朝月は鋼鉄纏う勇者である   作:ミートソースカブトムシ

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二週間とちょっとの時間が経ってるらしいです。
モチベはあるのに書き終わらないのは辛いっすな( ˇωˇ )


第五話 目覚め

朝日が夢から意識を起こす。

鬱陶しい眠気はすぐに霧散した。

意を決して目を開ける。

視界に広がったのはいつもの天井だ。

線は視えない。

寝巻から制服に着替えて、見ていた夢の余韻を捨て去る。

今日から新学期だが、訓練や装備のテストのために学校に行っていたから、あまり新学期という実感は湧かなかった。

朝食は……

 

「いらないか」

 

食べる気になれなかった。

最近は特にそんなことが増えた気がする。

三年前、バーテックスという怪物の出現と連動するかのように、朝月拓海に勇者の力が目覚めた。

それと同時に、物の終わり()を見た。

あの日から、度々死の線を見る。

それが自室ならまだ良いのだが、外…特に人混みなどで見たとしたら、その日は厄日だ。

見たくもない死を、触れれば崩れてしまいそうな他者の脆さを見せつけられる。

空は今にも落ちてきそうで、地面はつつけば割れてしまう。

それがいつまで続くのか、いつ終わるのかも分からない。

他の勇者達に聞いても、何の事か分からない様子だった。

俺は、勇者の力以外の何かを持ってしまったのだろう。

ちなみに、勇者とは土地神から力を授かってバーテックスに対抗し得る者…だそうだ。

バーテックスと一戦も交えた事が無いため、俺には分からないことだ。

忘れ物が無いかを確認して部屋の外に出る。

勇者達が通う学校は全寮制だ。

校舎に改装された丸亀城の敷地内にある寄宿舎に俺含めた勇者六人と巫女が一人、そこで生活している。

だから、朝にバッタリとそいつらに会うなんて事が多々ある。

 

「おはよう…拓海」

「おはよう。()

 

今日は千景だった。

挨拶を交わして二人並んで校舎へと向かう。

 

「「……………」」

 

沈黙、特に会話も無いまま廊下を歩く。

そんな静かな状況だったからか、教室から響く声が聞き取りやすかった。

 

「は〜な〜せ〜!タマはあの悪魔のブツを成敗せねばならんのだー!」

「落ち着け、土居!」

 

教室に近づけば近づくほど騒々しさが増す。

 

「そうだよ!タマっち先輩はまだ成長途中なんだよ!」

「うわ〜んっ!なんかあんずにも上から目線で言われたっ!」

 

教室のドアを開けると、伊予島杏が土居球子を抑え、乃木若葉が球子を制止している光景があった。

巫女の上里ひなたは胸を押さえている。

それを一瞥してから自分の席に着く。

俺以外の勇者は全員女性なので肩身が狭い。

正直萎縮してしまいそうになる。

始業のチャイムの直前、高嶋友奈が教室に駆け込む。

 

「おはよーございまーす!高嶋友奈、到着しました。良かった、遅刻じゃない!」

 

友奈が教室にいるみんなと挨拶を交わす。

すると、こちらの方に歩み寄って来た。

 

「おっはよー、拓海くん、ぐんちゃん!」

「おはよう……高嶋さん」

「おはよう」

 

友奈は俺と千景をよく気にかけてくれる良い人だ。

親しみやすい性格もあり、クラスの皆と仲が良い。

他の人とは話さない千景も友奈とは話しているのをよく見かける。

 

「今日は……遅かったね」

「うん、昨日、格闘技のテレビ番組を見て、見よう見まねで練習してた、興奮しちゃって寝れなくなっちゃって。てい!縦拳!回し蹴り!」

 

友奈が拳を振るい、体を回転させようとしたところで、俺の視界は何かに遮られた。

 

「高嶋さん、あんまり足、高く上げない方がいい……パンツ見えそうだから」

「あ!えへへ…」

 

その会話で俺の目を手で覆い隠しているのが千景だと分かった。

すぐに視界が解放される。

友奈は恥ずかしそうにスカートを押さえていた。

 

午前の授業が始まった。

勇者と巫女の特別学校とはいえ、義務教育としての授業は普通の学校と変わらずある。

異なるものと言えば、バーテックスに対抗するための訓練があるということだ。

新学期最初の訓練として、バーテックスと自衛隊が戦った記録映像を見せられた。

画面に映し出されたのは街中に現れたバーテックスに戦車が砲弾を浴びせたり、自衛隊員がライフルを発砲する様子だ。

その攻撃はバーテックスに対して効いている様子は無く、蟻が獲物を狩るかの様に戦車は解体されていく。

中にいる者や歩兵は助からないだろう。

バーテックスに通常の兵器は効かず、勇者の持つ武器のみが奴らに対して有効な攻撃手段だ。

俺の武器は二つ、それはバーテックスに対抗するために改修された討滅兵装と刀だ。

かつての戦争で使われていた討滅兵装は、装着することで機動力の強化ができる鋼鉄の鎧。

適合しないとまともに動かないのが欠点らしい。

刀は自宅の物置に眠っていた青い刃を持った刀であり、銘は海薙。

元々の持ち主が俺の祖父であるということしか分からない。

この刀に宿った力は分からないが、恐らく銘と同じだろう。

そんな事を考えていると、いつの間にか映像が終わっていた。

 

「バーテックスに対抗できるのは勇者のみです。あなたたち勇者の力が必要なのです」

 

担任の教師が告げたその言葉は聞き飽きたし、見せられた映像も見飽きた。

バーテックスの行動目的も正体もよく分かっていないのだから話のネタが無いのだろう。

分かっているのはバーテックスが人類に仇なすものであり、土地神が人類を守る為に力を貸してくれているということのみ。

 

「どうせだったら……土地神が戦えばいいのに……」

 

記録映像を見ながら千景が呟く。

それに応えたのは球子だった。

 

「多分、戦ったんだと思いますよ。ほら、バーテックスが攻めてくる前に地震とか災害とか起こってましたし。あれ、土地神がやり合ってたせいだったんじゃないですか」

「……………」

 

千景は少しムッとしたように黙り込んだ。

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

午前の授業が終わった。

戦闘訓練が始まった辺りから死の線が見えるようになった。

なので、いつも通り七人でまとまって食事を取っているこの状況は今の俺にとって非常に辛い。

若葉、ひなた、球子、杏、友奈、千景、誰一人も例外無く体に線が見える。

触れるだけで崩れてしまいそうな彼女達と一緒にいるとどうしても気が滅入る。

 

(こういうのがあるから、一人が良かったんだけどなぁ…)

 

みんなで食事を摂るというのは、若葉が少しでもチームワークを高めるためだと提案した事だ。

球子と俺は一緒になって反対したのだが、友奈の『ご飯はみんなで食べた方が美味しいよ!』という主張にまず球子が微苦笑しながら屈した。

 

『いや、俺はやっぱり一人が───』

『拓海』

『郡、俺は一人で静かに…」

『拓海』

『…なんでもない、です』

 

俺は千景の圧力に屈したのだった。

あの時の千景、少しだけ怖かったな。

そんな事を考えながらかき揚げを口に運んだ。

トッピングで個性が出ているとはいえ、皆うどんを選んでいる。

香川のうどんは美味いから仕方ないだろう。

 

「拓海、それで足りるの?……昔はもっと…」

「今日はあんまりお腹減ってないだけだよ…って、ちくわ入れないで」

「訓練の後のご飯は美味しい!」

 

友奈は屈託の無い笑顔でそう言って、うどんをすする。

それを千景は微笑ましそうに見ている。

 

「こら、あんずっ。行儀が悪いぞ」

 

読書しながら食べている杏から、球子が本を取り上げた。

 

「あぁ!今いいところだったのに……」

 

本を取られた杏が悲しげな声をあげる。

杏は本が好きらしい。

いつも文庫本をポケットに忍ばせている。

 

「ダメだ、食べ終わってからな」

「はーい……」

 

そのやり取りはさながら姉妹のようだ。

 

「……にしてもさー、毎日毎日訓練って、なんでタマたちがこんなことしないといけないんだろーな」

 

そんな風に球子がボヤいた。

 

「バーテックスに対抗できるのは勇者だけですからね……」

「そりゃ分かってるよ、ひなた。でもさ、普通の女子中学生って言ったら、友達と遊びに行ったり、それこそ恋……とかしちゃったりさ。そういう生活をしてるもんじゃん」

 

球子はため息をつく。

 

「今は有事だ、自由が制限されるのも仕方あるまい」

「う〜ん」

「まぁ、人類を守る為に戦えってのは正直重いよね」

 

そんな事を口にしていた。

 

「我々が努力しなければ、人類はバーテックスに滅ぼされてしまうんだ。私たちが人類の矛とならなければ───」

「分かってるよっ、分かってるけどさぁっ!」

 

球子が声を荒らげた。

そしてすぐに顔を俯けてぽつりとつぶやく。

 

「……ごめん……」

 

場が沈黙すると共に重い雰囲気に包まれた。

その場からすぐに離れたくなり、うどんを急いですすった。

 

「ごちそうさま!今日も美味しかった!」

 

沈黙を破ったのは友奈だった。

テーブルには汁まで飲み干した丼が置かれている。

 

「どうしたの、みんな?深刻な顔して」

「……友奈……さっきまでの話、聞いてなかったのか?」

 

若葉が呆れた様子で友奈に問う。

 

「え、えっと……ごめん、若葉ちゃん!うどんが美味しすぎて、周りのことが意識から飛んでっちゃって……」

 

その場にいた友奈を除いた全員がため息をついた。

 

「えぇ!?なんでみんなため息つくの!?」

「みんな高嶋みたいなら楽なのかもね」

「拓海くんそれちょっとバカにしてない!?」

 

友奈は心外だと言うように辺りを見渡し、

 

「大丈夫だよ。私たちはみんな強いし、みんなで一生懸命頑張ればなんとかなるよ!」

 

死の線が気にならなくなるような笑顔でそう言った。

こいつ、実は話ちゃんと聞いてたな。




次回は多分バトル回ですよ!ちぎっては投げてちぎっては投げての勇者が見れるかもですね。
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