赤司のロンパ ~ 超高校級の『天帝』と呼ばれた男~ 作:ばうむくうへん
第三章ようやくの開幕です!
不協和音の風が鳴る
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「…待つのだよっ!! 赤司っ!!」
廊下に響き渡るその声に足を止める、振り向くとそこには見知った顔があった。
顔立ちからして利発と分かる、それを象徴する黒縁の眼鏡をかけた男、『キセキの世代』の一人にして修徳高校1年 緑間 真太郎。
利発と語ったが、そうは思えない程に眉間に皺を寄せ、眼鏡の淵を押さえる丁寧にテーピングが施された左手はわなわなと震えていた。
ウインターカップ本戦 1回戦 洛山高校 対 海常高校 との試合終了後、会場を引き上げている俺に声を掛けてきた緑間だったが久々の再会にしては猛々しい雰囲気じゃないか。
「どうした?随分な態度じゃないか、緑間?」
「その呼び方…どうやら『戻って』いるようだな、赤司…!」
俺の存在に気づいていたか、帝光中学時代でも他の連中よりも多少付き合いが深かっただけはあるようだ。
「ああ、『俺』と会うのは何年ぶりかな?」
「…2年だ、俺たちが『キセキの世代』と呼ばれ、そして…狂い始めたときからだ」
「狂った…か。言い得て妙だな」
「赤司…俺が言いたいことは分かるな…!?」
「何の事だ、分からないな?」
「あの試合は何だ!?貴様は黄瀬に何をしたか分かっているのか!?」
緑間が何に対して怒りを顕にしているのか、俺には分からない。先程の試合、118:73のスコアで終了した海常高校との試合、全国クラス同士の対戦において圧倒的なスコア差とも言える。
だがここまで圧倒的というのも少々困る。大勝は選手の満身に繋がる、特に葉山をはじめ無冠の五将と呼ばれる者達はどうにも自尊心が過剰だ。故に次の試合に備えてチームを引き締める『措置』を取った、それだけのことだ。
「それが黄瀬を潰した理由だと…!?ふざけるなっ!!」
黄瀬を潰した…などとは人聞きが悪い。俺は各選手のスキルアップを目的として黄瀬にマッチアップをさせただけだ。
「抜け抜けと…!黄瀬がオーバーワークで故障していたのは視抜いていたはずだ!さらに貴様とのマッチアップで黄瀬は既に力を使い果たしていた!それを貴様は…!!」
だからなんだ?コートに立つ以上、選手は皆平等だ。あえて責めるのであれば満身創痍の黄瀬を使い続け、フォローもできなかった海常の主将である笠松を始めとしたチームメイトだろう。
「赤司…やはりあの希望ヶ峰の『少年』が危惧していた存在になったというのか…!?」
「希望ヶ峰の少年?何を言っている?」
「覚えておけ、赤司…!貴様は必ず倒す、倒してみせる!」
「それは無理だ、緑間。お前は俺に勝てない」
「俺一人ではないのだよ…!俺達、修徳が貴様を倒す!」
面白いじゃないか、緑間。見せてもらおうか、お前達の力を。
………………
まだ薄暗さが残る早朝の海岸にて俺と辺古山の真剣が切り結ぶと激しい火花が飛び散る、その勢いは先日までの比ではない。舞い上がる火花の量がそれを物語る。
そう、辺古山の振るう剣のそれは最早稽古の域ではなかった。紛れもなくその剣筋は俺の胴を両断せん勢いで振るわれる。
「はぁァァァっ!!!」
闘気を、そして殺気を纏った辺古山の声と共に凄まじい乱舞が襲いかかるが俺にとってそれは脅威とはならなかった。
繰り出される攻撃はいずれも単調であり容易に軌道が見極められる、この程度『眼』を使うまでもない。
辺古山が縦一閃で振り下ろした刀を滑るようにいなすと海岸の砂浜を巻き上げるだけの衝撃を大地に与える、その視界の遮断を視逃さなかった俺は返す刀を辺古山の喉元に突きつけた。
「勝負あったな、俺の勝ちだ、辺古山」
「…っ!!」
せっかくの朝稽古だというのに今日は全くもって学ぶべきことはなかった。溜息を吐くと同時に刀を下ろした俺に向かって辺古山は…
「…ろせ…殺せっ!今すぐ私を殺せ!赤司!!」
異な事を言う、コロシアイ修学旅行のルールを忘れた訳ではあるまい。だが辺古山の表情からは冗談の欠片も感じさせない。
「どういうつもりか知らないが当然断る、死にたければ勝手に自害すればいい、剣道家なら潔く切腹がいいんじゃないか?」
「分かっている…!貴様に怒りを向けることは筋違いだと…!だが私は小泉の最期を嘲笑った貴様を…!!」
昨日の小泉の処刑の事か、あれは傑作だった。あれほどまでに声を大にして笑ったことはこれまでなかったと思うほどにな。
眩い光が走ったと思った次の瞬間には小泉の姿は腰掛けていた椅子ごと消え失せていた、恐らくあの巨大カメラから放たれた高密度のプラズマによって蒸発したのだろう。
小泉の最期を見届けた俺の前に立ちはだかっていたのは今回の惨劇の原因ともなった辺古山だ。
女の友情・繋がり・結束、いずれにせよ厄介なものだ。憎むべきはこのような事態を招いたモノクマだというのに。
その翌朝、九頭龍から受けた傷を押しながらも日課である朝稽古に訪れた辺古山だったが俺のコテージまでの足取りと扉を開けた彼女の眼光からは極道に生きる暗殺者に相応しいものだった。
それだけに今日の稽古は期待していたが何のことはない、只の女のヒステリーに過ぎなかった。
やり場のない怒りを俺に向けたと思えば自身の始末すらも人任せとはな、これが『超高校級の才能』を持った者とは只々残念だ。
もっとも長年連れ添ってきた主君を眼前で失い、それを奪ったのが親友ともあれば辺古山が「女」であることを差し引いてもセンチメンタルにならざるを得ないだろうがな。
「…朝食の準備がある、遅れるなよ?」
そう一言残した俺はその場を後にする。奴が九頭龍や小泉の後をするのであれば止めはしない。不毛な学級裁判とやらも省けることだしな。それに奴は理解している。
自殺という選択が自身に最も許されない行為だということをな…
○●
唯吹は思うんっすよね、音楽バンドの解散理由でありがちな「方向性の不一致」ってアレ。ぶっちゃけ訳わかんねーっすよね。人の性格なんて人それぞれだし、ましてや音楽やってる連中なんてそれこそ好きな音楽なんて千差万別、方向性が一致してたら正直気持ち悪いっすよ、そんなんで奏でる音楽ってどんなもんか一度聞いてみたいっす。
なんて言ってる唯吹もそれが理由でバンドポシャってるんで偉そうな事は言えねーっすけどね!…ただ経験者である唯吹から言わしてもらえれば人間関係なんてちょっとしたキッカケでどうとでも変わるもんなんすよ。
…だからこの修学旅行だってコロシアイなんてなくたってどうなってたか分かってたもんじゃないんすよ…
………………
(グッモーニン!お前ら!今日も絶好の日和ですよぉ…)
モノクマちゃんの煩い目覚ましアナウンスで起こされるのも何日目っすかね、耳のいい唯吹にはこのボリュームは中々堪えるっすよ。モゾモゾとベッドから起き上がると大きな欠伸を一つ、今日もいい天気っす。
コテージの窓から食堂を覗くともう明かりがついてるのが見える、きっとまた征ちゃんが朝ごはんを用意してくれてるんっすかね。昨日は赤音ちゃんに感想を言われちゃったけど征ちゃんの料理マジでハンパなくウマかったっすからね!急いで身支度を整えると唯吹は真っ直ぐに食堂へと向かったっす。
プールサイドを抜けて食堂へと続く階段を駆け上がりドアノブを掴む、扉を開けたら元気に皆に挨拶っす…と思ってたけどドアノブを掴んだ瞬間に『聞こえて』きちゃったっすよ。重く暗く沈んだ音が。
理由?そんなの言うまでもなく昨日の真昼ちゃんのことに決まってる。これまで凪斗ちゃんと輝々ちゃん、それに冬彦ちゃんと3人も死んじゃったけど心のどこかで女の子は大丈夫って気持ちが皆どこかにあったんだと思うんっす。どんなに怖くても、クラスの女の子が誰かを殺すはずがないって。
それが昨日、破られた。それもクラスの女子のリーダー的存在だった真昼ちゃんがあんな残酷に冬彦ちゃんを殺した。このドアノブの先ではそんな暗い感情に蝕まれた色んな声無き声が『聞こえてくる』、だけどいつまでも入らない訳にはいかない。朝の食事はクラス全員でするというのがクラスリーダー白夜ちゃんからの提案だから。
せめて唯吹はいつも通りでいこう、底抜けで明るくてメチャクチャ可愛くて皆のムードメーカーである唯吹で。
「みんな~!おはようございマム!」
勢いよく扉を開けた唯吹はアイドル顔負けの笑顔を振りまいたっす、特別サービスっすよ全く。
「今日も騒々しいほど元気だな、澪田」
「あ、征ちゃん!おはようございマム!」
予想通り征ちゃんは食卓のテーブル一杯に料理を並べている最中だった。相変わらずそのどれもが美味しそうっす。テーブル席には唯吹を除いたクラス全員が席に着いてたっすけど、皆やっぱりどこか暗い表情っすね。
いつもならおあずけされてるワンちゃんみたいに涎を垂らしてる赤音ちゃんも項垂れてる、まぁ目線は料理に泳いでるっすけど。
中でも日寄子ちゃんはまるで魂の抜け殻みたいっす。一番真昼ちゃんに懐いてたっすから無理もないっすけど着付けを手伝ってもらっていた真昼ちゃんがいなくなったことで崩れた着物がどこか痛々しいっす。
「さぁ、皆集まったな。十神、朝食前の挨拶を頼む」
「あ、ああ…」
征ちゃんに促される形で席を立つ白夜ちゃんだったけどこれじゃ誰がクラスリーダーだか分かんないっすね。白夜ちゃんの形式ばった挨拶が終わると静かに食器が金属音を奏で始める。
唯吹にとっては色んな音が只の音じゃなくて音楽になって聴こえてくるっす、それが街行く人で賑わう雑音でさえも。そんな唯吹が一番嫌いな音楽がこのカチャカチャと物静かに響く食器の音。
それはバンドの土台でもあるベースがギターもドラムもボーカルさえも置き去りにして独奏する感じに似ている、孤独で自分勝手な音楽、『不協和音』。
……………
「…だからぁっ!そうじゃないんすよぉ!!」
音楽室に響き渡る怒声、まぁバンドやってるならこれぐらいのイザコザは日常茶飯事のはずなんすけどね、けど最近唯吹がこうして声を荒げる日が多くなってきているのは気のせいじゃない。
司馬学園の音楽室で部活動に励む唯吹達はミリオンヒットを記録した『放課後ボヨヨンアワー』に続くヒット作を日夜模索していたっす。だけどメンバーからやる気が感じられないってゆーか唯吹が求める音楽と違うってゆーか…
メンバーも愚痴は零さなかったけど唯吹にはちゃんと聞こえていたっす。
「何様だ」「お前一人のバンドじゃない」「死ね」
そんな声無き声がメンバーの奏でる音から聴こえてくる頃、希望ヶ峰学園から「超高校級の軽音楽部」としてスカウトされたのは正直言ってホッとしたっす。「音楽の方向性の違い」ってもっともらしい理由をつけてバンドを解散できたのも好都合っす。これを機に澪田唯吹、念願のソロデビュー決定っすよ!!
…だけど唯吹は分かってたっす、唯吹は最初からソロだったことに。一人の方が楽で一人の方が軽くて、そして一人の方が輝けることに最初から気づいてたっすよ。
○●
手に持ったコーヒーカップを置くと、一つ息を吐く。実に清清しい気分だ、マナーの欠片もない終里が珍しく静かだったことで久方ぶりに落ち着いた朝食を堪能できた。
自分で拵えたことを差し引いても今朝の朝食は格別だと感じる、コロシアイ修学旅行など殺伐とした非日常が些事と思えるほどに。だが次なる舞台までの幕間はここまでだ。
「…さて、食事が済んだところで提案があるんだが、十神?」
「…なんだ?」
あからさまに十神が警戒心を向ける、提案と口にしているがそれが俺からの命令と捉えたのだろうか。まぁいい、御しやすくなったのは好都合だ。俺が持ちかけたのは他でもない、このジャバウォック島に関することだ。
最初の花村の殺人、そして昨日の小泉の殺人を経てこの島には大きな変化があった、それは孤島となっている各島を塞いでいたあの機械仕掛けの動物が数体消えていたのを今朝、稽古帰りに確認したからだ。
恐らくコロシアイを進展させるためにモノクマが意図的に島を開放しているのだろう。舞台の場所は刻一刻と変化していくというわけだ。
そこで俺が提案したのは解放された島で何か有益な情報が得られるのではないかと思い、散策を行うというものだ。もしかしたら島からの脱出の手掛かりがあるかもしれないからな。
「…勝手にいけば?」
そう言葉を返したのは西園寺だ、肌けた着物と寝癖が目立つ、容姿の幼さもあっていかにも子供らしいひねくれ方をしてみせた彼女であったがその理由は先の小泉の件のせいだろう。
西園寺のように態度を直接表す奴は他にはいなかったが恐らく皆、その心中には俺への不満を募らせているのだろう。
「では、西園寺はそのまま残っていろ、せめて風呂には入っておくんだな、不衛生だ。それに何より臭うからな」
「赤司さん!それは女性に対してあまりにデリカシーがありませんですわ!」
大人しいソニアも俺に噛み付くか、全く…。こんなことなら小泉の処刑の際に笑うのを堪えるべきだったな。ソニアの態度に左右田が便乗すると残る者達も一様に俺への警戒心を強める。
王に対する反逆、それは民の特権だ。だからこの反応に俺はさしたる疑念は持たない。ここで俺が取るべき行動は小泉に対する謝罪でも皆に許しを乞うことでもない。
俺が王の器である、それを誇示するのみだ。
「そうか、ならば俺だけでも島の調査に…」
「待つっすよ!唯吹はモチ行くっすよ!征ちゃん!」
澪田が協力を申し出てきたのは正直、意外だったな。誰にでも分け隔てなく接する姿勢は裏を返せば風が吹けばどこにでも簡単に靡く。単純に島の散策に興味があるだけか…いや、違うな。
俺に全てが『視える』のならば澪田は恐らく全てを『聴く』ことができるのだろう。
「よし、ならば行こうか、澪田」
「うっきゃー!征ちゃんと二人きりでデートっすね!」
「…私も行くよ、死んじゃった皆の為にも前に進まないとダメだと思うから」
「…好きにしろ」
このタイミングで七海が同行を求めたのは澪田に触発されて…というわけではないな。俺の『監視』が目的か、まぁいい。
そして俺・澪田・七海の三人は新たな島へと向かう。
そこに待ち受けるのは希望か絶望か、俺の眼にはそのどちらが映るのだろうな?
~To be continued~
神谷ボイスの赤司がようやくと目立ってきて本作の赤司のイメージも固まってきました。
まずはこの第3章しっかりと描いていくのでまたヨロシクお願いします!
(感想頂けると嬉しいです)