赤司のロンパ ~ 超高校級の『天帝』と呼ばれた男~ 作:ばうむくうへん
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眠れない。当たり前と言えば当たり前だよね。昨日、狛枝と花村があんなことになっちゃって眠れるはずがない。それでもあの時の夢を見たってことは断片的には眠れていたのかな。ベッドから体を起こすけどまだ外は薄暗い。気分転換に外の風に当たろう思って着替えを済ませると、当たり前のようにカメラを手に取っていた。こんな時でもカメラを忘れないなんてと自虐的な笑みを浮かべたアタシはコテージの外へと出た。
時刻は朝の5時を過ぎたところかな。うっすらとだけど日の出が見える。南国と言ってもこの時間の外は少し寒い。両肩に手を回しながらどこへともなくフラフラと歩く。
「・・なんでこんなことになっちゃったのかな・・?」
誰にでもなく独り言をポツリと呟く。ついこの間まであんなに楽しい修学旅行だったのに。女子の皆でケーキ作ったり、クラス皆でバーベキューしたりしてたのに。気が付くと海岸まで来ていたアタシはビーチクリーン活動をしていた時のことを思い返す。
あの時被写体をお願いしていた赤司は作業の手は休められないと言っていたけどさりげなくアタシのカメラに綺麗に収まるような位置にいてくれた・・と思う。あいつの事だから自然とそういう画になるってゆうかできるってゆうかだけど。修学旅行中もクラスの皆には厳しい目で見ていてハッキリ物を言い過ぎるところもあったけど、だからこそ突然こんな所に連れてこられて1週間くらいなのにアタシ達はお互いの絆を深められたんだと思う。・・それなのに・・。
「・・・ッ!うぅっ!」
急に涙が出てきた。悲しい、本当に悲しかったんだ。モノクマなんて訳のわからないヤツが現れたと思ったら3日もしない間に二人も死んじゃって・・。クラスの皆もバラバラになっちゃって。・・それに赤司、あいつがあんな酷い事するヤツだったなんて信じられないよ、信じたくないよ。
そうしてしばらく海岸を見つめていると、ふと物音が聞こえてきた。音は随分と先だけど海岸の先から聞こえてくる。なんだろうと思ったアタシはその音のする方へと歩いて行く。するとそこには何か長いものを持って争う2人の影が見えた。
「ハァァァッ!!」
一方の人影が低く叫びながらもう一方の影に飛び掛かる。だけどその声にアタシは聞き覚えがある。一瞬だけ見えたその顔はペコちゃん、辺古山ペコちゃんだ。超高校級の剣道家の彼女が戦っている。一体誰となんだろうか。近づくのも怖いほど激しく動く2つの影だったけど、どうしてもあと一人の顔を確認したかった私は手に持ったカメラを望遠に切り替えて覗いてみる。そこで見えたのは・・。
「・・!あ、赤司・・!?」
間違いない、あの赤髪と暗がりでも分かる突き刺すような瞳。赤司に間違いない。でもどうして2人がこんな朝早くに海岸で戦ってるの?持っている棒のようなものがキラリと光ったのでピントを合わせると思わずレンズから顔をバット離す。だ、だって2人が手にしていたのって・・刃物・・それも時代劇でみるような日本刀。最初は偽物だと思った。よくある模擬刀なんだって。だけど2人の刀が交わると耳を割くような音と薄闇の中で火花がバッと飛んだのを見て間違いなく本物なんだって分かったの。
そこでようやくアタシは理解する。2人は今コロシアイをしているんだ。なんで、どうして!?赤司、あんた自分はコロシアイには参加しないって言ってたじゃない!?アタシ達皆を騙してたの!?ペコちゃんはきっとそれに気づいて止めようとしたのかな?でも・・このままじゃどちらかが死んじゃう。いや、いくら素人のアタシでも分かる。超高校級の剣道家とか呼ばれているペコちゃんにはいくら赤司だって敵うはずない。このままじゃ赤司が死んじゃう・・。
そう思ったらアタシの足はいつの間にか2人に向かって駆け出していた。止めないと!そう思ったんだ。大分距離が近づいてきたからなのか2人の会話が聞こえてくる。
「中々やるな赤司・・。だが次で終わりだ!」
「望むところだ。来い、辺古山」
それは決着を付けようという内容だった。咄嗟にアタシは今まさに競り合おうとする2人の間に割って入る。
「だめぇぇぇっ!!」
「なっ、こ、小泉!?ダメだ、止められない!」
「・・・チッ、小泉、俺の眼を見ろ」
赤司の声が聞こえたので赤司の目を見る。するとアタシが見える世界はグルリと回って、そしてそこで意識が途絶えた。
・・・・・・・・・・・・・・・
ああ、アタシ死んじゃったんだ。2人の間に入るなんて馬鹿なことしちゃったな。何考えてんだろ、ホント。でも2人は無事だったのかな?それなら・・いい・・かな・・。
「・・小泉、オイ小泉しっかりしろ!」
ゆっくりと目を開くとそこにはペコちゃんの顔が見えた。とても心配そうな顔でこちらを見ている。あれ、アタシ死んでない・・助かったの?どうして・・。
「ペコちゃん・・アタシ・・」
「良かった!怪我はなかったか、小泉!?」
ペコちゃんに支えられながらゆっくりと体を起こすと体中砂まみれだったけど特に怪我はしていない。でもあの時確かに私は刀を振り下ろす2人の間に割って入ったはずなのに、なんでなんともないんだろう?
「全く信じられん奴だ、赤司という男は」
「赤司が・・どうかしたの?」
ペコちゃんの話ではあの時、寸での所でアタシの身体が宙を舞うように飛び上がったそうだ。結果的に2人の刀はいずれもアタシに触れることはなく、頭から落ちたアタシは暫く気を失っていたみたい。
「あれが赤司の眼の力なのか・・やはり侮れんな」
「あ・・れ?赤司は・・?」
辺りを見回しても赤司の姿は何処にもなかった。朝食の準備があるからと食堂に向かったそうだけど・・。何か大事な事を忘れているような・・・
「そうだ!ペコちゃん、コロシアイなんてだ、駄目だよ!?」
「はっ!?コ、コロシアイだと、何のことだ!?」
「とぼけないでよ!?さっきまで刃物を持って赤司とコロシアイしてたじゃない!?」
「お、落ち着け小泉!ちゃんと順を追って話すから!」
慌てふためくアタシを必死でなだめるペコちゃんはゆっくりと話を聞かせてくれた。赤司との海岸での対決は修学旅行が始まって間もない頃に赤司の方から申し出があったとのこと。最初は竹刀だったんだけどより緊張感を高めるためにお互いがモノモノヤシーンと言うガチャガチャから出た刀を使って稽古をするようになったそう。
「でもなんで海岸なの?」
「海岸では足を取られるからな。より強靭な足腰が必要になってくるんだ」
余りにも常識外すぎて一部始終を聞き終えてもさっぱり理解できない。洛山高校のバスケ部も常識外れだったけど流石は超高校級の生徒同士・・って言っていいのか分からないけどとにかく2人が無事でよかったよ。
「さぁ、私たちも戻ろう。そろそろ起床時間だ」
気づくとすっかり日は昇り青空が覗いていた。その景色にもうコロシアイなんて二度と起きないよねと自分に言い聞かせた。
・・・・・・・・・・・・・・・
『ヤツ』が日課にしていたという辺古山との稽古だがなるほど確かに素晴らしい体捌きだった。小泉に『
朝の7時を前に俺は食堂の調理室に立っていた。7時になるとモノクマの実に耳障りな起床アナウンスが入る。幸いこの場は監視カメラはあるがモニターはないので朝食の準備がてらというところだ。さて、それでは調理に取り掛かるとするか。
・・・・・
起床時間を迎えると皆が食堂へと集まる。毎朝の日課として必ず朝食は共にするというのがクラス内での取り決めだ。しかし皆その表情は暗い。無理もない・・と言えばそうだろう。狛枝はともかく花村の死に様は中々に見ごたえがあったからな。特に女性陣のショックは相当のようだな。ここにいない辺古山と小泉を除いて皆、顔が青ざめている。・・いや1人いたな。この状況でも底抜けに明るい奴が。
「あ~、腹減ったぁ!朝飯にしようぜぇ!」
終里 赤音。単細胞ではあるがムードメーカーでもある。野生もそうだがこういうところも葉山に似ている。故に制御しやすい。食卓に並べられた料理を今か今かと待ちかねている。
「これ赤司が作ったのか!?スゲー旨そうだなぁ!」
「まぁ待て、直に辺古山と小泉も来る。それまではお預けだ」
珍しく九頭龍も朝から同席している。さしもの奴も単独で行動しても何のメリットがないことを学習したようだ。十神はと言えば見るからに意気消沈している。朝の仕切りもヤツが主導であったにも係わらずさも当然のようにそのバトンを俺に渡していた。ヤツも昨夜の件で思い知ったのだろう。所詮自分は偽物、虚像の存在であると言うことが。御しやくすくなったのは喜ばしいことだ。そうこうする内に辺古山と小泉が揃い14人で食卓を囲む。誰が決めることなく指定となっていたテーブル席には当然のように空席が2つ。改めて2人がいないことに実感したのかより空気が重くなろうかという時我慢できないと終里がテーブルの皿を取った。デリカシーのカケラもない行動だがこの場においては最適だろう。終里が食べ始めた事で皆も食器を手に取る。
「うっめー!これ全部赤司が作ったのかよ!」
「ほんとじゃあ!コイツは旨いぞぉ!」
終里をはじめ、皆が舌鼓を打つ。どうやら満足はしたようだ、それも当然だろう何故なら・・
「・・何よこれ・・!?」
突然席を立って声を荒げたのは小泉だ。何かが不満だったのか、そう尋ねた俺にキッとした目を向ける。中々に怒気に満ちたいい目だ。
「この味付け・・全部花村のじゃない!?どうしてそんなことが出来るのよ!?」
「そんな事か。ヤツの料理ならば毎日食していただろう。味のトレースなど造作もな・・」
「そういう事じゃないわよ!?なんで昨日花村があんなことになったのにそんな真似ができるのよ!!?」
小泉の言葉に昨夜の事を思い出したのか皆の手が止まる。まったく・・今朝の事と言いこの女がここまでのトラブルメーカーになるとは思わなかったぞ。せっかくの楽しい朝の食事が台無しじゃないか。
「小泉、俺はただいつもと変わらぬ食事を皆に提供しただけだ。それに対する思いなど人それぞれだ。お前の薄っぺらい価値観を俺たちに押し付けるのは勘弁願いたいな?」
「・・・ッ!!」
「小泉さん・・・!」
その場を出て行った小泉を追って行ったのは意外にも七海だった。普段なら徹夜のゲームで居眠りをしながら食卓についているものだがアイツも昨夜の件で思うところがあるのだろう。静まり返った場では終里が1人食事を取る音だけが響いていた。
・・・・・・・・・・・・・・・
食堂を飛び出したアタシは自室のコテージまで走った。途中にあったプールサイドを横切ると床が濡れていたのか派手に転んでしまう。
「い・・たぁ・・!!」
床下のタイルはゴツゴツしていて擦りむいた膝から血が滲んでくる。あまりの痛みに蹲っていると千秋ちゃんが心配そうに声を掛けてくれた。
「小泉さん・・大丈夫かな・・?」
「ち、千秋ちゃん・・平気だよ、これくらい・・つっ!」
その様子を見た千秋ちゃんは急いで食堂まで戻ると蜜柑ちゃんを連れてきてくれた。他にも心配してくれたのかペコちゃんに日寄子ちゃんも一緒に付いてきてくれると、肩を借りながらコテージへと戻る。
「・・・・・・・・」
1人用のコテージに5人もいるのにやけに静か。時計の音と蜜柑ちゃんが包帯を巻く音しか聞こえない。手際よく治療してくれた蜜柑ちゃんにお礼を言うと優しく笑みを返してくれた。その笑顔だけでも十分に癒される。技術だけじゃなくて蜜柑ちゃんっていう人だから超高校級の保険委員になれたんだと思うな。
アタシのお礼に照れる蜜柑ちゃんに日寄子ちゃんがいつものように茶化し始める。最初は言い過ぎかなって思ってたけど蜜柑ちゃんも満更でもないみたいだしこれが2人なりのコミュニケーションなんだと納得する。ペコちゃんは普段はあまり喋らないけど今朝の件や今だって誰かの為に動いてくれる優しい子なんだ、アタシはちゃんと分かってる。そう、そうだよね。皆いい人ばかりなのに・・なんで・・こんな・・
「う・・・うぅっ・・!!」
突然泣き出したアタシをビックリした目で皆が見てくる中で1人肩を抱いてくれたのは千秋ちゃんだった。そっと頭を撫でてくれるその手はいつものほんわかとした彼女とは思えないほど綺麗で優しかった。
「ごめんね、みんな。ちょっと小泉さんと二人きりにさせてもらえないかな?」
その言葉には芯が通っていて誰も言い返すことなく静かにコテージの外へと出ていく。アタシもこんな千秋ちゃんを見るのは初めて・・じゃない。昨日も同じだった。アタシが赤司の事を打とうとしたら千秋ちゃんが割って入って代わりにぶったんだ。あの時もハッキリと自分の意志を言葉にしてた、この子はそういう強さを持ってるんだ。いざという時にこんなになっちゃう私と違って。
「小泉さんは弱くないよ」
まるで心を覗かれたみたいに千秋ちゃんが慰めてくれる、正直すごく落ち着く。同級生の女子にこんなに甘えるなんてちょっと恥ずかしいけど。
「アタシさ・・希望ヶ峰学園に来る前に赤司に会ったことがあるんだ・・」
「うん・・」
独り言のように話し始めたアタシの話を千秋ちゃんは静かにうんと頷くだけだったけどちゃんと聞いてくれた。赤司と出会って、希望ヶ峰学園に入学してまた会えた時は嬉しかった。修学旅行で一緒に過ごせるのが本当に楽しかった。
「・・だけどモノクマが出てきてから・・赤司変わっちゃった・・」
「うん・・・」
「他人に厳しいけど人の尊厳とか大事にできる人だと思ってたのに・・」
「うん・・・」
「でも・・アタシ・・」
「好きなんだよね、赤司君のことが」
黙って頷く。不思議と恥ずかしい気持ちはなかった。千秋ちゃんから言ってくれたからなのかもしれない。スッキリした気持ちになったけどやっぱり悲しい。好きな人がああいう事を平気でやれてしまうことに。それを思うとまた目から涙がこぼれてくる。希望ヶ峰学園に来てしっかりやらなきゃって思ってたのに、アタシなんでこんなに泣き虫になっちゃったんだろう。蜜柑ちゃんの事言えないよ。だけど止まらないんだ、どうしても。泣いてばかりのアタシの頭を千秋ちゃんはやっぱり優しく撫でてくれた。でもその優しさは今はちょっとだけ申し訳ないよ。皆だって辛いはずなのにアタシだけこんな・・。合わせる顔がなくてずっと顔を下に向けていると千秋ちゃんがより芯の通った声でこう言った。
「・・小泉さん、私行ってくるね」
「・・千秋ちゃん?」
千秋ちゃんはそのまま何処かへと向かっていく。その足取りはちょっとだけ速かった。何処に行くとは言わなかったけど自然とアタシは千秋ちゃんが何処へ向かったのか分かった気がしていたんだ。
・・・・・・・・・・・・・・・
流石に14人分もの食器の片づけとなると1人では堪える。朝食を終えると片づけを買って出てくれたソニアや澪田、そしてソニアに釣られた左右田を含めた4人で片づけを進める。最も多く平らげていた終里は満足げにソファーに寝そべっている。まぁせっかくの食材をふいにしないで済んだのだ。手伝いもせず何処かへ去っていく不届きな奴らよりマシだ。悪意のある言い方をしたがそれほど気にもしていない。食事を用意してくれと頼まれた訳ではない。モノクマからのアナウンスが避けられるほんの片手間に勝手にこしらえただけなのだから。もとより賛辞など求めていない。
「赤司さん、こちらの食器は私が片づけておきますわ」
「いやいや!ソニアさんにこんな重いモノ持たせられないですよ!ここは俺が!」
「それじゃーここら辺は全部和一ちゃんに任せちゃうッスかね~!」
ソニアはあえて毅然と振る舞っているようだ。王族たるもの取り乱す姿は民衆に見せられないと言う事か、流石に肝が据わっている。澪田は終里と同類かと思ったが場の雰囲気を感じ取る、いや『聴く』ことができるようだな。いつもより拍車のかかったジェスチャーで派手に喜怒哀楽を表現している。左右田はソニアさえいれば今の現状など何でもないのだろう。実に小物だが緊張状態にある現状で普段と変わらぬ行動が出来ると言うのはある意味大したものだ。
そうして一通り片づけを済ませていると、食堂玄関が力強く開かれる。てっきり弐大がまた加減なく開けたのかと思いきやその場にいたのは七海だった。先程の行動や昨日の俺への無礼と言いこの女も中々読めない。
こちらに気付いたのか真っ直ぐに歩を進める七海は俺の前で立ち止まると意を決したように口を開いた。
「私とゲームで勝負してくれないかな・・赤司君」
「ほう・・」
この眼、この口調、只のゲームではないな。面白い、丁度退屈していたところだ。これが次の舞台の前座になるかせいぜい楽しませてもらおうか。
~To be continued~
次回、赤司と七海の対決です。
ナルハヤでお見せできるように頑張ります。