赤司のロンパ ~ 超高校級の『天帝』と呼ばれた男~   作:ばうむくうへん

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ゼツボウセッション

 毎年、ウインターカップが開催される東京体育館の最大収容人数は10,000人にも及ぶ。

 高校バスケットボールにおいて集客数が10,000に達することなどほぼないが、近年においては常勝を誇る洛山高校の台頭、そしてその年は『キセキの世代』を要する高校がそろい踏みだったこともあり今大会の観客動員数はほぼ毎日満員に迫っていた。

 

 その中で行われる試合では選手達の声やコートを駆けるバッシュや弾むボールの音すらもかき消さんばかりの歓声が飛び交う。

 

 俺、赤司征十郎率いる洛山高校と緑間真太郎が属する秀徳高校の試合は『キセキの世代』同士の対決ということもあり会場のボルテージは最大にまで高まっていた。

 

 先の1回戦、対海常高校において次元を超えた試合展開を演じたこともありその規模は前回の比ではない。それは試合開始前、選手入場から試合終了まで続くと思われていた。

 

 だがしかし会場の空気は試合開始後まもなく急速にその熱を冷ましていく、それはコート内に弾むボールの音が、選手の声が、バッシュの摩擦音が喧しく聞こえるほどに。

 

「高尾ッ!!パスを出せッ!!」

 

 緑間の怒声に近い叫びが響く。その声の向かう先に立つは秀徳高校 PG(ポイントガード) 1年の高尾和成。コートほぼ全てを視野に収めるほどの空間把握能力『鷹の目(ホークアイ)』を持ち、緑間と同じ1年でありながら司令塔であるPGを任されている。

 

 故にシューターである緑間とのコンビネーションプレイは定評があり、この試合においても緑間の真骨頂である超長距離3Pシュートを放つまでのタイムラグを防ぐために、ボールを持たずシュート体勢に入った緑間にダイレクトパスを放つ新技で会場を含む全ての者達の目を釘付けにするほどの技量を見せつけた。

 

 その彼に対し緑間がパスを求める、理由は明確だった。

 

 高尾はバスを出さないのではない、出せなかったのだ。高尾の目の前に立つのはこの俺、赤司征十郎。高尾が両手で持つボールから全身の筋肉の動き、視線や呼吸、汗その全てを見通す。

 

「どうした、高尾?緑間が呼んでいるぞ?」

「ち……っくしょうがぁぁ!!!」

 

 猛る声とは裏腹に左右に2,3度視線とモーションのフェイントを入れた高尾の指から緑間に向けてボールが放たれる、がそれを見逃す俺ではない。時間にして僅か1秒にも満たない空中を走ったボールを左手一本で掴み取る。それも1度のことではない。既にこの試合、高尾からのスティールの数は10を超えていた。

 

「無駄だ、お前のパスは絶対に通らない」

「……うぐッ……!!!」

 

 秀徳高校は主将の大坪を始め、インサイドのオフェンス力に優れる。だがインサイドにおいて洛山高校のC(センター)である根武谷に匹敵する選手などそういない。必然的にロングシューターである緑間にボールを集めることは容易に想像できた。

 

 それでも高尾や緑間に一時の『希望』を見せてやったのは試合開始前に緑間が俺に宣った「秀徳高校(・・・・)が俺を倒す」などという戯言を完全に屈服させるためだ。

 

 再び高尾の元へボールが渡る。だが高尾の前に立つ者は誰もいない、完全にフリーの状態だ。

 

 上手く俺のマークを躱したわけではない。俺がマークにつく必要がもうなくなったからだ。既に仕込み(・・・)は完了していたのだからな……。

 

「高尾ッ!!フリーだ、ボールを回せッ!!」

 

 再び緑間が声を上げる。緑間と高尾の間を遮る者は誰ひとりいない。両者の距離は3m弱、高尾が手に持ったボールを放てば1秒とかからずそのボールは緑間の手に渡るはずだった。だが――

 

「どうしたッ!!?高尾、早くパスを出せッ!!」

「真ちゃん……お、俺……!!」

 

 結局、高尾の手からボールは放たれることなく8秒が経過しバイオレーションが宣告された。高尾の心は度重なる俺のスティールによって既に折れていたのだ。

 

 攻撃の起点となるPGである自らの相次ぐスティールは遅効性の毒のように秀徳サイドへと広がっていた。チームメイトはおろか会場内の秀徳応援席ですら高尾にボールが渡ると深い溜息を漏らすほどに。

 

「これがお前の言う秀徳高校の力か、緑間?」

「――赤司ィィッ!!貴様ァァァ!!!」

 

 

 

 

 ……………

 

 

「ほらほら!早く行くっすよ、征ちゃん、千秋ちゃん!」

 

 

 そう言いながら澪田は新たに解放された島へと通じる橋を駆ける。その様子を見る限りやはり単純に島の散策に興味があっただけなのだろう。

 

 とはいえ、新たな島で待ち受けているであろう新たな惨劇に期待をしている俺も澪田のことを言えたものではないな。澪田が先行し、その後を俺が、さらにその後ろから七海が続く。

 

 元々活動的ではない七海だがコロシアイ修学旅行が幕を開けてからは精力的に活動を続けていたほうだがその足取りは重い、やはり七海も辺古山と同じようにメランコリックになっているということだろうか。実に下らない。

 

 事実として狛枝、花村、九頭竜、そして小泉の死があったからこそ俺たちはこうして新たに解放された島へと向かっているのだ、結局のところ俺たちは皆このコロシアイ修学旅行に『乗って』いる。殺人を犯す、犯さない以前に。

 

 島の散策に向かうと口にしたがそれは島からの脱出の為ではない。新たな舞台の視察…といったところが本音だ。そうして島へと渡った俺たちが目にしたのはこれまでのような南国をイメージした施設とは全く異なるものだった。

 

 近代的な建造物の数々…いや、これは最早見慣れた都会の街並そのものであった。大小さまざまな企業ビルが列挙し、横断歩道や交差点などインフラも日本のものと大差ない。だが何かおかしい、この街並みに見覚えがある。そう、これは――

 

「うっひょ~!ライブハウスがあるっすよ!ほらほら!」

 

 澪田がはしゃぐその先にはやや小汚いコンサートホールがあった。灰色のコンクリートと何の彩もない壁面に乱雑なペイント文字が施されており品位の欠片も感じさせない。

 

 俺にはさっぱり理解できないが『超高校級の軽音楽部』である澪田にとっては深く馴染みのある場所なのだろう。意気揚々と駆け込んでいく。

 

「……私たちも中に入ってみようか、赤司くん?」

「……仕方がないな」

 

 七海に促される形にはなったが澪田ひとりを放って置くわけにもいかないと俺と七海もその後に続く。扉を開けた先には日光を完全に遮った構造をしており闇に包まれていた、とその先のステージ上の照明が灯される。澪田が操作したのだろうか?初見の場所であるにも関わらず流石に慣れたものだ。

 

 その照明の下ではギターのチューニングを終えた澪田が一つ弦をかき鳴らすと狭いホール全体を震わせるほどの轟音が響き渡る。

 

「せっかくなんで征ちゃんと千秋ちゃんに澪田の歌を聞いてもらいたいっすよ!」

「待て、澪田。そんな時間は……」

「そんじゃあ行くっすよ!『君にも届け!』」

 

 

 俺の静止も聞かず歌い始めた澪田、さぞや喧しい騒音を撒き散らすのだろうと眉を潜めた俺だったがその弦と声から発せられた音は想像だにしないものだった。

 

 想い人に込められた狂気の愛情と歪んだ行動。耳触りの良い有象無象のものと違い人間の欲望が隠すことなく顕になったその歌詞とそれを彩る仄暗い闇の底から浮かび上がるようなメロディ。これは、なんという――

 

 

「――ご清聴感謝っす!どうっすか、千秋ちゃん!?」

「う、うん。とっても独創的な音楽だと思うなぁ……」

「やっぱりっすか!?征ちゃんは唯吹の歌、良かったっすか!?」

「……そうだな、率直な意見を述べさせてもらえば……」

 

「素晴らしい音楽だった」

「うっきゃ~!征ちゃんからベタ褒めキタコレっす!」

 

 

 俗世の音楽など微塵も興味がなかったが、流石は『超高校級の軽音楽部』と呼ばれているだけのことはあり、常人には到底生み出せない独自の感性を備えている。退屈しのぎのつもりで聞いていたが中々に貴重な体験ができた。

 

 周囲を見渡すとグランドピアノやバイオリンなど多様な音楽器がある。赤司家の教養上、楽器の演奏も含まれていた為、無意識にバイオリンを手に取った俺は何気なく弦を弓で弾いてみせた。

 

 曲目は意識せず調律のように奏でる程度であったが一通り終えたところで澪田が飛びつくような勢いで迫ってくる。

 

「なんすか、今の!?征ちゃんってピアノだけじゃなくバイオリンまで弾けたんっすか!?マジパネーっす!」

「……赤司家に生まれた者ならこの程度造作もない」

「これはもう決定的っすね!征ちゃん、唯吹とバンド組むっすよ!」

 

 なにやら勝手に盛り上がっているようだが、騒ぐ澪田を余所に俺は散策の続きを開始しようと玄関先へと向かう、とその入口の前で人影が目に入る。そこに立っていたのは……

 

「あ、あのぉ……、ご、ごめんない、ごめんなさぃぃ!!」

 

 姿が見つかるなり尻餅をついて謝罪を繰り返した声の主は罪木だった。どうやら俺たちの後を尾けていたようだが。

 

「ここで何をしている、罪木?」

「ご、ごめんなさぃぃ!こ、殺さないでくださぃぃ!!」

「落ち着いて、罪木さん。誰も罪木さんを傷つけたりしないよ?」

 

 どうにも罪木には俺のカリスマが威圧的に感じられてしまうのだろうか、恐怖する罪木を七海がなだめる。落ち着いたところで後を尾けた理由を問い質すと俺たち三人だけでは心配だったと言う。

 

 気弱な性格である罪木がそういった行動に出たのもやはり小泉の死が関連しているのだろう。

 

 女子のリーダー的存在だった小泉の死は辺古山や西園寺のように気落ちするものもいれば七海や罪木のように己を奮い立たせるものもいる。そういう意味では小泉のカリスマ性はその死によって発揮されたことになるのだろうか。だとすれば彼女の死は無駄死にではなかったのだろう。

 

こうして罪木を加えた俺たち4人はライブハウスを後にすると散策の続きを開始した。だがこれまでのような観光地と違い、市街地となっている島の散策は困難を極めた。

 

「む~!どこをどう調べたらいいか分かんないっすよ~!!」

 

散策を開始してから一時間、堪らずに澪田が不満を漏らす。無理はない、これまでは島に関する資料や文献などが分かる施設が存在していたがこの島にある施設は日本のものばかり。まるでこの島だけが完全にジャバウォック島とは隔絶された世界のように。

 

いや、その違和感を俺はこの島の大地に足を着けたときから感じていた。多少異なるがこの島の街並みを俺は知っている、そう、ここは――。

 

考えるよりも先に体が動いていた。やや足早に歩く俺の後を追うように三人が続く。

 

「征ちゃん!どこに行くんっすか!?」

「黙ってついてこい」

 

初めての道を俺の足は淀みなく進む、そうして足を止めたその先にはとても馴染みのある光景が目の前に広がっていた。

 

その施設の門扉の前に記されていた文字を無意識の内に俺は読み上げていた。

 

「――帝光中学校、か」

 

それが意味するものは何なのか、その答えを求めようとその足を一歩踏み出した。

 

~To be continued~

 




ホント、お待たせしました…。
また次回。
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