「よし、討滅兵装と勇者装束の同期完了、ついでに討滅兵装の調整もだな。これでお前さんはいつでも全力を出せるし、いつかの戦闘みたいにガス欠が起きたりはしない」
「そうですか」
討滅兵装と勇者装束を同期したことにより、これからはアプリを起動して勇者装束を纏う時、同時に討滅兵装も着いてくるようになった。
また、スラスターのエネルギーも神樹様から供給されるので継戦能力が大幅に上がっている。
(こっちは命をかけて戦っているんだから、もっと早くこうして欲しかったな……まぁ、前回の戦いの後に文句は言ったからいいか)
そう考え、自分を納得させた後、中山の様子が少しおかしい事に気づく。
どこか申し訳なさそうに、言いづらそうにしている。
「どうかしましたか?」
「この前話してた装備追加の話、覚えてるか?」
前回の戦いが終わった後、討滅兵装を強化する為に装備を追加できないか、拓海は中山に聞いた事がある。
その時は「俺だけじゃ判断できんから、この話は持ち帰ってみる」とその話を切り上げた。
「その装備についてなんだが…ハッキリ言って、今そんなものを作ったり整備する余裕は俺らには無い…すまねぇな」
拓海が予想してた通りの答えだ。渚は追加装備としてパイルバンカーやら滑腔砲を背負って出撃していたと話を聞いたのだが、それはまだ人に余裕があり、装備が有効だった時の話。
バーテックスに蹂躙された人類にそれを用意する体力は残されていない。
それに、大社の本音としては効くかどうか分からない装備にコストはかけられないということだろう。
「分かった。まっ、どうにかなるよ」
討滅兵装は勇者の機動力を補う物だ。
使用目的はそれ以上でもそれ以下でもないのだから、今のままでも問題は無いだろう。
鉄と油の臭いばかりの部屋を去り、食堂へ向かう。同期させた装備が正常に稼働するかをテストするために二時間は付き合わされた拓海はそれで体力を消費したのか、空腹を身体が訴えている。
都合良く、部屋から出る時に昼休みが始まった。
このまま食堂へと向かい始めた。
いつもより長い廊下を重い足で歩いていく。
カツン、カツン、カツン。
足音だけが耳に入る。
この静かな時間は嫌いだ。
何をするにしても、静かすぎると余計な事を考える。必死に考えないようにしても、その余計な物は口から出てきてしまった。
「俺、何のために戦ってんだろ」
それは眼鏡をかけてから定期的に考える事だった。
前までは視界の異常で考える余裕が無かったが、今は違う。視界の異常を抑える眼鏡を手に入れてから、ふとした時に余計な事を考える。
『お前、なにか目的を作った方がいいぞ。流されながら戦ってると、倒れた時立ち上がれない』
渚が言った言葉が頭をぐるぐると周回する。
ただ斬り捨てればいいものをいつも考える。
人類のため?勇者としての使命?どれもあまり納得できない。
いつも流されて戦っている。他の勇者は少なからず何かの為に戦っているように見える。
「───────こんなんじゃ駄目だ…こんなんじゃ…いつかまた足を引っ張る」
脳裏に浮かぶのは血塗れの千景、それは自分がどれだけ無力なのかを示す記憶だ。
結局、考えていたことはどこにも着地せず、モヤモヤしたまま食堂についた。
食堂の戸を開くと、五人の勇者とひなたが揃っていた。
「タマたち、ほとんど姉妹みたいなもんだしなっ!」
セルフサービスのうどんをとり、楽しげに会話している集団たちのテーブルへ向かう。
「大丈夫?……いきなり呼び出されてたけど……」
拓海は千景の隣に座り、質問に答えた。
「大丈夫。これからはもっと楽に戦えるようになっただけだよ」
「楽に……?」
「うん、アプリを起動したら討滅兵装も装備できるし、討滅兵装の燃料も神授様から供給されるんだって」
「そうなんだ…良かった……」
今は会話よりも空腹を満たしたくて、すぐに手を合わせてうどんを食べる。今は聞く側に徹して拓海はこのうどんを早く蹴散らすことにした。
「というかタマたち、もう一緒に暮らしてもいいくらいだ」
そう言う球子を杏はからかうように返す。
「うーん…でも、もしタマっち先輩とクラスなら.色々大変そう。部屋の中に自転車とかキャンプ道具とか、よく分からないもの置いてあるから、まずはそれを片付けてもらわないと」
「あ、あれはただの自転車じゃないぞ、ロードバイクだ。錆びたりしないよう、部屋の中に置いとくんだよ。それにキャンプ道具だってそのうち使うからっ!……勇者になってから、なかなかできないけど」
球子がアウトドア好きで、休日は自転車で遠出したり、山登りをしているらしい。
本当は山でキャンプをしたいが、遠隔地で外泊するとなると大社からの許可が下りないとボヤいていたのを聞いた事がある。
球子は物申すように、杏の部屋について語り始めた。
「だいたい、それ言うならあんずの部屋だって相当だぞ?本棚も机の上もベッドの枕元にも、部屋中が本だらけじゃんかよー。しかも恋愛小説、恋愛小説、恋愛小説、恋愛小説、恋愛小説……そればっかりだっ!部屋に行く度に増えてるし」
「それがいいんだよー。本に囲まれてると幸せな気分なの」
うっとりとした顔で言う杏。
彼女は無類の読書好きで、恋愛小説や少女小説で埋め尽くされた大きな本棚が部屋の壁を占領している。
しかも彼女の持つ本の量は日に日に増加傾向にあるようだ。
「タマには理解できねえ…」
呆れたように球子がつぶやいた。
「二人とも……お互いの部屋のこと、よく知ってるのね……」
携帯ゲーム機から千景は目を離し、顔を上げて言う。
千景の言葉に「当然!」と頷いた。
「タマとあんずは部屋が隣同士だし、よく部屋に入り浸ってるからなっ!」
「それなら若葉ちゃんも、しょっちゅう私の部屋に来ますよ」
球子と杏に対抗するように、得意げに胸を張って言うひなた。
「若葉ちゃんは私の部屋に来ると、困り顔で相談事を持ちかけてきたり、膝枕で耳掃除してほしいとねだってきたりしますね」
「ひ、ひなた!」
慌ててひなたの口を塞ごうとする若葉だが、もう後の祭りだ。
「いつもの若葉さんとイメージが違いすぎます……」
杏は意外そうな視線を若葉に向ける。
友奈はきょとんとして、
「若葉ちゃんって、もしかして甘えん坊さん?」
「私の前限定で、です」
むふん、と鼻息荒く言うひなた。
「そういえば、若葉さんはいつも自然とひなたさんの隣に座りますよね。今もですし」
杏がそう言うと、さらに若葉の顔が赤くなる。
「だ、だが、ひなただって毎晩特に用がなくても私の部屋に来るじゃないか。きっと寂しいからだろう!?」
「いえ、私の場合は若葉ちゃんが明日の準備ができているかなどを、確認に行っているんです。若葉ちゃんは毎日、課題や予習復習など完璧にしているんですが、使った後に教科書を鞄に入れ忘れたり、時々うっかりしていますから。もちろん、そんな時はこっそり鞄の中に教科書、ノートなどを戻しておきます」
「え、そんなことをしていたのか!?」
若葉自身も気づいていなかったらしい。
若葉がうっかりしているというひなたの言葉に信ぴょう性が増した。
「なんだかひなちゃんって、若葉ちゃんのお母さんみたい」
「当然です、若葉ちゃんは私が育てましたから」
感心した様に言う友奈にひなたはにっこりと笑って答える。
「隣に座ると言えば、拓海も千景の隣にいつも座るよなっ!」
球子の言葉で、注目が拓海と千景に向けられた。
「たしかに、今も隣ですね。ここに招集された時も仲が良さげでした」
ひなたの言う通り、拓海と千景は丸亀城の学校に召集された際、
千景は拓海と仲が良いと言われたからか、頬を少し赤く染め、普段はしないような凡ミスでゲームオーバーとなっていた。
一方、拓海はそれに反応せずにうどんを口に運び、飲み込んでから少し考え込む。
自分の考えを整理した拓海は言葉を紡いだ。
「郡は四国に来て初めて出来た友達だからね。なんか特別」
「友達……」
『友達』という言葉に懐かしさ、『特別』という言葉に喜び、千景の心はその二色に染まっていた。
友奈達はそれをニコニコ微笑ましそうに見つめている。
「郡と出会ってからは絶対に一緒に帰ってたし、よく遊んだ」
拓海は思い出を懐かしむように夢想する。
その思い出の中に入り込むノイズ。
(そういえば、俺が転校した年にバーテックスが侵攻したんだな…)
千景と出会ってから長い時間を過ごしたと思っていた。しかし、実際は半年も過ごしてない。
バーテックスとの戦いが始まってからは、思い出らしい思い出は片手で数えても指が余る程度しか作れていない。
「………」
「…どうかしたのか?」
急に黙り俯いた拓海を心配してか、若葉が声をかけた。
拓海はすぐに顔を上げて、いつもと同じ雰囲気で「大丈夫」と返事をする。
「戦いが終わったら、できなかったこと、みんなでやろうって考えただけだ」
「それはいいなっ!タマはキャンプにいきたいぞっ!」
「私もー!」
球子に続いてみんなが口々にやりたい事を言い始める。
目的が無かった拓海に、目的ができた。
この戦いを終わらせて、勇者のみんなで思い出を作ること。
それを戦いの原動力として、拓海は胸に刻み込んだ。
ガンブレ4楽しんでるので次は300年後です