赤司のロンパ ~ 超高校級の『天帝』と呼ばれた男~   作:ばうむくうへん

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仕組まれた舞台(後編)

15人の人間と一体のロボット、そして死体が一つ。いかに大広間とはいえ窮屈さは否めない。モノクマが淡々と学級裁判のルールを説明する中で、俺たち15人の生徒はこれから生死をかけた命懸けの戦いを繰り広げることになる。

 

「・・以上で学級裁判のルール説明はおしまいだよぉ~二度目は言わないから隣の人にでも聞いてください!」

 

モノクマから学級裁判のルール説明が終えると、誰が声を掛けることなく皆はサークル上に立ち並んでいた。左右の隣人に疑いの眼を向ける者、必死に冷静を装うと両目を閉じる者、現実を逃避して思考を停止する者など様々だ。

 

「・・黙っていても始まらない。早速議論を交わそう」

 

このままでは埒が明かない。俺は議論という言葉を持ち出して全員を対等の立場へと誘導していく。しかし議論と言われても突然のことで何をすれば良いのか分からない様子。各方面では超高校級とは呼ばれても所詮は一学生か。と溜息をついたところで七海が口を割る。

 

「・・じゃあまずは狛枝君の死因からハッキリさせようよ。罪木さんが検死をしてくれたんだよね?」

「は・・!はいぃぃっ!ご、ごめんなさぁぁいっ!!」

「み、蜜柑ちゃん、謝ることじゃないよ・・」

 

まずは被疑者である狛枝の死因の検証・・か。基本中の基本ではあるが、重要な事だ。ここの舵取りは七海に任せるとしよう。

 

「それじゃあ罪木さん、早速だけど狛枝くんの死因を聞かせてもらえるかな?」

「え・・えっとぉ・・!狛枝さんの死因ですけどぉ・・!え、鋭利な細長い刃物で十数か所を刺されてぇ・・それによる失血死が原因ですぅ・・!」

 

罪木の言葉に女性陣が両肩を抱く。小説の殺人事件ではよくあるいわゆる『滅多刺し』という方法だが身近の人間が同じ目にあったことに改めて恐怖しているようだ。

 

「鋭利な刃物・・・ってちょっと待てよ!?凶器になるもんは全部十神が没収してたじゃねぇかよ!?」

 

左右田がハッとした様子で指摘する。そう、確かにこの廃屋では玄関前で十神からの厳重なチェックが行われている。花村の調理用の包丁や串料理であるシュラスコに使われた金串すら没収された。左右田も愛用のドライバーを没収されたことを嘆いていた。

 

「そんな中で狛枝の野郎がメッタ刺しにされたってことはよぉ・・!十神ィ!おめーが没収した刃物で狛枝を殺したって事なんじゃねぇのかぁ!?」

 

左右田の指摘に一同が一斉に十神へと向き直る。その表情は全員が重く、暗い。

 

「左右田、キサマ・・!この俺を疑うというのか!?愚民の分際で・・!」

「あの状況で刃物を手に出来るのはオメーしかいないじゃねぇか!?皆から没収したヤツをジュラルミンケースで保管してただろーが!?」

「た、確かに・・厳重に鍵までかけてたよね・・」

「その鍵だって豚足ちゃんが持ってるし・・!」

 

皆の安全の為を思って取った行動が完全に裏目に出たようだ。刃物を誰も手に知ることが出来ない状況だったからこそ、それらを管理していた十神に疑いの眼を向けるのは当然と言えば当然か。更に暗闇の場所において殺人を行えたのは十神が事件発生時に装着していた暗視スコープなら可能だったと結論付けられた。

 

「キ、キサマらぁ・!!」

 

十神も弁解の余地もないほど追い立てられ困惑しているようだ。状況証拠だけで視れば通常はこの場で拘束、任意同行といったところだろうが、これは命を賭けた一度限りの学級裁判。不服申し立てなどはない。

 

「これだけで十分だぜ!狛枝の野郎をぶっ殺したのは・・十神、テメーだァァ!!」

 

 

『それは違うな』

 

 

トドメを指すべく言葉を発した左右田を俺の言葉が遮る。どうやら舞台の熱も上がってきたようだ。そろそろ俺も壇上に上がるとしようか。

 

「ち、違うって!?赤司、何が違うってんだよ!?」

「考えればすぐに分かることだ。まず凶器。肝心の凶器はどこにある?」

「そ、それは・・あれだよ・・!そうだ!狛枝が死んだ場所に出刃包丁が一個あったじゃねぇか!?それに決まってるぜ!?」

 

左右田の言う通り、狛枝の死体の横には出刃包丁が一つだけ落ちており、柄の方には蛍光テープが一部貼り残されていた。そのテープは狛枝を覆い隠していたテーブルの底面にも貼られており、形状は一致。つまり凶器はその底面に隠されていたと言うことになる。十神が停電に乗じてそこから包丁を取り出し狛枝を刺殺・・一見理にかなっているように聞こえる。だが現場の状況はあらゆる矛盾を示している。まずはそこから・・視抜く。

 

 

「不自然な点がいくつかある。まず狛枝が死んでいたのは刃物が隠されていたテーブルの下。もし十神がテーブルから凶器を取り出し、狛枝を刺殺したのなら少なくとも狛枝はテーブルの下で死亡することなど有り得ない。違うか?」

「そ・・そんなの分からねぇだろ!?もしかしたら凶器を取ろうとした十神を止めようとして・・!」

「では実際に検証してみよう。そこのテーブルは狛枝が死んでいたテーブルと同じサイズだ」

 

俺と左右田は皆の前で状況を再現してみる。細身の俺や左右田ですらテーブルの下で組合い、さらに刃物で滅多刺しにするなどとても不可能であることが証明された。

 

それだけではない。もしこの状況で仮に犯行が可能だったとしよう。しかし狛枝は正面からのみ刺されている。もし馬乗りになって刺されその後うつ伏せになったのなら床面に広がる血で背中は染まっているはずだ。だが狛枝のコートの背中には血の一滴も付着していない。しかも床に広がる出血量を視る限り、犯人は返り血を浴びているはず。しかし十神のスーツにそのような痕跡は視られなかった。

 

「あう・・うう・・!!」

 

左右田の顔がみるみる青ざめていく。核心をついたと思った考えが次々と論破されていくのだ。さぞショックだろう。

 

「決定的なのは凶器。この出刃包丁には血痕がついていない。さらに罪木の検証では凶器は鋭利で『細長い』ものとある。以上の事から狛枝を殺害した凶器はこの出刃包丁ではないと言うことだ」

 

そこで一旦、言葉を切る。舞台の演者の熱はすっかり冷えてしまっていた。先程まで決定的と思われた状況証拠がものの数分で覆されたのだ。再び沈黙の時間が流れようとした時、七海が場を繋ごうと質問を始める。

 

「それじゃあ赤司君に聞きたいんだけど、狛枝君のこの状況は何を意味すると思うのかな?」

「・・いいだろう。俺の見解を聞かせよう」

 

そして俺は自らの推理を語ってみせる。まず狛枝が死んだ時の状況。まるで犯人は停電を見越したうえでかつ狛枝があの凶器が隠されたテーブルの下にくることを確信していたのだろうということ。

 

「どうしてそう言えるのかな?」

「答えは至って簡単だ。あの凶器を用意したのはおそらく狛枝自身だろう」

「・・・!!?」

 

俺の返答に皆が顔を引きつらせる。まさか犠牲者の狛枝が殺人を犯そうとしていたなど信じられないようだ。だが俺には、いや俺『達』には確信があった。

 

「十神・・見せてやるといい。あのメモをな」

「あ・・ああ」

 

十神が取り出したメッセージにはこう記されていた。

 

 

『明日、最初の殺人が起きる』と。

 

 

「これは昨夜の晩、十神のコテージに届けられたものだ。俺は十神からその件の相談を受けていた」

 

十神はこのメモを持って昨夜俺のコテージにやってきて相談を持ちかけた。殺人が起こると明言している以上、単独での行動はまずいということで今回のオールナイトパーティを画策したという訳だ。皆で共に行動すれば未然の防止策にもなるという目的だったのだがその結果はご覧のとおりである。

 

「そのメッセージを寄越したのはおそらく狛枝だろう」

「な・・なんで狛枝の野郎がそんな真似したんだよ!?」

「ヤツの真意など知ったことではない・・があえて言うならば希望の為・・だったのだろうな」

「ど、どういうことだよ!?」

 

ヤツは『希望』というものに異常な固執を示していた。病的なほどに。俺はあの時、視逃さなかった。あのジャバウォック公園にて殺人を行わないと明言した時の狛枝の顔を。あれは殺人を犯さないと言う明確な意思を示した俺への賛辞の表情と、コロシアイが進まないまま緩やかに停滞していく希望の芽に『絶望』した表情を併せ持っていたことを。

 

だからこそヤツは自身を人身御供としてコロシアイ修学旅行の幕を開けたのだ。希望と絶望がせめぎ合うこの状況を今のアイツは冥府からほくそ笑んでいることだろう。異常・・いや、狂気と言わざるを得ない。

 

「こ、狛枝の野郎がそんな異常者だったってのか・・!?し、信じられねぇ・・!」

「死んじゃったクソゲロキモ野郎の事なんてどうでもいいよ!赤司おにぃ、それじゃあ真犯人って誰なの?」

 

そう、西園寺の言う通り、死んだやつのことなどどうでもいい。重要なのは狛枝を殺した犯人は誰か、ということだけ。

 

状況を整理する。まずパーティが開始された時点で会場にいたのは俺、左右田、十神、狛枝、田中、小泉、ソニア、澪田、罪木、西園寺、終里の11名。そして厨房にいた花村。トイレに籠っていた弐大。ブレーカーがある個室に待機していた辺古山。玄関前にて監視をしていた七海。そして外にいたという九頭龍。

 

「この中で犯行が可能だったのはあの時、パーティ会場に居なかったものだ。」

「・・・・ッ!!?」

 

一瞬にして場が凍りつく。無理もない、一気に犯人像が5人に絞られたのだから。指定された生徒も自分が容疑者にたてられたことに動揺の色を隠せない。九頭龍に至っては露骨に敵意をむき出しにしている。

 

「でもその中から絞り込めてるんでしょ、赤司君?」

 

自身も容疑者に数えられているのに冷静に七海が言葉を返す。さすがと言っておこう。

 

「ああ。まず捜査の結果、七海と辺古山、そして弐大は容疑から外れた」

「な、なんでだよ!?」

「まず弐大だが事件発生前から発生後に至るまでトイレに籠っていることが確認されている。トイレ窓からの脱出が不可能であるということもな」

「ぺ、ペコちゃんはどうなんッスか!?」

「辺古山はブレーカーが落ちる時には部屋にいなかった。体調が悪くトイレへと向かっていたのだからな。」

「ワシが籠っておる時にしきりにドアノブを回しながらドンドン叩く音がしておった。辺古山堪忍じゃあ!」

「そ、そんなことは一々言わなくてもいい!!」

「異界の門の守護者はどうだというのだ!?」

「七海は玄関先で待機していた。停電から現場まで駆けつける時間と犯行に及ぶ時間を考えても不可能だ」

 

矢継ぎ早に飛び交う疑問を次々と斬り捨てる。そうだ、舞台は一人では立ち行かない。再び皆の熱がこもってゆく。

 

「俺はどうだって言うんだ!?俺はやってねぇぞ!!」

 

九頭龍が怒号を上げるが、元よりヤツは犯人だとは思っていない。お前は今回の舞台では演者ですらない。ただ周りを立てる為だけの景観物だ。

 

「九頭龍に関してはモノクマが証明している。ヤツは会場はおろか、廃屋の周辺にすらいなかったのだからな」

「コテージでふて寝してる所を引っ張ってきちゃったよ~だ!おっとしまった!口が滑っちゃいました!」

「やっぱり赤司ちゃんに飼いならされてるッスよね・・」

 

そして残された選択肢はたった一つのみ。あの時、現場に姿を見せずに犯行が可能だった人間はたった一人。俺は右人差し指をソイツに突きつける。

 

「そう・・犯人はキサマだ・・花村」

「ぼ・・・ぼくっ!!?」

 

花村は何を馬鹿な事をと明後日の方向を見つめながら笑う。だが俺にとっては最早苦し紛れにすら視えない浅はかな態度であった。ここまでくれば舞台は終盤、クライマックスの時を迎える。

 

「では花村に聞く。お前は停電が発生してから電気が復旧するまでの間にどこにいた?」

「そ、そんなの厨房に決まってるでしょ!?ずっと料理を作ってたんだから!」

 

花村の言い分ではパーティ開始から調理を続けていたが突然停電した為に会場も停電しているのではないかと外に出たそうだ。

 

「でも目の前には防火扉が降りててさ、本来なら内側から開場できるんだろうけど真っ暗で何も見えなくてさ・・。それで皆にそっちも停電してるのかって声をかけたんだよ!!」

「あっ!確かに輝々ちゃんがそう言うのを唯吹は聞いたッスよ!間違いないッス!」

 

聴覚に優れる澪田から証言を得た花村はそれ見たことかという顔で安堵しているがヤツは気づいていない。今の澪田の証言はキサマの首をさらに絞めることになったのだとな。

 

「ではもうひとつ実証をしよう。ソニア、左右田手伝ってくれ」

「わ、私がですか?」

「お、俺もかよ!?まぁソニアさんと一緒ならなんでもいいや!」

 

俺とソニア、左右田は会場から出てすぐ横の通路に立つ。

 

「この場所は・・防火扉が下がっていたところですよね?」

「そうだ。今から防火扉を下げる。ソニアはそのままの位置で待機していてくれ。左右田、扉が下がったら俺たちに向かって大声で叫べ」

「お、おう!任せとけ!」

 

そして防火扉が下がりきった。しかしその奥にいるはずの左右田の声はこちらに届かない。

 

「あ、あれ?これってどうゆうことなのですか?」

「視ての通りだ。この防火扉は材質、そして重厚さから高い防火性と共に遮音性も特化している。並大抵の音ではこちらには聞こえてこない」

 

しばらくすると防火扉が上がり始める。そこには息を切らした左右田の姿があった。

 

「ぜい、ぜい!き、聞こえましたかソニアさん!?俺の魂の愛の叫びを!?」

「いいえ、ミジンコほどにも聞こえませんでしたわ」

「み、ミジンコ・・」

 

もはや言わずとも分かるだろう。そう、あの時澪田ははっきりと花村の声を聴いていた。つまり停電当時花村はこの会場内にいたことを証明している。

 

「で、でも!実際僕は現場にいなかったでしょ!?きっとたまたま声が届いたんだよ!?」

「左右田のヤツがあれほどまで息を切らせながら全く声が届いていなかったのにか?」

 

一呼吸置く間も許さずに花村の言葉を斬る。遊びはもう終わりだ。終幕まであと少し。

 

「お前は間違いなく現場にいた。いや、正確には現場の下・・か」

「・・・・ッ!!」

 

俺は昼間の清掃時に床の隙間がかなり開いていたことに気づいていた。それは人の小指程度のものでありいかにも旧館と思わせるほどのものであった。これなら狛枝の死因である細長い刃物であれば容易に通すことができる。

 

「そしてそれが可能な凶器とは・・」

「そうか・・!俺が事前に没収したシュラスコの鉄串・・!」

「ああ!?十神の野郎が上手そうな肉独り占めしてやがったあれか!?くぅ~、食いたかったぜぇ!!」

「でも豚足ちゃん、あぶないからってあの鉄串全部回収してなかったっけ?」

 

確かに十神は鉄串も凶器になり得るとパーティ開始直前にテーブルに盛られたシュラスコを全て平らげ、その鉄串を回収していた。その時の光景は思い出したくないな。胃が痛くなる。

 

「ほ、ほら!十神くんが全部持ってるじゃないか!?やっぱりぼくには無理だよ!?そんな凶器もうどこにも残ってないんだからさぁ!」

「それはどうかな?」

 

まったく、追いつめられた人間はこうも自分でボロを出すものなのだろうか?説明の手間が省けるとは言え、答えの分かっている数式を解くように退屈だ。

 

「事前に確認した厨房の備品リストではたしか鉄串が一本足りていなかった・・そうだな、十神?」

「ああ、間違いない。確かに一本だけ数が足りていないものがある」

「この時点で既にお前はミスを犯している。複数本紛失しているのであれば旧館のため、致し方なしと視れただろう。だが都合よく一本だけ紛失とは都合が良すぎるとは思わなかったのか?」

「あ・・ああ・・!!」

 

顔に大量の脂汗を浮かべながら花村は必死に言葉を繋げようと視線を左右に寄越す。

 

「じゃ、じゃあ・・凶器はどこにあるんだらぁぁ!?さっきからすっきゃことくっちゃっべってからぁぁ!?」

「い、一体何の呪文だ!?ま、まさかコイツ、禁忌の魔術を使うつもりか!?」

 

花村の口調の変化も田中の問答もこの際どうでもいいことだ。そろそろトドメを指すとしよう・・この舞台に・・そして花村にもな。

 

「俺が視逃すと思っていたのか?終里、小腹が空いただろう。厨房にあった大きな骨付き肉、あれをコチラに持ってきてくれないか?」

「ま、マジかよ!?確かに頭使って腹ペコだったんだ!すぐに取ってくるぜぇ!!」

 

言うなり、終里は広間を駆け出すと一分もしない間に厨房から両手に抱えるほどの巨大な骨付き肉を持ってきた。

 

「遠慮するな、終里。存分に食べるといい」

「おう!いっただきま~っす!!」

 

大きな口を開けて肉にかぶりつく終里。一体何がしたいんだと問いかける皆をよそに終里は驚異の速さで肉を平らげていく。

 

「そろそろか・・。終里、俺にも少し分けてくれないか?」

「おう、いいぜ!ほらよ!」

 

と終里はほぼ食べ尽くした肉を俺に放って寄越す。もちろん腹が減ってるわけではない。俺は骨の端を掴むとゆっくりと手前に引く。すると骨の取っ手部分が柄となりゆっくりと鉄串が中から姿を現す。肉の塊が鞘のようにその身を隠していたのだ。

 

「これが凶器の正体だ。どうだ、花村?何か言い分はあるか?」

 

返事はない。それだけで十分だった。花村を除く14名の生徒は一つの答えを導き出していた。

 

「どうして・・!?どうしてなのよ!?花村!?」

 

小泉が問いかける。しばらく黙りこんだ後花村が涙交じりに話し始めた。

 

「だ、だって・・!仕方なかったんだよ!アイツ・・狛枝くんは皆の誰かを殺そうとしたんだよ!?」

「・・やはり、この犯行は元々狛枝が考えたものだったのか・・」

「赤司君・・もしかして最初から分かってたの?」

 

七海の問いに俺は小さく頷く。そう、俺は今回の件は全て見抜いていた。十神の元に殺害予告のメモが届けられるよりも前に。あの狛枝の眼を見た時から既に予感はしていた。必ずこの男が起点となってコロシアイは始まるということを。

 

だが狛枝の誤算は二つある。まず一つはコロシアイの舞台としようとしていた廃屋の清掃をくじ引きで決めようとしたこと。公平に基づいたくじ引きで自分が清掃係となることで今回の犯行の仕込みをするつもりだったのだろう。確率15分の1のくじでも自分が選ばれると確信を持っていたのは自身がゴミと称していた『超高校級の幸運』を当てにしてなのか。だが結果は俺がその当たりくじを引いてしまったという事実。奴には大きな誤算だった筈だ。だが俺にとっては必然。ヤツの才能など所詮『幸運』。確率が高いか低いかの問題。だが俺には王者にしか持ちえない『絶対的な天運』を持ち合わせている。その前では狛枝の才能など奴自身が言ったようにゴミ同然に等しい。おかげでヤツの仕込みは想定したよりも遥かに質が劣るものとなってしまった。

 

第二の誤算、それはヤツ自分が死んだことだ。ヤツは花村に犯行の一連の流れを自ら吐露したことで花村の心中にあったものを刺激した。その心中にあったものとは無論『記憶を取り戻し、帰還すること』。

 

モノクマから二年間の記憶を奪われていると聞かされた際、花村の動揺は一際目立っていた。狛枝はそんなヤツの胸中を察して餌を撒いた。ご丁寧にアイロンを複数台使用してブレーカーを落とし、闇夜に乗じて殺人を行うというネタバラシを花村に披露することで利用しようとしたのだ。希望と絶望がせめぎ合うコロシアイを開始せんと。だがヤツは自分を殺すつもりの花村を逆手に取って、ある人物を殺害せんと企んでいた。その人物とは事前に殺害開始予告を送りつけていた十神。

 

その気になれば自分が犠牲になることも厭わなかったかも知れないが、希望と絶望の戦いを目の当たりにしたいという欲望があったのだろう。十神が厳重に防犯グッズを揃えていたのを知り、あえて蛍光テープを使って自身の位置を特定させ、床下で待つ花村のもとへと誘導させる気だったのだ。しかしここでヤツは気づけなかった。既にヤツの『幸運』は俺の『天運』に呑まれていたということを。

 

十神は狛枝の予想通り、不審な行動を取る自分自身を突き飛ばさせた。だがあろうことか床下で構える花村の下へと逆に押し込まれてしまった狛枝は花村の希望どおりにその命を落とすことになったのだ。

 

 

「・・・以上が事の真相だ」

「で、では貴様は・・ともすれば俺が命を落としていたかもしれない事を・!」

「ああ・・始めから視抜いていたさ」

「なん・・だと・・!!?」

 

十神は顔を青ざめる。そんなことは聞いていないと。自分は殺害を起こすのは狛枝だからそれを止めろと言われていただけだと。心は視えなくとも表情を視る限り、それは明らかだった。・・・だからお前は『偽物』なのだ。『アイツ』と同じでな。

 

さらに言えば暗転したあの状況でも俺には全て視えていた。終里が暗闇となった後でも肉に被りついていたのも、暗闇に乗じてソニアに手を伸ばす左右田も、不可思議なポーズを延々と繰り返す田中も。

 

「そこまで分かっていて・・なんで止めなかったのよ!?」

「お、おねぇ・・!?」

 

小泉が涙交じりに迫る。何故そんな顔をする?犯人は判明した。もし生きていれば再び災厄を招こうとしたヤツも同時に始末できた。これ以上の成果がどこにあるというんだ。

 

「ふざけないでよ!!」

 

俺の言葉を聞いた小泉が右手を振り下ろす。が、そことは別の角度から俺の右頬に衝撃が走る。視線の先には七海がいた。

 

「何をするんだ、七海。痛いじゃないか?」

「赤司君・・!ここはチェス盤の上じゃないんだよ・・!?」

「な、七海のヤツこえぇ~!?」

「あ、あんなに怒る千秋ちゃんはじめて見たッスよ・・!?」

 

その意外な行動に周囲も驚いていたが、舞台はまだ閉じていない。最後の仕上げが残っている。

 

「モノクマ、投票タイムとやらに移れ。終わりにする」

「了解だよ~!いつまでも青臭いドラマを演じちゃうから忘れるとこだった!」

 

そしてモノクマに手渡されていたタブレットから犯人を選択する。しばらくして全員のタブレットに映し出されたのは花村の顔だった。

 

 

「は~い!皆さんの予想通り狛枝クンを殺したのは花村クンでした~!」

 

 

モノクマは意気揚々と犯人の名を告げる。そして待ち受けるのはクロへの罰ゲーム。

 

「ま・・待ってよ!?確かに全部赤司くんの言う通りだよ!?でも僕がやらなかったら誰かが殺されてたのかもしれないんだよ!?」

「それは推測に過ぎない。お前は俺たちに相談を持ちかけることもできた。だがお前はそれをしなかった。それが全てだ」

 

最後の言い分を容赦なく斬り捨てる。もはやヤツに残された道はただ一つだけ。

 

「だ、だったらせめて・・!花村食堂は・・お母ちゃんは・・弟と妹はどうなったのさ!?せめてそれだけ教えてよ!?」

「ぶっぶ~!残念ですがそれは内緒です!それでは張り切って・・」

「教えてやればいいじゃないか、モノクマ」

 

俺の言葉に振り下ろそうとしたハンマーの手をモノクマが止める。当の花村も意外とばかりに俺の顔を見る。

 

「ヤツの末期の頼みだ。叶えてやればいい」

「あ・・赤司・・くん・・!」

「ふーん・・!まいっか!口で説明するよりも手っ取り早く記憶を戻してあげるよ!」

 

そう言うとモノクマは花村に向かって指を鳴らす。俺の時には行わなかったことを考えると只のポーズなのだろう。しばらくすると項垂れていた花村の眼が開く、と次の瞬間だった。

 

「あ”あ”あ”あ”~ッッッッ!!!」

 

突然、発狂の声を上げる花村。その様子に室内の全員が驚愕する。

 

「ぼ・・僕が・・この手でお母ちゃんを・・!?弟を・・妹を・・!?・・な、なんで・・!!?」

 

ブツブツと呟く花村は顔に爪を立てると血が噴き出んばかりに掻き毟りながら室内を徘徊し始めた。花村に近づくものはおらず、皆が室内の端へと後ずさっていく。暫くして花村は右足にコツンと当たった鉄串を手に取る。暴れるつもりかと弐大や終里が身構えるが、花村は・・・

 

自らの首にその先端を突きはじめた。

 

俺は視たことはないのだがドラマ等では刃物が突き刺さる音はブスリ、ザクといった擬音が混ざるらしい。だが現実はどうだ。花村の首に突き立てられ音を立てるのは、まるで鈍器で固い物を叩くような低く鈍い音だった。

 

この光景にクラスメイト全員が眼を見開いてその様を見届けていた。人はあまりの恐怖に直面するとそこから眼を離せなくなると小説で読んだことがあるが、なるほど確かにその通りだ。

 

花村の首から飛び出る血は意外にも少量だった。動脈を突こうとしても先端が滑り中々致命傷に至らないのだろう。既に何十回喉元に刃を突き立てているのか分からない。

 

そうして無限とも思えた時間であったがそれは唐突にやってきた。花村の首筋に突き立てた刃から突如大量の血が噴き出す。恐らく頸動脈に刃が達したのだろう。噴き出た血流は向けられた天井部を瞬く間に赤に染め上げる。その光景はまるで公園広場にある噴水のようだ。やがて血流の勢いが徐々に弱くなると花村は腰を反り返しながら床へと倒れる。即死には至っていないようだ。痙攣を起こしながらわずかに声を漏らしていた。

 

「ヒュー・・!ヒュー・!ヒュー・・!」

 

それは隙間風のような呼吸。もはや声を発することも叶わないようだ。俺はそんな花村のもとへとゆっくりと歩み寄る。

 

「あ・・あが・・あが・・!!」

 

最後に何か言いたげに血に塗れた右手を俺に向かって差し出した花村だったがやがてそれは力なく床に落ちた。左にもたげた顔を俺は自分の顔を右に傾けながら覗き込む。

 

 

「なるほど・・これが命を賭けた敗者の顔か」

 

 

バスケットボールの試合においても敗者の顔は確認してきたが、流石に表情のそれは一際険しかった。

 

やがて堰を切ったように室内が絶叫に包まれる。女生徒は泣き崩れ、弐大や終里といった屈強の面々も目を固く閉じて背けた。左右田に至っては人目もはばからず嘔吐している。気を失った罪木はまだ良かった方かもしれないな。意外だったのは十神と七海の2人が花村の亡骸をじっと見つめていることだった。

 

「ごめんよ・・!花村くん・・!僕のせいで・・!」

「花村君・・ごめん・・ごめんね・・・!!」

 

2人とも謝罪の言葉を並べていた。そんなことをしても死者は蘇ることはない。決してな。

 

「あらら、罰ゲームしようと思ってたのにまさかの自殺とはね~、先生興ざめですよ!」

 

モノクマはそう吐き捨てると姿を消して行った。こうして学級裁判はその幕を下ろす。最後は演者のアドリブが見事に光る素晴らしい幕切れだった。

 

これが最後となるか、最初となるかそれは誰にも分からない。無論俺はコロシアイをする気などは毛頭ない。だが向こうがその気ならその時は受けて立とう。どんなに巧妙であろうとも奇怪であろうともこの俺の眼は全てを視逃さない。そう、この『天帝の眼(エンペラーアイ)』がある限り。

 

・・・願わくば、俺にまた敗者の顔を見せてくれ。

 

 

CHAPTER 1 「絶望ステージ」 END

 

 

~To be continued~




第1章終了です。ここまでありがとうございました。
黒バス終了で若干テンション下がってます。
原作最後でいいヤツっぽくなりましたがこっちの赤司は極悪です。最恐です。

では次回・・と行きたいところですが中々煮詰まらない状況です。感想や評価、メッセージなど今後の期待値やアドバイスいただければ嬉しいです。

それではまた次回ヨロシクお願いします。
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