歯が痛い。
第55話 果たすべきミッション
雄英高校の林間合宿は3日目の夜にオーマショッカーの襲撃を受け、中止となってしまった。
この件は連日ニュースで報道され、職場体験先でCM出演をしていて密かに人気を得ていた八百万が誘拐されたということもあり、かなりの数の批判が雄英に集まっていた。
一方引き上げた生徒達はセントラル病院に、怪我を負ったクラスメイトの見舞いに来ていた。
「ん…皆…」
毒ガスによって意識不明の重体になってしまった耳郎と葉隠の病室。
そこにはほとんどのA組メンバーが集まっており、ちょうど目を覚ました耳郎の目に彼らの姿が映った。
「耳郎!やっと起きたか!心配したんだぜ~」
耳郎が目を覚ましたことに、上鳴は安心と喜びからか、思わず駆け寄って彼女の手を握る。
「か、上鳴…?何があったの?」
「合宿でヴィランの襲撃を受けた。そいつらの毒ガスでお前含めて十数名が意識不明の重体、他にも怪我人多数だ。」
「それに…八百万が…誘拐されちまった…」
「ヤオモモが!?」
目を覚まして早々に轟と上鳴が告げた合宿での出来事に、耳郎は驚いてその身を勢いよく起こす。
「すまない…私が守り切れなかった…」
「ウォズ君は悪くないよ…オーマショッカーが一枚上手だった…」
自分を責めるウォズを、出久が慰める。
オーマショッカーは強力なアナザージオウⅡに加えて、コンプレスやトゥワイス等と言った特殊な個性を扱うヴィランを揃えたことで襲撃に成功し、八百万の誘拐を果たしたのだ。
「私は、皆の笑顔を守るヒーローに憧れた…そして、今はそれを目指している。だが、敵を倒すことに集中し、彼女のことを見落としていた…私が、救えなかったんだ…」
前世から憧れた仮面ライダーになっていこうとするウォズ。人を救い敵を倒す彼らだが、今回は救うことが出来なかった。その悔しさと自責の念から自身の拳を強く握る。
「じゃあ、今度は助けよう。」
そんなウォズに切島がかけた言葉に、場にいる生徒達に衝撃が走る。
「緑谷、お前八百万の位置情報を発信する装置、オールマイトに渡してただろ?」
「う、うん…」
「そこに載ってた位置!まだ覚えてるだろ!?」
「うん、覚えてるよ…」
八百万が攫われる直前にウォズ達に託したデバイス。それは八百万自身の位置情報がGPS経由で分かるものであり、それを一時的に持っていた出久は彼女の位置情報がしばらくあった場所を覚えている。
「つまり…緑谷君が覚えているその場所に行くと…」
「だとしたら?」
「これはプロに任せるべき案件だ!俺達が出ていい舞台じゃないんだ!馬鹿者!」
「んなこと分かってんだ!何もできなかった!仲間がピンチなのに俺は!」
保須でステインと戦闘し、その際マニュアルからの戦闘許可を得ていなかったことで警察から注意を受けた飯田。彼はその際にマニュアルらに迷惑をかけてしまったことを重々承知していた。それに対して切島は、出久達がアナザーライダーやヴィランと戦闘している時に、補講で施設内に居て何もできなかったことに後悔をしていた。
「ここで動けなきゃ俺は!ヒーローでも男でもなくなっちまうんだよ!」
「切島、ここ病院だぞ!落ち着けよ。こだわりは良いけど今回は…」
「飯田ちゃんが正しいわ…」
感情的になってしまう切島を、上鳴と蛙吹が宥める。
ここは法規を守ろうとする飯田が正しいと主張し、切島を止めようとする。
「飯田が…皆が正しいよ…そんなことは分かってる!でも緑谷!手は届くんだよ!助けに行けるんだよ!」
仲間を助けたい。自分のその想いを出久に語り掛けながら、切島は自身の手を差し出す。
八百万を救うには出久が持っている情報が必要であり、切島にとってはまずは彼の援軍が必要であった。
(彼、なかなか熱いよね。)
(どうするんだ?9代目。)
切島の話を聞きながら、志村と煙の精神体が出久に語り掛ける。
「実はあのデバイスの位置情報受信機能、こっちでも使えるようにした!僕だって助けに行きたい気持ちは一緒だよ!」
目の前で八百万を攫われてしまった悔しさ。それを勿論ウォズだけでなく出久も抱いており、密かに助けに行けるように彼女が作ったデバイスの機能を自身のファイズフォンXでも使えるようにしていた。
「ふっ!ふざけるのも大概にしたまえ!!」
「待て、落ち着け、切島たちの気持ちもよく分かる。俺だって悔しい。だが、これは感情で動いて良い話じゃない」
感情的になる飯田と切島の間に入り、障子が2人の気持ちを収めようとする。この2人に冷静さを保たせようと中立的に話を進める。
「オールマイトに任せようよ…戦闘許可、もう解除されてるし」
「青山の言う通りだ…」
彼らは既に戦闘許可が無い状態であり、勝手に戦ってしまえば法律によって裁かれることになるだろう。
「皆、仲間を失ってショックなのよ。でも、冷静になりましょう。どれ程正当な感情であろうと、ルールを破る戦闘を行うと言うのなら……その行為はヴィランのそれと同じなのよ。」
その事実を突き付ける蛙吹の言葉に、この場が静寂に包まれる。
「なるほどな。話は大体分かった。」
と、彼らの病室に一人の男が入ってくる。
「「門矢士!?」」
その男とは、ウォズと爆豪の職場体験先のプロヒーローでもあり、出久も含めた3人のライダーと期末試験で戦った仮面ライダーディケイドこと門矢士である。
「確かに、法律上これがない奴は許可なく戦うことが出来ない。それで合ってるな?」
「ああ…」
門矢士は訪れた世界で何かの役割を自分に与えられ、この世界ではプロヒーローである。
それ故にプロヒーローの免許も、彼の持ち物の1つになっている。それをウォズに見せながら、この世界の法律をウォズに確認する。
「だが、だからと言って立ち止まるのはヒーローとして、いいや、仮面ライダーとして正しいか?ウォズ?」
「いいや、正しくないさ。困っている人や敵に捕まった人を…それが友人だろうとそうでなかろうと、見捨てたことのある仮面ライダーなんて、私は一人たりとも知らないさ!」
前世でウォズが見てきた数々の仮面ライダー。
彼らの中でこういう事態になって大人しく見てるだけになる者はいない。それはウォズや、士がよく分かっていることだ。
「勝己、お前はどうだ?」
「俺も見捨てる気なんてさらさらねえ!」
爆豪もウォズ達と気持ちは同じであった。オーマショッカーに敗北したまま終わる気はない。
「で、出久。お前はどうする?」
「僕は助けに行きます!」
士は3人の仮面ライダーの気持ちを聞き出すと、口角を上げて頷く。
「だがしかし!彼らは戦闘許可が出ていない身分だ!」
「だったら、俺が出せばいい。」
「…!?」
士はヒーローの免許を持っており、アマチュアである出久達に戦闘許可を出すことが出来る。
それ故に、飯田達の中にあった法規上の問題と言うのはクリアできてしまう。
「けど、ここはオールマイト達に従った方が…」
それでも勝手に動くべきではないと、主張する青山。
「今回の相手はオーマショッカーだ。オールマイトやエンデヴァー、他のプロヒーローが勝てる相手か分からない。」
「つまり、我々仮面ライダーの力が必要と言うことだね。」
アナザーライダー達の力は強力だ。特に彼らを召喚、使役するアナザージオウⅡの攻略となるとプロヒーローやディケイドだけでできるとは限らない。
それに加えて更なる敵戦力がいる恐れもあり、ジオウ達の手も借りておきたいと言ったとこだろう。
「僕行きます!僕にしかできないことがあるなら戦います!」
「私も…必ず八百万君を助ける!」
「俺も乗るぜ!」
そして、出久達3人は改めて門矢士に付いて行くことを表明した。
「俺も行く!俺も八百万を助けてえ!」
「ああ、俺もだ。」
そこに切島と轟も乗ってくる。
「ああ、覚悟があるならついてこい。何か力になるかもしれないな。」
その2人の申し出も、士は受け入れる。
「だったら俺も行かせてくれ!ここに居る皆を代表して、俺は緑谷君達が無茶をせず無事に帰って来れるようにしなくてはいけない…!」
「監視者って感じだな?」
「ああ、ウォッチマン!ウォッチマン飯田だ!」
飯田もクラスを代表して彼らを監視するために付いて行きたいと、名乗り出る。
あくまで委員長として仲間達が無茶をしないように見張る役割だ。
「ああ、着いてこい。ミッションは今夜だ。」
----------------------------------------------------------------------------------------------------
門矢士が来たことにより、我々は八百万君を助けに行く戦いに挑むことになった。
彼が戦闘許可を出してくれることで、私達は合法的に戦える。
「準備はできてるか?」
「ああ、問題ない。」
八百万君が残してくれた情報により、彼女は神野という土地にあるアジトに捕らえられていることが分かった。
「全員分の新幹線のチケットだ。」
我々のいる地域から神野まで行くのには、新幹線が早いということで我々7人は新幹線のチケットを購入した。今から10分ほど後の列車で向かう予定だ。
「すっかり暗くなっちまったな。」
既に時刻は夜になり、空は暗くなっている。
夜襲と言うことで、ちょうどオーマショッカー達に林間合宿の仕返しをする形になる。
(八百万君…無事でいてくれ…)
既にあれから2日が経っている。オーマショッカーによって八百万君の身に危害が加えられていないか心配しながら、今日までの日々を過ごしていた。勿論、プッシーキャッツのラグドールのことも心配だ。
「ウォズ君。少しいいかな?」
「どうしたんだい?飯田君?」
そんなことをふとホームで考えていると、飯田君が私に声をかけてきてくれた。
「今回、僕が一番心配しているのは君なんだ。」
「私かい?」
「ああ、君は今回の件を一番重く受け止めている。だから、無茶をしてしまわないか心配なんだ。」
どうやら飯田君は私が無理して敵に突っ込んでいき、大惨事にならないか心配している様だ。
「先程病院で、私の憧れるヒーローの話をしたね。皆の笑顔を守るって話を…」
「そうだね。」
「その話には続きがある。」
私の知る仮面ライダーは、悪を打ち倒し人々の笑顔を守る。
ただ、それだけではない。
「戦いを終えた後、自分自身も仲間や家族と笑顔で過ごす。それも私の憧れる姿だ…」
TVで見てきた仮面ライダーで言えば、日常パートと言えるものだろう。
それは仮面ライダー自身が生きていることで彩られるものであり、仲間に見せる笑顔と言うのもヒーローにとって大事な部分だ。人を救えた喜び、平和を守れた喜び、日常を過ごせる喜び、それらを噛みしめて生きると言うのが私が目指すヒーロー像であり、憧れた仮面ライダー像だ。
「だからこそ、必ず生きて戻るよ。八百万君や我が魔王、それに君とも笑顔で過ごすためにね。」
「その言葉を聞けて安心したよ。」
ちょうどその時、新幹線が駅のホームに入ってきて、私達はそれに乗り込む。
(さて、この事態を切り抜けるのなら、後は君の覚醒が必要だ。我が魔王…)
アナザージオウⅡと戦うことに関して、ディケイドも居るのである程度敵を追い詰めることはできるだろうが、大量にアナザーライダーを召喚してくる。そろそろ私としては、あの力の覚醒に期待させてほしいとこだね。そう、多勢に挑むには多勢で攻めるのが最適だからね。
----------------------------------------------------------------------------------------------------
「このライダーの歴史は面白いな!仮面ライダーゴーストか~」
「俺はこの仮面ライダービルドを推す。中々に面白い歴史を辿っているな。」
一方、出久の中にある意識空間では志村と煙が過去のライダーの歴史を見ていた。
ジオウ・トリニティの意識空間であるクロックオブザラウンドと同じような時計型の円卓を囲みながら、出久の中に宿っている平成ライダーの歴史を鑑賞している。
「あの~ここってどういう空間何ですか?」
その空間に出久の意識もやってくる。椅子に座って少し寛ぎながら仮面ライダー鑑賞を楽しんでいる2人の歴代継承者に若干困惑している。
「ここは君とワンフォーオールの意識空間のような場所だね。ここには君の中にあるいろんな歴史が詰まっている…ワンフォーオールの歴史も、彼ら仮面ライダーの歴史も。」
林間合宿でジオウ・トリニティに変身して以来、出久の中に常時クロックオブザラウンドの空間が残っており、そこには今対話できる歴代継承者2名が常にいる状態になってしまった。
「ところで、さっきのウォズ君の話、興味深かったね…」
「ウォズ君の?」
「うん、笑顔で仲間や家族の下に帰るって話。私は彼の考えが正しいと思うんだ。」
仮面ライダーの歴史を見つつ、志村は先程ウォズが飯田に語ったことに感心しているようだった。
「私は家族をヴィランから遠ざけるために、家族の下に帰らなかった。けど、それが1つの悲劇を生んでしまった…」
「というのは?」
「死柄木弔、あれは私の孫、志村転狐なんだ…」
「え…?」
志村の口から告げられた事実に、出久は驚きを隠せずにいた。
「君がこの個性を受け継いだ時、私はそこまでにオールマイトやグラントリノが調べたことの記憶を知った。私はある日夫をヴィランに殺され、息子の狐太郎を他の家に預けたけど、私はその後死んでしまった。死柄木は、転狐はその狐太郎の息子なんだ。」
「その人がなんで、ヴィランに…」
「詳しいことは分からない。けど、分かっているのは狐太郎とその家族が死んで、転狐がオールフォーワンに拾われたってことだけだ。多分、私が狐太郎から離れたから…」
そうなってしまったのには、自分にも責任があると志村は肩を落とす。
「だから、君に聞きたい。私の分も彼と戦えるかい?」
「はい!勝って助けます!」
詳しい事情は分からない。だが、出久はより死柄木との戦いに意欲を示していた。
志村の思いを汲み取り、彼を倒して闇から救い出そうと決意した。
「すまない、私の分も頼んだよ。」
「はい!」
----------------------------------------------------------------------------------------------------
出久達を乗せた新幹線は神奈川県にある
神野に到着し、士率いる一行は八百万が捕らわれているアジトに向けて歩き始めていた。
「我が魔王、位置情報はこの辺かい?」
「うん、もうすぐ着くよ。」
八百万に託されたデバイスが享受していたように、ファイズフォンXでも八百万のGPSの位置が分かるようになっている。その情報を頼りに彼らは八百万が捕えられている場所に向かっていた。
「いかにもアジトって感じだな…」
そして、切島らの前に位置情報が指し示す建物が現れた。
その建物はかなり大きい工場であると推察でき、オーマショッカーが何かを作っていると言われても頷けるような見た目をしている。
「さあ、乗り込むか。」
「い、いきなりですか?」
「ああ、ここにいるのかまずは確かめる。」
ここについてしまえば後は中に入り、敵を倒しつつ八百万を救出する。
門矢士は仮面ライダーディケイドの圧倒的な戦力を以って、行動を開始しようとしていた。
「ちょっと待ってください!あれって…」
だが、そんな士を出久が止める。
「なんだ?」
「あそこにいるのって…オールマイト!?」
「あれって、合宿所にいた…」
「警察も来ている様だが…まさか!」
出久が士たちを止めたのは、その場にオールマイトやプッシーキャッツの虎を始めとした、多くのプロヒーロー達や、警察の姿があったからだ。
「ベストジーニストにマウントレディまでいるってことは…」
「恐らく、我々とは別に動き出しているんだろうね。プロヒーロー達が。」
その場にいるヒーロー達の様子から、プロヒーロー達による八百万の救出及び、オーマショッカーのアジトへの襲撃が始まると出久達は予感した。
「さあ皆!オーマショッカーとここで蹴りを付け、八百万少女を助け出し、死柄木らを捕えるぞ!」
オールマイトの号令と共に、プロヒーローによるオーマショッカーのアジトへの突撃が開始されたのであった。
次回、突撃開始!