悪役っていいよね。最後まで悪意たっぷりだもん。   作:とっとこハム劣等

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プロローグ

 

果たして私はここに存在しているのだろうか?

 

一所懸命に作っていた泥団子をひとまず置いて考える。

 

胡蝶の夢という説話がある。

 

ある男が蝶になった夢を見て、果たして今の自分が蝶の夢を見ていたのか、

それとも蝶の見ている夢が今の自分なのか考える。

という内容なのだが、まさに今の私の状態がこれに近い。

 

というのも、今の私は庭で一生懸命泥団子を作っている"スクルージ"という幼子であるが、

先程までの私は"須琉 空次(スル クウジ)"という一人の成人男性だったからだ。

 

空次は平坦な人生を歩んでいたが、最後は交通事故に巻き込まれて死んだはずだ。

その最後の痛み・苦しみ・悔しさはもはや白昼夢の一言ではすまない程の実感があり、

こうして思いを巡らせている今も死に向かう恐怖を思い出し体が震えて止まらない。

 

「あら、そんなに震えてどうしたのスクルージ?何かあったの?」

 

心配そうに、いや、真に心配なのだろう。

後ろから声をかけてきたのは、アセロラように赤いくせっけの長髪に

焦げすぎた卵焼きのような目の色をした女性だった。

記憶によればスクルージの母親である。

 

母親の声に安心してしまったのか、

なんと答えを返そうか考える前にゆっくりと意識を失っていくのであった。

 

 

◆◆◆

 

 

「ハハ、無事に記憶が引継ぎげたようで安心したヨ。」

 

唐突にそんな声をかけられ、私は視界を開く。

 

目の前には黒いローブを纏い、大きな鎌をもった骸骨が存在していた。

THE・死神という感じだ。

 

「ハハ、その通り死神サ。しっかりと認識してくれてよかったヨ。

あぁ、神とはいっても偉くないから敬語はいらないヨ!」

 

目の前の存在は死神らしい。

神だけど敬語もいらないとのことだ。

頭沸いてるんだろうか。

 

いや、まて、今私は言葉に出していなかったはず。

 

「ハハ、沸いている所かこの姿の頭の中身は空っぽサ。残念ながら見せてあげることはできないけどネ。あと、お察しの通り君は今肉体のない霊魂状態だから考えていることは垂れ流しだヨ。」

 

なるほど。確かに声を出そうと思っても出ないし、自分の体も見当たらない。

霊魂状態がどういうものかは不明だが、とりあえず視界があることと、考えていることが垂れ流しになるようだ。

実際に体もなく考えが伝わっている以上そういうものなのだろう。

 

「ハハ、理解?諦め?が早いのはいいことだネ!」

 

とりあえずここはどこなのだろうか。

周りを白い壁に囲まれて、壁際には薬が並んでいる棚が置いてあり

死神の後ろには書類と卓上灯がおかれている作業用の机、

その横には真っ白なシーツに覆われたベッドがふたつ並んで設置されている。

保健室かよ。

 

「ハハ、君が落ち着ける空間を反映させた結果がこの保健室だヨ。マニアックダネ!」

 

どうやらこの保健室は私が落ち着ける空間を反映した結果らしい。

正直、スクルージも須琉も保健室にお世話になった記憶はないし須琉の学生時代の保健室はもっと雑多であった気がするのだが、

スクルージの世界では保健室が一般的にこうなのだろうか。

 

しかし効果としては唐突に死んだ記憶を思い出して気を失ったあげく、いきなり死神が目の前に現れて話かけられて、

しかも霊魂状態という考え垂れ流しの状態でもそこまで慌てていないということは、逆説的に本当なのだろう。

ていかなんでこの死神は毎回笑っているのだろうか。

 

「ハハ、納得いただけたようでよかったヨ。ではそろそろ本題にはいろうカ。」

 

そう言った途端、死神から黒く色付いた風がこちらに流れてきて視界を塞ぐ。

 

暫くして風が収まるとそこには黒いピチピチのタンクトップにパツンパツンのジーンズの短パン、

足にはビーチサンダルをはいた黒い角刈りで2M近くありそうな筋骨隆々な大男が腕組みをして存在していた。

 

「まぁ、地球の人間には一目で理解されたことはないが先程の死神だ。こちらの姿が本当の私なのだがこの姿で死神といってもすんなり信じてくれるものが少ないものでな。最初は相手の考える死神の姿で話しかけることにしている。そういうものだと思って受け入れてくれ。」

 

確かに最初にこの姿で現れて死神といわれても納得しにくいだろう。

というか私なら一目散に逃げる。

あと先程までの死神は私のイメージだったのか。

私のイメージの死神は随分甲高い声で笑いながら喋るようだ。

まるで・・・いやそれよりも先程まで胡蝶の夢~等と考えていたが、これはひどいな。

肉体がないとはいえ保健室でガチムチと二人きりとは。

たとえ私が蝶だとしても薔薇に近寄る趣味はないのだが。

 

「安心してくれ、私もその趣味はない。というか話はその状態に関係することでな。

先程の君はスクルージの魂に須琉の魂が混ざった状態なのだ。何故そうなったか不明だろう?

だから魂の調整作業と並行して説明を行うためにこの空間に招いたというわけだ。」

 

では今思考している私は、前世の私の延長ということなのだろうか。

 

「いや、そうではない。肉体との繋がりは調整中ではあるが、魂も混ざり合ってたことでスクルージであり須琉でもあるというのが君の今の状態だ。」

 

それは、どうなのだろうか。

自分で自分を心配することになるかもしれないが、

幼いスクルージに勝手に須琉を混ぜるというのは随分と非道ではなかろうか。

 

「そこらへんも含めての説明になるのだが、それにはちゃんと理由がある。まず、スクルージはそのままだと死んで魂が消滅していたので、須琉の魂と混ぜ合わせることで生き延びるようにする必要があった。」

 

スクルージが死んでいた?魂の消滅?

いや、だとしてもわざわざスクルージのために須琉の魂をなぜ混ぜ合わせる必要が?

 

「須琉の魂を混ぜた理由についてだが、もともとスクルージと須琉の魂はこのキャロルと呼ばれる世界で輪廻転生を繰り返す一つの魂だったのだ。しかしある日転生システムに不具合が発生。その際に魂が二つにちぎれ、片方はスクルージとしてキャロルで、片方は須琉として地球に転生することになってしまったのだ。」

 

転生システムの不具合によって分かれたものを

元々ひとつの魂だったので戻すために混ぜ合わせたということだろうか。

 

「そうだ。損傷度合いの激しいスクルージの魂は一旦転生保留として須琉の魂を回収に駆け付けたんだが、既に須琉は地球で誕生してしまっていてな。生きている状態で魂を回収することは禁じられていたため、死ぬまで待ってから回収したのだ。

しかし、回収から戻ってくると何故かスクルージがキャロルで転生してしまっていた。このままではスクルージの魂は無理な転生による損傷で消滅してしまい欠けた須琉の魂もどうなるかわかったものじゃない。

そこで思ったよりも早く須琉の魂が回収できていたこともあり、元々は一つの損傷した魂に対する特例としてスクルージの魂に須琉の魂を混ぜ合わせる処置を行ったというわけだ。須琉が事故で死んでいなければ間に合わなかったかもしれないな。」

 

なんだそれは。

しかし、それでは魂がかけた状態で生きていた須琉の方は問題なかったのだろうか。

 

「そうだな、回収した魂に問題はなかったな。ただ須琉の記憶では地球で常に壁のようなものを感じていたはずだ。これは本来キャロル用に調整されていた魂のせいで感じるある種仕様のようなものだな。」

 

確かに須琉は他人どころか親族にさえ関心を持っていなかったな。

しかし、本来なら怒鳴り散らしてもおかしくない話なのに、どちらの話に対しても他人事のように感じるのは魂が混ざったせいだろうか。

 

「それはこの空間の効果だな。さて、これでなぜスクルージと須琉の魂を混ぜたのかは理解してもらえたはずだ。」

 

あぁ、理解した。

このあと魂の調整が終わればスクルージの体に戻るんだろう。

もはや記憶を引き継ぐ前のスクルージのようには振舞える気がしないのだが。

 

「スクルージの記憶もあるのだからそこは頑張ってくれとしかいいようがないな。別に他人になったわけじゃないんだ。間違いなく君はスクルージでもある。なんとかなるさ。」

 

随分投げやりな・・・

成人男性の記憶をもって5歳を演じるのはもはや罰ゲームだと思うのだが。

というか、少なくとも不具合による被害を受けた事によりこうなっているわけなのだから、

なにか保障のようなものはないのだろうか。

 

「ふむ、転生システムで利用料貰ってるわけでもないのに保障といわれてもな。しかも須琉もスクルージも結果元に戻って第二の人生が送れるわけだしな。」

 

それは・・・そうだが。

 

「そもそも不具合の原因は私ではなく、どちらかというと私も尻拭いの面倒かけられてる立場なのだが・・・まぁ、確かに同情する部分はないわけでもない。一つ仕事を受けてくれるのであれば、特別な魂の調整をしようじゃないか。」

 

死神は一人ではない?しかも尻拭いということは転生システムの責任者ではないのか。

仕事の内容も気になるが、特別な調整っていうのは、普通の調整とどう違うのだろうか。

 

「あぁ、死神も人間みたいにたくさんいるぞ。転生システムは魂部システム管理課の管轄なのでな。私は魂部調達課の死神で別になる。

特別な調整というのは、位階の上限を高くして上げやすくなり、技能や魔法の取得・習熟を早くすることができるぞ。」

 

つまり特別な調整は成長補正ということだな。

スクルージの記憶によればキャロルの人間は”進化”する。

その際に使われる区分が位階だったはずだ。

魔物もいれば魔法もあるようだし、人間の幅も広いのだろう。

 

命の危険度は地球の比じゃないだろうし、低倍率でも受けておく価値はありそうだ。

ていうか会社かよ。

 

「営利団体じゃないぞ。」

 

NPO法人とか・・・いやそんなことより仕事の内容は何をすればよいのだろうか。

 

「転生システム不具合調査の手伝いだ。このキャロルを担当している死神は、唯一にして絶対なる神"ケディズン"なんて名乗ってるアホな奴なんだが、どうもシステム管理課が言うにはこのアホが転生システムに何かをしたようなのだ。

ただ確たる証拠もないし、こういってはなんだが被害が魂ひとつだけなので、上から元の流れに戻せばいいと指示がでて調査自体は終わってしまったのだ。」

 

色々突っ込みどころはあるけれど、調査が終わっているのに調査の手伝いをするのだろうか。

 

「あぁ、再現性のない不具合なので様子見となってしまったんだが、私はあのアホが原因だと思っている。無駄に実行力がある奴なので今回の事件の責任を取らせておとなしくさせたいのだが、私も仕事が忙しくてそこまで時間が割けなくてな。

そこで、君には私が指定する魔物を殺して転生させて欲しいのだ。本来なら手が空いてから特定の魔物が死ぬまで待ち、転生の流れを調査する予定だったのだが、君が殺してくれるなら張り付いて確認する時間もとられずに済むからな。」

 

とんでもないことを言ってると思うのは須琉の記憶があるからだろうか。

そもそもその指定される魔物は殺していいのか?

 

「殺していいのかっていうのは、現地のルールでってことか?そうであれば問題ないはずだ。人間と魔物は基本的に敵対していて、指定する魔物もむしろ討伐は推奨されているはずだからな。

そして死神のルールとしても個人の思いで魂の調整に力を入れて、余暇で単なる追加調査をするだけだから問題ない。」

 

期限とかはないのだろうか。

すごく遠いところにいる魔物を倒せといわれて間に合わない可能性とか。

 

「元々死ぬまで待つ予定だったし期限はなしでいい。遠い場所にいる魔物も指定するかもしれないがどの魔境にいるかまで説明するのでそこから順番などは判断してくれ。ただ仕事として頼むわけだからできれば早めにお願いしたい。」

 

期限がないのであれば無理なリスクは背負わなくてよさそうだ。

その魔境というのは地球のゲームでいうダンジョンとかそういった感じだろうか。

 

「スクルージの記憶にはないのか?まぁ、そうだな。大体その認識であっている。強力な瘴気に汚染された魔力領域が魔境と呼ばれていて、今想像している洞窟や森や山のような場所の範囲にだけ魔物が徘徊・湧き出る場所のことだ。」

 

なるほど。ちなみに成長補正はどれくらいになるのだろうか。

 

「位階は上限撤廃、技能・魔法の取得率100%、習熟率は規定の5倍だな。」

 

仕事を請け負いますので魂の特別調整をお願いします。

 

「よし!じゃあこれから調整に入るぞ。次に目が覚めた時には調整が終わっているから、まず魂に意識を向けて自分の状態を確認するといい。」

 

魂に意識を向ける?

それは具体的にはどの・・よ・・う・・に・・・

 

「何、霊魂状態を経験したなら君なら目覚めてすぐにわかるだろう。」

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