赤司のロンパ ~ 超高校級の『天帝』と呼ばれた男~   作:ばうむくうへん

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写真を撮ったらサヨウナラ

千秋ちゃんがコテージを出て行ってから暫く時間が経つというのにアタシは未だにその場から動けずにいた。千秋ちゃんはきっと赤司の所に行ったんだと思う。そう分かっているのにアタシは何もできずにその場に留まったまま。アタシってなんてずるい女なんだろう。普段は皆にしっかりするようにふるまってる癖にいざという時には何もできない。蜜柑ちゃんだって日寄子ちゃんだって皆怖い思いをしてるのに・・。

 

今だってそう。千秋ちゃんが赤司の所に行ったって分かってるのに追いかけようともしない。いや、できないんだ。また赤司からあの冷たい眼を向けられるんじゃないかって思ったら・・。そんなのイヤ、イヤだよ。

 

そんな風に膝を抱えていると不意にコテージの郵便受けがゴトっと音がするのを聞いた。驚いて音のした方へ恐る恐る近づいていく。

 

「なんなのこれ・・ビデオ?」

 

茶封筒から取り出したのは今となっては懐かしいVHSテープのビデオだった。今時こんなものを見る機会なんて滅多にない。都合よくコテージに備え付けられたテレビにもビデオデッキが付いている。このテープを見ろっていう事なのかしら?いつものアタシなら得体の知れない物に手を付けないでいたんだけど今のアタシにはとにかく何か気を紛らわせる時間が欲しかった。怪しいとは思ったけどビデオをデッキに入れる、ほどなくして画面が映り始めた。

 

「なに・・これ・・?」

 

画面に映し出されたのは1枚の写真だった。それは中学時代の制服を着ているアタシの写真。なんでそんなものがココにあるの?写真を捲るように画面が切り替わるとそこに映し出されたのは中学時代の自分と同じ制服を身に着けているまだあどけなさの残る少女。この子誰だろう?同じ制服を着てるってことは後輩かな?でも、この子どこかで見たような。再び写真が切り替わると今度は見慣れぬ制服を来た女子が3人、でもあれって・・

 

「日寄子ちゃんに蜜柑ちゃん。それに唯吹ちゃんにペコちゃん・・?」

 

見間違えるはずがない。見知った顔の4人が仲睦まじく写真に写っていた。それともう一つ分かったことがある。この写真を撮ったのは・・アタシだ。何故だかは分からない。でもこの撮影の角度やピント、そして感情が最も現れた4人の満面の笑顔、アタシが撮ったんだという確信があった。でもこの知らない制服は何?いや、そもそも何でこんな格好の皆をアタシが撮ってるの?

 

何もかもワケが分からなかった。だけど4人の胸にある校章が目に付くとハッとする。あれは希望ヶ峰学園の校章、ということはあの写真は希望ヶ峰学園で学生生活を送っている皆の写真ということになる。でも待ってよ?アタシたちが知り合ったのはついこの前、しかも入学早々にこの修学旅行に参加してるから当然学園指定の制服なんて着た姿なんて見たことない。そんな記憶あるはずがないよ。

 

「・・記憶・・!?・・ひょっとして・・!」

 

唐突にモノクマの言葉を思い出す。アタシ達は入学から2年間の記憶を失ってるって。そんな冗談信じられないと思ってたけど記憶を戻された赤司と花村の変化・・。もし本当ならこの写真から何か分かるかもしれない。

 

そう思ったアタシは食い入るように画面に映し出された写真を目にする。そのどれもが友達との微笑ましい写真だった。日寄子ちゃんはやっぱり蜜柑ちゃんにちょっかいをかけてる写真が多かったけど蜜柑ちゃんもとっても嬉しそうで、唯吹ちゃんは写真の中でも相変わらずとても元気で明るくて。何より驚いたのがペコちゃんだ。この修学旅行でもペコちゃんが笑った顔なんて一度も見たことがなかったのになんて柔らかくて眩しい笑顔ができるんだろう。この写真を撮っているのがアタシならきっとすごく楽しんで皆を撮ってるんだろうなぁ。

 

そうやって記憶にはない皆との思い出の写真の映像に浸っていると突然それが目の前に移った。どこかの教室の一角でだらんと力なく壁にもたれかかっている女の子が1人、その頭からは真っ赤な血が滴り落ちていた。

 

「・・ひぃっ!?」

 

思わず画面から後ずさる。いきなりこんな写真が出てきて一体何なの!?これもモノクマの嫌がらせなの!?

でも、その写真の女の子がどこか見たことがあるのに気付くと恐る恐る画面に近づく。その顔をよく見ると最初の映像で映し出されたアタシと同じ中学の制服を着た女の子だった。

 

どうしてその子が血まみれで教室の中で死んでいるの?あまりに突然に切り替わった幸せから恐怖の時間にアタシは考えを巡らせることが出来なかった。

 

するとそれまで無音で写真を流すだけだった映像に急に音声が流れ始める。ひどくノイズが走っていて聞き取りづらいけど多分女子2人の会話だと思う。

 

「な・・で!・・コちゃん・・!?・・ずりゅうさんを・・!」

「しかたな・・!ど・・・ても!・・るせなかった・・!」

 

何かを激しく言い合っているようだった。と不意に映像と音声は切れ画面下からスタッフロールのようなものが流れ始める。スタッフや制作名は全てモノクマと表記されており呆れたアタシがビデオを止めようとすると最後にキャスト紹介のテロップが流れた。そこに記されていたのはコイズミ、ペコヤマ、ミオダ、サイオンジ、ツミキ、クズリュウ。そこでテープは終了し残されたのはザーッとノイズが走る画面。

 

最後のキャストにあったクズリュウって・・九頭龍のことよね?でもアイツが写真に写ってる姿なんてなかった。もしかしてあの女の子がクズリュウ?

 

そこでアタシは思い出す、あの幼さの残る女の子の事を。アタシが中学の時に写真部の後輩だった女の子だ。確かに九頭龍って変わった苗字だったと覚えている。でもアタシと一緒に写真を撮るようになってからすぐに何も告げずに辞めてしまったんだ。理由は最後まで分からなかったっけ。

 

でもその九頭龍さんがなんで希望ヶ峰学園の制服を着て血まみれになって死んでいるのかはさっぱりと分からない。何かヒントになるものがないかビデオが入っていた封筒を漁ると一枚の紙切れがあった。それを開くと中にはこう記されていた。

 

『プライベートビーチにある小屋で待つ』

 

その一文だけだったけどアタシは分かってしまった。このメモを寄越したのは九頭龍だって。筆圧が凄い、きっと凄く怒っているんだ、どうしよう、行くべきなのかな?でももしかしたら危険な目に遭うかもしれない。千秋ちゃんに相談しようと思ったけど今は多分赤司の所にいると思うと動けなかった。

 

 

・・またアタシは誰かに甘えてしまうの?また誰かに泣きつくの?皆怖い思いをしているのにアタシだけいつまでこんな弱虫のままなの?・・逃げてばっかりじゃ駄目だよね・・。このままじゃ千秋ちゃんにも皆にも・・赤司にも顔向けできないもの。

 

 

アタシは覚悟を決めると九頭龍が指定したプライベートビーチへと向かった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

プライベートビーチに着くとそこには更衣室だろうか、1軒の小屋が建っている。開きかけた戸がまるで入ってこいと言うような雰囲気だったけどアタシは息を飲んでその戸に手をかける。

 

戸を開いた先にいたのはやっぱり九頭龍、それとその横にいたのが・・

 

「ペコちゃん!?なんでここに・・?」

 

アタシの質問にペコちゃんは応えない、ただ口を詰むんで下を向いているだけ。

 

「コイツのことは気にすんな、俺がお前に用があるのは変わらねぇ」

 

九頭龍が怒気の混じる声でアタシに言い放つ。でも今の言い方ペコちゃんと親しげがあるように感じたのは気のせいなのかな?と、九頭龍が口を開く。その声から出たのは本当に余りにも正直で唐突な問いだった。

 

「小泉・・!お前が俺の『妹』を殺したのか・・!?」

「えっ・・!?」

 

妹・・って言ったよね?あの子が九頭龍の妹さんなの?戸惑うアタシに考える時間など与えないように九頭龍が再び同じ内容を口にする。先程より強い口調で。

 

「あ、アタシにも何が何だか分からないの!あの子が九頭龍の妹さんって本当なの!?」

「まだシラを切るってのかよ!?とぼけんじゃねぇ!!」

「と、とぼけてなんかいないよ!?お願いだから話を聞いてよ!?」

 

既に相当頭に血が上っていたのか、九頭龍は一方的に声を荒げながらアタシに迫る、するとアタシと九頭龍の間にペコちゃんが割って入った。

 

「落ち着いてください!坊ちゃん!まずは小泉の話を聞いてあげてください!」

「・・くそがぁ!!」

「ぼ、坊ちゃん・・?ペコちゃんあなた・・?」

 

九頭龍を「坊ちゃん」と呼び敬語を話すペコちゃんはアタシの知ってるペコちゃんじゃなかった。そのペコちゃんが諌めたおかげか九頭龍は幾らか落ち着きを取り戻しているみたい。でもまだ興奮している九頭龍に代わってなのか代弁するように口を開く。

 

「・・驚かせてすまない、小泉。今からする質問に正直に答えてくれればいい」

「え、え・・!?ぺ、ペコちゃん・・!?」

「正直に答えなければ・・殺す・・!」

 

え、今ペコちゃんアタシの事を殺すって言ったの?なんで?アタシが何をしたって言うの?あんな訳のわからないもの見せられてこんな所に呼び出されて殺すなんて。どうしてこうなっちゃうの、ねぇ!?

 

そんなアタシの心境などお構いなしにペコちゃんが問うのはアタシと九頭龍さんの関係についてだった。アタシは正直に彼女が中学時代の部活の先輩後輩の間柄だったのを告げるとしばし瞼を強く閉じたペコちゃんはもう一度確認するように口を開く。

 

「ではお前はお嬢様を殺していないと・・そう言うんだな・・!?」

 

 

その問いにもちろんと応えたい、だけどアタシにはその記憶がないんだ。モノクマから過去2年の記憶を消されているのだとしたらその時のことも当然覚えているはずがない。口ごもっているアタシにやはりと疑いの目を向けた九頭龍は再び興奮した声でまくし立てる。

 

「言えねぇってことはお前がアイツを殺したってことじゃねぇのかよ!?」

「ち、違うよ!?アタシはそんなこと・・!そんな・・こと・・!!」

「やってねぇならはっきりしやがれ!!お前が殺したのか!殺してねぇのか!?どっちだぁぁ!!!?」

 

今にも飛び掛かってきそうな迫力にアタシは両手で頭を押さえて蹲る。怖い、やっぱり怖いよ。やっぱりアタシは弱虫でダメな人間なんだ・・!九頭龍の言葉に押しつぶされそうになった時、その間に入ってきたのはペコちゃんの声だった。

 

 

「もういい・・もういいんです・・坊ちゃん・・」

 

 

それは怒れる相手を沈める言葉としてはすごく静かなものだった。まるで何かを諦めた、悟ったような感じに聞こえたけど。その顔はやっぱり何かを感じ取ったような物哀しさが表われていた。

 

 

「もういいって・・!どういう意味だペコォ・・!?」

「・・坊ちゃん・・!・・お嬢様を殺したのは・・私・・です・・!!」

「なっ・・・!?」

「ぺ、ペコちゃん!!?」

 

今ペコちゃんは殺害の告白をしている、頭では理解出来ていても心が理解できていなかった。あのペコちゃんが、いつもは難しい顔をしてるけど本当はとても素敵で優しい笑顔を向けることができる彼女が殺人を犯しただなんてとても信じられなかった。

 

「ペコ・・どういう・・意味だ・・?・・説明・・しろや・・?」

 

九頭龍の声は今までになく静かなものだった。だけどその声は今まで張り上げていたどの声よりも怒りと戸惑いが満ちておりアタシは肩を震わせる。目は固く閉じたままペコちゃんは懺悔するように語り始める。

 

ペコちゃんは幼少の頃より九頭龍の生まれである九頭龍組に拾われ育てられてきたそうだ。育てられたと言ってもそれは九頭龍組の為に生きて、九頭龍組の為に死ぬだけの存在。そんな悲しい境遇なのにペコちゃんの言葉には何もなかった自分を育ててくれたという恩義を感じるような口調だった。

 

「じゃあペコちゃんは・・九頭龍の幼馴染だったんだね?」

「幼馴染などではない。私は坊ちゃんの・・九頭龍組の道具だ」

「道具って・・そんなの・・!?」

 

ペコちゃんは道具として生きて道具として死ねることに誇りを感じていたんだ。九頭龍もそうやってペコちゃんを扱ってきたそうで九頭龍の妹さんもそれは変わらなかったそう。でも、だったら・・。

 

「だったらなんで・・ペコちゃんはその・・九頭龍の妹さんを・・?」

「・・今更虫が良すぎるかもしれないが・・小泉・・お前の為だった・・と思う」

「あ・・アタシ・・の・・?」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

私が九頭龍組の道具として育てられてから15年が経っていた。私は坊ちゃんとお嬢様の右腕として己を研鑽し高め上げた。この力を持って九頭龍組の更なる発展に貢献し、そして坊ちゃんとお嬢様の為に戦い・・そして死ぬ。それだけで私は満足していた、いや十分すぎるほどであった。九頭龍組に拾われなければどことも知れぬ地で一人寂しくこの世を去っていたのだから。この命は全て九頭龍の為にある、そう思ってきた。

 

 

「~~あのクソ女がぁッ!!」

 

 

ある日お嬢様が居間で声を荒げていた、なんでも所属されている部活動で何かがあったらしい。もっともその疑問を口を出すことは許されない、私は道具なのだから。

 

大きく独り言を漏らす内容から察するに写真部に所属されていたお嬢様だったが上級生の部員に辛酸を舐めさせられたそうだ。相当に屈辱だったのだろう。無粋とは知りつつも私は進言する。

 

「・・消しますか?」

「バーカ!そんなんしたらツマンねぇだろ!?あの女・・どこまでも追いかけて潰してやるんだから・・!」

 

その後、『超高校級の剣道家』として希望ヶ峰学園へと進学することに決まった私にお嬢様はこう告げた。

 

「アンタと同じ年代で『超高校級の写真家』の小泉 真昼って女がいるからマークしときなさいよ!」

 

疑問は持たず一言「畏まりました」とだけ返した。恐らくソイツこそがお嬢様の逆鱗に触れた輩。マークしろと仰せつかったがもしお嬢様の手を煩わせるような輩であれば即座に・・斬る!

 

・・そこで私の記憶は途切れる。モノクマの言う事が本当であればその後の2年間の記憶は失われているのだから。

 

 

修学旅行では互いの関係は忘れるという坊ちゃんの意向に従ってはいたものの定期的な接触は続けていた、モノクマからビデオテープが届いたのはそんな時だった。

 

「キサマ・・どういうつもりだ!?」

「どういうつもりもないよ、ただ青春の1ページを収めたお涙頂戴モノのビデオをお見せしたかっただけですよ~だ!」

 

そう言い残したモノクマが置いてあったビデオテープ。坊ちゃんも私も訝しがってはいたが状況の変化を促す意味で拝見することになった。そこで映し出された数々の写真に私は戸惑った。そこには今まで晒したことのない笑顔を向ける自分がいたから。こんな笑顔を自分は作れるのか・・そう思った。そしてその笑顔を向ける相手が誰なのかも自ずと分かっていた。

 

小泉 真昼。

 

赤司との朝稽古で真剣を用いた私達の間に入ってまで闘いを止めようとするなど見かけによらず無茶をする女性。修学旅行に入って間もなく女子生徒同士でケーキ作りを提案するなど率先して親睦を図っていた。それまで同輩との交流が皆無だった私にはこれまでなかった刺激だった。

 

「ペコちゃん、笑おうよ?ねっ♪」

「・・急に笑えと言われても無理だ」

 

小泉は人物像の写真を撮ることに執着しておりクラスメイトの写真を次々に収めていた。中々笑顔を撮らせない自分に最近はこうして張りつかれてしまっている。

 

「仏頂面じゃせっかくの可愛い顔が台無しでしょ?ほらチーズ」

「ま、待て!無理なものは無理なんだ!」

「あら、田中さんの破壊神暗黒四天王ですわ?」

「な、なにっ!?あっ、こ、小泉!?」

「ふふ、いい笑顔だったよ、ペコちゃん」

 

油断した、可愛いモノに目がなかった私は不意にその顔を晒してしまいカメラに収められてしまった。

・・いや、笑顔を晒したのは破壊神暗黒四天王よりもその笑顔に向けてだったのかもしれないがな・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

「そして今、小泉の証言を聞いて確信したんです・・!お嬢様を殺したのは私だと・・!!」

 

ペコちゃんが身体を震わせながら告白する。ペコちゃんの話では九頭龍の妹さんは私に対して相当の嫌がらせを計画していたみたい。ペコちゃんが希望ヶ峰学園に進学する前には五寸釘やナイフなどの刃物も準備していたとのことだ。記憶にはないけどアタシは実際に手痛い目にあっていたんだろうな。だってそうでなきゃ・・

 

「それじゃあ・・ペコちゃんは私を守る為に・・九頭龍さんを殺したの・・!?」

 

ペコちゃんは静かに頷く、とそれまで口を閉ざしていた九頭龍がこれまでにない怒声を上げてペコちゃんに襲いかかる。その手には暴力映画で見るような短刀を握って。

 

「ペコ、テメェェェ!!!」

「逃げて、ペコちゃん!!」

 

だけどペコちゃんは一歩も動かずに刀をその身に受けた。突き立てられた左腕から血がドクドクと流れ出てくる。九頭龍が短刀を引き抜くと塞き止められていた水が噴き出る様に血があふれ出す。

 

「ぺ、ペコちゃん!」

「来るな、小泉!逃げるんだ!」

 

左腕を押さえて壁に寄りかかっている状態なのにペコちゃんはまだ私の身を案じている。なんで、どうしてそんなにまでして私のことを気遣うの?自分が死にそうな目に遭ってるのに!

 

「お前が教えてくれた・・と思う。私が道具じゃないってことを。」

 

もう意識が薄らいでるのか、うわ言のように呟きながら膝を折ったペコちゃんに九頭龍が迫る。このままじゃペコちゃんが殺されちゃう・・!イヤ、そんなの絶対にイヤだよ!!

 

アタシは咄嗟に立て掛けてあった金属バットを手にとる、ペコちゃんが護身用に持ってきていたヤツだ。それを思い切り振りかぶると九頭龍の頭めがけて思いきり振り下ろした。

 

「がぁっ!!?」

 

ゴツッという音と共に赤い血がバッと宙を舞う。頭を押さえながら九頭龍は地面を這いずり回っている。い、今のうちに逃げないと・・!気を失っているペコちゃんを抱えて外に出ようとしたけど人に暴力を振るってしまった感触と恐怖が身体と心に残って全身を震わせてしまい思うように動けない。するとアタシの左足を掴みながら九頭龍が血だらけの顔を上げる。

 

「小泉ィィ・・!テメェェェ・・・!!」

「ひっ、ひぃぃぃっ!?こ、来ないで!来ないでよぉ!」

 

必死に振りほどこうとしても九頭龍は一向に手を離そうとしない。離して、離してよ!そうすればアタシはペコちゃんを連れて逃げられるんだから。・・そうだ、この手が離さないから逃げられないんだ。だったらこうすればいいんだ!

 

アタシは左手に持ったバットで何度も何度も足を掴んでいる九頭龍の手を殴りつけた。聞いたことも無い音と感触が全身に響きながらも手を離そうとしないその手を何度も何度も何度も何度も殴りつけた。

 

九頭龍の腕が青黒く腫れ上がっていて多分腕の骨が折れてるんだろうな。それでもまだ足を掴む手を離してはくれない。もうやめてよ!離してくれないと逃げられないじゃない!アタシはただ逃げたいだけなのに!

 

「離せっていってるでしょぉぉお!!!」

 

アタシは強く握りしめたバットを再び九頭龍の頭に振り下ろした。頭蓋骨がバットを弾く衝撃に腕が痺れる。けどそれでも離さない手にまだこれでも足りないんだ、まだまだ足りないんだと思いながらバットを振り下ろす。いつの間にか右手で支えていたペコちゃんを放って両手でバットを握りしめて頭部めがけてバットを振り下ろし続ける。

 

「離せ、離せ、離せ、離せ、離せぇぇぇぇ!!!」

 

そして何度振り下ろしたか分からない一撃が今までと違う感触が走らせる。それまで弾き返されていたバットが深く頭部にめり込む感触、例えるならそれは綺麗にスイカを割ったような感覚。

 

バットの先が肉と血が溜まる泉に沈んでいくのが分かる。そうしてようやく離れている手を確認すると私は激しく肩を上下させながら息を整える。ようやく落ち着いたところで横で倒れていたペコちゃんが意識を回復させたのか呻くような声をあげている。よかった、無事だったんだねペコちゃん。

 

「うぅ・・私は・・?小泉・・?」

「ペコちゃん、もう逃げられるからね♪」

「え・・?・・ッ!!ぼ、坊ちゃん!!?坊ちゃぁぁぁん!!!?」

 

ペコちゃんが九頭龍に駆け寄っている。何してるのペコちゃん?早く逃げようよ?また起き上がってくる前にさ、ねぇ逃げようよ?

 

「小泉・・!お前・・なんてことを・・なんてことをぉぉ!!」

 

何叫んでるんだろ、ペコちゃん。そんなに煩くしたら九頭龍が起きちゃうよ、そしたら逃げられなくなっちゃうよ?

 

後ろから騒がしい声が聞こえる。・・・あ、この声は日寄子ちゃんと蜜柑ちゃん、それに唯吹ちゃんかな?良かったぁ、3人も助けが来てくれたしもう大丈夫だよね?

 

戸を開いて3人が入ってくるとアタシの姿を見るなり叫び声をあげている。なんでそんな声を上げるんだろう?ああそうか、こんなに血塗れじゃあ怪我したって思うよね。アタシはどこも怪我していないよ?ペコちゃんが大怪我してるから蜜柑ちゃん手当してもらえるかな?泣かないでよ、蜜柑ちゃん。

 

するとモノクマから死体発見を報せるアナウンスが入る。・・なんで?もう皆でコロシアイなんてしたくないって思ってるのになんでコロシアイなんて起きちゃうの?悲しい、悲しいよ。また皆で楽しく修学旅行をしたいのに。また一杯みんなの写真撮りたいのに。

 

あれ、皆が慌てて出て行っちゃう。ペコちゃんも腕を押さえながら慌ててる、良かったそれだけ動ければきっと大丈夫だよね。でも皆待ってよ、アタシを置いて行かないでよ・・。

 

 

アタシを1人にしないでよ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

「これが私が見た全てだ・・!」

 

 

罪木の手当を受けた辺古山が声を絞り出す。なるほどな、俺たちの知らぬ間にそんな事があったとはな。モノクマめ、随分とアンフェアじゃないか。

 

現場で小泉を発見した俺たちはひとまず小泉を連れてコテージへと戻ってきていた。九頭龍については検死の余地はないだろう、僅かに原型を留めていたがもはや肉塊と化している。流石にあれでは罪木も耐えられまい。

 

「ま・・真昼ちゃんの様子はどうなんっすか!?」

「今は罪木と七海が付いている。2人の報告を待つぞ」

 

とは言ったものの九頭龍のあの状態、そして発見時の小泉の眼・・もはや手遅れか。やがて小泉のコテージから2人が姿を見せる、がその表情は暗い。

 

「ゲロブタッ!?小泉おねぇはどうなのよ!?」

「うっ・・うぅ・・うぇぇぇ・・!!」

「そ、そんな・・真昼ちゃん・・!!」

 

罪木の嗚咽が全てを物語っていた。俺たちが知っているあの世話好きでお節介だった小泉はもういない、いや正確にはもう戻らない。あれ程の精神的ダメージを受けたのだ、支障が出ないという方が無理というものだろう。七海は静かに俯いたまま泣き叫ぶ西園寺を抱いている。先程のゲームの勝者の願いから察するにあれは小泉の為に申し出たのだろう、普段から感情が読めない七海だが今は深く悲しみに満ちた表情を浮かべている。他の皆も動揺に起きてしまった悲劇をそれぞれに受け止めていた。特に、というよりもやはり女性陣のショックは計り知れない。女子のリーダー役として牽引してきた小泉が止むを得ない状況だったとはいえ殺人を犯した上に自我を崩壊するという事態に見舞われたのだ。特に小泉に懐いていた西園寺、次いで親交の深かった罪木や澪田、そして辺古山は半ば放心状態となっている。そうして皆が悲しみに沈む中、この場に不釣り合いな笑い声が響く。

 

「うぷぷぷぷ!!オマエラ沈んでる場合じゃないよ〜!!」

 

常日頃からコイツの登場には皆が辟易していたが今回ばかりは余りにも場違いが過ぎたようだ。誰もがモノクマに激しい敵意の眼を向ける。

 

「なにしに来たんじゃぁ、モノクマぁ・・!」

「今オレスゲェムカついてんだ・・!冷やかしに来たってんならぶっ飛ばすぞ・・!!」

 

弐大と終里が強烈な威圧を放ちながらモノクマに迫る。モノクマへの暴力は禁止という条項だがこの状況ではいつ破られてもおかしくはない。だがモノクマはそんな皆の怒りを受け流すように話を続ける。

 

「まぁまぁ落ち着いて♪それでは皆さんお待ちかねの学級裁判を始めますよ~!」

 

学級裁判という言葉に皆が戦慄する。ルールは当然最初の事件と同じ、誰がクロなのかを皆で議論を交わし決めるというものだ。しかし今回ばかりは・・

 

「モノクマ、残念だが今回の学級裁判は議論の必要はない。既に犯人は割れているのだからな」

 

誰もが思ってはいても口には出来ない事を俺は平然と言って見せた。いや、こうでもしなければ何も始まらなかっただろう。

 

「あ、赤司おにぃ!?本気で言ってるの!?」

「今回のは正当防衛とかじゃないんすかぁ!?」

 

西園寺と澪田が激しく俺に詰め寄る。しかし俺に怒鳴りつけたところで何も変わらない、そう何もな。

 

「も、モノクマ!小泉は私を守る為に致し方なく坊ちゃんを殺めてしまったんだ!クロなら私にしてくれ!」

 

辺古山がモノクマに懇願するがモノクマから返ってきたのは非情なものだった。

 

「ぶ~!駄目ですよ辺古山さん!自分をクロにしてくれなんて通るわけないじゃん!」

 

その後も必死に皆は打開策を探していたようだが無駄な事だ。『結果が全て』であるのであれば確実にはっきりしていることがある。小泉は九頭龍を殺した、という事実のみが。

 

「・・もうやめろ、お前達。モノクマ・・投票タイムに移れ」

「な、なんだとぉぉ!?赤司キサマァァ!何ゆうとるんじゃぁぁ!?」

「自分が何言ってんのか分かってるの!赤司おにぃ!!?」

「見損なったッスよ!征ちゃん!!?」

 

皆の怒りが一斉に向けられる、当然と言えば当然だ。俺は今死刑宣告同然のことを言ったのだから。だがここでクロを決めずに曖昧にすれば小泉以外の全員が処刑される。そして心が壊れた小泉は1人静かに死を迎えることになる。どちらが最善かは考えるまでもない。本当はこいつ等も理解しているはず、しかし良心の呵責とでもいうのだろうか。本音と建て前がありありと視える苦し紛れの偽善を口にする。全く持って・・・・

 

「度し難いな」

 

天帝の眼(エンペラーアイ)

 

俺の眼によってモノクマを除く全員がその場にひれ伏す。水掛け論となっている不毛な議論の時間はもう終わりだ。

 

「モノクマ、投票タイムだ。お前達も何が最善かよく考えろ、それでも偽善を掲げたければ勝手にしろ」

 

地面に這いつくばるクラスメイトを横目に俺は投票する。クロにしたのは当然・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

俺たちはジャバウォック海岸まで移動していた。モノクマがクロへの『おしおきタイム』などとふざけた死刑執行をする場所だそうだ。俺たちの視線の先には椅子に腰掛ける小泉がただ1人佇んでいる、その瞳にはもう何も映してはいない。

 

「小泉さんには人生の卒業写真を撮影したいと思いま~す!カメラ用~意!」

 

モノクマの合図に応える様に砂浜の地面から何かがせり上がってくる、それは高さ30mはあろう超巨大な一眼レフカメラ。まさかこれで小泉を処刑しようと言うのか?これは・・なんという・・・

 

海岸にはさざ波と合わせって静かにクラスメイト達の啜り泣きが奏でられる。その巨大なレンズを小泉に向けたモノクマが天辺にあるシャッターまで駆け上がっていくと高らかに死刑執行を宣言する。

 

「それでは張り切っていきましょ~!おっしおきタ~イム!!」

 

「・・・待って!!!」

 

それを遮ったのは七海だった。皆の中から一歩前に踏み出すといつにない真剣な眼で俺と向かい合う。

 

「・・赤司君、さっきのお願い覚えてる?」

「・・ああ、覚えているさ」

「お願い・・。もう最後だから・・小泉さんのことちゃんと見てあげて?ちゃんと謝ってあげて?」

 

最後・・か。七海自身もう覚悟は決めているのだろう、それに勝者の命令には従うと言ったのは俺だからな。無言で七海の横を通り過ぎると小泉を正面に見据える。

 

「小泉・・・」

 

やはりその反応はない、視線は俺の方に向いてはいるが果たしてその瞳には何が映っているのだろうな・・。・・ッ・・!いかんな、こんな時に・・ッ・・!思わず口元を押さえる。

 

「小泉・・くっ・・!」

「あ、赤司が・・泣いてるのか?」

「そ、それはそうですわ!あんなに仲睦まじかったのですから!」

「赤司君・・小泉さんに声を掛けてあげて?」

 

故人の顔を看取れというのか七海は静かに俺に乞う。そうだ・・な。最後・・に・・謝罪しなく・・ては・・!

 

「こ・・小泉・・うっ、くっ!す・・済まない・・!」

 

口から嗚咽が漏れるのが止められない。もう・・限界・・か・・!

 

 

 

 

 

「うっ・・くっ・・くっくっく・・!!はぁ~はっはっはっはっはぁ!!」

 

 

 

 

静かな海岸に俺の高らかな笑い声がこだまする。その姿にクラスメイトが驚愕の表情を浮かべる。

 

「赤司・・君?」

「な、なんでアイツ・・笑ってんだよぉ・・!?」

 

も、モノクマめ・・!中々ユーモアに長けているじゃないか。写真家である小泉に巨大なカメラで処刑するとは中々に洒落が利いているぞ!人心掌握術の一環として能や寄席などを拝見してきたがここまで笑ったのは初めてだ、実に滑稽じゃないか!

 

「うぷぷぷ!赤司くんの最後のお別れの挨拶も済んだので改めていっちゃいましょ~!小泉さ~ん、笑って笑って~!ハイ、チーズ!」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

風が涼しいな。あれ、アタシ海岸で何で椅子に座ってるんだろう?目の前にはクラスの皆がアタシの方を見ている。なんで皆こっちに来ないんだろう。不思議に思っていると突然砂浜からとても大きな一眼レフカメラが出てくる。わぁすごい!こんな大きなカメラ初めて見たよ!もしかしてこれで撮影でもするのかな?なんだかとっても楽しそうだよね。また皆で修学旅行の続きして沢山思い出を残そうね。でも誰もアタシの方に来ない。もしかして個人撮影なのかな?な、なんだか恥ずかしいよ、アタシ撮るのは好きだけど撮られるのは苦手なんだよね、上手く笑顔作れないよ。

 

赤司がアタシの正面になるように立っているのが見える。・・どうしよう、まだ赤司と顔を合わせられないのに。またあんな冷たい眼でアタシを見ないで・・お願い、赤司。

 

すると口元を押さえていた赤司がアタシを見て大きく口を開けて笑い始めた。え、嘘?あの赤司が笑ってる?あんなに楽しそうにアタシを見て?・・・とっても嬉しい。やっぱり赤司はあの時出会った頃のままだったんだね。本当はとても優しい人だってアタシ分かってたよ。でも・・やっとアタシに笑顔を見せてくれたのにカメラが手元にない。もう、こんな時に。あ、そうだ!赤司の番になったら撮らせてもらえればいいんだ、そうだよね!

 

「・・小泉さ~ん、笑って笑って~!ハイ、チーズ!」

 

モノクマが笑うように催促してくる。別にアンタのためじゃないけど今のアタシならちゃんと笑えてるよね?

 

 

だって赤司がアタシに笑いかけてくれているんだから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

CHAPTER2 罪と罰。カメラとバスケットボール END

 

~To be continued~




第2章終了です。
今回の章では黒子のバスケとダンロン2を意識的にリンクさせてきましたがいかがでしたでしょうか?・・正直こんな結末を迎えるとは思ってなかったです。小泉はダンロンで最も好きなキャラであり今作品でも赤司にもっとも近しいキャラとして設定していました。それがこんな悲しい終わりを迎えるとは連載開始後は思いもよらなかったです。
取り分け黒バス原作終了の影響が作品にも少なからず出てしまったかもしれません。
余りに遣り切れない2章となりましたが是非ご感想・評価を頂ければ嬉しいです。
今回の章の意味や今後の展開の参考とさせてもらえれば・・・。


とはいえかなり気分的には落ちています。次回の更新ですがなんとか今月中にあと1本出来る様に頑張ります。それではまた。

10/21 追記

活動報告にも書きましたが暫く眠ります。お気に登録の方、大変申し訳ございません。
自分だけのアイデアだけで話を進めるのが不安になったのでインスピレーションが来るまでお待ちください。その間、ここまでのご感想を頂ければ幸いです。

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