朝月は鋼鉄纏う勇者である   作:ミートソースカブトムシ

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本当はもっと早く投稿する予定でしたがアリスギアのFAガールコラボが復刻してしまいました。
フレズを引くためにこれからは更新が遅くなります。


第六話 初陣

磯の匂いで意識が覚醒した。

懐かしさが身体を巡る。

瞬間、浮遊感は消え失せ、身体が重力に縛られる。

 

「なんでここに…」

 

夢の中だとすぐに分かった。

何故なら今いる場所が呉だから。

あの村に引っ越してくる前に住んでいた街。

その呉にある鎮守府の前に立っていた。

しかし、目を覚まそうとしても夢から抜け出せない。

 

「やっとか、苦労したぞ。お前をここに来させるの」

 

突然後ろから声がした。

振り返ると、目の前に黒髪に黒目の青年が立っている。

それは拓海が会ったことは無くても、見たことはある人物だった。

 

「おじい…ちゃん?」

「正解だ。響は…おばあちゃんは元気か?」

 

元気だと答える。

祖父、朝月渚は安心した様な表情を見せる。

 

「なんでおじいちゃんが…」

「お前が海薙(こいつ)に触った時、海薙(こいつ)に宿ってた俺は呪いからお前を助ける為にお前の身体に宿ったんだよ」

 

刀を叩きながら言う。

あの時俺の身体に浸透した光は渚だったらしい。

 

「感謝しろよ。今お前が海薙の呪いにやられてないのは俺が守ってるからなんだからな」

「うん、ありがとうおじいちゃん……それで、どうして俺をこんなところに?」

 

夢の中でわざわざ礼を言わせに来たわけでもないだろう。

苦労した、とか言っていたから、何か大変な思いをしてでもやらなければダメなことがあったのだろうか。

 

「ここに呼んだ理由は二つ。まず一つ目は孫と話したかった」

「えぇ…」

「仕方ねぇだろ、こっちは息子と会う前に死んでんだぞ」

 

そういえばそうだった。

この人戦死してたんだった。

そしてずっと刀の中に放置されていたし孫…というか人と話したくなるのかもしれない。

 

「そして二つ目…拓海、お前は勇者とかいうのになったらしいな?」

「うん、なったらしい」

「そしてバーテックスとかいう化け物共と戦うらしいな。

正直、今のお前だと不安だからな、俺が鍛えてやる」

 

そう言って帯刀していた海薙を抜き、藍鉄色の刀身をこちらに向ける。

なるほど、それが二つ目の理由か。

 

「…夢の中で斬られるとどうなるの?」

「大丈夫。多分死ぬほど痛いだけだ」

「ふーん」

 

こちらも海薙を抜く。

この日から、俺は夢の中で渚に稽古をつけてもらう事になった。

その剣は今まで見た中で一番完成度が高かった。

 

「そうだ、言っておかなくちゃな」

 

渚が何かを思い出したように、その言葉を続ける。

 

「お前、なにか目的を作った方がいいぞ。流されながら戦ってると、倒れた時立ち上がれない」

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

「ねぇねぇ!拓海くんも今日ゲーム一緒にやろうよ!」

 

食堂でうどんをすすっていると、突然友奈が遊びに誘ってきた。

どうやら放課後、千景と一緒にゲームをするから誘ってきたらしい。

 

「遠慮しとく」

 

断っても友奈は食い下がってきた。

 

「えー、やろうよ〜!人が多い方が楽しいよ!」

 

残念ながら、今日は放課後から予定があるのだ。

 

「ごめん。今日はどうしても外せない用事があるんだ」

「そっか〜…」

 

普段気にかけてくれる友奈の落ち込んだ様子を見ると、普段明るい分強い罪悪感に苛まれてくる。

そんな俺に追い打ちをかけるかのように名前を呼ぶ声がした。

 

「…拓海」

 

千景がこちらを見る。

そんな捨て猫みたいな表情をしないでほしい、俺を罪悪感で押し潰す気か。

そんな彼女達の様子に折れた。

 

「分かった。今日は無理だけど…明日ならやれるから」

「ほんと!?約束だよ!」

「……言質取ったわ」

 

千景がゲーム機の画面を見せてくる。

 

『…明日ならやれるから』

 

ゲーム機から俺が発した言葉が再生される。

千景は一連の流れをゲーム機のカメラ機能で録画していた。

昔はこんな怖いことしてくる女の子じゃなかったんだけどなぁ…

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

アプリを起動させ、白い篝火花(シクラメン)を想起させる装束を身に纏う。

背中の一部が露出している。

露出したそこからは普通の人間には無い突起があった。

それは討滅兵装という兵器と身体を繋ぐコネクタの役割を持っている。

 

「いいか、やばくなったらすぐ言えよ」

 

整備士のおっさん。

名前は確か…中山さんだったか。

 

「うん、分かってる」

 

討滅兵装。

俺の前にあるのは黒の装甲と白いラインがはいった、どこかシャチを想起させる鋼鉄の鎧だった。

かつて海から侵攻する怪物へ対抗する為に作られた兵器。

勇者の力とこの兵器を合わせればよりその力はより強力なものになるだろうという大社側の提案によりこの兵器の運用が決定した。

六人の勇者達の中で適合者はただ一人、それが俺だったのだ。

討滅兵装とコネクタを繋げる。

瞬間、拓海の身体を鋼鉄の鎧が包み込み、脳に膨大なデータが送られる。

 

「───────ぁ」

 

脳の一部が書き換えられる。

それは生物としてのそれではなく、より戦闘に特化した兵器のパーツへと変貌していく。

頭が痛い。

 

「───はぁ…はぁ…」

 

少しの間息が止まっていたらしい。

腰に海薙をマウントさせる。

 

「…中山さん、次はどうしたら……!?」

 

突然、討滅兵装からデータが脳に送り込まれる。

スマホと同期させた討滅兵装は俺に非常事態を知らせた。

 

「樹海化警報…?」

 

それは四国の結界内にバーテックスが侵入したことを知らせるものだった。

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

「速いな、これ」

 

ただ勇者に変身しただけではこうはならない。

より立体的に高速で移動できる。

今向かっているのは若葉のいる場所だ。

ちょうど友奈と千景もついているらしい。

若葉は刀を持っている。

そして友奈は手甲、千景は大鎌を持っている。

地面に足をつけると、三人は驚いた様子でこちらを見た。

 

「なにそれー!ヒーローみたい!」

「これが討滅兵装…かつての戦争で使用された兵器なのか…朝月さん、調子に問題ありませんか?」

 

友奈は興奮した様子だ。

若葉は討滅兵装を纏った俺を分析するように見て、俺の調子を心配する。

討滅兵装は使用する際に脳に負荷がかかる。

それを事前に聞かされていたからこそそんな心配をしたのだろう。

 

「大丈夫だよ。最初は頭が痛かったりしたけど、もう慣れた」

 

それを聞くと、分かりました。と若葉は返事をした。

周りを見渡すと、蔦だけの世界が広がっていた。

丸亀城や瀬戸大橋は原型を残しているが、植物に覆われたそれらのほとんどは影も形も無い。

四国の時を停止させ、生物も非生物も同化させる樹海は勇者のみが本来の形で動くことができる。

 

「こんな大きな植物、見た事ないよ。これも神樹様が起こしたんだよね……?」

「ああ。樹海化は神樹による人類最後の緊急手段だ」

 

若葉がそんな事を言った。

 

「おぉ〜いっ!みんなー!」

 

大きな声と共に球子が走ってくる。その後ろには、球子に手を引かれる杏もいた。

 

「悪い、遅くなったっ!」

 

球子は鋭い刃がついた円形の盤、旋刃盤を、杏は連射式クロスボウのような武器を持っている。

 

「全員揃ったな。……これが私達の初陣だ。我々の手でバーテックス共を打ち倒す」

 

勇者五人に若葉はそう告げる。

早速バーテックスを殺しに行こうとすると、千景が口を開いた。

 

「それはいいけど……当然、あなたが先頭で戦うのよね……あのバケモノ達と。リーダーなのだから……」

 

千景は静かにそう言って、試すような目線を若葉に向けていた。

なんか険悪なムードになった気がする。

 

「誰が先頭とかじゃなくて全員で戦えばいいでしょ。それがチームワークってもんですよ」

 

呆れたような口調で反論したのは球子だ。

 

「チームワーク……」

 

咀嚼するように千景はつぶやき、杏に目を向けた。

杏は小刻みに体を震わせている。

顔色も悪い。

怯えているというのは一目で分かった。

 

「伊予島さんは……戦えるのかしら?」

「…………」

 

杏はうつむき、何も答えない。

答えられない。

 

「土居さんたちがここへ来るのが遅れたのも……伊予島さんが萎縮して動けなくなっていたからでは……?そんなあなた達がチームワークなんて……口にするものじゃないわ……」

 

流石に止めようと千景の肩に触れようとする。

しかし、千景の肩に触れるその直前。

 

 

視界に線が現れた。

 

 

「っ!」

 

咄嗟に手を引く。

危なかった。

あのまま千景に触れていたら線に触れていた。

その先を想像したくない。

 

「ましてや…」

「郡さん、言い過ぎです」

 

千景の声を若葉が遮った。

しかし、次に若葉は杏の方を見つめた。

 

「伊予島、怖いのはわかるが、私たちが戦わなければ人類が滅びる可能性だってあるんだ。顔をあげろ」

「ご、ごめんなさい……」

 

杏の瞳に涙が浮かぶ。

 

「若葉、もういいだろ」

 

杏を守るように二人の間に立つ球子。

それを見た千景は皮肉げに目を細める。

 

「兵の士気高揚も指揮官の務め……。乃木さん……あなたにリーダーとしての資質が足りてないから……このような事態にな…」

「郡、そういうのはこれが終わってからにしよう」

 

やっと制止の言葉を口にできた。

 

「そうだよみんな、仲良しなのはいいけど、話し合いは後にしようよ!」

 

「「「仲良し????」」」

 

三人の声が重なり、揃って友奈の方を見る。

 

「うん、ケンカするほど仲が良いって言うよね?」

「「「いや、それは違う(わ)」」」

 

三人が同時にツッコミを入れた。

 

「即答で四人ともから否定された!?」

 

ショックを受ける友奈。

 

「えっと、あの、友奈さん……私も違うと思います」

「アンちゃんまで!?」

 

さらに追い打ちを受ける。

 

「大丈夫?高嶋」

「うぅ…気を使われた…」

 

総ツッコミのダメージを受けつつ、気を取り直した友奈は力強く言う。

 

「───でも、みんながケンカする原因を作ったバーテックスが、すぐそこまで来てる。怒るにしてもケンカをするにしても、相手はあいつらだよ」

 

球子と千景が気まずそうに顔を合わせる。

そろそろ潰しに行ってもいいだろうか。

 

「ま、確かにそうだな」

「高嶋さんの言う通り…ね」

 

杏がまだ怯えているのが目に入る。

 

「……」

「よし、じゃあタマたちもそろそろ気合い入れっか!」

 

四人が携帯を取り出し、アプリをタップする。

 

「みんなで仲良く勇者になーる!」

 

皆の服装が変化していく。

 

友奈の戦装束は、山桜を思わせる桃色──

千景の戦装束は、彼岸花を思わせる紅──

球子の戦装束は、姫百合を思わせる橙──

 

しかし、杏一人だけ何の変化も起こらない。

勇者の力は精神面に大きく作用されるらしい。

恐怖で満たされた今の杏では勇者装束を纏えなかったのだろう。

 

「…………」

 

千景が杏を無言で見つめる。

 

「……ご、ごめんなさい……私……」

 

涙を浮かべる杏の肩を、球子が元気づけるように叩く。

 

「気にすんなってのっ!タマ達だけで全部倒してくるから」

 

杏は悲しげに俯いた。

それを見かねて、腰にマウントさせた鞘を取り外す。

海薙の鞘は結界を張る力を持つ。

本来は呪いが外に溢れ出さないようにする為の物だが、防御にも使用出来る。

バーテックスの攻撃を防げるかは分からないが、生身の杏をそのまま放置するより良いだろう。

 

「伊予島、これ預かってて」

 

その鞘を杏に押し付けるように手渡した。

 

「えっ?」

 

杏は困惑したような様子でこちらを見る。

 

「この鞘、結界張れるから。危なくなったら使って」

 

邪魔だったら捨てていい。と付け加えて跳躍する。

敵の数は五○体前後。

若葉は既に奴らを殺しに行ったようだ。

 

「勇者たちよ!!私に続け!!」

 

その声に呼応するかのように、奴らの元へスラスターを吹かした。

敵との距離が縮まる。

敵の姿を見て安心した。

奴らの体にも線がある。これなら何も問題無い。

ただ刀をその線に従って動かすだけで殺せる。

バーテックスの白い体を藍鉄の刃が走る。

何の抵抗も、感触も無く、バーテックスは両断された。

敵は鈍いし柔い。

数は多いがそれだけで強くない。

 

「あっ」

 

余裕だと思って斬り進んでいた。

しかし、囲まれてしまってはその余裕は無くなる。

気がつくと敵の群れの中心にいた俺に、バーテックスが四方八方から迫り来る。

鞘は杏に預けているため結界には頼れない。

肌を撫でる死の予感。

鎧があるから他の勇者達と比べて死にづらいだろうが、この数の敵に群がられたらひとたまりもないだろう。

なんせ戦車のような鉄の塊を解体できる奴らだ。

この鎧くらい容易く食い破るのは容易に想像できる。

 

「───────朝月流剣術」

 

それの名を口にする。

それは夢でで経験して得た剣技。

この身体にはその技術が宿っている。

 

「薔薇」

 

迫り来るバーテックス達は朝月拓海の身体に触れることなく霧散した。

朝月流剣術 薔薇。

間合いに入った者は斬り刻まれる斬撃の結界、朝月流剣術においてただ一つにして最強の防御。

 

「朝顔」

 

朝月流剣術 朝顔。

風の刃を飛ばすことで遠距離の敵を攻撃する技。

飛ばした風の刃はバーテックスを貫通し、逃げ道を作った。

その道を通って群れの中心から逃れる。

 

「……ぐっ!?」

 

頭の中で響く警告。

まだ調整が済んでいないから必ず頭痛を伴うそれは、燃料切れを知らせた。

 

「ガス…欠」

 

あの整備士、前のテストから燃料の補給忘れたな…っ!

頭が痛い。

落下予測だとか、対処法だとか、それ以外の数多の情報が頭をぐるぐるしている。

しかも、それの計算だとかを人の頭で無理矢理⬛︎るんだから⬛︎⬛︎が悪い。

意識が曖昧に⬛︎⬛︎。

手から力が抜け⬛︎、海薙が落ちていく。

黙ってほしい、こんなに頭を掻き回されたら身体を⬛︎⬛︎そうにも動かせない。

緩やかに重力に引っ張ら█て、俺は地█に激突した。

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

「……海!……拓海!」

 

少しの間、気を失っていたようだ。

体が揺さぶられている。

誰かが心配したような声で俺の名前を呼ぶ。

この声は……

 

「千景……?」

 

目を開けると、俺を泣きそうな顔で揺する千景がいた。

線の無い、綺麗な顔に安堵する。

俺が目を開いたことに気がつくと、安心したような表情を見せる。

 

「いか…ないと」

 

今の討滅兵装(鉄くず)は邪魔なので脱ぎ捨てよう。

 

「………あっ…」

 

地面に刺さった海薙を引き抜き、再度戦いに加わろうとすると、それを止めるかのように俺の手が掴まれた。

 

「どうしたの?」

「う……うぅ……」

 

千景は気まずそうに目をそらす。

悔しさ、焦燥、様々な感情が入り乱れたような雰囲気だ。

 

「大丈夫?」

「ごめんなさい……私、伊予島さんの事、言えなかった…怖くて、戦えない……」

 

千景は自身の抱えているものを零すかのようにそう言った。

そうか、千景は怖かったんだ。

先程の杏への非難もその恐怖によるものだったのだろう。

千景はまた泣きそうな顔になった。

 

「郡、ここどこか分かる?」

 

何が言いたいのか分からないといった様子だ。

 

「最初に立っていた場所よりもだいぶ前の方、それこそバーテックスが来るような位置だ」

 

ハッとした様子で目を見開く。

俺が落ちたのはみんながバーテックスと戦ってる場所のど真ん中。

千景は俺を助けるために、恐怖という拘束を解いてここに来れた。

ならばあとは自信の問題だ。

千景の手を握って跳躍する。

 

「郡は強い、きっと戦える。こんな風…に!」

 

バーテックスを刀で斬り殺す。

それを見た千景は自身の大鎌を見つめた後、バーテックスに振りかぶった。

振るわれた巨大な刃はバーテックスを捉え、その身体を両断した。

 

「で…できた……」

 

暗かった目に自信が宿る。

手を離して、迫るバーテックスの一体を斬り伏せる。

千景は大鎌を振るいバーテックスを同時に複数葬った。

 

「凄いな、郡」

 

その自信は少しの事では消えたりしないだろう。

 

「俺も負けてられないな」

 

刀を構える。

スラスターを吹かして敵との距離を縮め……

 

「ごふっ」

 

顔をまた地面と激突させた。

そういえば、人の体にはスラスターなんて物は無いのを忘れていた。

 

「ぐんちゃーん!拓海くーん!大丈夫ー!?」

 

友奈が駆け寄ってくる。

身体のあちこちに擦り傷を作って、俺たちよりもボロボロな状態なのに、友奈は俺達の心配をした。

 

「大丈夫、討滅兵装が無くなっただけ」

「……私も大丈夫」

 

友奈に千景を任せてバーテックスを殺そうとしに行くと、バーテックスを殲滅する若葉の姿が目に入った。

他の勇者たちとは一線を画した激しさに感心した。

あの力強さはどこから来るのだろうと疑問に思う。

刀を握り締める手に力が籠った。

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

敵の数が減ってきた。

四国に侵入してきたバーテックスの全滅は時間の問題だろう。

そんな中、バーテックスの動きが変化する。

数体が一箇所に集まり始め、自らの体をほかの個体と繋げていく。

 

「あれが『進化』ってやつか」

 

三年前も複数の個体が融合してより強力な個体を生み出したと聞いている。

融合したバーテックス達は最終的に棒状の個体になった。

進化体は通常個体と比べ物にならない力を持つと聞いたが、ソイツは不気味な程にそんな雰囲気を見せない。

角だとか羽が生えたりを想像していたが拍子抜けだ。

 

『油断するな』

「っ!?」

 

突然頭の中に響く渚の声。

 

「なんでおじいちゃんが…」

『気にするな。カーナビみたいな物だと思ってろ』

 

そう言われても、頭の中から他人の声が聞こえてくるなんて気持ち悪いからやめてほしい。

 

『バーテックス…俺が殺してきた奴らとはやっぱり違うな、あっちの方が親近感が湧く』

「おじいちゃんもあんなのと戦ってたの?」

『…まぁ、色々とな』

 

響から聞いたのは戦争があったということだけ。

しかしその戦争の内容は聞いた事が無い。

渚の言動的に、敵は化け物だったのかもしれない。

 

『おい拓海、あの子達は大丈夫なのか?』

「えっ?」

 

そう言われて周囲を見渡す。

先に目に入ったのは若葉だった。

一番バーテックスを殲滅しているからか、やはり目立つ。

 

『違う、恐ろしく強い方じゃなくて連弩と楯のペアだ』

 

そう言われて球子と杏を視界に入れる。

 

「変身できたのか」

 

紫羅欄花を思わせる戦装束を纏った杏が矢を放つ。

黄金の軌跡を描きながら、矢はバーテックスに向かう。

しかし、それは阻まれた。

突然発生した赤く透明な板。

それは矢の軌道を反転させ、射手である杏を葬らんと迫る。

同時に、朝月拓海を喰らわんと一体のバーテックスが背後から迫っていた。

獣の如き直感でそれを察知し、少年は刀で斬り伏せるのではなく、受け止めた。

身体を衝撃が貫く。

肉体は形を維持しながら一部が破裂する。

受け止めたバーテックスを破裂した手で掴む。

狙いを定めてる暇は無い。

とにかく、あの矢を防ぐために投擲した。

勇者の腕力を使って投げたソレは、大きく開いた距離を瞬時にゼロにする。

既に球子が杏を守るために旋刃盤を大きな楯状に変形させている。

もしかしたら余計な事をしたかもしれない。

彼女達と反転した矢の間に割り込んだバーテックスは、その体を矢に貫かれながら消滅した。

さて、あの進化体をどうしようか。

 

『菊と朝顔はやめておけ、こちらが逆にやられる』

「分かってるよ。酢漿とか山桜の方が良いかな?」

『そんな物を使わなくても、線をなぞればいいだろ』

 

そうは言われても、今の俺に線は見えない。

 

『いや、お前の目と頭の状態で見えないのはおかしい。魔眼を抑える何かをつけてる訳でもない、俺の様に目を元に戻…』

「御託はいいよ。話なら寝た後に沢山聞く」

 

考えるのはやめた。

線は見えないし、技が通じるか分からないのなら、確実に通用する手を使う。

自身の内側に意識を集中する。

神樹の概念的記録に接続し、選択し、抽出する。

勇者装束は白一色だった物に緑が追加される。

吐息は炎になり、腕には蛇のような鱗が生える。

拓海がその身に顕現させた精霊は『清姫』。

恋焦がれた人に約束を破られ、絶望し、悲嘆し、憤怒し、竜に化けた少女の精霊。

清姫は炎と、竜に変身する力を拓海に与える。

 

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!!

 

咆哮する勇者。

その身を"赤い"炎の竜へと変化させ、バーテックスへと向かう。

進化体バーテックスを竜は自らの長い身体で締め付け炎を吐く事で攻撃する。

しかし、進化体バーテックスを破壊するには至らない。

失敗した。

コイツ、炎を吐いても反射板で防御している。

締め付けは効いてるからいつかは倒せる。

しかし、今他のバーテックスに群がられでもしたらまずい。

 

「拓海くん!そのまま抑えてて!!」

 

そんな思考を打ち消す声。

拳一つでこちらに突っ込んでくる声の主は、高嶋友奈だった。

 

「勇者パーーンチッ!!」

 

進化体バーテックスは再度反射板を発生させて防御する。

 

「一回で効かないなら…何回でも叩き続ける!!」

 

友奈の勇者装束が変化した。

 

「千回ぃぃ……連続勇者パーーーーンチ!!」

 

暴風の具現化した精霊、『一目連』をその身に顕現させた友奈の拳は風となり、竜巻の如き勢いで反射板に打ち込まれていく。

一撃一撃は確実に蓄積し、その表面に亀裂が確認できる。

バーテックスを倒すまで友奈は止まらない。

進化体はそんな彼女の拳により粉々に砕け散り、炎の竜に包み込まれた。

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!!

 

耳をつんざく勇者の咆哮。

それを聞いた若葉はその咆哮の聞こえた方へ視線を向ける。

目に映ったのは赤い炎の竜。

 

「あれは…朝月さん?」

 

進化体に絡み付き締め上げている。

拮抗する竜と進化体。

次に目に入ったのはその二体の争いに突っ込む友奈だった。

その身に精霊を顕現させた二人は、バーテックスを無事打ち倒した。

勇者の『切り札』は肉体に大きな負荷がかかる。

故に、大社からは使用を控えるように言われていた。

必要なら若葉が自分で使用するつもりだったのだが。

 

「まったく…あの二人は」

 

三年。

侵攻対象が諏訪に定められ、四国が平和だった期間。

それだけの時間があったから、若葉達は対バーテックスの訓練を積み、勇者の戦装束を作り出し、神樹の力を利用した攻撃方法も編み出した。

 

(白鳥さん、諏訪の人々……あなたたちがいてくれたから、私たちの力はバーテックスに届いた。今日の戦果は全てあなたたちのおかげだ)

 

物思いに沈む若葉に、バーテックスが襲いかかる。

反応が一瞬遅れ────

 

ギリ、ブチィ!

 

肉がちぎれる音が木霊する。

 

「…まずいな、食えたものではない」

 

バーテックスが若葉を食いちぎったのではなく、若葉がバーテックスを食いちぎった。

バーテックスの肉を飲み下し、刀で両断する。

それが、四国に侵入してきた最後のバーテックスだった。

それを見て、球子と杏は引きつった顔をした。

二人は若葉をあまり怒らせないようにしよう。と思ったそうな。

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

敵を掃討し、樹海化が解けると、丸亀城の城郭に立っていた。

空の色で、時間が本当に止まっていたんだと認識する。

 

「あの、拓海さん」

 

杏がこちらに駆け寄る。

その手には俺が預けた鞘が握られていた。

 

「これ、ありがとうございました」

「あぁ、どういたしまして」

 

鞘を受け取ると、杏は球子の隣に去っていった。

 

「………」

 

空腹。

討滅兵装で脳をいつもより使い、バーテックスとの戦闘でいつもより身体を動かしたからか、酷い空腹感に襲われる。

飴玉やキャラメルでもポケットに忍ばせておけばよかった。

 

「若葉ちゃん!変なものを食べちゃダメでしょう!」

 

城郭に声が響く。

若葉も腹が減って拾い食いでもしてしまったのだろうか。

 

「だが…」

「だがじゃありません!」

 

若葉は正座してひなたからお説教を受けていた。

あんなに強かった若葉がひなたが相手だとめっぽう弱くなっていた。

まぁ、拾い食いなんてしたらそうもなるか。

 

「奴らは昔、私の友達を喰らったんだ。だからその仕返しをだな……何事にも報いをというのが……」

「お腹を壊したらどうするんですか!」

「う……むぅ……」

 

ついに何も言い返せなくなった。

そして拾い食いではないらしい。

 

「鬼のように強かった若葉さんが……」

 

小声で言う杏に、球子はう〜んと手を組んでつぶやく。

 

「一番怖いのはひなただったか……」

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

「拓海……その怪我……」

 

翌日の昼休み、食事を取っていると千景に手の怪我について聞かれる。

 

「別に大したものじゃないよ。バーテックスを投げた時にちょっとね」

 

ピクリと球子が反応する。

 

「バーテックスを投げた?…もしかしてあの時タマ達を庇ったバーテックスって…!」

「あー、俺が投げたやつだね」

「なっ…!あんなの無くても、タマはあんずを守れたんだからな!」

 

小動物が威嚇しているような球子の姿は微笑ましかった。

 

「知ってるよ。ふっ…

 

おっと、つい笑いが漏れてしまった。

 

「笑うなー!…まったく…!」

 

座り直してうどんをすすろうとすると、球子は思い出したように箸を置いた。

 

「なあ若葉。みんなで話し合ったんだけどさ」

「なんだ?」

 

若葉は怪訝そうな顔をした。

 

「やっぱり、お前がリーダーやってるのが一番いいと思う。今までは大社に言われたから若葉がリーダーってなってたけど、今回の戦いではっきり分かったよ」

「……どうしたんだ、急に?」

「いやさ、この前の戦いの時、お前が先頭になって戦ってくれたから、タマ達も戦うことができた。そうでなかったら、誰かが大怪我してたか……死んでたかもしれない」

 

若葉は一人でバーテックスの三分の二を倒していた。

彼女の奮戦が無ければ、俺や千景、杏は死んでいたかもしれない。

 

「私も、若葉さんがリーダーをやるのがいいと思います…」

「うんうん。若葉ちゃんって、いかにもリーダーって雰囲気あるしね」

 

ニコニコと笑顔を向けている友奈に続く。

 

「乃木ならみんなを引っ張ってくれる気がする」

「……反論は無いわ。あなたの活躍は確かだったし……二人も、リーダーに適格って言うから」

 

千景は若葉の方を見ることなくそう言った。

若葉に対して苦手意識を持っていそうな彼女が認めたのは少し意外だった。

 

「……」

 

若葉は全員の顔を見つめると

 

「……ありがとう」

 

彼女から、すこしだけ憑き物が落ちたような気がした。

 

「良かったですね。若葉ちゃん」

 

ひなたはそれを微笑ましげに見つめる。

 

「ところで……そうと決まれば若葉、一つ言いたかったことがあるんだけどよ」

 

球子がジト目で若葉を見る。

 

「なーんーで、お前はタマのこと苗字で呼ぶんだ?友奈とかは『友奈』って言うのに」

「私は名前で呼んでって言ったからね!」

「むぅ〜…だったらタマも『球子』とか、もっと親しみを込めて『タマっち』でもいいから」

 

不機嫌そうに球子が言う。

昔、友達が飼ってた小型犬が拗ねた時はこんな感じになってたっけ。

 

 

「実はタマっち先輩、若葉さんに名前で呼ばれないこと、実は気にしてるんですよ」

「そそそ、そんなことねーしっ!別に気にしてないしっ!…って拓海!笑うなー!」

「笑ってな…くふっ」

 

杏がからかい、ムキになって球子が否定する。

 

「あと、私のことも名前で呼んでください」

「あんず!お前、都合よくタマの言葉に乗っかったな!」

 

球子と杏のやり取りを見て、千景はポツリと呟いた。

 

「……私も、名前で呼んでいいわ……」

「「「!?」」」

 

若葉、球子、杏が一斉に千景を向く。

 

「何よ……その顔……」

「いや、少し以外だったといいますか…」

 

若葉がそう言うと、千景は頬を桜色に染めてそっぽを向いた。

 

「他のみんながそう呼ばれてるのに…私だけ名字なんて……変だから。あと、敬語使って話すのもやめてほしいわ……むず痒い」

「俺も出来ればそうして欲しいかな、敬語じゃなくてタメ語がいい。名前は好きに呼んで良いよ」

 

その言葉を聞き終えると、若葉は頷いた。

 

「分かった、今後はそうさせて貰う。千景、拓海、杏、球子」

 

温かな表情を見せながら五人の名前を口にする。

 

「それじゃあ、みんなで記念撮影をしましょう!」

 

ひなたは満面の笑顔でカメラを取り出す。

 

「今日は四国勇者の再出発記念日、そして若葉ちゃんのリーダー着任記念日という事で、ふふふ、私の若葉ちゃん秘蔵画像コレクションが増えます」

「ひなた!お前はまだそんな収集などしていたのか!」

「秘蔵画像コレクション?なんだそれ?」

「おもしろそう!ひなちゃん、私にも見せて!」

「球子、友奈!興味を持つな!」

「私も見たいです!」

 

次々に若葉の秘蔵画像コレクションとやらに興味を示す三人。

千景は「どうでもいいわ……」と興味無さげな様子だ。

そんなわいわいとした騒がしい中、ひなたのカメラから発せられたシャッター音が、微かに耳に入った。




渚は魔眼のオンオフができますが拓海くんはできません。
渚は海薙の呪いに無理矢理目を変質させられていたので呪いを抑える事で普通の目に戻ります。
拓海くんは一度の臨死体験、母親の朝月和恵(かずえ)がこの世の物ではないナニカを視認できた事もあり、元々良くないモノが見えてしまう因子を持っていた。
そして、七月三〇日にバーテックスが襲来、その際勇者となった事を引き金に魔眼が覚醒。
無意識に見ないふり、チャンネルを切り替えた気になってるだけで実際は見えています。
なんで見えたり見えなかったりしてるのかというと、メガネのゴミに目が慣れてたけどふとした事で気になるって感じです。
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