朝月は鋼鉄纏う勇者である   作:ミートソースカブトムシ

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コードヴェインやってたらだいぶ期間が空いたので初投稿です。


第七話 家族

病室から見える景色を眺める。

空は曇天、雨が降るか降らないかハッキリとしていない。

こうしているのも少々飽きた。

切り札を使用したから、その影響を調べるために入院しろ。

そう言われて、俺と友奈は入院することになった。

俺の場合、討滅兵装を使用したからさらに長引くそうだが…

 

「うっ…」

 

景色がおかしくなる。

部屋はヒビ割れ、人はラクガキされる。

気を紛らわすための娯楽は無い、ならば今日はもう眠るしか無いだろう。

目を閉じようとすると、病室の出入口が開いた。

そこに視線を向けると、もうしばらく会っていない家族が立っていた。

皆、例外なく身体にラクガキされている。

 

「久しぶり、拓海」

 

先に口を開いたのは父の航平だった。

懐かしいその顔を、今だけは見たくない。

 

「久しぶり、お見舞いに来てくれたの?ありがとう」

「調子、あまり良くないのか?」

 

珊瑚の言葉に図星を突かれる。

 

「大丈夫、大社の人達が大袈裟なだけでどこも悪くないよ」

 

少し頭が痛いだけだ。

目が燃えてるかのように熱いだけだ。気にする程じゃない。

 

「何か飲みたい物はあるかい?自販機にあったら買って来るが…」

「喉乾いてないからいいよ」

 

響の顔に少しだけシワが増えた気がする。

否、老人とは思えないほど若々しい彼女は脆くなって(線が増えて)いる。

親しい人間の寿命が少なくなっている事を嫌でも見せつけられた。

───ちょっとした雑談が始まる。

話題はそこまで大したものじゃない。

しっかりご飯を食べているか、他の勇者達とは仲良くしてるか。

村の様子を聞いてみたが、様子は変わっていないらしい。

 

「いや、変わった所が一つだけあるな…郡さんとこへの嫌がらせが無くなった」

 

それが無くなったのは俺達勇者の存在が世間に大々的に報道された時かららしい。

あらゆる情報媒体で勇者のニュースが実名付きで流れ、勇者全員が年端も行かぬ子供達だということが話題になったのは記憶に新しい。

俺は討滅兵装だけではなく、何故か兜で顔を隠されたなと思い出す。

「仮○ライダーみたい!」と男児から人気だったと小耳に挟んだ。

 

「このままなら良いんだがな…」

 

どこか心配したように航平が語る。

簡単に手のひらを返す連中だから安心できない気持ちは分かる。

 

「って、もうこんな時間か」

 

時計を見ると、既に七時を回り、面会時間は三○分も無い。

皆が帰ろうと腰を上げる中、母の和恵だけが少しだけ残ると言った。

それを了承した他の家族達は病室から出ていく。

 

「どうしたの?」

 

和恵の様子はいつもと変わらない。

ただ、少しだけ昔を思い出させた。

怪我をした時、その痛みに耐えていた小さい頃の思い出。

先生すら騙したその演技を、和恵は一瞬で見破った。

 

『お馬鹿、痛いなら痛いって言いなさい』

 

ただそれだけの、夏の思い出。

 

「拓海、あなた何が視えてるの?」

 

なんで、そんな事を聞くのだろう。

俺の目は誰にも伝えていない。

他の勇者に変な物が見えるかどうか聞いた時も、俺自身が見えるなんて言ってない。

 

「何の事?」

 

本当は理解している。

何を聞かれているのか分かっている。

母は俺のことを見透かしておきながら、自分からそれを口にするまで梃子でも動かないつもりだ。

 

「分かってるでしょ?何を聞かれてるか」

 

口が重い。

言うのが怖い。

この眼についてはっきりと口にするのが怖い。

否定されるのが怖い。

そんな恐怖を、どうにか飲み込んだ。

 

「線が、見えるんだ」

 

この眼について全部話した。

見えるようになった時期、その線をなぞるとなんでも壊せるという事、その線は生物、非生物関係なく見えてる事、その線が見える時は頭が痛くて辛いことなどを話した。

それを疑わず、否定せず、何も言わずに聞いてくれた。

話を聞き終えると、俺の頭にポンと手を置く。

 

「そうだったんだ…大丈夫。お母さんが何とかしてあげる」

「何とかって…そんな事できるの?」

「安心して待ってて、少し時間は掛かるけど、どうにかするから」

 

そう言って、和恵は病室から出ていった。

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

「ただいま…」

 

返事は帰ってこない。

玄関の悪臭を無視し、廊下に上がる。

空き缶に触れないように歩く。

居間には布団に伏せっている母の姿があった。

薬を飲んで眠ってるらしい。

その容姿はまだ三十代とは思えないほどに老けて見える。

向かいの扉が開き、父が部屋に入ってきた。

 

「千景、帰ってたのか!久しぶりだな、元気にしてたか?」

 

大袈裟に両手を広げ、明るい表情を作っているが、どこか疲労の色が見て取れた。

大鎌の入った布袋を見て、ぎょっとしたように顔を強張らせる。

しかし、また作ったような笑顔を貼り付ける。

しばしの会話を紡ぐ。

その会話は何も楽しくなく、ただ早くここを離れたいという思いを強くさせるだけだった。

 

「千景、昼ご飯は食べてきたか?お腹が空いてるだろう、今から出前でも───」

「いいよ…食べたくない」

 

父の言葉を遮り、両親に背を向け、居間の出入口へと手をかけた。

 

「どこに行くんだ?」

「友達のところ、行ってくる」

「拓海くんも帰ってきてるのか」

 

会話をそこで終え、部屋を出た。

帰ってくるんじゃなかった。と後悔する。

友達のところに行くなんてただの言い訳だ。

この村に会いたいと思う友人なんていない。

拓海だって、今は香川にいる。

郡家の淀んだ空気から逃げ出したかっただけだ。

稲田に敷かれた細い道を歩いていると、いつの間にか、かつて通っていた小学校の前にいた。

この学校には嫌な思い出ばかりがある。

拓海が来るまではずっと痛くて、怖かった。

当時の日々がフラッシュバックする。

香川にいる時は思い出さなかったのに、この景色に引っ張られて、いらないものまで出てきたらしい。

 

「あなたが千景ちゃん?」

「ひゃっ!?」

 

突然後ろから声をかけられる。

気配も何も無く話しかけてきた女性は、どこか拓海に似ていた。

 

「そう…ですけど」

「ちょうど良かった、拓海の母の和恵です」

 

拓海から男の子らしさを徹底的に無くし、眼鏡をかけさせた様な容姿はそういう事かと納得する。

それにしても、朝月家の女性は気配を消して唐突に現れるのが得意なのだろうか。

鞄から木箱を取り出した和恵は、それを私に預ける。

 

「これ、拓海に渡して欲しいんだけど、頼んでいいかしら?」

 

どこか有無を言わせない雰囲気を帯びている。

断る理由も無いので了承すると、和恵は「ありがとう」と礼を言った。

 

「拓海が迷惑をかけていない?あの子、あんまり香川での話をしたがらなくて」

「迷惑なんて……思ったこと無いです。拓海くんには…助けてもらってばかりで……」

 

この前だって拓海がいなければ私は戦えなかっただろう。

 

「良かった、昔と変わらず仲良しそうで安心した」

 

……仲は確かに悪くない。

ただ、勇者になってから少しだけ距離感が遠くなった気がする。

昔は名前で呼んでくれた、もっと近くに立ってくれた、もっと共に過ごしてくれた。

彼は一度死んでしまったかのように、遠くなってしまった。

 

私は彼にとって、無価値となってしまったのだろうか。

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

「あなた…郡さん?」

 

和恵と別れ、香川へ戻ろうとすると、また声をかけられた。

そんな展開にデジャヴを感じつつ振り返る。

そこに立っていたのはかつて担任だった女性教師だ。

彼女は昔よりも少しだけ老けた顔で微笑んだ。

 

「どうしてこんな所にいるの?みんなもう、あなたの家に行ってるわよ」

「……? 私の家……?」

「そうよ。あなたが地元へ帰ってきたこと、みんなに伝わってるから」

 

意味が分からない。

みんなとはなんの事だ。頭が疑問符で溢れかえる。

彼女は私の手を取り、「さぁ、行きましょう」と引っ張るように連れていく。

元担任によって連れてこられた場所は私の家だった。

家の前に人だかりができている。

近づくと、その人達は私を取り囲んだ。

人々が向ける視線は昔とは違った。

興奮と尊敬の眼差し。

無数の声を浴びせられる。

私を虐げたクラスメイトは媚びへつらった笑みを浮かべている。

 

「私たち友達だよね?恨んでないよね?」

 

拓海がいても、村八分は終わらなかったのに。

 

「ぜひうちの店に寄ってくれ!」

 

私を尻軽女の娘と罵った商店街の店主達が、似たような事を次々と言っている。

 

「あなたは村の誇りよ」

 

私を薄気味悪いと飽きず繰り返し言っていた主婦達が、今ではそれが想像できないような言葉を発している。

皆、私が勇者になってから手のひらを返して、そんな事を言っていた。

布袋に入れたままの大鎌の柄で地面を叩く。

乾いた音がやたらと響き、私を囲んだ人間達は静まり返った。

 

「……皆さんに……聞きたいことがあります」

 

人々が勇者を注目する。

 

「私は……価値のある存在ですか……?」

 

人々はしばし怪訝そうな顔をして、やがて誰かが答えた。

 

「もちろんよ。だってあなたは勇者だもの」

 

同じような言葉が水のようにかけられる。

これだ。と思った。

ずっと最底辺だった私が、蔑まれ、疎まれ、傷つけられ、無価値と体と心に刷り込まれるように生きてきた郡千景は、今では自分を傷つけた人間に頭を下げられ、媚びを売られている。

私が勇者として頑張れば、きっと拓海もまた認めてくれる。

みんなに認めてもらえる。

 

(私が…勇者だから……!)

 




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