朝月は鋼鉄纏う勇者である   作:ミートソースカブトムシ

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だいたい4日ぶりのミートソースカブトムシです。
そろそろのわゆ本編に絡ませたいですね。


第四話 星の降る日

目が覚めると知らない天井だった。というのは物語の中だけかと思ったが、自分の身にそれが起きたという事に少し驚いた。

それもあの刀を握ってから数日経っているときた。

両親、響、珊瑚の俺が目覚めた時の顔はしばらく忘れないだろう。

 

「はぁ…なんでこう、うちは変な出来事に逢いやすいのかね」

「そういう経験してないの、これで珊瑚だけになっちゃいましたね」

 

両親が俺を見ながら言う。

これで珊瑚だけ、という事は両親と響もこれまでに似たような事を経験したことがあるのだろう。

医者が言うには身体に異常はなく至って普通の健康体らしい。

すぐに退院する事ができた。

 

 

『今は大丈夫なの?体調』

 

受話器から千景の心配する声が聞こえる。

あまり久しぶりという感覚は無い。

 

「大丈夫だよ。倒れたなんて嘘だってくらい」

『ならいいけど…何かあったら言って。私にできることなら…なんでもするから』

 

と言われても、助けてほしい事なんて今のところは無い。

 

『それにしても不運ね、夏休み中に倒れるなんて』

「そうだね、寝てた分取り返さないと」

 

夏休みの宿題を一日で消化しておいて良かった。

自由研究を作る時間が少なくなったのは惜しいが、まぁ最悪いつも欠かさず書いていた珊瑚の観察日記でも提出すればいいだろう。

入院していた空白分は大目に見てもらうしかない。

 

『…ねぇ、拓海』

「何?」

『…あなたの家に……その、遊びに行ってもいいかしら』

 

遊びの誘いだった。

そういえば、引っ越してからは友達と家で遊んでいなかったか。

 

「良いよ」

『だ、大丈夫なの?…親御さんに確認とか…』

 

千景はそんないらない心配をしていた。

 

「大丈夫だよ。転校する前も友達連れてくる時だいたいそんな感じだったし」

 

流石に友達を一気に三人連れて行った時は後々文句を言われたが、まぁ大丈夫だろう。

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

昨日、家族で食卓を囲んでいる時に千景が遊びに来ることを伝えると、家族全員が快諾してくれた。

今家にいるのは俺と珊瑚、響だけだ。

珊瑚は普段通り庭で稽古でもしているのだろう。

響は縁側か自室にいるだろう。

人を家に招くということには慣れたと思っていたが、今まで招いた人間は同性の友達で、異性の友達ではない。

そう考えると何故か緊張してきた。

別に普段通りにしていればいいと自分に言い聞かせていると…

 

ピンポーン

 

来客を告げるインターホンの音が家中を木霊する。

 

「はーい」

 

待たせてはいけないと考え、すぐ玄関に向かう。

ドアを開けると、千景が立っていた。

ガシン、ガシンとロボットのような効果音を付けても違和感が無いくらい緊張した様子だった。

 

「いらっしゃい」

 

緊張している千景を見て落ち着いたのかスムーズに言えた。

 

「お、お邪魔します…」

 

ぎこちない千景の動作は完全に俺の緊張を吹き飛ばした。

 

「麦茶持ってくる。先に俺の部屋行って座っててよ。階段を上がって、俺の名前が書かれたプレートがかけてある場所が俺の部屋だから」

「分かったわ」

 

冷蔵庫から取り出した麦茶の入ったポットとコップを二個お盆に置いて自室に運ぶ。

 

ぐらり

 

地震だ。

麦茶を落とさないようにどうにか耐える。

時間が引き伸ばされたかのように長く感じる。

やってきた揺れと格闘していると、次第に揺れは止んでいった。

 

「階段で揺れなくて良かった」

 

また揺れでもして零したら片付けが面倒だと考え、階段をすぐに登りきった。

部屋に入ると、千景が座布団の上にちょこんと座っている。

綺麗な黒髪も相まって、可憐な人形が座ってるのかと錯覚した。

 

「何して遊ぶ?オセロならあるけど」

 

じゃあそれで、と千景は了承する。

言っておくと、俺はオセロに自信がある。

響には勝てないが、これだけは珊瑚や両親には負けた事がない。

千景には悪いがこの戦い、俺の勝ちだ。

 

パチン、と最後の石が置かれた。

盤面は真っ黒。

まさに圧勝であった。

そう───────千景の圧勝だった。

 

「もう一回」

 

真っ黒。

 

「…もう一回」

 

真っ黒。

 

「……もう一回」

 

真っ黒。

圧倒的実力差、自分が井の中の蛙だということを理解させられた。

これが巷で流行ってると聞く「分からせ」というやつか。

 

「大丈夫…?」

「大丈夫。自分が物を知らなかっただけだから」

 

心配されると逆に辛い。

煽ってるわけではなく、本当にただの良心というのが分かるのも辛い。

しかし、千景と遊ぶのは楽しかった。

もう一回、と言おうとするが、それは叶わなかった。

 

「おーい」

 

一階から聞こえる響の声。

それは俺と千景の二人に向けられた言葉だった。

 

「羊羹切ったから、二人とも降りておいでー」

「分かったー!」

 

響に聞こえるように返事をした。

千景を連れて階段を降りる。

居間に置かれたテーブルの上に二人分の羊羹が置かれていた。

 

「ほら、座って」

「えっと…ちょっと待って、食べて良いの?私が?」

「良いんだよ」

 

変なことを聞く千景の手を引っ張り、椅子に座らせる。

 

「じゃ、食べようか。いただきます」

「…いただきます」

 

黒文字で口の中に羊羹を運ぶ。

口の中が心地の良い甘さで満たされる。

 

「美味しい…!」

 

気に入った様子で再度羊羹を口に運ぶ。

それに釣られて俺もまた羊羹を口に運んだ。

やはり口が心地の良い甘さで満たされる。

 

「拓海」

「…何?」

 

一口サイズの羊羹を黒文字に突き刺し、こちらに差し出す千景。

何がしたいのか分からず固まってしまった。

 

「あーんってやつ、やってみたくて…ダメ?」

「えっ?いや、あー…んぐ」

 

味が分からない。

羞恥心で千景と目を合わせられない。

いきなりこんな事をしてくるなんてどうしたのだろう。

 

「こんな気持ち…なのね」

 

どういう気持ちだとツッコミたいが、今の俺にそんな余裕は無かった。

 

「…ほら、あーん」

 

落ち着いた俺は仕返ししようと、羊羹を一口サイズにして千景に差し出す。

千景はそれをパクリと躊躇なく口に入れた。

 

「美味しいわ」

 

そう言ってはにかんだ笑顔を見せる千景に思わずドキッとした。

この感情の正体は分からない。

でも、その感情は嫌じゃなかった。

 

「アツアツな所失礼するよ」

「「!?!?」」

 

後ろからぬるりと響が現れた。

 

「びっくりした…おばあちゃん、それ流行ってんの?」

「さぁ、なんの事だか。ところで二人とも、羊羹のおかわりはいる?」

「いる」

「…いただきます」

 

その後、目を合わせる事が何故か恥ずかしくなって、会話も特に無く黙々と羊羹を食べた。

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

羊羹を食べ終え、千景とまたオセロで遊ぶ。

未だに白星は手に入らないが、それでも自分より格上の相手に向かっていくのは楽しかった。

今では真っ黒に染められる事が少なくなってきたがまだまだ届かない。

 

「すこし、話したい事があるわ…」

 

石を置きながら、千景が話し始める。

 

「拓海が転校して来てからは毎日が楽しいわ。今まで受けてきた苦痛を、恐怖を忘れさせてくれて、楽しい事で染め直してくれる」

 

千景は隣に来て座り込む。

 

「今日だって、私のワガママに付き合ってくれたでしょう?ほら、あーんってした時の…」

 

あれくらいの事なら、言ってくれれば何回でもする。

だっていうのに、千景はそんな事すらワガママだと、遠慮がちに言った。

 

「あんなのワガママの内に入んないよ」

「そう?なら…少しだけワガママに付き合ってほしいわ…」

 

俺の身体が優しく包まれる。

それは抱きつくという形で、ハグとは少し雰囲気が違う。

抱擁という言葉が似合うソレを、千景は求めてきた。

 

「今日は…いいえ、いつもありがとう」

 

心臓の鼓動が聞こえる。

それが自分の物なのか、千景の物なのか分からない。

 

「まだお礼を言えてなかったから…今日言っちゃった」

 

千景の匂いが鼻をくすぐる、それが心地良くて、それを逃がしたくなくて、気がつくと千景を抱き返していた。

 

「拓海…?」

 

少し困惑した様子で千景が俺の名前を呼ぶ。

それを聞いて、身体は千景を離す事を拒んだ。

 

「ごめん。突然だけど、次は俺の番で良い?」

 

何も言わずに千景は頷く。

 

(…最近の俺、おかしいな)

 

─────突然、千景がどこかに連れて行かれると思った。

あの刀を触ってから変だ。

千景がどこか遠くにいってしまう気がしてならない。

まるでそれを視たかのような気分になる、実際にはそんなもの無いのに。

大丈夫、千景はここにいる。

そう自分に言い聞かせ、千景への抱擁を解いた。

気づけば時刻は午後五時を回っていた。

 

「時間も遅いし、今日はもう帰るわね」

「…っ、うん」

 

不安は拭いきれなかった。

 

「またね、千景」

「えぇ、羊羹…ご馳走様」

 

ドアが閉まる。

彼岸花の面影を見て見ぬふりし、鍵を閉める。

俺は心のどこかに残った不安を誤魔化し、自室で使っていたコップなどを片付けた。

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

いつの間にか眠っていたらしい。

カレンダーを見て、今日の日付はなんだったかを見る。

そうか、今日は七月三○日、夏休みの真っ只中だった。

頭が痛い。

風邪でも引いてしまっただろうか。

視界に線が現れる。

頭の中でパチパチパチと嫌な音が鳴る。

耳鳴りとは少し違う、耳鳴りならば不快ではあれどここまでは気にならない。

 

「……っ!」

 

頭が痛い。

身体が作り替えられているかのような感覚に陥る。

視界の線が消えたり現れたりを繰り返している。

 

「はぁ…はぁ…」

 

気持ち悪い。

床は存在しなくて、歩くのが、起きるのが怖い。

視界に映る全てが脆く見える。

まともに立っていられない。

俺の眼は視てはいけないものを視ている。

それはきっと、人が、いや全ての物にとって終わった時に初めて知るものだ。

それをいつ知ったのか。

そんなの分かりきっている。

深海に沈んだ時だ。

きっと俺はそこで一度終わったのだ。

現に、今俺の部屋をあの女達が漂っている。

白い肌、白い髪、赤かったり青かったり。

指で女に走った線をなぞった。

霧散し、蒸発し、溶けていく。

頭が痛い。

 

「はぁ…はぁ…うっ」

 

吐き気も襲ってきた。

口が酸っぱくなる。

逆流してきた胃の中のそれは、口の中で大暴れしたあと、俺の口をこじ開けて外に出てきた。

 

「おえぇぇぇぇっっ!!」

 

刀を探さないと。

星が降る。

天から星が降る。

そして、彼女は戦いに駆り出される。

 

「…星……戦い?何を、言って……」

 

俺の意識とは別に身体が動く。

まるで磁力が働いているかのように、部屋を出て、玄関から外に出て、物置へ向かう。

 

「邪魔…だっ…!!」

 

物置の戸を線に従ってなぞる。

瓦解したソレを蹴り飛ばして無視する。

刀の入った箱を見つけた。

刀に呼ばれるように俺はその箱を(こわ)す。

 

「はっ、はっ、はぁっ…!」

 

叱られた子供が、泣きながら自らの祖父に縋るように。

その刀を手に取った。

朝月渚が使用していたその刀は、かつてのように俺の身体を蝕まない。

俺を主と認めたのか、自らよりも大きな存在が気に入った存在だからか。

恐らく後者だろう。

今手を出しても返り討ちにされるだけだと分かっているらしい。

チャンネルが切り替わる。

視界を走っていた線は消え失せる。

やっと、落ち着いた。




直死の魔眼って…良いよね。
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