(私が頑張れば……きっと拓海はまた私を見てくれる)

 

脳裏に浮かぶ彼の顔、抱きしめあった時の温もりをまだ覚えてる。

それを知ってしまったのだから、無価値な自分に戻りたくない。

拓海がこちらを見てくれるなら、私はなんだってやってやる。

数体のバーテックスが融合を始める。

進化体を生み出そうとしているのだ。

 

「アイツは…私が殺す……!」

 

体の内側に意識を集中させ、神樹の持つ概念的記録にアクセスする。

そこから力を抽出し、自らの体に宿す───────

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

融合して新たな形態となったバーテックスは元の姿の口部分だけを残して巨大化したような形をしていた。

捨てていた思考が緊張によって戻ってきた。

アレと俺とじゃ相性が悪い、殺す前に殺される。

討滅兵装無しの俺では、為す術なく。

 

「デカくなっただけ……か?」

「どうなんだろ……?」

 

球子と杏が警戒しつつ、動向を窺う。

次の瞬間、進化体の巨大な口から、無数の矢が射出された。

流星の如く矢が球子達に降り注ぐ。

 

「うわあああああああ!」

 

慌てて球子は旋刃盤を楯形状にして、自分と杏を守った。

 

「この…!!」

 

海薙を進化体へ投げつける。

進化体の表面に突き刺さり、注意はこちらに向いた。

頬を伝う冷や汗、背中に抱きつく悪寒。

勇者となったことで極限まで研ぎ澄まされた五感は直後の死を予感していた。

矢の射出量は杏のクロスボウの比ではない。このままでは剣山のようになってしまうだろう。

得物を失った俺に、死神は微笑んでいた。

 

無論、それを覆してこそ勇者というもの。

 

「進化体の攻撃も防げるか知らないけど……」

 

鞘を地面に突き刺し、結界を貼る。

それは矢の射出とほぼ同時だった。

矢の雨が着弾と同時に弾かれていく。

 

「これなら…!」

 

防ぎきれる。

そう考えた瞬間の出来事だった。

 

───────パリン

 

結界を矢が貫通した。

掠った頬から熱い液体が漏れる。

 

「っ!!」

 

限界が近い、手応えを感じたからか進化体は攻撃を辞める気配が無い。

万事休すとはこの事だ。

身体に穴が増えていく。

結界が完全に破壊されるまで残り数秒もない。

白い影が結界の外を走る。

結界が割れた。

しかし、それにトドメを刺したのは矢ではない、身体を暖かく包むなにかだ。

背中を矢に貫かれながらそのなにかは俺を庇う。

認識が遅れる。

だと言うのに、身体はそれが何者なのか理解していた。

 

「千景…?」

 

血に塗れた彼女は俺の盾になっている。

背中は剣山のように矢が刺さり、もう助からない事は明白だ。

彼女は俺の体を押し出し、巨大な蔦から突き落とす。

 

「……待って…てね」

 

血を吐きながら彼女は言葉を紡ぐ

 

「ぐんちゃああ────ん!!!」

 

誰かが叫んでる。

きっと千景の惨状を見て叫んだ。

あの傷だと助からない。

どうしたら良い。

無駄だと分かっていても、思考を止められない。

切り捨てられない。

地面と激突する。

 

「ぐっ…!」

 

身体を痛みとは別の何かが迸る。

ドロリとした気持ち悪い物。

頭が痛い。

死を悔やんでる暇はないと自分に言い聞かせる。

 

初めて自分を殺した。

怒りで我を忘れないように、助けてもらった命を無駄にしないように。

でも、せめて仇は取らないと。

 

「はぁ───────」

 

古くなった空気をこれでもかと吐く。

跳躍して蔦の上に立った。落下を無かったことにする事など今の俺には造作もない。

違和感。

そこにあるはずの物が無い、

彼女は既に動ける状態じゃなかったはずだ。

まるで神隠しにでもあったみたいに、そこにあるはずの死体は消失していた。

あるはずの物がないなら、何か勘違いをしているはずだ。

例えば…

 

「千景は生きてる…!」

 

バーテックスへと視線を向ける。

そこに広がる景色に驚きを隠せなかった。

なぜなら、千景が進化体へと特攻していたからだ。

それだけではない、よく見てみれば、千景は一人ではなく七人いる。

幻などではない、確実に俺の眼は七人全員の死を捉えている。

つまり───────

 

「全員、本物か」

 

七人の内、数人が撃墜されるが、すぐに消滅し新たな千景が現れる。

しかし、七人からは増減しない。

おそらく今の千景は七人を同時に屠られない限り不死身だ。

無数の矢を掻い潜り、十数人の千景を撃墜されても、千景は構わず突き進む。

確かに無数の矢を射出するのは確かに脅威だ。

真っ向からでは少なくとも討滅兵装無しの俺では勝てない。

しかし今の千景は違う、真っ向から勝負を仕掛けて確実にあのバケモノに勝てる。

七人の千景が大鎌を振りかぶり、振り下ろす。

七箇所に同時攻撃を受けた進化体は、バラバラに砕け散り消滅した。

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

前回の戦いから数日後、やっと退院出来た俺は訓練場へと向かう。

その道中、同じく退院した友奈とバッタリ遭遇してしまった。

 

「拓海くんおはよー!って、メガネかけ始めたの?見せて見せて!」

「嫌だ、なんか壊しそう」

「そんなことしないよー!」

 

友奈が心外だと訴えるように頬を膨らませる。

 

「拓海くんも自主訓練しに行くの?」

「うん、この前の戦いで役に立てなかったから」

「え?そんな事ないと思うけどな〜」

 

友奈は気を使ってくれているのか、それを否定した。

 

「いや、あれじゃ駄目だ。もっと頑張らないと」

 

前回の戦いで、俺は千景のおかげで死なずに済んだ。

それだと駄目だ。

俺が足を引っ張る事で、誰かが死ぬかもしれない。

血塗れになった千景の姿が頭をよぎる。

あの光景を見ることが無いほど強くならなくちゃいけない。

もう二度と、千景のあんな姿を見たくないから。

 

───────いつの間にか訓練場に着いていた。

入口から人影が見える。

 

「郡…」

「えっ?ほんとだ、ぐんちゃーん!」

 

気がついたのか、大鎌を振るうのをやめてこちらに目を向ける。

友奈は俺の手を掴み、千景の元へと駆け寄る。

 

「拓海に高嶋さん……病院は……?」

「今日やっと退院できたんだ。入院してる間、本当に退屈だったぁ!あと、樹海化してる時に病院を抜け出してたこと、しっかりバレてた……。それが無かったら、もっと早く退院できたんだけど……」

 

友奈は肩を落としてため息をついた。

 

「ところで、ぐんちゃんは自主訓練中?」

「うん……強くなりたいから……」

 

自分から訓練を行う事がなかった彼女が、どういう心境の変化で訓練に積極的になったのだろう。

 

(まぁ、良い事だし気にしなくていっか)

 

「友奈、そろそろ手、離してくれない?」

「えっ?あっごめん!」

 

パッと手が解放される。

友奈は両手をパチンと合わせて頭を下げた。

そこまでしなくていいのに…

とりあえず、これでやっと訓練ができる。

そう思ってそこを離れようとすると、誰かが俺の手を掴んだ。

 

「……郡、どうしたの?」

 

その正体は千景だった。

 

「手が冷えたから……」

「いや郡の手、俺の手より暖か…」

「手が冷えたから」

「……はい」

 

思わず気圧される。

振り払おうにも、千景の手は俺の手をがっちりと握って離さない。

掴まれてない方の手がひんやりとした物に覆われた。

 

「ほんとだ!言われてみればあったかい!」

 

友奈にも手を握られ、訓練しようにもできなくなってしまった。

 

(訓練したいんだけどなぁ…)

 

とても言い出せる雰囲気ではない…今はこのままでいいか。




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三ヶ月以上失踪してすみませんでした。
次は多分三百年後です。
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