朝月は鋼鉄纏う勇者である   作:ミートソースカブトムシ

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多分私の書いてる作品で最速です!すごく励みになりますありがとうございます!!


第二話 許さない

翌日、学校に行くと、本当に拓海への嫌がらせは無かった。

そう、"拓海への嫌がらせ"は無かったのだ。

珊瑚は本当に千景の事を伝えたのだろうかと不安になってしまうくらいに、千景へのいじめはまだ続いている。

しかし、千景へのいじめが直接千景に届く事は少なくなった。

物を盗られたらすぐに取り返す。

落書きをしようものならすぐに消す、もしくは落書きした者の机と交換する。

机の花瓶も置いた者の机に置く。

それら全てを拓海は行っていた。

自分が安全な場所にいるのなら、そこから千景を助けようと考えたからだ。

拓海が理不尽をどうにか千景から遠ざける、そんな生活が始まって二週間程度が過ぎようとしている。

 

「げっ、朝月だ…」

「今日も無理かぁ」

 

日々の妨害の効果が出てきたのか、拓海がいる日はいじめっ子も大人しくなる事が多くなった。

揃いも揃って面白くなさそうな顔をして拓海を見る。

恐らく拓海がいれば今日も彼らは動かないだろう。

そのまま、二時間目、三時間目、四時間目と時間が過ぎていく。

 

「拓海くんちょっと良い?」

 

しかし、そのまま時間は過ぎず担任の女教師が給食の食器を片付けてる時に話しかけてきた。

 

「後で職員室に来てくれないかな?」

「……はい」

 

拓海は正直に言うと行きたくなかった。

この教師はあまり好きでは無いし、千景へのいじめも見て見ぬふりしている。

しかし、小学生の彼には、教師は従うべき存在として刷り込まれていた。

この教師がたとえ嫌いでも、まだ幼い彼にとって、教師(大人)は絶対だったのだ。

拓海の現在の行動基準、千景へのいじめを防ぐという物は三つの物に阻まれた。

いじめはダメな物、ルールは守らなければいけない、大人の言うことは聞かないとダメ。

そんな優等生的な子供の行動基準があった。

だからこそ、今日は落ち着いているから、少しだけなら良いだろう。

そう考え(間違え)てしまった。

職員室に行くと、教師は椅子に座って手招きしてくる。

 

「今日呼ばれた理由、分かる?」

「分かりません」

「最近、人の机の上に花瓶を置いたり、机を勝手に移動させたりしてるでしょう?」

「はぁ…」

 

どれもこれも、いじめっ子がやっていた事をいじめっ子に返した事だ。

 

「私ね、クラスみんなで仲良くしてほしいの、だから、そういうトラブルになるような事は─────」

「は?」

 

どの口が言うんだ。

それは、その教師の口から放たれてはいけない言葉だ。

千景へのいじめは見て見ぬふりしておいて、そんな台詞は言っちゃいけないはずだ。

クラスみんな?仲良く?

 

「…そうですか、じゃあアンタと話す事はもう無いですね」

「待ちなさい!まだ話は!」

 

職員室の引き戸を閉める。

ピシャン、という音と同時に声は聞こえなくなった。

拓海の気分は最悪だった。

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

教室に戻ると、千景はいなかった。

いるのはニヤニヤと顔を歪ませて俺を見るクラスメイトのみ。

千景だけでは無く、クラスの数人の姿も教室に無かった。

 

「───────っ!」

 

寒気がした。

思考するよりも先に身体が走り出す。

校内を駆けて、途中他の人間とぶつかりそうになった。

それを無視して千景を探す。

少しだけなら、と甘かったから。

あの時、教師の言う事を聞かない判断をしていれば。

そうじゃなくても、千景に着いてきて貰うだけで違ったはずだ。

全て後の祭りだ。

廊下を走って千景を探していると、空き教室から声が聞こえた。

 

「あ、失敗」

「血!うわ〜かわいそ〜」

「気をつけてよ!あたしの服に付きそうだったじゃん!」

「「「あははははははははは!!!」」」

 

空き教室の引き戸を力任せに開ける。

部屋の中にいる全員がこちらに振り向き、信じられたいとでも言いたげな顔をした。

 

「ちょっ、え、なんで?」

「箒で開かないようにしたじゃん!」

 

部屋の中にはハサミを持った生徒と女の子を押さえつける二人の生徒、その女の子は、耳から血を流している千景だった。

 

「何これ」

 

身体が勝手に男子生徒の手首を掴む。

ソイツはこちらを睨んで何か喚いた。

 

「は?お前に関け…いっ!?」

 

男子生徒の持っていたハサミが鈍い音をたて、床に散乱する"髪"の上に落ちた。

 

「これは何?」

「いたっ、痛い痛いいたい!!」

 

千景の方を見る。

千景を抑えていたソイツらは千景から手を離して、廊下へと出ていった。

追って捕まえようと考えるが考えを改める。

 

「まぁ、いいか」

 

まず優先すべきはこいつだ。

他の奴らは後でどうにかしたら良い。

元いた小学校ではこんな事は無かった。

他人を怪我させて笑ってる奴なんていなかった。

自然と手首を掴む手に力が入る。

俺の手を殴って逃れようともがく姿は、裏返った虫を想起させる。

 

「痛、痛い痛いぃ!」

「痛い?」

 

そんな事言えなくなるくらい千景を痛めつけて、普通が分からなくなる手前までそれを続けた奴が言っていい事じゃない。

 

「お前らが千景に与えた苦痛は、こんなもんじゃないんだよ」

 

手首を掴んだ手とは違う手でハサミを拾う。

そのハサミをもがいている虫の耳に近づける。

倍返しとはいかなくても、同じ目に合わせなきゃ。

そんな思考と怒りに支配された。

 

「ダメ!」

 

ハサミを持ってる方の手が何者かに掴まれた。

 

「ダメよ…それは、ダメ」

 

その華奢な手の持ち主は千景だった。

頭を支配していた怒りが抜けていく。

無くしていた冷静さはやっと戻ってきた。

戻ってきた冷静さと同時にコツン、と頭に衝撃があった。

 

「やりすぎだよ、拓海」

 

振り返ると、そこには担任の女教師と響が立っていた。

教師の方はおどおどとしていて情けないなと思った。

 

「なんで、おばあちゃんが…」

 

今日、響が学校に来るなんて知らなかった。

仮に学校側に呼ばれていたなら俺の耳にも入って良いはずだ。

先程の担任への反抗が原因で呼ばれたにしては早すぎる。

 

「少し用事があってね」

 

そう言うと、響は視線を千景の方に移す。

 

「君が千景だね?」

「えっ?……は、はい」

「拓海を守って(止めて)くれてありがとう。恩返しをしないといけないね」

 

そう言って、響は千景の頭を撫でる。

それを少しくすぐったそうにして千景は目を細めた。

 

「先生」

「な、なんでしょうか」

「少しお話をしようか、他の先生も集めてもらおう」

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

千景の耳の傷を応急処置した拓海達が教室に戻ると、先に逃げた二人が広めたのか、クラスメイト達は拓海を白い目で見た。

拓海はそれを気にせず自分の席についた。

彼の表情には少し疲れの色が見える。

 

幸い、クラスメイト達が拓海に報復しに来る事はなく、時間は過ぎていった。

 

生徒達が帰っていく中、拓海と千景の二人が教室に残る。

千景は考える、もしこのまま拓海が自分の味方をしたらどうなるのだろうと。

千景のように直接的な被害は彼に無くても、この村で彼の居場所が無くなっていく。

そんな思考をしてしまった。

守ってくれる、味方になってくれる朝月拓海という人間は千景にとってかけがえの無い存在になってきていた。

しかし、それと同時に自分を助ける事で、拓海がクラスの人間から疎ましい人間だと思われる事が嫌だと思うようになっていた。

その拒否感は日を追うごとに強くなっていく、その拒否感のピークはきっと今だろう。

彼は何も悪い事をしていないのに、このクラスの人間から疎まれて嫌われる。

 

「朝月さん…私はもう大丈夫よ。こんな事しても、あなたが嫌われるだけよ…」

 

千景はもう自分の味方はしなくていい、と伝えた。

それがきっと千景自身を不幸にする後戻りだとしても、拓海が不幸になるより無価値な自分が不幸になる方が良いと考えた。

 

「あなたの居場所が無くなる前に、無価値な私の味方なんてやめて…」

 

拓海はそれを最後まで聞き終えると口を開いた。

 

「やめない」

「…どうして?あなたが私に味方してもあなたに得なんて無いじゃない」

「─────許せなかったから」

 

千景の目を見て、毅然とした態度で拓海は言う。

 

「千景が理不尽な目に合ってるのが、暗い顔をさせられてるのが、それを良しとしているこの環境が許せない。だから千景の味方をしてる」

 

本来得られるはずだった幸せを千景から奪う物が許せない。

千景に普通の生活を過ごさせる事を拒む環境が許せない。

 

「それに、ここで見て見ぬふりをしたらおじいちゃんにきっと怒られる」

「おじいちゃん?」

 

拓海は自分の祖父の説明をした。

凄く強かったらしいという事、部下に慕われていたらしいという事、終戦に貢献した事、拓海が尊敬している人だという事。

千景はそれに聞き入っている。

 

「尊敬してるのね」

「してる。でも、尊敬してるって昔言ったらおばあちゃんからはあんな人みたいになっちゃダメって怒られたから……ってごめん、話なんていつもはあんまりしないのにな…ていうか、話ズレちゃったね」

「構わないわ。最近ゲームの話に付き合ってもらったもの」

 

自分らしくない、と拓海は思った。

流れでとはいえ、普段は自分からこんなに喋らないのに、今は口が軽い。

 

「────とにかく、俺は千景の味方だよ。友達だしね」

「友…達……」

 

友達。

今まで千景をそんな風に扱う人間はいなかった。

ゲームに登場する敵みたいに、攻撃してもいい存在として扱われていた。

現実は怖い物、そこに自分の居場所は無い。

そこは現実なのに、まるで悪夢。

ゲームという空想に逃げても、現実(悪夢)は逃がさない。

そんな暗い、暗い悪夢(現実)の中、絶望の海に沈んでいく千景の手を掴む光。

その光は海を拓いた。

楽しくなかった人生が、白黒だった人生が、一人の少年によって鮮やかに染まり始める。

彼に貰った分、彼のために尽くそう。

彼の居場所が無くなっても、私が彼の居場所になろう。

彼が守ってくれた分、私も彼を守ろう。

 

「ねぇ…名前で、呼んでいいかしら?」

「もちろん」

 

私の為に走ってくれた、怒ってくれた。

そんな少年は、今千景の目の前で穏やかな表情を浮かべている。

何も言わずに待ってくれている。

そんな時間をもっと欲しいと渇望するが、少年の名前を口にするという憧れが渇望を上回った。

 

「───────」

 

息を吸って、噛むなんていう馬鹿らしい理由で後悔が生まれないように、最大限の気を使ってその名を発音した。

 

「拓海…!」

 

少年は、少女の笑顔を初めて見た。

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

校内でのいじめは無くなった。

村八分は終わっていないし、仲の良い友達は拓海しかいないけど、それで良い。

拓海が傍にいるなら、幸せだから。




千景は拓海に守られてばっかりだと思っていますが、響からしたら「守って(止めて)くれてありがとう」と言ったように、拓海の手を血で汚れないように守ってくれたーみたいなのを書きたかったです。
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